EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
ナレッジセンター 公認会計士 井澤依子
本研究報告は、あくまで研究報告として日本公認会計士協会の考え方を示したものであり、この公表により、収益認識に関し、これまでの実現主義の解釈の下で認められてきた会計処理から研究報告に記載された会計処理への変更が強制されることはありません。このため、研究報告に記載された会計処理を採用しても「会計基準等の改正に伴う会計方針の採用又は変更」には該当しません。
なお、研究報告に記載された会計処理を任意で新たに採用するに当たっては、以下の二つのケースが考えられるとしています。
ケース |
取り扱い |
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①複数の会計処理が認められている場合の会計処理の変更 |
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②新たな事実の発生に伴う新たな会計処理の採用 |
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※会計方針の変更に当たっては適時性が求められますが、研究報告の公表が背景の一つになるのではないかとの意見があります。
「I 総論」において、研究報告の性格等を説明した上で、わが国の実現主義の下での収益認識要件をより厳格に解釈した場合の考え方とIAS18とを比較した考察を行っています。また、「II 付録」においては、67の事例についてIAS18に照らした具体的な考察等を行っています。本稿では、総論の概要と付録の一部についてご紹介します。
わが国では、収益認識に関する包括的な会計基準は存在しませんが、企業会計原則において、収益の認識は実現主義によることが示されています。一般には「財貨の移転又は役務の提供の完了」とそれに対する現金または現金等価物その他の資産の取得による「対価の成立」の二つが収益認識要件とされているものと考えられます。
一方IAS18においては、具体的な収益認識の要件が「物品の販売」、「役務の提供」、「企業資産の第三者による利用」の三つの取引形態に分けて定められています。
両者の主な関連性を表したのが次の図表となりますが、このように、わが国における実現主義の考え方とIAS18が定める収益認識の要件との間には本質的な相違はないと考えられるため、実務上、実現主義の具体的な適用に当たっては、IAS18の収益認識の要件が参考になると考えられます。
なお研究報告では、わが国の実現主義の考え方のみでは、IAS18を適用した場合と同様の結果が得られるとは限らない項目として、売上の総額表示と純額表示(Ⅳ4.参照)、複合取引(Ⅳ6.参照)の二つを挙げています。
(1) 要点
わが国の現状 |
IAS18の取り扱い |
IAS18に照らした考察 |
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企業会計原則「総額主義の原則」、ソフトウェア取引実務対応報告(※)を除き、わが国の会計基準では明示されていない。 |
収益は企業が自己の計算により受領し、または受領し得る経済的便益の総流入だけを含むとしており、代理の関係にある場合、手数料の額が収益となる。 |
ソフトウェア取引以外の収益の額についてもソフトウェア取引実務対応報告を参考に表示を行わない限り、IAS18と相違が生ずる場合があると考えられる。 |
※実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」(平成18年3月30日 ASBJ公表)
(2) 事例
【商社の収益の表示方法(ケース1)】
商社は、国内外の企業間取引の中で、情報提供、事務代行、決済代行および信用補完などのさまざまな機能を発揮しているが、契約上、取引の当事者として行われる取引と代理人として行われる取引がある。商社においては、果たした役割を総量で表すため、取引の当事者としての取引だけではなく、代理人としての取引についても総額で収益を表示している場合が少なくない。
(会計上の論点)
会計処理の考え方(※1) |
IAS18に照らした考察(※2) |
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わが国の会計基準では明示されていないものの、契約上、代理人として行われる取引については、収益を総額で表示するのではなく、手数料のみを収益として表示することが適切と考えられる。 |
IAS18第8項では、「代理の関係にある場合、...手数料の額が収益となる。」とされており、付録第21項では、企業が本人として行為を行っているのか、代理人として行為を行っているのかの判断は、事実と状況により異なり、判断が必要とした上で、判断指針((3)参照)を提供している。 |
※1 わが国の実現主義の下での収益認識要件をより厳格に解釈した場合の考え方
※2 IAS18を適用した場合の現時点における日本公認会計士協会における考え方
(以下の事例においても同様)
【リベートの会計処理(販売費および一般管理費処理の適否)(ケース3)】
わが国の商取引において、メーカーや卸売業を営む企業等が、期間、量および金額などさまざまな契約条件(算定根拠)により顧客に対してリベートを支払うことがある。
このような取引において、リベートを売上高から控除している場合と販売費および一般管理費として処理している場合がある。
(会計上の論点)
会計処理の考え方 |
IAS18に照らした考察 |
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現行実務においては、売上高から控除する処理と販売費および一般管理費とする処理の両方が慣行として行われてきた。 |
IAS18では、収益は受領または受領可能な公正価値(企業が許容した値引きおよび割戻しの額を考慮後)により測定しなければならないとされている。 |
(3) 収益の総額表示と純額表示に関する指針
企業が本人として行為を行っているのか(総額表示)、代理人として行為を行っているのか(純額表示)の判断指針は、IAS18の付録第21項で示されています。
その中で企業が財貨の移転または役務の提供に関する重要なリスクと経済価値にさらされている場合には本人として行為を行っており、そうでない場合は代理人として行為を行っているものとしています。
IAS18【付録第21項(抜粋)】
企業が本人として行為を行っている場合(収益を総額で表示すべき場合)の特徴(個別又は組合せによる。)
(a) 企業は基本的に顧客に対し財貨又は役務を提供する、又は例えば顧客が注文したり購入した商品又はサービスの検収に責任を負うなど、注文を執行する責任がある。
(b) 企業には顧客注文の前後、又は出荷あるいは返還の間の在庫リスクが存在する。
(c) 企業は、直接又は間接を問わず、例えば追加商品又はサービスを提供するなど、価格設定に裁量権を有している。
(d) 企業は、顧客から受領する金額について顧客の信用リスクを負担している。
企業が代理人として行為を行っている場合(収益を純額で表示すべき場合)の特徴
企業が稼得する金額が、取引1件当たりの報酬、又は、顧客への請求金額の一定金額など、事前に設定されている。
(1) 要点
わが国の現状 |
IAS18の取り扱い |
IAS18に照らした考察 |
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(2) 事例
【割賦販売の会計処理(ケース6)】
わが国では、いわゆる割賦販売の会計処理として、販売基準により商品等を引き渡した日をもって売上収益の実現の日としている場合と、割賦基準により割賦代金の回収期限の到来の日または入金の日をもって売上収益の実現の日としている場合がある。
また、販売基準の場合でも、契約上、販売代価と賦払期間中の利息に相当する金額とが明確、かつ、合理的に区分されているときは、割賦販売の金利的な要素を考慮し、商品等を引き渡した時点で収益を販売代価で測定し、賦払期間に対応して利息相当額を収益として認識する実務と、割賦販売の金利的な要素を考慮せずに商品等を引き渡した時点で収益を現金回収総額で測定する実務がある。
(会計上の論点)
会計処理の考え方 |
IAS18に照らした考察 |
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割賦基準が認められている背景には、認識すべき収益の額は、代金回収の蓋然(がいぜん)性が高く、その収益を獲得するために必要な費用を合理的に見積もることができる範囲内に限定すべきであるという基本的な考え方があると解される。 |
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「顧客との契約から生じる収益に関する論点の整理」及び「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)」について