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会計情報トピックス 吉田剛
この平成28年6月第1四半期決算においては、繰延税金資産の計上額に影響を及ぼす、回収可能性適用指針が原則適用となります。また、平成28年度税制改正のうち、法人税率の引下げなどの税率変更が決算に影響してくることが考えられるほか、減価償却に係る改正(新規取得の建物附属設備及び構築物に関する定率法の廃止)の影響も検討する必要があります。
本稿では、これらの論点について、基本的な取扱いを中心に、平成28年6月第1四半期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。なお、回収可能性適用指針の適用に係る本四半期決算固有の論点以外の留意事項については、当ウェブサイト掲載の「平成28年3月期 決算上の留意事項」<繰延税金資産の回収可能性編>(Q9~Q19)をご確認ください。また、企業会計基準委員会(ASBJ)より6月17日に公表された実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」の適用時期に係る論点については、平成28年6月第1四半期だけでなく、4月末・5月末・6月末を決算日又は四半期決算日とするすべてのケースについて解説していますので、ご確認ください(Q9参照)。
Q1 当第1四半期で原則適用する場合の影響額の取扱い
Q2 当第1四半期で原則適用する場合の注記上の取扱い
Q3 前期末で早期適用を行った場合の当第1四半期での比較情報の取扱い
Q4 前期末で早期適用を行った場合の当第1四半期での注記上の取扱い
Q5 四半期特有の会計処理を採用している場合に複数税率をどのように四半期決算に反映するのか
Q6 税制改正による減価償却方法の変更は会計上も会計方針の変更として認められるのか
Q7 税制改正による減価償却方法の変更と資本的支出
Q8 税制改正による減価償却方法の変更と開示上の取扱い
Q9 税制改正減価償却方法変更取扱いの適用時期
なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
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回収可能性適用指針の適用によって、従前の66号の定めの内容を実質的に変更していると考えられる以下の3つの定めの影響のみを「会計方針の変更の影響額」とし(回収可能性適用指針49項(3))、「その他の影響額」に関しては、損益に計上することとされました。この会計方針の変更の影響額は、前年度以前に遡及することなく、適用初年度期首の利益剰余金等に加減算されます(回収可能性適用指針49項(4)、「平成28年3月期 決算上の留意事項」Q16参照)。
この定めを踏まえて、四半期決算における取扱いを検討します。より具体的には、回収可能性適用指針の影響に係る会計処理は、四半期決算における税金計算の会計方針によって異なることになりますので、分けて考える必要があります。
四半期決算においても、税金計算は年度決算と同様の方法で行うことが原則です(四半期会計基準14項本文)。
このとき、会計方針の変更の影響額については、回収可能性適用指針の定めどおり、適用初年度期首の利益剰余金等に加減算されます。また、その他の影響額に関しては、第1四半期において損益等に計上されます。
四半期決算においては、その税金計算において原則的な方法(①参照)に代え、四半期特有の会計処理を会計方針として採用することができます。具体的には、年度の税効果会計適用後の実効税率を合理的に見積り、当該見積実効税率を税引前四半期純利益に乗じて税金費用を算出することができます(四半期会計基準14項ただし書き)。 この場合でも、会計方針の変更の影響額については、回収可能性適用指針の定めに従い、適用初年度期首の利益剰余金等に加減算されるため、適用初年度の見積実効税率の算定に際しては、考慮する必要がないことになります。
一方、その他の影響額に関しては、四半期特有の会計処理の適用に際し、見積実効税率に当該影響を織り込むかどうかという観点で、以下の2つの方法が考えられます。
ⅰその他の影響額を見積実効税率の算定に織り込む方法
ⅱその他の影響額を見積実効税率の算定に含めず、第1四半期に当該影響を反映させる方法
その他の影響額は、会計方針の変更の影響額のように期首の利益剰余金に加減されることなく、損益等に計上されることになるため、法人税等調整額への計上を通じて、税率に影響することになります。このため、原則としてⅰの方法により、回収可能性適用指針の適用によるその他の影響額は年度の予想税金費用(税効果会計適用後)に含められることとなり、結果的に見積実効税率の算定に反映されて、各四半期にその影響が生じることになります。この考え方は、中間税効果実務指針9項に定められる見積実効税率の算定方法とも整合的であると考えられます。
ただし、四半期特有の会計処理の適用において、税効果の影響を反映していなかったようなケースなどでは、ⅱの方法により、見積実効税率の算定において、回収可能性適用指針の適用によるその他の影響額を見積税金費用には反映しないことも考えられます。この場合、見積実効税率により計算された税金費用とは別に、当該その他の影響額は、①の原則的方法を採用している場合と同様、第1四半期において損益等に計上されることになりますが、この考え方は、当該影響が会計方針の変更によるものではないものの、新たな会計基準(回収可能性適用指針)の適用により生じた点を重視した方法であるといえます。
なお、繰延税金資産の回収可能性の判断において簡便的な取扱いを用いている場合、回収可能性適用指針49項(6)の定めにより、四半期適用指針16項、17項の「前年度末」は「当年度の期首」へと読み替えられることになるため、この点にもご留意ください。
回収可能性適用指針の原則適用により、会計方針の変更による重要な影響額(Q1参照)が生じる場合には、会計方針の変更の注記を記載することになります。この場合、回収可能性適用指針49項(5)の定めに従い、以下の事項が注記されます。
また、会計方針の変更による重要な影響額がない場合、会計方針の変更の注記は不要ですが、その他の影響額(Q1参照)が重要な場合には、追加情報として回収可能性適用指針を当期から適用している旨を四半期(連結)財務諸表に注記することが考えられます。ただし、この場合であっても、当該影響額の記載は必要とはされていません。
回収可能性適用指針は、経過措置によって、適用初年度の期首よりも前には遡らない取扱いとなっています。しかしながら、前期末(平成28年3月期期末)において早期適用した場合、当該適用初年度の期首(平成28年3月期期首)までは遡る必要があるため、留意が必要です。
具体的には、前期末時点で算定した前期首時点の会計方針の変更に係る影響額を前期首の繰延税金資産の額等に反映した上で、比較情報(平成27年6月第1四半期の四半期(連結)損益計算書等)については、回収可能性適用指針を前期首まで遡って適用した形で、適用の影響を反映する必要があります。
このとき、適用の影響を反映すべきは会計方針の変更に該当する定めの適用による影響のみとなります。一方、その他の影響額については、前期末から将来にわたってのみ、その影響が反映される点に留意が必要であり、この点は平成28年3月に改正された回収可能性適用指針の49項(2)の定めにおいて明らかにされています。
回収可能性適用指針を平成28年3月期末で早期適用したときに、前期末において会計方針の変更に係る注記を記載している場合には、会計方針の変更はすでに前期に行われているため、当第1四半期において当該注記は行われません。しかしながら、前第1四半期の四半期(連結)財務諸表に適用されていた会計方針と、当第1四半期における比較情報に適用されている会計方針が相違しているため、首尾一貫性に関する注記に準じて、追加情報を記載することが考えられます。
具体的には、四半期連結財規10条の3、四半期財規5条の2第6項の規定に準じて、前第1四半期(連結)会計期間に提出された四半期報告書における四半期連結損益計算書及び四半期連結包括利益計算書に係る事項と、当第1四半期連結累計期間に係る四半期連結損益計算書及び四半期連結包括利益計算書における比較情報に相違がある旨を追加情報として記載することが考えられます。
なお、回収可能性適用指針を平成28年3月期末で早期適用したものの、会計方針の変更に関する影響額が生じていない場合には、当第1四半期における注記は特段不要と考えられます。
四半期決算においては、その税金計算において原則的な方法に代え、四半期特有の会計処理を会計方針として採用することができます。具体的には、年度の税効果会計適用後の実効税率を合理的に見積り、当該見積実効税率を税引前四半期純利益に乗じて税金費用を算出することになります(四半期会計基準14項ただし書き)。
この四半期特有の会計処理を採用している場合において、将来適用となる税率が複数となるときは、実務対応報告第29号「改正法人税法及び復興財源確保法に伴い税率が変更された事業年度の翌事業年度以降における四半期財務諸表の税金費用に関する実務上の取扱い」Q2も参考にして、(図表)の取扱いにより会計処理することが考えられます。
原則的な方法 |
容認される方法 |
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将来の複数税率の影響を勘案した当年度の税金費用(予想年間納付税額+予想年間法人税等調整額など)をベースに見積実効税率を算出する |
複数税率の影響が重要でないと見込まれる場合には、当期の法定実効税率を用いて算定した予想年間税金費用を前提として、見積実効税率を算出する |
平成28年度税制改正により、減価償却方法に変更が加えられました。具体的には、平成28年4月1日以後取得する建物附属設備及び構築物について、法人税法上の減価償却方法から定率法が廃止され、原則として、定額法に一本化されました。
この税制改正に対応して、建物附属設備及び構築物に係る会計上の減価償却方法を変更したときに、当該変更が会計上も認められるものかどうかが論点となります。
これに関して、6月17日に企業会計基準委員会から実務対応報告第32号「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」(税制改正減価償却方法変更取扱い)が公表されています。税制改正減価償却方法変更取扱い2項では、従来、法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理している企業において、建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法に定率法を採用していた場合に、平成28年4月1日以後に取得する当該すべての資産に係る減価償却方法を定額法に変更するときは、法令等の改正に準じたものとし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更(過年度遡及会計基準5項(1))として取り扱うことができるとされています。税制改正に伴い、建物附属設備又は構築物の減価償却方法を変更する企業においては、上述の要件を満たしているかどうか、慎重に検討することが求められます。
特に、上記の「当該すべての資産」という要件が公開草案から追加されており、これは、建物附属設備又は構築物について、一部の事業場について引き続き会計上は定率法を採用し、それ以外の事業場について定額法を採用する場合であっても本実務対応報告を適用することが認められるかどうかという公開草案に寄せられたコメントに対応したものとされています(ASBJコメント対応No.4)。すなわち、「当該すべての資産」という要件が追加されたことで、法令等の改正に準じた会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われる資産は以下のとおり整理されます。
また、この第1四半期において新規の建物附属設備及び構築物の取得がなかったとしても、税制改正に合わせて減価償却方法を定額法に変更する場合には、法令等の改正に準じた会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当し、会計方針の変更の注記が求められることとなるため、留意が必要です(税制改正減価償却方法変更取扱い17項、18項、ASBJコメント対応No.7)。
平成28年度税制改正により、平成28年4月1日以後取得する建物附属設備及び構築物について、法人税法上の減価償却方法から定率法が廃止され、原則として、定額法に一本化されました。また、資本的支出についても、新規取得資産とみなされ、(既存資産の減価償却方法にかかわらず)定額法が適用となります(法人税法施行令55条1項)(参考)。
この場合であっても、Q6のAに記載したように、税制改正に対応する減価償却方法の変更を、法令等の改正に準じた会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱っている場合には、既存資産と資本的支出の減価償却方法を統一することなく、特例的に、平成28年4月1日以後実施された資本的支出について、会計上も、定額法で償却されることになると考えられます。
(参考)
平成28年度税制改正に伴って減価償却方法を変更した企業が税制改正減価償却方法変更取扱い2項の要件を満たす場合、同項の定めに従い、「法令等の改正」に準じて、「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」に該当することになります。このため、当該会計上の変更は、「会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合」ではなく、「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」として取り扱われることになります(ASBJコメント対応No.5)。
開示上は、「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」の原則的取扱いに代えて、税制改正減価償却方法変更取扱い4項の定めに従い、以下の2項目が注記されます。
当第1四半期において、後者の影響額は、第1四半期(連結)累計期間の各段階損益(営業損益、経常損益、税金等調整前(税引前)四半期純損益など)への影響を記載することになります。
また、上記の注記事項は、「会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合」の注記事項と同様の内容を求めることを意図しているため、1株当たり情報に与える影響については、注記不要となります(ASBJコメント対応No.10)。
税制改正減価償却方法変更取扱いは、原則として、公表日以後最初に終了する事業年度にのみ適用することとされています(税制改正減価償却方法変更取扱い5項本文)。この「公表日以後最初に終了する事業年度」は、3月末決算の企業の場合、平成29年3月期決算を指すことから、平成28年6月第1四半期の期首より税制改正減価償却方法変更取扱いを適用することとなります。
①で太字とした税制改正減価償却方法変更取扱いの原則的な適用時期に当てはめると、6月末決算の企業の場合の「公表日以後最初に終了する事業年度」は、平成28年6月期決算を指すことになります。このため、平成28年6月期の第4四半期から税制改正減価償却方法変更取扱いを適用することとなります。
①で太字とした税制改正減価償却方法変更取扱いの原則的な適用時期に当てはめると、12月末又は9月末決算の企業の場合の「公表日以後最初に終了する事業年度」は、平成28年12月期決算又は平成28年9月期決算を指すことになります。このため、平成28年6月第2四半期(12月末決算の場合)又は平成28年6月第3四半期(9月末決算の場合)から税制改正減価償却方法変更取扱いを適用することとなります。
①で太字とした税制改正減価償却方法変更取扱いの原則的な適用時期に当てはめると、5月末決算の企業の場合の「公表日以後最初に終了する事業年度」は、平成29年5月期決算を指すことになります。
ただし、平成29年5月期決算から税制改正減価償却方法変更取扱いを適用したとしても、平成28年4月1日から5月31日までに取得した建物附属設備及び構築物について、税制改正減価償却方法変更取扱いが適用できないことから、適用時期の特例が設けられています。具体的には、今回の税制改正の適用時期である平成28年4月1日以後に最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日(平成28年6月17日)前に終了している場合において、当該事業年度に税制改正減価償却方法取扱いを適用できることとされています(税制改正減価償却方法取扱い5項ただし書き)。この特例規定における「当該事業年度」は、5月末決算の企業の場合、平成28年5月期決算を指すことから、この定めを適用した場合には、平成28年4月1日から5月31日までに取得した建物附属設備及び構築物についても、税制改正減価償却方法変更取扱いが適用されることとなります。
なお、この取扱いは、4月末決算の企業においても同様です。
5月末が四半期決算日のケース、すなわち、年度決算が2月末、11月末又は8月末の場合、①で太字とした税制改正減価償却方法変更取扱いの原則的な適用時期は、それぞれ平成29年2月決算、平成28年11月決算、平成28年8月決算となります。このため、これらの場合には、平成28年5月第1四半期(2月末決算の場合)、平成28年5月第2四半期(11月末決算の場合)、又は平成28年5月第3四半期(8月末決算の場合)より、税制改正減価償却方法変更取扱いが適用されることとなります。
4月末が四半期決算日のケース、すなわち、年度決算が1月末、10月末又は7月末の場合、①で太字とした税制改正減価償却方法変更取扱いの原則的な適用時期は、それぞれ平成29年1月決算、平成28年10月決算、平成28年7月決算となります。しかしながら、4月末が四半期決算日のケースでは、税制改正減価償却方法変更取扱いの公表日(6月17日)の時点で、すでに4月四半期決算に係る四半期報告書の提出が完了していることになります。
この場合、税制改正減価償却方法変更取扱いは、公表日以後最初に終了する四半期(連結)会計期間に適用することになるとされています(ASBJコメント対応No.11)。具体的には、1月末決算の場合には7月第2四半期(連結)会計期間、10月末決算の場合には7月第3四半期(連結)会計期間、7月末決算の場合には年度末決算(第4四半期)から税制改正減価償却方法変更取扱いを適用し、所定の注記を行うことになります。