小売業 第6回:小売業における収益認識基準の重要論点

2024年4月17日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 小売セクター
公認会計士 深迫 裕

Ⅰ. はじめに

2018年3月、企業会計基準委員会(ASBJ)は企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」という。)を公表しました。当該基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています。

本連載では、こうした状況を踏まえながら、業種に特化した収益認識の論点などについて解説します。

なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ. 小売業における収益認識の論点

1. 消化仕入(売上仕入)、条件付買取仕入

(1) 取引の概要

百貨店やスーパー等の小売業では、商品が顧客に販売されると同時に仕入先から仕入計上する、消化仕入と呼ばれる取引があります。消化仕入契約では、小売業者側では顧客に販売するまでは自社の商品ではないため、価格変動リスクや在庫リスクはもちろん、商品の保管リスクも負担しません。また、条件付買取仕入は、販売期間終了後に、正常な商習慣の範囲内で返品することができることとする取引形態です。小売業者側では、商品の保管リスクを負担することとなります。

(2) 収益認識会計基準の考え方

a. 概要

収益認識会計基準では、小売業者のテナントなど他の当事者が顧客への商品の販売に関与している場合は、小売業者は自らサービスを提供するのか(小売業者が本人として取引をしたか)、それとも、テナントによって商品の販売が提供されるよう手配しているのか(小売業者が代理人として取引をしたか)を判断することが求められています。

顧客への商品の販売が小売業者自ら提供する履行義務であると判断され、本人に該当するときは、商品の提供と交換に企業が権利を得ると見込む対価の総額を収益として認識します。一方、顧客への商品の販売が、テナントなど他の当事者によって提供されるように手配する履行義務であり、代理人に該当すると判断されたときは、顧客へ商品を販売したことにより受け取った対価から仕入先に支払う対価を控除した金額を手数料収入として純額で収益を認識することになります(収益認識適用指針第39項、第40項)。本人または代理人のいずれに該当するかについては、例えば、以下の3点を検討することが必要です(収益認識適用指針第47項(1)~(3))。

  • 商品を顧客に販売するという約束の履行に対し「主たる責任」を有しているか
  • 商品を顧客へ販売する前、あるいは販売後において「在庫リスク」を有しているか
  • 販売している商品に対して「価格決定の裁量権」を有しているか
b. 具体的考察

小売業者での消化仕入契約は、商品を顧客に販売する主たる責任はテナント側にあり(主たる責任)、商品の法的所有権や保管管理責任、陳腐化リスク、顧客に返品権を行使されるリスク(在庫リスク)や、いくらで販売するかという価格の決定権(価格決定の裁量権)もテナント側にあると考えられます。

このような場合には、消化仕入は代理人として判断され、売上高は純額表示となると考えられます。

一方で、条件付買取仕入は販売期間終了後、返品可能という条件は付いているものの、販売する主たる責任、商品品揃えの決定権や棚卸ロス等の在庫リスク、また価格決定の裁量権は小売業者側にあると考えられます。このような場合の取引は本人と判断され、売上高は総額表示になると考えられます。

c. 設例

以下の設例について仕訳例を説明します。

仕訳例

仕訳例

このような取引の場合、消化仕入は代理人取引として以下の仕訳になると考えられます。

仕訳表 消化仕入のケース

仕訳表 消化仕入のケース
d. 法人税、消費税の取扱い

ここで法人税、消費税の取扱いについて説明します。

本人か代理人かの検討は、総額表示か純額表示かという表示上の論点であり、本人であっても代理人であっても履行義務の充足のタイミングは同一であるため法人税の課税所得は変わらないと考えられます。そのため、法人税法上、確定申告書における調整は不要であると考えられます。

一方、消費税法上は、消化仕入取引において、代理人取引と判断される場合であっても、課税売上げの対価と課税仕入れの対価をそれぞれ総額で認識すると考えられます。先ほどの設例に消費税を考慮した仕訳は以下の通りです(消費税は10%として計算)。

仕訳表 法人税・消費税1

仕訳表 法人税・消費税1

法人税法上、会計上の利益と同額の手数料収入1,000が益金の額となります。一方、消費税の場合は、代理人として純額で収益計上しても、課税売上に係る消費税と課税仕入に係る消費税を、それぞれ認識する必要があります。

仕訳表 法人税・消費税2

仕訳表 法人税・消費税2

2. たばこ税・揮発油税・酒税等の間接税

(1) 取引の概要

たばこ、揮発油、酒類を製造販売する企業は、たばこ、揮発油、酒類を基本的に製造場から移出又は保税地域から引き取った時点で、たばこ税、揮発油税、酒税の納付義務を負い、その後の販売活動によりそれらの税金を回収することになります。このように、企業の財又はサービスの提供に関連して、消費税及び地方消費税以外にも国や地方公共団体へ税金を納付する義務を負うことがあります。

(2) 収益認識会計基準の考え方

a. 概要

収益認識会計基準第8項及び第47項では、「取引価格は第三者のために回収する額を除く」とされていることから、たばこ税・揮発油税・酒税・軽油引取税・入湯税等のさまざまな間接税(以下「間接税等」という。)が、第三者のために回収する金額に該当するか否かが論点となります。すなわち、当該間接税等について、代理人として税務当局に代わって回収しているのか、あるいは、本人として会社のために回収しているのかを判断する必要があります。当該間接税等の取引は、業種や納税義務者か否かで取引実態がさまざまであることが想定されるため※、検討に際しては収益認識適用指針第47項(1)~(3)に当てはめることにより、各社各様の判断が必要であると考えられます。


※企業会計審議会資料「IFRSの任意適用について」によると、日本たばこ産業株式会社は「たばこ税について、売上・売上原価から同額を控除」する見解を示し、同社が公表している有価証券報告書上も、たばこ税については、収益より控除している旨が明記されています。

「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見」及び「収益認識に関する会計基準(案)」で、石油連盟は「揮発油税は『第三者のために回収する額』とは判断されず、税相当額を取引価格として認識すべきもの」との見解を示しています。

b. 具体的考察

具体的には、判断の指標として以下の3点を有しているかどうかを検討することが考えられます。

① 主たる責任
顧客から税金または税金相当額(以下「税金」という。)を回収できない場合、納付した税金は企業負担となるか。なお、税法改正時に、手持品課税により在庫について納品義務が生じ、その後、販売できなかった場合に、税金が還付されないのであれば、税金を負担するケースとして考えられる。

② 在庫リスク
売れ残り等により物品が廃棄処分された場合に、納付した税金は企業負担となるか。

③ 価格決定の裁量権
企業は税金を販売価格に転嫁するか否かの決定権を有しているか、あるいは企業は販売価格に税率又は税額を反映させる義務を負っているか。
当該検討に基づき、仮に本人と判断された場合には、間接税等を含む対価の総額を収益として認識します。また、代理人と判断された場合には、当該税金相当額を売上から控除した金額で仕訳を起票することが考えられます。

c. 設例

以下の設例について仕訳例を説明します。

売上に対して、1%の間接税の納付が求められていることを前提とします。

代理人のケース 仕訳例

代理人のケース 仕訳例

3. 中元・歳暮等の配送サービス

(1) 取引の概要

小売業者等での販売形態の一つとして、中元・歳暮等のギフト販売があります。

一般的に考えられる商流として、小売業者は買い手(送り主)から物品に係る対価を受領し、後日、配送業者が買い手の指定する受取人へ物品を引き渡す業務が考えられます。

これらの販売では、小売業者が「商品の販売」の他に受取人までの「配送サービス」(取次)も顧客に提供していることが通常と考えられ、「商品の販売」と「配送サービス」を一体又は別個の履行義務のどちらで識別すべきかが、収益認識会計基準上の論点になると考えられます。

(2) 収益認識会計基準の考え方

a. 概要

企業が「配送サービス」を別の履行義務として識別するかについては、企業が顧客との契約の中に約束した財又はサービスにどのようなものが含まれているかを「個々の財又はサービスのレベルでの区分可能性」及び「契約の観点からの区分可能性」のそれぞれの観点から検討する必要があります(収益認識会計基準第34項)。「配送サービス」は、一般的にサービスのレベルでの区分可能性として単独で識別可能と考えられるため、契約の観点で「商品の販売」と区分すべきかどうかについて判断する必要があります。

【履行義務の識別ルール】

【履行義務の識別ルール】
b. 具体的考察
  • Ÿ商品の販売だけでなく配送サービスまでが一体として顧客と合意したものである場合
    商品を顧客と合意した引渡し時点まで配送するサービスは、契約上、他の約束である顧客への商品の移転という企業の約束を履行するための不可分一体の活動と考え、「商品の販売」と一体の履行義務として取り扱うことが考えられます。
  • Ÿ商品の販売を顧客と合意した時点で、商品を引き渡して、商品への支配が顧客に移転した後、別に中元・歳暮等の届け先まで商品を配送するサービスを請け負う場合
    「配送サービス」を商品の移転という企業の約束には含まれない別個の履行義務(追加のサービス)として取り扱うことが考えられます。この場合、配送サービスの独立販売価格を算定し、配送サービスの履行義務を充足した際に、配送サービスに係る収益を認識します。独立販売価格は、配送サービスが個別に価格交渉されている場合は合意された取引金額で算定し、無償又は割安の場合は、商品等の販売価格を商品等と配送サービスの独立販売価格の比率で配分の上、配送サービスの取引価格を算出することが考えられます。
c. 設例

以下の設例について仕訳を説明します。

小売業者Aは、B氏と40千円の商品をお歳暮として配送サービス5千円を付してC氏(国内在住)に送る契約(販売)を行い、代金として現金をB氏から受領した。

なお、出荷から検収までの期間は通常の期間内であり、収益認識適用指針第98項に基づき、出荷時に収益を認識できる場合を前提とする。

「商品等の販売」と「配送サービス」が一体の履行義務と考えられる場合

「商品等の販売」と「配送サービス」が一体の履行義務と考えられる場合

「商品等の販売」と「配送サービス」が別個の履行義務と考えられる場合

「商品等の販売」と「配送サービス」が別個の履行義務と考えられる場合

*1 別個の履行義務として識別する
*2 別個の履行義務として識別しないことができる

図「商品等の販売」と「配送サービス」が別個の履行義務と考えられる場合

図「商品等の販売」と「配送サービス」が別個の履行義務と考えられる場合
d. 代替的な取扱い

「商品の販売」と「配送サービス」が別個の履行義務と考えられる場合でも、収益認識会計基準では代替的な取扱いとして、顧客が商品又は製品に対する支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動については、顧客と合意した届け先まで商品又は製品を移転する約束を履行するための活動(商品等の移転に係る履行義務の一部)として処理し、別個の履行義務として識別しないことができるとされています(収益認識適用指針第94項)。この取扱いは、実務におけるコストと便益の比較衡量の結果、配送活動を履行義務として識別しないことを会計処理の選択として認めている、米国会計基準を参考として設けられたものです(収益認識適用指針第167項)。

なお、この代替的な取扱いは、類似する種類の取引に対して首尾一貫して適用する必要があります。

4. ポイント制度及び割引券・クーポン券等

(1) 取引の概要

小売業では、顧客囲い込みや販売促進等の目的で、ポイント制度及び商品券を導入していることがあります。収益認識会計基準の適用に際しては、制度の内容を十分に理解し、契約内容や取引の実態を十分に検討して判断する必要があります。

ポイント制度では、商品の購入又はサービスの利用の都度ポイントが付与されるだけでなく、来店等の特定の行動に関連しポイント付与されることがあり、次回以降の商品の購入又はサービスの利用時にポイントを使用できることが一般的です。

(2) 収益認識会計基準の考え方

a. 自社発行ポイント(購入ポイント)

小売業では、継続利用を促進するため、購入金額等に応じて、売上取引の一環として顧客にポイントを付与するケースがあります(購入ポイント)。

収益認識会計基準において、購入ポイントは当初売上取引の一環として顧客に付与されたものであり、当初売上取引の構成要素に含まれることになります。そのため、購入ポイントについては契約負債として認識する必要があります。

自社発行ポイント(購入ポイント)

自社発行ポイント(購入ポイント)

出典:「EY新日本有限責任監査法人(編集)2021
『新版 企業への影響からみる 収益認識会計基準 実務対応Q&A』清文社」を参考に作成

具体的には、顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合に、当該オプションが顧客に重要な権利を提供するときには、顧客は実質的に将来の財又はサービスに対して企業に前払いを行っているため、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは当該オプションが消滅する時に収益を認識する必要があります。重要な権利を顧客に提供する場合とは、例えば、追加の財又はサービスを取得するオプションにより、顧客が属する地域や市場における通常の値引きの範囲を超える値引きを顧客に提供する場合をいいます(収益認識適用指針第48項)。

そのため、顧客との既存の契約に加えて追加のオプションとして付与した購入ポイントについては、契約負債を認識する必要があります。

この場合、ポイントの付与を独立した履行義務として取り扱うため、顧客がポイントを使用しなくても通常受けられる値引き金額及びポイントが使用される可能性に基づき、ポイントの独立販売価格を見積る必要があります(収益認識適用指針第50項、設例22)。

顧客に売価10,000円の諸品を現金販売し、100円分のポイントを付与したケース(失効率5%) ※消費税等は考慮しない

顧客に売価10,000円の諸品を現金販売し、100円分のポイントを付与したケース(失効率5%) ※消費税等は考慮しない
*1 取引価格10,000円について、以下の独立販売価格の比率で売上高と契約負債に按分している。
商品の独立販売価格:10,000円
ポイントの独立販売価格:100円×(1-失効率5%)=95円
b. 自社発行ポイント(アクションポイント)

小売業では、顧客との接点を拡大するため、例えば来店時にポイントを付与する等、購入以外の顧客行動に関してもポイントを付与するケースがあります(アクションポイント)。 アクションポイントは、商品の購入から独立した取引であり、別個の履行義務には該当しないと考えられます。

一方で、企業には、将来ポイントを使用することにより、ポイントをあらかじめ定められた特典と交換する義務が存在します。そのため、当該義務については、ポイント引当金計上の要否を検討する必要があります。

なお、来店時に付与されるポイントであっても、商品の購入が付与の条件となっているなど、さまざまなケースがあるため、ポイント制度の内容を十分に理解する必要があることに留意が必要です。

顧客の誕生月にバースデーポイントとして100円分のポイントを付与したケース(失効率5%) ※消費税等は考慮しない

顧客の誕生月にバースデーポイントとして100円分のポイントを付与したケース(失効率5%) ※消費税等は考慮しない
*1 未使用ポイント残高100円×(1-失効率5%)=95円
c. 他社発行ポイント

小売業においては、顧客の利便性向上、顧客層拡大等の観点から、自社ポイントプログラムのみならず、他社が運営するポイントプログラムに参加するケースが増加しています。

企業が、このようなプログラムに参加している場合、他社ポイントの付与は顧客に重要な権利を付与しておらず、他社ポイントを支配していないことが一般的であると考えられます。

この場合、ポイント付与時においては、顧客から受領した対価のうち、他社ポイント部分は当社が第三者のために回収した金額であり、当社の売上高に計上することはできないと考えられます(収益認識適用指針第47項、設例29)。

なお、企業が採用しているポイントプログラムにおける、企業の取引関係や取引条件等はさまざまであるため、これらを十分に理解して、実態に応じた会計処理を検討する必要があります。

顧客に売価10,000円の商品を現金販売し、他社の100円分のポイントを付与したケース ※消費税等は考慮しない

顧客に売価10,000円の商品を現金販売し、他社の100円分のポイントを付与したケース ※消費税等は考慮しない
*1 取引価格の算定において、第三者のために回収した金額(すなわち10,000円のうち100円)を除外する。
*2 第三者のために回収した金額は未払金として計上する。
d. 割引券、クーポン券等

小売業では、チラシや街頭配布等により、割引券やクーポン券等を発行するケースがあります。

割引券、クーポン券等は、将来、商品等を無償又は割引価格で購入可能な権利を付与するものではありますが、bと同様、商品の購入から独立した取引であり、別個の履行義務には該当しないと考えられます。

従って、これらは、将来の商品購入時に顧客が企業に対する債務額に充当できるものであり、商品販売時に収益を減額することになると考えられます(収益認識会計基準第63項、第64項)。

顧客に売価10,000円の商品を現金販売し、顧客が購入時に100円分の割引券を使用したケース ※消費税等は考慮しない

顧客に売価10,000円の商品を現金販売し、顧客が購入時に100円分の割引券を使用したケース

*売価10,000円-割引額100円

Ⅲ. おわりに

売上高は損益計算書のトップラインを示す重要な経営指標の一つであり、小売業に関わらず、すべての企業にとって関心が高いテーマであるといえます。そのため、売上高の認識測定に影響を与える収益認識会計基準の理解は必要不可欠となります。しかし、収益認識会計基準は国際財務報告基準第15号「顧客との契約から生じる収益」の基本的な原則を取り入れることを出発点としていることに加え、多種多様な取引をその適用範囲としていることから、その内容の理解は容易ではありません。本稿が小売業に携わる方々にとって、収益認識会計基準を理解するための一助になれば幸いです。

参考文献等

  • 新日本有限責任監査法人(編集) 2011 『業種別会計シリーズ 小売業』 第一法規
  • 新日本有限責任監査法人(編集) 2015 『小売業のための 基礎からわかるIFRSのポイント』 清文社
  • EY新日本有限責任監査法人(編集) 2020 『ポイント制度のしくみと会計・税務』 中央経済社
  • EY新日本有限責任監査法人(編集) 2021 『新版 企業への影響からみる 収益認識会計基準 実務対応Q&A』 清文社 

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