EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 小売セクター
公認会計士 荒川 みどり
小売業において、売上は通常「顧客数 × 単価」であり、景気の変動も単価変動による売上変動要因であるものの、売上を増減させる要素として、顧客となる一般消費者の数が、さらに重要な要素となります。日本国内の一般顧客は人口の増減に比例すると考えられるため、日本国内のマクロ環境、顧客志向の変化について統計結果等を確認することにより、現在及び今後の小売業における売上の動向を読み取っていきたいと思います。
(参考:総務省統計局ウェブサイト)
以下の人口推計からも理解できるように、日本在住の総人口は、減少傾向が継続しており、小売業が需要対象としている総人口も減少していることが読み取れます(各年の人口は、当該年の10月1日現在の人口。ただし、2023年のみ5月1日現在の人口)。
人口推計 表1
また、次の年齢別の人口推計から、ここ数年、14歳以下の総人口に占める割合が減少しており、65歳以上の総人口に占める割合が増加してきています。
これら統計から、今後、総人口は緩やかに減少していくことが想定され、総人口減少に伴い、国内消費は景気変動が一定であることを前提とすると、今後、大きく増加することは見込めないと考えられます。
(参考:経産省「商業動態統計年報」2022年)
以下の業種別商業販売額のうち、小売業の販売額を1980年から2022年まで見てみると、景気の影響により上下変動を続けながらも、販売額に関して頭打ちの状況が見て取れます。直近では、新型コロナウィルス感染症流行の前後で消費動向に変化が生じたこと、円安・物価高騰が進行したこと等により、販売額としては緩やかに上昇傾向が見られます。
(参考:総務省「通信利用動向調査‐インターネット等の普及状況/個人におけるICT利用の現状)
総務省が発表している通信利用動向調査によると、インターネットの利用者(6歳以上のインターネット利用率)は2017年で79.8%程度であったものの、2022年には84.9%まで増加しており、13歳から59歳までのインターネット利用率は9割を上回っている状況にあります。60歳から79歳までのインターネット利用率に関しても、2017年から2022年の間で60歳から69歳は14%増加し86.8%、70歳から79歳は40%増加し65.5%と急速に利用者が増加しています。
また、個人におけるICT(情報・通信に関する技術の総称)利用の現状で、インターネットの利用目的・用途として、電子メールの送受信(78.5%)が一番多いものの、商品・サービスの購入・取引(金融取引及びデジタルコンテンツ購入を除く)も、50.2%のインターネット利用者が利用していることが分かります。さらに、インターネットにより購入・取引した商品・サービスに関しても、日用雑貨や趣味関連品まで多様な商品・サービスを購入・取引していることが見て取れます。
近年、物流網の整備がインフラ面及びIT面で進み、物販の消費者向け電子商取引(BtoC-EC)が、より便利さを増してきています。
例えば、アマゾンジャパンでは利用者がサイト上の購入ボタンをクリックすると、瞬時に物流拠点に発注データが届き、商品が個々にバーコードで管理されているため、スタッフが商品をピックアップし、東京近郊であれば当日中に、利用者に商品を届けることが可能となってきており、配送スピードが改善しています。また、楽天、アマゾンジャパン等のEC業者、日本郵便、ヤマト運輸、佐川急便といった宅配業者、コンビニエンスストアの3業態がおのおの、戦略的に提携することにより、商品自体の受取方法が多様化してきています。従来の自宅で受け取る方法以外に、自宅もしくは勤務地近くのコンビニエンスストア、宅配業者の営業所、EC業者専用のロッカー等の展開を実施しており、商品の受取方法の多様化も進行しています。 この結果、実際に店舗で商品を購入せず、インターネットを利用した場合でも、すぐに商品を入手することが可能となってきています。
(参考:経産省「令和4年度電子商取引に関する市場調査」、総務省「通信利用動向調査‐端末別のインターネット利用状況」)
前述3及び4の結果として、BtoC-EC市場規模が年々増加しており、EC市場規模は2017年に8兆6,008億円であったものが、2022年には13兆9,997億円まで増加しています。新型コロナウィルス感染症拡大の影響もあり、EC市場規模の拡大は一層加速することとなりました。実店舗での取引も含めた物販分野の商取引市場規模に占めるEC取引の比率、すなわちEC化率は、5.79%から9.13%まで増加しています。
総人口の減少傾向、及び総人口全体の高年齢化に伴い、小売業にとって一番の売上先である一般消費者の増加は今後、大きく望むことができない状況にあります。また、ITが身近になり、かつ物流技術が発達するに伴い、全ての消費者にとって、いつでもどこでも買い物ができる環境が整備されつつあります。
小売業各社において、顧客のニーズをいかに取り込むか、新たな顧客をどのように開拓するかが、今後、生き残りの重要な課題となっていると考えられます。
小売業