EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 外食セクター
公認会計士 中塚拓也/堀井秀樹
外食産業において、店舗をどこに、どのような形態で、どの程度の規模で出店するかという出店時の投資意思決定は、同業他社との競争において非常に重要といえます。また、会計面においても、貸借対照表に占める固定資産の割合が大きく、会計上の論点が複数存在します。このため、本稿では、固定資産の管理及びその会計処理の特徴について解説します。
外食産業は一般消費者を顧客としており、かつ、店舗で飲食サービスを提供するという特殊性から、固定資産には次のような特徴があります。
以上のような特徴から、管理面において次のような特徴が生じます。
外食産業では、前述のような固定資産の特徴により、次のような会計処理の特徴が生じます。
固定資産の減損に係る会計基準(以下、「減損会計基準」という)に基づき、減損の兆候がある資産又は資産グループにつき、減損テストを実施し、減損損失の計上の要否を検討します。検討の入り口である資産のグルーピングの決定につき、減損会計基準は他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行うとしています(減損会計基準二6.(1))。外食産業では、店舗ごとに継続的な収支管理がなされており、かつ、店舗間の相互補完性がない場合は、通常、各店舗がグルーピングの単位となります。また、複数店舗を一体として収支管理を行っている場合や複数店舗間に相互依存性がある場合は、一定のエリア(複数店舗)ごとをグルーピングの単位としているケースもあります。このように、外食産業では、他の業種に比べグルーピングの単位が非常に小さいといえます。また、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返して企業規模を維持・拡大していくことから、継続して赤字の店舗(不採算店舗)や閉店の意思決定をした店舗は減損の兆候が認められ、減損損失の計上の要否を検討する必要があるため、減損損失が発生しやすい業種であるといえます。
店舗の固定資産に減損の兆候がある場合には、減損損失を認識するかどうかの判定を行います(減損会計基準二1.参照)。減損の兆候としては、例えば、次の事象が考えられます(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(以下、「減損基準適用指針」という)第11項~第15項)。
a. 営業活動から生じる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合
b. 使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合
c. 経営環境の著しい悪化
d. 市場価格の著しい下落
上記のうち、「a. 営業活動から生じる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合」の具体的な判定方法は、以下が考えられます。
前々期 |
前期 |
当期/当期以降 |
減損の兆候 |
||
---|---|---|---|---|---|
マイナス |
マイナス |
- |
|
||
マイナス |
マイナス |
当期の見込みが明らかにプラス |
兆候なし |
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- |
マイナス |
当期以降の見込みが明らかにマイナス |
兆候あり |
||
(出所: EY新日本有限責任監査法人ホームページ「企業会計ナビ 解説シリーズ 第4回:減損の兆候」より)
なお、事業の立上げ時など予め合理的な事業計画が策定されており、当初より継続してマイナスとなることが予定されている場合は、実際のマイナスの額が当該計画にて予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していないのであれば減損の兆候に該当しないとされています(減損基準適用指針第12項(4), 第81項)。
外食産業の場合、新規出店時において、当初は赤字を見込むケースも見受けられますが、上記減損基準適用指針の趣旨に鑑みて実質的な判断を行う必要があります。また、スクラップ・アンド・ビルドが頻繁に行われることから、2期連続マイナスになる前に退店の意思決定がなされるケースもあると考えられます。この場合には、上記の「b. 使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合」に該当することになると考えられます。
資産除去債務の会計基準に基づき、テナントの賃貸借契約や定期借地契約において、当該テナントの内装(造作)や借地上に建設した自己の物件について原状回復義務が要求される場合、資産除去債務の計上を検討する必要があります。資産除去債務を計上する場合、原則的には、当該資産除去債務を負債に計上し、これに対する除去費用を固定資産に計上します。ただし、賃貸借契約により貸借対照表において敷金が資産計上されている場合で、資産除去債務の金額が敷金金額の範囲内であれば、当該敷金の回収が見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担分を費用化するという簡便的な方法も認められます(資産除去債務に関する会計基準の適用指針第9項)。
×1年度期首より建物を賃貸借する契約を締結し、×1年度期首より賃借しています。当該建物にかかる5年後の原状回復費用を1,000円と見積っています。敷金は2,000円、割引率は3%、償却方法は定額法とします。
※ 将来キャッシュ・フロー見積額1,000円÷(1.03)5
※ 863÷5年間
※ 863×3%
敷金2,000円のうち1,000円について原状回復費用に充てられるため返還が認められないと見積り、費用配分します。
※1,000÷5年間
資産除去債務は、毎期末見積りの妥当性を検討する必要があります。近年では、工事関連の人件費高騰による原状回復工事単価の上昇等が見られるため、資産除去債務の見直しを適時に行わない場合、資産除去債務の金額が実態と異なり、履行差額が多額となるケース(工事費の実績が計上済みの資産除去債務を上回るケース)が生じるため留意が必要です。
外食産業における店舗の固定資産は、減損損失の認識の検討や資産除去債務の計上が行われますが、店舗閉鎖に伴い、引当金の計上対象となり得るその他の費用又は損失が見込まれる場合もあります。具体的には、店舗閉鎖に伴う賃貸借契約の中途解約違約金等の発生が見込まれる場合には、当該損失を見積るとともに、店舗閉鎖損失引当金として計上する実務が見られます。
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