収益認識の開示 第3回:収益認識に関する注記 -収益の分解情報-/-収益を理解するための基礎となる情報-

2021年12月16日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 河村 正一

1. はじめに

改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識会計基準」という)においては、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に係る財務諸表利用者の理解に資するため、収益認識に関する注記として、次の三つの項目を注記することが求められています(収益認識会計基準80-4項、80-5項)。

① 収益の分解情報

② 収益を理解するための基礎となる情報

③ 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

今回は、「①収益の分解情報」及び「②収益を理解するための基礎となる情報」について解説します。三つ目の「③当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」詳細については、「第4回」をご参照ください。

2. 収益の分解情報

収益の分解情報の注記においては、次の事項を注記する必要があります。

  • 当期に認識した顧客との契約から生じる収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報(収益認識会計基準80-10項)。
  • 収益の分解情報と、セグメント情報等会計基準に従って開示される各報告セグメントの売上高との間の関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報(収益認識会計基準80-11項)。

まず、注記内容のイメージを掴(つか)んでもらうため、収益の分解情報の開示例を示します。収益の合計23,000百万円を、主たる地域市場、主要な財又はサービスのライン及び収益認識の時期により分解した情報をセグメントごとに開示しています。

前提条件

  • セグメント情報の注記で、消費者製品、輸送及びエネルギーの各セグメントについて報告している。
  • 投資家向けの説明資料を作成する際に、収益を、主たる地域市場、主要な財又はサービスのライン及び収益認識の時期に分解している。
  • この投資家向けの説明資料で使用している区分を収益認識基準80-10項に示す収益を分解する区分として使用できると判断している。

図表1 収益の分解情報開示例

図表1 収益の分解情報開示例

収益の分解に用いる区分を検討するための考慮事項(企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識適用指針」という)106-4項)及び区分の例示(収益認識適用指針106-5項)が示されています。

  • 収益の分解に用いる区分を検討する際の考慮事項(収益認識適用指針106-4項)

(1) 財務諸表外で開示している情報(例えば、決算発表資料、年次報告書、投資家向けの説明資料)

(2) 最高経営意思決定機関が事業セグメントに関する業績評価を行うために定期的に検討している情報

(3) 他の情報のうち、上記(1)及び(2)で識別された情報に類似し、企業又は企業の財務諸表利用者が、企業の資源配分の意思決定又は業績評価を行うために使用する情報

  • 収益を分解するための区分の例示(収益認識適用指針106-5項)
区分 例示
(1)財又はサービスの種類 主要な製品ライン
(2)地理的区分 国又は地域
(3)市場又は顧客の種類 政府と政府以外の顧客
(4)契約の種類 固定価格と実費精算契約
(5)契約期間 短期契約と長期契約
(6)財又はサービスの移転の時期 一時点で顧客に移転される財又はサービスから生じる収益と一定の期間にわたり移転される財又はサービスから生じる収益
(7)販売経路 消費者に直接販売される財と仲介業者を通じて販売される財

この区分の例示は、チェックリスト又は網羅的なリストとして利用されることは意図されていないことから(収益認識適用指針190項)、各企業の判断において分解する区分を決定する点に留意が必要です。

この収益の分解情報の注記は、2021年4月1日開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する場合、2021年第1四半期の四半期報告書より注記が求められるため、早期に内容を検討する必要があります。なお、適用初年度においては、収益の分解情報に関する事項(第19項(7-2)及び第25項(5-3)参照)の前年度の対応する期首からの累計期間に関する開示を必要とされていません(企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」19項(7-2)、25項(5-3)、28-15項)。

3. 収益を理解するための基礎となる情報

顧客との契約が、財務諸表に表示している項目又は収益認識に関する注記における他の注記事項とどのように関連しているのかを示す情報として「図表2収益を理解するための基礎となる情報」のとおり、収益認識の5ステップに従い、企業が決定した方針を記載することになります(収益認識会計基準80-12項)。

これらの注記は、注記区分に従って注記事項を記載する必要はなく(収益認識会計基準80-7項)、どのような注記をするかについては、財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報であるかに照らし、各企業が判断することになります。

図表2 収益を理解するための基礎となる情報

図表2 収益を理解するための基礎となる情報

参考として、収益を理解するための基礎となる情報のIFRSの記載例を示します。

(記載例1)

通常の支払期限と契約に重要な金融要素が含まれる場合の内容、対価の額に含まれる金利相当分の調整の記載例です。

重要な金融要素
当グループは、カスタマイズした防火設備を販売する際に、顧客から前受金を受領しています。当該カスタマイズ設備の製造には、契約の締結及び前受金の受領から2年間の期間を要します。そうした契約は、顧客が支払いを行う時点と設備が移転される時点との間の長さ、及び市場での実勢金利を考慮すると、重要な金融要素を含んでいます。よって、そうした契約の取引価格は、契約の計算利子率(すなわち、設備の現金販売価格を前受金の額に割り引く利子率)を用いて割引計算を行っています。当該利子率は契約開始時に当グループと顧客との間で独立の金融取引を締結した場合に反映されるであろう利率に相当します。
当グループは顧客から受け取る短期の前受金に実務上の便法を適用しています。つまり、約定した財又はサービスが移転される時点と支払いが行われる時点との間が1年以内の場合には、重要な金融要素の影響について約定した対価の金額を調整していません。

(記載例2)

対価に変動対価及びその変動対価の見積りが制限される場合の内容と評価にかかる記載例です。

変動対価 数量リベート
当グループは、契約における変動対価を見積るために、最頻値法又は期待値法のいずれかを適用しています。変動対価を見積る最善の方法として選択する方法は、主に目標値の数によって決定しています。契約に定められる目標値が一つの場合には、最頻値法、目標値が複数の場合には期待値法を適用しています。その上で、当グループは、取引価格に含め、収益として認識することができる変動対価の金額を算定するために、変動対価の見積りの制限に関する規定を適用しています。将来生じると予想されるリベート(すなわち、取引価格に含まれない金額)について返金負債を認識しています。

(記載例3)

約束した財又はサービスの独立販売価格の見積りと一定の期間にわたり充足される履行義務にかかる進捗度の見積りに使用した方法について記載している例です。

据付サービス
当グループは据付サービスを提供しています。当該サービスは、単独で販売される場合もあれば、設備と一緒に販売される場合もあります。据付サービスは、防火設備を大幅にカスタマイズ又は修正するものではありません。
設備と据付サービスを一緒に販売する契約は、設備と据付サービスが両方とも単独で販売されており、かつ契約の観点においても別個のものであるため、二つの履行義務を含んでいます。したがって当グループは、設備と据付サービスの独立販売価格の比率に基づき取引価格を配分しています。
顧客が提供される便益を受けると同時に消費しているため、当グループは据付サービスからの収益を一定期間にわたり認識しています。当グループの労力と顧客へのサービスの移転の間には直接の(すなわち、発生した労働時間に基づく)関係があるため、据付サービスの進捗度の測定にはインプット法を用いています。当グループは、サービスの完了までに予想される総労働時間に対する発生した労働時間の比率に基づき収益を認識しています。