食品・飲料メーカー 第5回:販売取引

EY新日本有限責任監査法人 消費財セクター
公認会計士 中澤範之

1. 販売取引と売上の会計処理

(1) 販売取引の特徴

食品・飲料メーカーにおいては、消費者へ直接販売を行う直売方式はまれであり、多くの場合、卸店、特約店、代理店、販売子会社などを経由して、小売業者に販売することが一般的です。流通経路が複雑で、直接の販売先(卸店、代理店等)と最終の販売者(小売業者等)が異なる点が、この業界の大きな特徴です(図1)。また、信用力補完、与信リスク分散を目的として、大手商社が流通経路に介在する場合もあります。このような商流があることから、以下の点にも留意が必要です。

【図1 販売取引の例】


① 販売先と納入先の相違(物流と商流の相違)

複雑な流通経路をとるため、販売先と納入先が異なることが少なくありません。すなわち、販売先は卸店等になっているものの、物流は、メーカーの営業倉庫から二次卸店や小売業者等に直送される場合が多く見られます。

このように、物流と商流が異なる場合の売上計上に際しては、物品受領書の回収確認等を行うことで、製品が確実に直送先である二次卸店や小売業者等に到達されているかについて注意を払う必要があります。

② 流通在庫

流通在庫とは、メーカーから出荷は行われたものの最終の販売者に製品が届いておらず、流通過程に存在している製品のことをいいますが、一般的には、卸店等が保有している在庫のことを意味することが多いと思われます。流通在庫に関しては、卸店や小売店などから販売実績データを入手し、自社の販売実績との比較により、流通在庫数量の把握・管理を行っていることが一般的です。

流通在庫は、メーカーからの出荷が完了しているため、通常、卸店や代理店に所有権が移転しており、在庫リスク(返品、破損リスクなど)については、基本的にメーカー側は負担しません。しかしながら、在庫リスクの負担関係については、契約等で別途取り決めがなされている場合もありますので、そのような場合には、売上高の計上時期や在庫の評価を慎重に判断する必要があると考えられます。

③ リベートの発生

リベートは、ボリュームディスカウント、販売促進費、販売助成費、協賛金などの名目で支払われることが多く、さまざまな契約条件や算定根拠に基づいて支払われますが、主に以下のタイプがあります。

(a)基本リベート
あらかじめ契約で率を決めておき、一定期間の販売量や売上げに対して、契約に応じた金額を比例的に支払うものです。企業によって、量販リベート、CVS(コンビニエンスストア)リベートなど、さまざまな呼び方があります。

(b)達成リベート
ボリュームインセンティブとして、あらかじめ設定した売上目標を達成した場合に支払われるものです。

(c)その他
期間や商品等を限定した条件で支払われる拡売協力金、卸を通して小売業に販売する納入単価が低い場合等に卸の損失を補てんするための値差補償、物流センターを持っている量販等の仕分作業の費用であるセンターフィー、消費者が購入しやすい棚位置に製品を置くことを目的とした棚代など、名目や目的がそれぞれ異なる多様なリベートがあります。
 

(2) 販売取引の流れと会計処理

① 受注

卸店等からの受注形態は、オンラインシステム、Eメール、FAX、電話などさまざまですが、最近ではオンラインシステムによる受注が、取引金額の大半を占めるようになってきています。

得意先から受注をした場合、品名・納期などを確認し、営業倉庫に対する在庫確認、工場に対する生産スケジュール確認を行います。これらの確認により、受注品について出荷可能と判断されれば、受注を確定し販売システムで受注確定処理がなされます。同時に、営業倉庫に対して出荷指示を行います。売上高計上の会計処理はなされないものの、受注確定データが生成された段階で、売上高のデータがほぼ確定するのが一般的です。

② 出荷

出荷指示は販売システムで行われることが多く、営業倉庫では出荷指示を販売システムで確認し、卸店ごとに製品の積込を行っていきます。出荷準備が整えば、出荷確定処理がなされると同時に、出荷関係書類(出荷指示書、送り状、物品受領書など)を販売システムから出力し、製品出荷が行われることになります。

③ 売上計上

出荷基準の場合、出荷段階において、販売システム上で出荷データが生成され、この出荷データが会計データの基礎データとなります。従って、売上高計上は、販売システム上の出荷データが会計システムへ反映されることを通じて行われるのが一般的です(図2)。販売システムから会計システムへの反映は、日次で行われるケースや、月次で一括で行われるなど、会社によってさまざまです。

なお、食品・飲料メーカーにおいては、実務上、出荷基準が多く採用されてきました。ただし、業界慣行によって見なし着荷基準で売上計上を行っているケース、IFRSの採用により検収基準へ変更したケースもあります。

この点、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、新収益認識基準という。)によって、売上計上基準の考え方が整備されています。

(新収益認識基準)

売上計上基準を決定する際は、以下の5つを考慮することが求められており、食品・飲料メーカーにおいては、原則として検収基準が適用されると考えられます。ただし、出荷時から着荷時までの期間が通常の期間である場合、例外として出荷基準が認められます(図3)。この点、新収益認識基準を適用後に出荷基準を採用する場合は、出荷時から着荷時までの期間が通常の期間であることを確認する内部統制の構築が求められることに留意が必要です。


(1) 企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること
(2) 顧客が資産に対する法的所有権を有していること
(3) 企業が資産の物理的占有を移転したこと
(4) 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること
(5) 顧客が資産を検収したこと

        【図2 販売プロセスの例】

        【図3 出荷基準等の取扱い】


        ④ リベート計上

        わが国のリベートについての会計処理は、実務上リベートの内容によって売上高から控除する処理と販売及び一般管理費とする処理の双方が行われ、決算時期において、請求書等の到着によりすでに確定し把握されているリベートについては未払計上し、請求書未着等で確定できない場合にはリベート条件に基づき決算までに発生しているリベートを合理的に見積ったうえで引当金計上する会計処理が行われてきました。この点、新収益認識基準では、リベートを含む顧客に支払われる対価について以下のとおり言及されています。

        (新収益認識基準)

        顧客に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き、売上高から減額します。食品・飲料メーカーにおける一般的な例として、リベート以外にも、店頭における棚代や広告宣伝費の支払いが、顧客に支払われる対価に該当します。これら顧客に支払われる対価は、別個の財又はサービスを対価として得ているか慎重な判断が求められ、契約および顧客の活動の面から実態を確認する必要があります。

        なお、顧客には、直接の取引先に加えて、取引先が販売する最終消費者も含まれることから、メーカーが最終消費者に対価を支払う場合も顧客に支払われる対価に該当します(図4、図5)。

        【図4 メーカーが顧客に対価を支払う場合】


        【図5 メーカーが最終消費者に対価を支払う場合】

        出典:EY新日本有限責任監査法人著 収益認識の実務~影響と対応(中央経済社)



        食品・飲料メーカー



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