5 分 2022年8月16日
ノートパソコンを片手に植物の葉をチェックする女性

CEOが直面する喫緊の課題:テクノロジーセクターにおけるM&Aの推進要因とは

執筆者 Karl Cheng

EY-Parthenon Americas Technology, Media and Entertainment, and Telecommunications Sector Leader, Strategy and Transactions

TMT leader. Decades of experience with strategy and commercial diligence for corporations and private equity investors.

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EY Japan テクノロジー・メディア & エンターテインメント・テレコム・ストラテジー・アンド・トランザクションリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

事業開発、M&Aや事業投資に関する意思決定のためのアドバイスを提供。趣味は映画鑑賞や音楽、旅行。

5 分 2022年8月16日

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収益拡大と⼈材獲得、そしてデジタルトランスフォーメーションは、テクノロジーセクターにおけるM&Aの三⼤推進要因ですが、地政学的問題と企業価値評価の問題が取引の妨げとなる可能性があります。

要点
  • テクノロジーセクターではCEOの4分の3近く(72%)が、収益拡大、人材獲得、新たなデジタルトランスフォーメーションを求めて今年買収を進める予定でいる。
  • 地政学的混乱とサプライチェーンの混乱により、テクノロジーセクターではCEOが戦略的投資上の決定や業務の調整を余儀なくされている。
Local Perspective IconEY Japanの視点

テクノロジー企業にとってのM&Aは今までもそうであったように、収益の拡大、人材の獲得が重要な要素ですが、最近の動向としてデジタルトランスフォーメーション機能の拡大という傾向もあります。

テクノロジーセクターは技術変化が非常に速いために、そのスピードに対応して成長し続けていくためには自社機能への投資だけでなく、常に外部の機能の獲得を視野に入れM&Aをてこにして、自社のポートフォリオを強化、最適化し、成長を加速する必要性に迫られているのです。

また、M&Aを実現するための近年の課題としては、M&A候補先の企業価値評価が高まっており、取引を断念するケースが増えている事が挙げられます。M&Aを実現に導くためには価値を正当に評価する能力および自社とのシナジーを今まで以上に正確に見積もり、検討する必要性に迫られています。

また、地政学的問題の改善、関連するサプライチェーンの見直し、ESGへの対応もM&Aを推進、決断する上での大きな論点となってきています。

 

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岩本 昌悟
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テクノロジーセクターでは今後1年間に、いつになく多くの取引が予定されていますが、リーダーらは引き続きM&A(合併・買収)を成長のための戦略的ツールと位置づけています。テクノロジーセクターの300人以上の経営幹部などを対象に実施した2022年度のEY CEO調査(PDF、英語版のみ)によると、取引件数の増加を促している主な要因は収益拡大、人材獲得、技術イノベーションなどです。

企業価値評価額は過去最高を記録しましたが、今後低下することも考えられます。その場合、必要な財力のある買収企業は、戦略的なニーズを満たすターゲットの候補範囲が広がる可能性があります。また、これにより、取引を最近妨げている要因の1つを軽減できるかもしれません。今回の調査で、過去1年間に取引をキャンセルしたと答えた回答者のうち、パンデミックに伴う問題を除き、ほぼ半数が挙げた理由は企業価値評価額で合意に至らなかったこと、3分の1が挙げたのは規制上または独占禁止法上の問題でした。

テクノロジー企業にとって最大のバリュードライバーは相変わらず収益拡大。これが買収件数の増加を促す要因

現在のM&A状況

テクノロジー企業は自社のM&A(合併・買収)推進に楽天的な見方を示してきました。全体的に見ると、テクノロジーセクターの最高経営責任者(CEO)の72%が今後12カ月の間にM&Aを推し進める予定です。調査をした全セクターのCEO(2,000人)では、これを大幅に下回る59%でした。

大手テクノロジー企業は、買収計画に対してさらに積極的です。年間売上高が50億米ドルを超えるテクノロジー企業の95%が今後12カ月の間に買収を計画しています。つまり、2022年は変革をもたらすようなメガディールが増える可能性が高いということです。

M&Aの推進要因とは

調査対象となったテクノロジーセクターのCEOの50%が今後数年の間にM&Aを推し進めたいと考える最大の理由は収益拡大です。テクノロジー企業の場合、実際の収益と現在の企業価値評価額との間に差があることを考えると、この結果は驚くにはあたりません。

テクノロジーセクターのCEOの34%がM&Aの主な推進要因としてポートフォリオの最適化を挙げたのに対して、ノンオーガニックによる成⻑の促進を計画するCEO全体では、この割合が23%でした。

テクノロジー企業は、ポートフォリオを最適化する戦略的ツールとしてM&Aを活用することを好む

推進要因としては他に、革新的なテクノロジー、人材、その他のケイパビリティを獲得する必要性などがあります。

取引の決定に影響を及ぼす要素として新たに重要性を増してきたのは環境・社会・ガバナンス(ESG)です。テクノロジーセクターのCEOの46%が、ESGは今後数年間、極めて重要なバリュードライバーになると回答しています。

重要な検討課題

企業価値評価額は高止まりし、評価額で合意に至らないことや、地政学的混乱により、取引がキャンセルされるリスクも消えていません。実現する可能性のある取引について慎重に計画を練り、そのリスクとリターンを徹底的に検討することが企業には求められます。収益ギャップを解消するために性急に取引を成立させたいという衝動を抑え、取引を成功に導くことに的を絞った決定を下す必要があります。

地政学的混乱とサプライチェーンの混乱

地政学的緊張とサプライチェーン問題がテクノロジーセクターに大きな混乱をもたらしています。テクノロジーセクターのCEOの半数以上(59%)が地政学的課題により戦略的投資上の決定の調整を余儀なくされているとし、72%がサプライチェーン体制や業務の調整をしたか、調整をする予定です。

サプライチェーンの混乱の渦中にあるのは、ハードウェア中心のサブセクターです。半導体サブセクターのCEOの88%が、サプライチェーン体制を調整したと回答しています。その要因の1つは、現在の半導体チップの供給不⾜です。これに加え、通信・ネットワーク機器サブセクターも影響をかなり受けました。CEOの85%が、サプライチェーン体制を調整したと答えています。

地政学的な不確実性の高まりを受け、M&Aプロセスではデータリスクが注視されるようになってきました。ステークホルダーが今、取引の交渉中に重視しているのはデータプライバシー、データセキュリティ、ランサムウェアの問題です。特にクロスボーダー取引では、M&Aのターゲット企業を一段と厳格に調べる必要があります。

地政学的問題でクロスボーダー取引は大きな打撃を受けています。実際、テクノロジーセクターのCEOの31%が、地政学的混乱により、過去12カ月間にクロスボーダー投資計画の中止を余儀なくされたと回答しています。

重要な検討課題

テクノロジーセクターでは、地政学的要因が事業に及ぼす影響をCEOが認識しているとはいえ、より幅広いリスク管理戦略にそれを組み込むことが不可欠です。サプライチェーン体制の調整と経営判断の見直しを迫られる中、テクノロジー企業は将来に向けて事業基盤の見直し、再構築、改革を図る必要性の有無を最重要課題として検討しなければなりません。

デジタルトランスフォーメーションの機会と課題

テクノロジー企業にとってデジタルトランスフォーメーションはやはり有力な収益機会ですが、人工知能やブロックチェーンなど最新テクノロジーを中心とするケイパビリティが求められるようになってきました。全セクターのCEOのほぼ半数(46%)が、事業の利益率の向上にテクノロジー、自動化、デジタルトランスフォーメーションをできれば利用したいと考えており、テクノロジー企業が提供できるデジタルトランスフォーメーションサービスが求められていることが伺われます。

デジタルは、テクノロジー企業の製品やサービスでも主流を担うようになってきました。デジタルトランスフォーメーションに重点を置くことは、テクノロジー企業が新たな収入源を確保し、将来の成長機会を創出する上で役立つ可能性が高いと思われます。

その一方で、デジタルトランスフォーメーションの加速がデータ量の増大を招き、データプライバシーとサイバーセキュリティという課題をもたらしているのも事実です。一方、データセキュリティは相変わらず収益が大幅に拡大する分野であるものの、データドリブン型のベンチャー事業で慎重な姿勢を取ることがテクノロジー企業には求められます。それは、プライバシー介入や監視資本主義でベンチャー事業に対する規制当局の監視の目が厳しくなっているためです。

重要な検討課題

デジタルトランスフォーメーションの加速で、テクノロジー企業はクライアントのデジタル化を中⼼となって推進できるようになりました。⾃社の⽴ち位置を⾒極め、デジタルトランスフォーメーションジャーニーのどこでクライアント企業を⼿助けする役割を果たせるかを把握することが求められます。同時に、テクノロジーセクターのCEOは、スタートアップ企業を買収し、中核事業には直接関係のない特殊なテクノロジーを利⽤できるようにするなど、⼤胆な⼀歩を踏み出す必要が⽣じるかもしれません。

環境・社会・ガバナンス(ESG)

サステナビリティもまた、多くのテクノロジー企業にとって重要なテーマです。材料の調達、製造、労働条件に関わるリスクが高い半導体メーカーの場合、当然のことながら、全体の54%がESGを重要な検討課題とみなしています。

テクノロジーセクターのCEOの34%が、サステナビリティの推進を主導するリーダーになることで、会社は競争優位性を獲得できると考えています。

テクノロジー企業が懸念する分野は電力使用、廃棄物の再資源化、レアアースメタルの採掘などです。ターゲット企業がどのようなESGイニシアチブにすでに着手しているか、また、買収企業が自社のESGの取り組みで価値を付加できるのはどこかをさらに綿密に調べる必要があります。

とはいえ、ESGが及ぼす影響は環境サステナビリティにとどまりません。ステークホルダーが社会的責任のある企業を重視する中、消費者データの倫理的な取り扱いは一躍注目を浴び、ESGの主要な柱それぞれに不可欠な要素となってきました。

重要な検討課題

ESGリスクを事前に軽減する戦略をとることで、企業は将来の規制にはるかに適切な対応ができるはずです。将来に備えるためには、透明性の高いサステナビリティ戦略の採用を検討し、影響を受ける分野を把握し、その評価を頻繁に行う必要があります。

サマリー

テクノロジーセクターのCEOは、成長を推進する主な要因としてM&Aを相変わらず重視していますが、混乱が続く今日の環境にはリスクがたくさん潜んでいます。地政学的な不確実性とサプライチェーンの混乱に備えた計画の検討と、買収企業のESGポートフォリオに買収がどのような影響を及ぼす可能性があるのかの把握が不可欠です。

2022年度のEY CEO調査(PDF、英語版のみ)CEO Imperativeシリーズの最新レポートです。このシリーズでは、CEOが組織の未来を創る上で役立つ、重要な解決策とアクションを提起しています。

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