EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYではサステナビリティ開示・保証に関連したグローバル動向の最新情報を毎月お届けしています。
ここ数ヶ月の間、企業のサステナビリティ報告に大きな前進が続いています。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)、欧州委員会(EC)、米国カリフォルニア州議会は、新しいサステナビリティ開示基準の適用に向けたステップに踏み出しています。
ISSB基準とESRS第一弾
7月、証券監督者国際機構(IOSCO)がISSB基準(IFRS S1号及びS2号)を承認し、これによりISSB基準が国際資本市場でさらに認知されることになりました。
一方でECは同月、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が起草した欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)第一弾を採択しました。同基準は、欧州議会及びEU理事会の異議がない限り2024年1月1日から始まる報告期間から発効します。さらにECは9月7日、ESRSセクター別基準の策定を延期すると発表しました。セクター別基準の延期理由は、企業がESRS第一弾を適用するための準備時間を確保するためです。
ISSBは今後、各国に対してISSB基準の採用を促すことに注力します。関係者の能力開発や開示準備を支援するために、適用ガイダンスの発行を行う予定です。また、ISSBとEFRAGの双方が、ISSB基準とEU基準の相互運用性を高めるためにさらなる作業の必要性を認識しています。
カリフォルニア州気候関連開示法案とSEC気候関連開示規則
9月12日、カリフォルニア州議会は、同州で事業を展開する年間売上10億ドル以上の企業に対し、GHG年間排出量の開示を義務付ける法案を可決しました。同法案は今後、カリフォルニア州知事の審議にかけられ、知事が法案に署名すれば、2026年1月1日から段階的に適用されることになります。一方で、米国証券取引委員会(SEC)は気候関連開示規則の最終版の公表を予定していますが、その正確な公表時期は現時点では分かりません。
国際サステナビリティ保証基準(ISSA 5000)
サステナビリティ保証についての大きな進展として、8月、国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、国際サステナビリティ保証基準5000「サステナビリティ保証業務に関する一般的要求事項」の公開草案を公表しました。意見募集期間は2023年12月1日までです。
サステナビリティ情報開示・保証に関するグローバルな最新動向の詳細については以下をご覧ください。
2023年7月下旬、IOSCOはISSBの最終基準であるIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」及びIFRS S2 号「気候関連開示」を正式に承認しました。IOSCOは、世界の証券市場の90%以上を占める130の加盟国に対し、ISSB基準をそれぞれの規制の枠組みに組み込むことを検討するよう呼びかけました。IOSCOのジャン・ポール・セルベ委員長は、ISSB 基準がIOSCO加盟国のほとんど、またはすべてで採用された場合、世界で13万社もの企業が同基準の対象となる可能性があると述べました。
また、金融安定理事会(FSB)は、ISSB基準の公表が、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に関するFSBの作業の集大成であると発表しました。IFRS S1号及びS2号2がTCFD提言の全内容を盛り込んでいることから、TCFDフレームワークのモニタリング責任がFSBからISSBに全面的に移管されます。当該移管はISSB基準が適用可能となる2024年から行われます。
9月1日、2024年から2026年の作業計画を決定するための「アジェンダ の優先度に関する公開協議」が終了しました。「IFRSサステナビリティ開示タクソノミ」に対する意見募集は9月26日まで行われています。ISSBは今後、基準の適用に向けた取り組み、ESRSとの相互運用性に関するEUとの協力、関係者のための能力開発支援などの適用支援に注力します。
IAASBは8月、「国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000」の公開草案を公表しました。この草案は限定的保証と合理的保証の両方を包含しており、グローバルの全ての保証提供者が利用できる包括的なサステナビリティ保証基準の役割を果たします。意見募集期間は2023年12月1日までです。
SECの気候関連開示規則(最終版)及び人的資本管理規則(公開草案)の公表時期は、依然として不透明な状況です。気候関連開示規則は、議会で賛否両論を巻き起こし、大きな政治的注目を集め続けています。8月には、77名の民主党議員がSECのゲンスラー委員長に連名で書簡を送り、「強力で耐久性のある」気候関連開示規則を最終決定するよう促しました。最近では、9月12日に行われた上院銀行委員会の公聴会でゲンスラー委員長は、「私たちは時間に縛られて物事を進めないようにしている」と述べ、同規則が前進する時期について明言を避けました。また、同委員長は委員会メンバーに対し、SECがスコープ3排出量の取り扱いに特に焦点を当てていると説明し、気候関連開示規則にスコープ3排出量を含めるかどうかに関して重要な問題が提起されているとしました。
カリフォルニア州では、気候関連情報の開示を義務付ける法案(CA SB253)が9月12日に州議会を通過しました。法案が成立すれば、2026年以降、上場・非上場に関わらず同州で事業を展開する年間売上10億ドル以上の企業(推定5,400社)に適用されます。最新の修正で、スコープ3排出量の定義が狭められ、スコープ3の開示義務が2027年からとされ、スコープ3の計算に産業平均データの使用が認められました。また排出量の開示に独立した第三者の保証が要求されます。
欧州委員会が、EFRAGが起草したESRS第一弾(セクター横断的基準)を採択し、2024年1月1日の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の適用に向けて、主要なステップの一つが完了しました。今後2ヶ月間で、欧州議会及びEU理事会が同基準をレビューし、どちらの機関からも異議が出なければ、同基準はCSRDに基づくサステナビリティ報告のための拘束力のある枠組みとなります。
ESRS第二弾(セクター別基準)に関しては、9月7日に行われた欧州議会でメイリード・マクギネス欧州委員会委員が、ESRS第二弾の策定期限を2024年から2026年に延期する計画であると発表しました。セクター別基準の延期理由は、企業がESRS第一弾を適用するための準備時間を確保するためと、企業の負担を25%削減するという欧州委員会の取り組みよるものです。
EFRAGは現在、CSRDにおけるバリューチェーンの解釈、重要性の評価、ESRSとISSB基準のマッピング表(すべて草案の状態)など、適用ガイダンスの作成を進めています。EFRAGによると、ESRSとISSB基準との間には、(i)ファイナンスド・エミッション、(ii)GHG排出目標の取り扱い、という2つの未整合の論点が残っている、としています。なお、ISSBはこのマッピング表に対する見解を発表していないため、今後ISSB独自のマッピング表を公表する可能性もあります。
EFRAGは9月5日、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)と協力して、ESRSとGRIのハイレベルな相互運用性に関する共同声明を発表しました。この発表では、「ESRSの下で報告を行っている企業は、GRI基準を参照して報告を行っているとみなされる」と述べられており、これは、特に大企業の間でGRI基準が世界的に広く採用されていることを考えると重要な進展であるといえます。また、この声明では、「これにより企業は一つの報告においてESRSとGRIの両方に準拠していると主張できることを意味する」と示唆されています。
英国ビジネス・通商省(DBT)が、英国内でのISSB基準の適用可能性をどのように評価していくかに関するガイダンスを発表しました。政府はISSBを強力に支持しており、2024年7月までにISSB基準を正式に承認するかどうかを決定し、登録企業やLLP向けの英国サステナビリティ開示基準(SDS)ガイダンスに反映させる予定です。これに関連して、英国金融行為規制機構(FCA)は、ISSB基準の使用が承認された場合のISSB基準適用のためのアプローチ案を公表しました。
台湾金融監督管理委員会(FSC)は、上場企業のためのISSB基準適用ロードマップを発表しました。国際的なサステナビリティ情報との比較可能性を考慮して、FSCはISSB基準を採用するとし、2026年度より台湾の大企業(資本金100億台湾ドル以上)から段階的に適用する予定です。
オーストラリア監査・保証基準審議会(AUASB)は、8月17日、IAASBが公表したISSA 5000の公開草案に関する公開協議を開始しました。AUASBは、寄せられた意見を考慮してIAASBに対するコメントを作成するとともに、IAASB基準を国内で適用する際の修正の要否についても検討します。意見募集期間は2023年11月10日までです。
マレーシア証券委員会の関連会社は、中小企業向けの簡便的なESG開示ガイダンス(SEDG)に関する公開協議を開始しました。SEDGは、選択されたグローバル又はローカルのフレームワークに沿った、簡略化かつ標準化された開示セットを提供しています。
フィリピンの証券規制当局は、ISSB基準を考慮した上場企業向けの新しいサステナビリティ開示ガイドラインを準備中であると発表しました。
現在予定されている、注目すべき今後の主な日程は以下です。
EYは、EUや米国のサステナビリティ開示ルールが日本企業にどのような影響を与える可能性があるか、日本のサステナビリティ開示の状況について説明しています。
What’s next for Japanese sustainability disclosure standards (ey.com)
Science Based Targets initiative (SBTi)のレポートによると、異常気象、紛争、経済的及び政治的不安定など、ますます困難になる世界的な状況の中、科学的根拠に基づく目標を設定する企業や金融機関の数が2022年には大幅に増加しました。
SBTiMonitoringReport2022.pdf (sciencebasedtargets.org)
CDPによると、多くの金融機関で財務上の意思決定において気候変動について考慮するようになってきたものの、森林や水といった自然への影響は引き続き見落とされている、と報告されています。
CDP Financial Services Disclosure Report 2022 - CDP
PressRelease_FS_report_20230817_JPN.pdf (cdp.net)
2021年10月22日に欧州監督当局がサステナブルファイナンス開示規則のドラフト版細則を公表
2021年10月22日、欧州監督当局より、欧州の資産運用会社等に対する開示を義務付けた「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」における詳細な内容を定めた「ドラフト版細則(Draft Regulatory Technical Standards; Draft RTS)」が公表されました。
私たちは、最先端のデジタル技術とEY のグローバルネットワークにより、時代の変化に適応した深度ある高品質な監査を追求しています。
全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。
EY新日本有限責任監査法人が毎月発行している定期刊行物です。国内外の企業会計、税務、各種アドバイザリーに関する専門的情報を掲載しています。