6 分 2022年9月16日
診察室の椅子に座って、女の子の身長を測る女性医師

CEOが直面する喫緊の課題:M&Aを通してヘルスケア業界がたどる成長への道筋

執筆者 H. Mallory Caldwell

EY US Health Leader

Proven executive and business strategist. Passionate about helping reshape and restructure industry to meet marketplace demands.

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6 分 2022年9月16日

医療機関は、変化とコスト圧力が加速するにつれ、遠隔医療や個別化したケアを展開し、よりデジタルを活用したイノベーションを取り入れています。

要点
  • ヘルスケアのエコシステムにおいては、データが自在に形を変えて利用できる性質があることや、それが現在と未来にわたって創出する潜在的価値がどれほどであるかが、業界リーダーにとって最大の関心事である。
  • ヘルスケア企業のCEOの70%が成長を見据え、2022年はM&Aを積極的に進めるとしている。
  • ESGに対する経営陣の関心が高まるにつれ、気候変動の影響よりも先んじて、ダイバーシティとインクルージョン(D&I)の向上が最重要課題として重視されている。

EY 2022 CEO Outlook Surveyによれば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによってそれまでのビジネスモデルの脆弱(ぜいじゃく)性が露呈したのを受け、世界のヘルスケア業界をリードする企業の経営幹部は、今後の成長を見据えて業務や財務、およびデジタルの戦略を変えようとしていることが分かります。

パンデミックがこれまでの医療動向に拍車をかけたというのが経営陣らの持つ共通見解です。つまり、バーチャルな医療や在宅医療への移行や、健康志向のリアルタイムな追跡(データアナリティクス活用)が急拡大を示す一方で、メンタルヘルスや医療格差に関する懸念が高まりつつあると考えています。こうしたことに加え、新たな競争相手の参入と医療のコンシューマーライゼーションによって変化しつつある市場ダイナミクスに直面する中、経営幹部はイノベーション、成長、レジリエンスなどを育むための社内エコシステムの再構築を検討するのも一手でしょう。また、テクノロジーやサプライヤー、パートナー、顧客などからなるエコシステムをより広範に見直し、将来に向けたポジションの確立を図ることも可能です。

本稿はCEOが直面する喫緊の課題シリーズの1つとして、CEOが自身の組織の未来を見直す上で役立つ重要な答えと行動を紹介しています。今回は、ヘルスケア企業のCEOが業界の動向やさまざまなビジネス課題にどのように対応しているかを探ります。

コストバッファ、成長レバーと見なされるテクノロジー

世界各国のヘルスケア企業において調査対象となったCEO 126人のうち、91%が投入物価の上昇を指摘しています。その理由は、病院や医療システムが異常な数に上る患者の対応に追われた上、サプライチェーンの混乱により材料費が高騰し、慢性的な人員不足で人件費が上昇するという事態となり、状況がさらに深刻化したためです。

利益率を維持・向上するためのトップ3の戦略的ドライバー

CEOの過半数(58%)は、テクノロジーとデジタル活用による顧客インタラクションの拡大 をヘルスケア業界全体でのコスト上昇に対するバッファー(吸収策)と捉えています。また、それらを今後5年間の成長に向けて最も重要な手段だとも考えており、テクノロジーやリアルタイムデータの効果的な活用は、ヘルスケア業界の指導者層にとって重要な成功要因の1つとして見ています。

オートメーション(自動化)は、適切に展開すれば、ヘルスケアの運用や管理業務での大幅なコスト削減になります。パンデミックによってヘルスケア企業におけるデジタル化が進み、こうしたプラットフォームが患者とのやり取りや患者の満足度にとって価値があることが証明されました。今後成功を収めるためにヘルスケア企業がすべきことは、カスタマーエクスペリエンスを戦略全体に組み込み、患者を中心に考えた戦略的意思決定をすることです。

こうした手段が持つ価値とそこに蓄積される豊富なデータを理解し活用すれば、経営幹部はその知識を基に個別化医療への道を築き、ヘルスケアにおけるエクスペリエンスを見直すことを通して、顧客中心主義をさらに進められます。

ヘルスケア部門では4人のうち3人のCEOが、パンデミックの中、サプライチェーンの混乱やコストの大幅な増加、重要品目の不足によってサプライチェーンと在庫管理の重要性が浮き彫りになったのを受け、ベンダーやロジスティックスに関わるサプライチェーンについて見直しを図っています。医療システムは、組織全体の戦略に沿った統合サプライチェーン戦略の策定を進めています。ベンダーとの複雑な関係性を解消するコスト削減戦略について、新しい発想で考えることが経営陣には求められています。

ヘルスケア業界のM&Aに対する意欲が回復

ヘルスケア企業の経営幹部の70%は、2022年は積極的に買収を進めるとしており、買収計画ありという回答が59%だった他の産業部門に比べると強気の見通しです。買収を進める予定があると回答したのがわずか34%だった2021年と比べても、M&Aへの意欲は急上昇しています。このことは、パンデミック後の世界では、ケイパビリティを獲得して市場の激しい動きに素早く対応するには、今まで以上に買収という手段を取らざるを得なくなる可能性があることを示唆しています。

M&Aに対する意欲

70%

のヘルスケア企業のCEOが、2022年は積極的にM&Aを進める予定だと回答

こうした大胆ともいえるM&Aに対する意欲はおそらく逆風を受けることでしょう。それは以下の数値が示すように、ディール環境での競争が熾烈(しれつ)を極めるだろうと予想する経営幹部が大半を占めていることから分かります。

  • 敵対的な買収提案や競争入札が増加すると思うと回答したCEOは76%
  • プライベートエクイティが市場の主なけん引役になると思うと回答したCEOは67%
  • 対象国の上位2カ国は米国と英国とし、クロスセクターおよびクロスボーダーの取引が増えると予想したCEOは61%
  • メガディール(100億米ドル)によって動きが活発化すると予想したCEOは58%(米国の場合は62%)

こうした激しい競争環境に、規制や地政学的な問題がリスクとして加わります。地政学的な問題によって戦略的投資の調整を余儀なくされていると64%が回答し、また40%は政府介入や規制の問題が増え、ヘルスケア部門はその影響を受けると考えています。

競争の激化や不確実性、ビジネスリスクを考えると、ヘルスケア企業の経営幹部にとって、より良い情報に裏打ちされた戦略的根拠に基づいてM&Aを進めることが今まで以上に重要です。また、従来のディールの代替策として、戦略的なヘルスケアパートナーシップやアライアンス、ジョイントベンチャーといった効率的で比較的リスクが少ない方法で、業績向上やイノベーションの加速、変革による成長の促進を図ろうとする考えもでてくるでしょう。

M&A計画の目標を追求するに当たって、次のようなことも選択肢に入れることができます。

  1. ボルトオン買収による市場シェアを拡大する
  2. 環境・社会・ガバナンス(ESG)の実績を強化する
  3. 事業運営能力を強化する
  4. 進出地域を拡大する
  5. テクノロジーや人材、イノベーションを獲得する

 

むしろリスクと見なされるサステナビリティ

気候変動とサステナビリティの影響は、人口構造の変化や経済の恒久的変化とともに、医療システム制度の成長を脅かすリスクの上位に挙げられており、それに地政学的リスクの増加が僅差で続きます。

一部の国や地域の企業は、温室効果ガス(GHG)排出量を削減して気候変動への影響を抑えるよう強く求められており、規制当局からの圧力は、ヘルスケア企業の経営幹部にとってサステナビリティ戦略を推進する最大の要因になっています。医療業界のCEOの93%がESGを最優先課題とする中、ヘルスケアにおけるESGを、長期的価値創造の中核的要素として位置付けようとしている企業もあり、調査参加者の3分の1以上がサステナビリティKPI(重要業績評価指標)を定めていると回答しています。調査に参加した多くのヘルスケア企業にとって、M&A市場で競争する上でESGのスコアと指標は差別化要因になりつつあります。

注目すべきは、ヘルスケア部門のCEOがダイバーシティとインクルージョン(D&I)の向上を最重要のESG目標にランク付けしていることです。その次は、気候変動や環境への影響の低減となっています。これは、全ての人において健康の公平性と成果の向上が喫緊の課題となっていること、また医療従事者全体の多様性向上が求められていることの表れです。多様な候補者を参加させる専門的トレーニングプログラムの構築から、公平性の問題に取り組むために地域社会の組織と連携することに至るまで、医療システムのリーダーはさまざまなアプローチを通じてこのニーズに取り組んでいます。

ヘルスケア企業のCEOが掲げる上位ESG目標

回答者の半数以上(52%)が、自社のサステナビリティ戦略に対して、投資家からの支援が不足していると回答しています。とはいえ、高まるESGへの関心と、全てのステークホルダーが持つニーズのバランスを取り、株主のための財務的価値だけにとどまらない、より広範な長期的価値を示せるようになるという目標は、役割が変化しつつあるヘルスケアのリーダーにとって、上位2つの課題であることとCEOは認識しています。成長し続けながら将来の重大事にも対応できるレジリエンス構築を目指すと企業トップは考えており、医療機関の新型コロナウイルス感染症対応がパンデミックからエピデミック対応へと移行するにつれ、こうしたバランスの取れた行動が今後の中心となるでしょう。

サマリー

ヘルスケア企業のCEOはM&Aによる成長に重点を置いて、ESGの実績とデジタルイノベーションを強化しようとしています。ESGで特に焦点となるのは、全ての人において医療の公平性と結果の向上、および医療従事者全体の多様性の向上です。こうした点や、その他ESG指標は、M&A市場で競争する多くのヘルスケア企業にとって差別化要因になりつつあります。

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