「顧客との契約から生じる収益に関する論点の整理」及び「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)」について 第2回:研究報告1 ~収益の表示方法、収益の測定~

2011年6月24日
カテゴリー 解説シリーズ

ナレッジセンター 公認会計士 井澤依子

IV. 日本公認会計士協会による研究報告の概要

1. 研究報告の位置付け

本研究報告は、あくまで研究報告として日本公認会計士協会の考え方を示したものであり、この公表により、収益認識に関し、これまでの実現主義の解釈の下で認められてきた会計処理から研究報告に記載された会計処理への変更が強制されることはありません。このため、研究報告に記載された会計処理を採用しても「会計基準等の改正に伴う会計方針の採用又は変更」には該当しません。

なお、研究報告に記載された会計処理を任意で新たに採用するに当たっては、以下の二つのケースが考えられるとしています。

ケース 取り扱い

①複数の会計処理が認められている場合の会計処理の変更

会計方針の変更(※)

②新たな事実の発生に伴う新たな会計処理の採用

追加情報

※会計方針の変更に当たっては適時性が求められますが、研究報告の公表が背景の一つになるのではないかとの意見があります。

2. 研究報告の構成

「I 総論」において、研究報告の性格等を説明した上で、わが国の実現主義の下での収益認識要件をより厳格に解釈した場合の考え方とIAS18とを比較した考察を行っています。また、「II 付録」においては、67の事例についてIAS18に照らした具体的な考察等を行っています。本稿では、総論の概要と付録の一部についてご紹介します。

3. 収益認識要件の関係

わが国では、収益認識に関する包括的な会計基準は存在しませんが、企業会計原則において、収益の認識は実現主義によることが示されています。一般には「財貨の移転又は役務の提供の完了」とそれに対する現金または現金等価物その他の資産の取得による「対価の成立」の二つが収益認識要件とされているものと考えられます。

一方IAS18においては、具体的な収益認識の要件が「物品の販売」、「役務の提供」、「企業資産の第三者による利用」の三つの取引形態に分けて定められています。

両者の主な関連性を表したのが次の図表となりますが、このように、わが国における実現主義の考え方とIAS18が定める収益認識の要件との間には本質的な相違はないと考えられるため、実務上、実現主義の具体的な適用に当たっては、IAS18の収益認識の要件が参考になると考えられます。

なお研究報告では、わが国の実現主義の考え方のみでは、IAS18を適用した場合と同様の結果が得られるとは限らない項目として、売上の総額表示と純額表示(Ⅳ4.参照)、複合取引(Ⅳ6.参照)の二つを挙げています。

IV. 日本公認会計士協会による研究報告の概要

4. 収益の表示方法(総額表示と純額表示)

(1) 要点

わが国の現状 IAS18の取り扱い IAS18に照らした考察
企業会計原則「総額主義の原則」、ソフトウェア取引実務対応報告(※)を除き、わが国の会計基準では明示されていない。 収益は企業が自己の計算により受領し、または受領し得る経済的便益の総流入だけを含むとしており、代理の関係にある場合、手数料の額が収益となる。 ソフトウェア取引以外の収益の額についてもソフトウェア取引実務対応報告を参考に表示を行わない限り、IAS18と相違が生ずる場合があると考えられる。

※実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」(平成18年3月30日 ASBJ公表)

(2) 事例

【商社の収益の表示方法(ケース1)】

商社は、国内外の企業間取引の中で、情報提供、事務代行、決済代行および信用補完などのさまざまな機能を発揮しているが、契約上、取引の当事者として行われる取引と代理人として行われる取引がある。商社においては、果たした役割を総量で表すため、取引の当事者としての取引だけではなく、代理人としての取引についても総額で収益を表示している場合が少なくない。

(会計上の論点)

  • 契約上、代理人として行われる取引について、取引金額を総額で収益として表示することは認められるか。
  • 収益を総額で表示すべきか純額で表示すべきかの判断に際し、契約上、取引の当事者となっているか、代理人となっているかのみをその根拠とすることは適当か。
会計処理の考え方(※1) IAS18に照らした考察(※2)
わが国の会計基準では明示されていないものの、契約上、代理人として行われる取引については、収益を総額で表示するのではなく、手数料のみを収益として表示することが適切と考えられる。
また、契約上、取引の当事者として行われる取引についても、ソフトウェア取引実務対応報告の考え方を参考にすれば、契約上、取引の当事者となる取引であっても、通常負うべきさまざまなリスクを実質的に負担していないと考えられる取引については手数料相当額のみを収益として表示することになると考えられる。
IAS18第8項では、「代理の関係にある場合、...手数料の額が収益となる。」とされており、付録第21項では、企業が本人として行為を行っているのか、代理人として行為を行っているのかの判断は、事実と状況により異なり、判断が必要とした上で、判断指針((3)参照)を提供している。
契約上、代理人となる取引金額のみならず、契約上、取引の当事者となる場合であっても、事実と状況を見極めた上で、財貨の移転または役務の提供に関する重要なリスクと経済価値にさらされておらず、実質的に代理人として行われた取引であると判断されるときには、手数料部分のみを収益として表示することになる。

※1 わが国の実現主義の下での収益認識要件をより厳格に解釈した場合の考え方

※2 IAS18を適用した場合の現時点における日本公認会計士協会における考え方

(以下の事例においても同様)

【リベートの会計処理(販売費および一般管理費処理の適否)(ケース3)】

わが国の商取引において、メーカーや卸売業を営む企業等が、期間、量および金額などさまざまな契約条件(算定根拠)により顧客に対してリベートを支払うことがある。

このような取引において、リベートを売上高から控除している場合と販売費および一般管理費として処理している場合がある。

(会計上の論点)

  • リベートの支払目的には、通常の販売価格を変更せずに特定の顧客の販売価格のみを減額する、販売促進を図る、経費の補填(ほてん)を行うなど種々の目的があるため、目的に応じた会計処理を選択するという考え方は適当か。
会計処理の考え方 IAS18に照らした考察
現行実務においては、売上高から控除する処理と販売費および一般管理費とする処理の両方が慣行として行われてきた。
しかし、わが国の会計基準では明示はされていないものの、顧客に対するリベートの支払が販売条件決定時に考慮されていれば、販売価額の一部減額、売上代金の一部返金という性格を通常有すると考えられるため、それが顧客における販売促進費等の経費の補填であることが明らかな場合を除き、リベートを売上高から控除することが適切と考えられる。
IAS18では、収益は受領または受領可能な公正価値(企業が許容した値引きおよび割戻しの額を考慮後)により測定しなければならないとされている。
リベートが販売価額の一部減額、売上代金の一部返金という性格を有することを考慮すると、リベートが顧客における販売促進費等の経費の補填であることが明らかな場合を除き、リベートは売上高から控除することが適切と考えられる。

(3) 収益の総額表示と純額表示に関する指針

企業が本人として行為を行っているのか(総額表示)、代理人として行為を行っているのか(純額表示)の判断指針は、IAS18の付録第21項で示されています。

その中で企業が財貨の移転または役務の提供に関する重要なリスクと経済価値にさらされている場合には本人として行為を行っており、そうでない場合は代理人として行為を行っているものとしています。

IAS18【付録第21項(抜粋)】

企業が本人として行為を行っている場合(収益を総額で表示すべき場合)の特徴(個別又は組合せによる。)

(a) 企業は基本的に顧客に対し財貨又は役務を提供する、又は例えば顧客が注文したり購入した商品又はサービスの検収に責任を負うなど、注文を執行する責任がある。

(b) 企業には顧客注文の前後、又は出荷あるいは返還の間の在庫リスクが存在する。

(c) 企業は、直接又は間接を問わず、例えば追加商品又はサービスを提供するなど、価格設定に裁量権を有している。

(d) 企業は、顧客から受領する金額について顧客の信用リスクを負担している。

企業が代理人として行為を行っている場合(収益を純額で表示すべき場合)の特徴

企業が稼得する金額が、取引1件当たりの報酬、又は、顧客への請求金額の一定金額など、事前に設定されている。

5. 収益の測定

(1) 要点

わが国の現状 IAS18の取り扱い IAS18に照らした考察
  • 包括的な規定はないが、収益の額は、対価として受領する現金または現金等価物その他の資産の額で測定される。
  • 現金等を受領する日が繰り延べられる場合には、金利要素を考慮しない限り、収益の額は受領する対価の時価で測定されないことになる。
  • 受領する対価の公正価値により測定する。
  • 対価の公正価値と名目額との差額が存在し、その差額が実質的に利息の性格を有しているような場合には、その差額をいわゆる実効金利法(利息法)により、利息収益として認識しなければならない。
  • 受領する対価の時価と名目額との差額が大きく、その差額が実質的に利息の性格を有するような場合には、IAS18と相違が生ずるときがあると考えられる。

(2) 事例

【割賦販売の会計処理(ケース6)】

わが国では、いわゆる割賦販売の会計処理として、販売基準により商品等を引き渡した日をもって売上収益の実現の日としている場合と、割賦基準により割賦代金の回収期限の到来の日または入金の日をもって売上収益の実現の日としている場合がある。

また、販売基準の場合でも、契約上、販売代価と賦払期間中の利息に相当する金額とが明確、かつ、合理的に区分されているときは、割賦販売の金利的な要素を考慮し、商品等を引き渡した時点で収益を販売代価で測定し、賦払期間に対応して利息相当額を収益として認識する実務と、割賦販売の金利的な要素を考慮せずに商品等を引き渡した時点で収益を現金回収総額で測定する実務がある。

(会計上の論点)

  • 商品等の引渡日をもって売上収益の全額を計上する販売基準と、割賦代金の回収期限の到来の日または入金の日をもって対応する売上収益を計上する、いわゆる割賦基準の選択適用は適当か。
  • 商品等の販売益相当額と金利相当額とを区分しない処理は適当か。
会計処理の考え方 IAS18に照らした考察
割賦基準が認められている背景には、認識すべき収益の額は、代金回収の蓋然(がいぜん)性が高く、その収益を獲得するために必要な費用を合理的に見積もることができる範囲内に限定すべきであるという基本的な考え方があると解される。
しかしながら、取引の実質が同一であれば、同一の会計処理結果となることが比較可能性の観点からも望ましいため、販売基準と割賦基準の選択適用を容認するよりも、割賦販売取引の実質を反映することになる会計処理に統一することが望ましいと考えられる。

割賦販売取引の実質は、商品等の販売取引の性格のほかに、通常の販売取引より代金回収期間を長期とし、かつ、分割払いとすることによって一定の信用を供与する金融取引の性格を合わせもっていると考えられる。
このため、商品等の販売取引部分と金融取引部分とに区分した上で、商品等の販売取引部分については、販売基準を適用し、金融取引部分については、利息法を適用し、金利相当額を代金分割回収期間にわたって認識することが適切と考えられる。
IAS18に割賦基準は存在しない。






IAS18では、収益は受領可能な対価の公正価値により測定しなければならないとされているため、割賦販売のように現金の流入が繰り延べられているような場合で、その契約が実質的に金融取引を構成するときには、その対価の公正価値を算定するとともに、利息の性格を有する対価の公正価値と名目額との差額をいわゆる利息法により利息収益として認識することとされている。

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