EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
計情報トピックス 吉田剛
企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成25年12月25日に実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表しています。
「日本版ESOP」などと呼ばれる「従業員及び従業員持株会(以下「従業員等」という。)に信託を通じて自社の株式を交付する取引」については、近年その導入事例が増加してきていますが、会計処理に関して実務上のばらつきが指摘されるところでもありました。こういった状況の中、平成24年11月の第255回企業会計基準委員会において基準諮問会議から新規の審議テーマとして採り上げるべきとの提言を受け、その後、平成24年12月に開催された実務対応専門委員会を皮切りに、日本版ESOPの会計処理及び開示について検討が加えられ、平成25年7月には本実務対応報告の公開草案が公表されました。ASBJでは、公開草案に寄せられたコメントも踏まえて審議を進め、今般、本実務対応報告が公表されたものです。
日本版ESOPは大きく従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する「従業員持株会発展型」と、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する「株式給付型」に大きく分けられますが、本実務対応報告では、現状行われている実務を踏まえ、それぞれのスキームに分けて会計処理の当面の取扱いが示されています。また、開示についても当面の取扱いが示されるとともに、既に導入済みのスキームについては、その適用を任意にするなど、一定の経過措置が定められています。
本実務対応報告は、従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引について、当面、必要と考えられる実務上の取扱いを明らかにするものです。具体的には、以下の2つの類型に区分されるそれぞれのスキームに対して適用されることとなり、また、それぞれのスキームの特徴が第3項及び第4項で示される形となっています。
なお、本実務対応報告では、従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に対して「日本版ESOP」という呼称は用いていませんが、以下では説明の便宜のため、当該取引を「日本版ESOP」と表記することとします。
本実務対応報告の対象となる日本版ESOPを導入している場合、取引の概要、信託が保有する自社の株式の帳簿価額、株式数などを注記することとされています。
なお、連結財務諸表と個別財務諸表に同一の事項が注記されている場合、個別財務諸表では連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができるとされています。
また、1株当たり情報においては、信託が保有する自社の株式を自己株式と同様に取り扱って1株当たり当期純利益等を算定することとされました。
本実務対応報告については、一定の周知期間を設けた後、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することが原則となります。
ただし、公表後直ちに適用することへのニーズにも鑑み、本実務対応報告公表後最初に終了する事業年度の期首又は四半期会計期間の期首から適用することができる早期適用の定めが設けられています。このため、3月決算の会社では、この平成25年12月末を四半期決算日とする第3四半期から早期適用が可能とされます。
本実務対応報告が適用となる事業年度の期首(又は四半期会計期間の期首)より前に契約が締結された日本版ESOPについて、遡及適用する場合には、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の定めに従うことになります(本実務対応報告第71項参照)。
ただし、本実務対応報告が適用となる前に導入された日本版ESOPに関しては経過措置が設けられており、従来の会計処理を継続することができるものとされています。この場合、従来採用していた方法により引き続き会計処理を行っている旨や、信託が保有する自社の株式を自己株式として株主資本の控除項目としているか否かといった事項の注記が求められます。
本実務対応報告において定める会計処理の理解を深めるため、以下の設例が示されています。このうち、設例1・2は従業員持株会発展型、設例3・4は株式給付型に対応するものです。
設例1 従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引(債務保証の履行が生じない場合)
設例2 同上(債務保証の履行が生じる場合)
設例3 受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引(信託が市場から株式を取得するケース)
設例4 同上(信託が企業の自己株式を取得するケース)
本実務対応報告で定められる主要な会計処理(総額法の適用の要否、自己株式処分差損益の認識時点、従業員へのポイントの割当等に関する会計処理)について、公開草案からの変更はありません。
なお、以下の点について、その取扱いが明らかにされました。
また、適用時期について、前述のとおり四半期会計期間から早期適用が可能である点が明示されました(本実務対応報告第19項ただし書き)。
なお、本稿は本会計基準等の改正の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
各用語について(企業会計ナビ用語集にリンクしています)