外食産業 第5回:新リース会計基準が外食産業に与える影響

2024年3月22日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 外食セクター
公認会計士 中塚拓也/堀井秀樹

外食産業では、投資コストの観点から店舗物件を賃借することが多く、店舗等の賃貸借契約の借手としての取引が重要といえます。本稿では、借手のリースについて、新リース会計基準の影響があると想定される主な論点と会計処理の概要を解説しています。

1. はじめに

2023年5月、企業会計基準委員会(ASBJ)は「リースに関する会計基準(案)」及び「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下、合わせて「新リース会計基準案等」という。)を公表しました。当該新リース会計基準案等は、最終化された会計基準の公表後2年程度経過した4月1日以後開始する年度からの適用とし、早期適用を認めることが提案されています。

2. 外食産業における主な論点

外食産業において影響があると想定される主な論点と、新リース会計基準案等で求められる会計処理の概要は以下のとおりです。なお、外食産業では店舗等における賃貸借契約の借手としての取引が重要であることから、以下では借手のリースについて解説します。

(1) リースの識別

① 店舗不動産の賃借取引

現行リース基準では、店舗不動産の賃借契約について、一般的には解約不能期間が設定されたオペレーティング・リース取引として扱い、賃借料を毎月費用処理しているものと考えます。一方、新リース会計基準案等では、当該契約がリースを含む場合、リースを構成する部分について使用権資産とリース負債を計上することになります。よって、原則として、すべてのリースについて資産計上が求められることになるため、外食産業においては、新リース会計基準の導入時点で、多数の店舗不動産について個々の賃貸借契約に応じて、資産計上額を適切に算定することが求められます。

② 売上連動の賃借料

店舗不動産の賃貸借契約においては、売上高に一定料率を乗じた金額を賃借料として支払う場合があります。このような売上連動の賃借料については、新リース会計基準案等における変動リース料(指数又はレートに応じて決まるリース料)には該当しないため、使用権資産は計上せず、当該変動リース料の発生時に損益に計上します。一方、店舗不動産の賃貸借契約が固定賃料と売上連動の賃借料の両方から構成される場合には、固定賃料部分について使用権資産とリース負債を計上することになります。また、指数又はレートに応じて決まる変動リース料の場合にも、使用権資産及びリース負債が計上されることになります。

賃借料の変動要素 具体例 リースに該当するか?
指数又はレートに応じて決まるもの ・消費者物価指数(CPI)
・金利
該当する
上記以外 ・売上高×一定料率(売上連動)
・対象資産の使用量
該当しない  

③ 賃貸借契約における共益費等

テナントにおける店舗不動産の賃貸借契約においては、共用設備や施設の運営・維持に要する費用(以下「共益費」とする。)を共益費として賃借人が負担する場合があります。これらの費用は新リース会計基準案等のリースの定義である「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」に該当しないと考えられるため、1つの賃貸借契約において賃料と共益費の負担の両方に関する定めがある場合でも、共益費部分は「リースを構成しない部分」として使用権資産とリース負債の算定から控除することになると考えます。

なお、上記が原則的な会計処理ですが、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごとに、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行うことを選択することができます。よって、実務上の負担を考慮したうえで、上記の共益費部分について賃料と合わせてリースを構成する部分として会計処理を行うことも選択できると考えます。

(2) リース期間

①  延長オプション及び解約オプション

借手のリース期間は、「解約不能期間」+「合理的に確実」な延長又は解約オプション期間と定義されています。「合理的に確実」の判定の際は、例えば以下のような経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮します。

・ 延長又は解約オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプション等)
・大幅な賃借設備の改良の有無 
・ リースの解約に関連して生じるコスト 
・ 企業の事業内容に照らした原資産の重要性 
・ 延長又は解約オプションの行使条件

現行リース基準では「借手が再リースを行う意思が明らかな場合における再リース期間」をリース期間に含めるのに対し、新リース会計基準案等では、延長オプションを行使すること及び解約オプションを行使しないことが「合理的に確実」であるか否かを判定したうえで、当該期間をリース期間に含めるという点に留意が必要です。

(3) その他の論点

① 少額リース

少額リースに該当する場合、使用権資産及びリース負債を計上せず、原則として定額法により費用を計上することができます。なお、少額リースの判定基準と適用単位は以下のとおりです。

② 短期リース

リース開始日において、リース期間が12か月以内であるリースは短期リースに該当し、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができます。なお、借手はこの取扱いについて、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごとに適用するか否かを選択することができます。

③ 借地権

借地権については、現行リース基準において明確な定めはなく、実務上は「借地権」等の名称で貸借対照表に計上し、各企業にて実態に応じて非償却・償却の判断がなされているのが一般的と考えられます。一方、新リース会計基準案等で求められる会計処理の概要は以下のとおりで、原則として使用権資産の帳簿価額に含め、リース期間にわたり償却する旨の定めが明記されたため、この点差異が生じる可能性があります。なお、旧借地権及び普通借地権に係る権利金等のうち要件を満たすものについては、非償却を継続できる定めも設けられています。

③ 借地権

④ 建設協力金等の差入預託保証金

建設協力金等の差入預託保証金については、金融商品会計に関する実務指針において会計処理が定められていますが、金融商品会計に関する実務指針から削除し、新リース会計基準案等において定めることが提案されています。新リース会計基準案等で求められる会計処理の概要は以下のとおりです。

④ 建設協力金等の差入預託保証金

建設協力金等の差入預託保証金(敷金を除く)については、現行の金融商品会計に関する実務指針で「長期前払費用」とされていた支払額と時価との差額(上記の①)が、新リース基準案等においては使用権資産の帳簿価額に含められるという点で差異が生じています。また、敷金については、借手に返還されないことが契約上定められている金額(上記の②)について、現行リース基準では「敷金」として償却されていましたが、新リース会計基準案等では使用権資産の取得価額に含めてリース期間にわたり償却されることになり、差異が生じています。

⑤ 使用権資産に係る減損会計の適用

新リース会計基準案等を新たに適用した場合、多店舗展開する外食企業では、適用初年度の期首時点で多額の使用権資産が計上されることが考えられます。その際、当該期首時点の使用権資産についても固定資産の減損に係る会計基準が適用されるため、留意が必要です。なお、適用初年度期首における使用権資産の反映方法は以下の2つの方法が認められており、各アプローチによって減損損失が計上される場合の処理方法が異なります。

a. (原則)新リース会計基準案等を過去の期間のすべてに遡及適用する方法

過年度において使用権資産が計上されるすべての年度について減損の検討を行うことになり、各年度の減損判定により減損損失が計上される場合は、各年度の連結・個別損益計算書に減損損失として計上することになります。よって、比較情報(過年度の財務諸表)の修正が求められるため、実務的には非常に煩雑な手続が生じるものと考えます。

b. (容認)新リース会計基準案等を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する方法

適用初年度の期首時点の使用権資産について減損の検討を行うことになるため、当該時点の減損判定により減損損失が計上される場合は、期首の利益剰余金を減少させる処理を行います。

最終回 まとめ

本稿では第1回から第5回にわたり、外食産業におけるビジネスの特徴、業務管理や内部統制、会計処理、業種特有の論点等を中心に解説しました。本稿が、特に会計、監査等の立場から初めて同業種に関与する方々の理解の一助になれば幸いです。

企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

一覧ページへ

EY Japan Assurance Hub

EY Japan Assurance Hub

時代とともに進化する財務・経理に携わり、財務情報のみならず、非財務情報も統合し、企業の持続的成長のかじ取りに貢献するバリュークリエーターの皆さまにお届けする情報ページ 

詳細ページへ