退職給付 第10回:開示

公認会計士 牧野 幸享

平成21年1月に公表された「退職給付会計の見直しに関する論点の整理」に対し、財務諸表の有用性をさらに高めるよう、その拡充を求める意見が多く寄せられたことや、より多くの項目を注記している国際的な会計基準とのコンバージェンスを進める観点から、退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表、年金資産の期首残高と期末残高の調整表、年金資産の主な内訳(債券、株式等の区分)など開示項目の拡充が行われています。
具体的な開示内容は以下のとおりです。

1. 確定給付制度(平成24年改正会計基準27~30項)


(1) 貸借対照表上の表示

積立状況を示す額(退職給付債務から年金資産の額を控除した額)について、負債となる場合は「退職給付に係る負債」等の適当な科目をもって固定負債に計上し、資産となる場合は「退職給付に係る資産」等の適当な科目をもって固定資産に計上します。
未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用については、税効果を調整の上、純資産の部におけるその他の包括利益累計額に「退職給付に係る調整累計額」等の適当な科目をもって計上します。

※ 個別財務諸表上、退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額から、年金資産の額を控除した額を「退職給付引当金」の科目をもって固定負債として計上します。一方、年金資産の額が退職給付債務に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を加減した額を超える場合には、「前払年金費用」等の適当な科目をもって固定資産に計上します。また、上記後段の未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用に係る扱いは、個別財務諸表上は適用しません。

(2) 損益計算書上の表示

退職給付費用については、原則として売上原価又は販売費及び一般管理費に計上します。ただし、新たに退職給付制度を採用したとき又は給付水準の重要な改訂を行ったときに発生する過去勤務費用を発生時に全額費用処理する場合などにおいて、その金額が重要であると認められるときには、当該金額を特別損益として計上することができます。

(3) 包括利益計算書上の表示

当期に発生した未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用ならびに当期に費用処理された組替調整額については、税効果を調整の上、その他の包括利益に「退職給付に係る調整額」等の適当な科目をもって、一括して計上します。

※ 上記の扱いは、個別財務諸表上は適用しません。

(4) 注記事項

確定給付制度に係る次の事項について連結財務諸表及び個別財務諸表において注記します。なお、(2)から(11)について、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないとされています。また、(7)(8)について、個別財務諸表上は適用しません。

項目
(平成24年改正会計基準30項)

主な内容等
(平成24年改正適用指針52~62項)

(1)退職給付の会計処理基準に関する事項

退職給付見込額の期間帰属方法
数理計算上の差異及び過去勤務費用の費用処理方法
会計基準変更時差異の費用処理方法

(2)企業の採用する退職給付制度の概要

企業の採用する退職給付制度の種類の一般的説明

(3)退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表

次の項目を含む主な内訳が分かるように記載する。なお、重要性が乏しい項目については、「その他」に含めることができる。
(1)勤務費用
(2)利息費用
(3)数理計算上の差異の当期発生額(費用処理されたものを含む)
(4)退職給付の支払額
(5)過去勤務費用の当期発生額(費用処理されたものを含む)
(6)その他

(4)年金資産の期首残高と期末残高の調整表

次の項目を含む主な内訳が分かるように記載する。なお、重要性が乏しい項目については、「その他」に含めることができる。
(1)期待運用収益
(2)数理計算上の差異の当期発生額(費用処理されたものを含む)
(3)事業主からの拠出額
(4)退職給付の支払額
(5)その他

(5)退職給付債務及び年金資産と貸借対照表に計上された退職給付に係る負債及び資産の調整表

退職給付債務について、積立型制度と非積立型制度の内訳を記載する。

(6)退職給付に関連する損益

当期純利益を構成する項目に計上された次の退職給付費用の項目について記載する。なお、重要性が乏しい項目については、集約して記載することができる。
(1)勤務費用
(2)利息費用
(3)期待運用収益
(4)数理計算上の差異の当期の費用処理額
(5)過去勤務費用の当期の費用処理額
(6)その他(会計基準変更時差異の費用処理額、臨時に支払った割増退職金等)

(7)その他の包括利益に計上された数理計算上の差異及び過去勤務費用の内訳

次の項目ごとに、当期発生額及び費用処理に係る組替調整額の合計を記載する。なお、重要性が乏しい項目については、集約して記載することができる。
(1)(未認識)数理計算上の差異
(2)(未認識)過去勤務費用
(3)会計基準変更時差異(の未処理額)

(8)貸借対照表のその他の包括利益累計額に計上された未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の内訳

次の項目ごとの残高が分かるように記載する。なお、重要性が乏しい項目については、集約して記載することができる。
(1)(未認識)数理計算上の差異
(2)(未認識)過去勤務費用
(3)会計基準変更時差異(の未処理額)

(9)年金資産に関する事項(年金資産の主な内訳を含む。)

(1)年金資産の主な内訳として、株式、債券などの種類ごとの割合又は金額。なお、退職給付信託が設定された企業年金制度について、年金資産の合計額に対する退職給付信託の額の割合が重要である場合には、その割合又は金額を別に付記。
(2)長期期待運用収益率の設定方法に関する記載(年金資産の主要な種類との関連)

(10)数理計算上の計算基礎に関する事項

(1)割引率
(2)長期期待運用収益率
(3)その他の重要な計算基礎(予想昇給率等)

(11)その他の退職給付に関する事項

その他

※ 次の事項に関する注記の定めもあります。
・代行返上があった場合の注記(平成24年改正適用指針61項)
・小規模企業等における簡便法の注記(平成24年改正適用指針62項)
 

2. 確定拠出制度(平成24年改正会計基準31項、32項)


(1) 貸借対照表上の表示、損益計算書上の表示

確定拠出制度においては、当該制度に基づく要拠出額をもって毎期費用処理しますが、要拠出額のうち未拠出の額は未払金として計上します。
また当該費用(要拠出額)は、確定給付制度の退職給付費用に含めて計上します。

(2) 注記事項

確定給付制度の退職給付費用に含めて計上した費用について、確定拠出制度に係る退職給付費用として注記します。
 

3. 複数事業主制度(平成24年改正会計基準33項)


(1) 貸借対照表及び損益計算書上の表示、注記事項

合理的な基準により自社の負担に属する年金資産等の計算をした上で、確定給付制度と同様の開示を行います。
ただし、自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないときには、確定拠出制度に準じた開示を行います。この場合、当該年金制度全体の直近の積立状況等(年金制度全体の直近の積立状況等(年金資産の額、年金財政計算上の給付債務の額及びその差引額)及び年金制度全体の掛金等に占める自社の割合ならびにこれらに関する補足説明)についても注記します。なお、重要性が乏しい場合には当該注記を省略できるものとされています。

なお、平成24年改正適用指針において「参考(開示例)」が公表されているので、より具体的な開示についてはそちらをご参照ください。

[開示例1] 確定給付制度及び確定拠出制度に係る注記
[開示例2] 小規模企業等における簡便法を採用している場合の注記
[開示例3] 複数事業主制度に係る注記


連載 「退職給付(平成24年改正会計基準)」 一括ダウンロード



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