VC&ファンド業 第1回:VC及びVCファンドの事業の概要

2022年2月10日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 VC&ファンドセクター
公認会計士 加登一人

1. はじめに

わが国の産業のイノベーションを促進し、経済全体の成長と活性化を図るためには、スタートアップの創出・成長が不可欠です。

これまでスタートアップを取り巻く制度的・社会的枠組みが急速に整備されてきましたが、その中でベンチャーキャピタル(Venture Capital:以下、VC)及びVCファンドは重要な役割を担っています。

本シリーズでは、VC及びVCファンドの事業の概要、業種における特徴的な会計処理、内部統制、開示について10回に分けて解説することとします。

なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておきます。

2. VC・VCファンドとは

(1) プライベートエクイティ投資

プライベートエクイティ投資(PE投資)とは、広義では、未上場企業の株式の取得・引受を行う投資行為をいいます。その存在意義の一つとして、銀行による資金の提供が与信審査に基づく融資であるのに対し、リスクマネーの提供があげられるといえます。

PE投資は、投資対象の企業のライフサイクルに応じて以下のように大別されます。

① VC投資・・・企業の初期段階や、成長期に必要なマネーを提供する手法で、最終的には株式の新規公開(IPO)によって投資資金の回収を行うのが一般的です。すなわち、公開によって流動性が生じた株式を、その後の適切なタイミングを見計らって市場で売却することで投資資金を回収します。また、株式新規公開以外にも、M&Aなど戦略的売却により投資資金を回収する場合もあります。VC投資の投資手法は、投資先のステージ、規模、ビジネスの内容に応じて必要とする資金調達額が異なるため、資本政策に応じてさまざまなケースが想定されます。

② バイアウト投資・・・企業ライフサイクルの中盤以降に位置する企業を投資対象として既存企業を買収し、部門や資産を売却することによって買収先企業の価値を高めるような投資や、事業再編等により企業が手放す事業部門のみを買収し価値を高めるような投資をいいます。この場合、成熟期にある事業を対象とすることが多いため、IPOによる投資回収は相対的に少なく、戦略的売却が中心となります。その企業の経営に深く関与して企業価値を高めた後に、売却することで高い利回りを獲得することを目的としますので、経営権を獲得するべく出資割合を高くすることが一般的です。

③ 企業再生投資・・・業績が悪化した企業に対して再生可能な事業を切り出して、会社再建の専門経営者を派遣し事業を立て直して投資収益を上げる手法であり、事業の経営権を取得し、経営者を派遣して企業価値を創造しようという意味では、バイアウト投資の一類型であり、同様に債権、株式への投資を通じ再生、再上場、転売等の手法により投資額を回収することを目的することが一般的です。

以上のように、投資対象の企業のライフサイクルにより、投資手法、投資回収手法等も異なっており、このような点も踏まえて投資期間中の評価を検討する必要があります。

(2) VC

VCとは、本来、①成長性がある株式未公開の中小企業であるスタートアップに、②株式、転換社債、ワラント債など、エクイティあるいはそれに準ずる形態で供給される資金そのものを意味しますが、わが国においては、一般的にVC投資を行う企業、すなわちベンチャーキャピタルカンパニー(Venture Capital Company)がVCと呼ばれています。

わが国においては、金融機関である親会社をバックにした資金調達力・信用力を有する金融機関系VCを中心に発展してきましたが、近年、大手VCから独立したキャピタリストや過去スタートアップをEXITさせた経歴を持つアントレプレナー等が設立した独立系VC、事業会社がオープン・イノベーションを促進するためにスタートアップへの投資を行うCVC(Corporate Venture Capital)、学内の技術や研究成果の事業化を目指す大学発スタートアップへの支援・投資を目的とする大学VCが存在感を増しています。

(3) VCファンド(投資事業有限責任組合、民法上の投資事業組合)

VCファンドとは、典型的には、高成長が見込まれるスタートアップの未公開株式を取得し、創業期に営業支援、経営管理に関する助言などのハンズオン支援を通じて企業価値を高め、IPO時に保有株式を売却し売却益を得ることを目的としたファンドです。金融システムにおいては、ハイリスクでありながら、将来大きく成長し、ハイリターンを産む可能性のあるスタートアップに対してエクイティ資金を供給する役割を担っています。なお、ここでのファンドとは、投資事業有限責任組合及び民法上の投資事業組合を前提としたものとして説明しています。

ファンドのスキームは、主に税制上のメリット(二重課税の回避)、投資家の保護(責任の限定)、コスト等を考慮して選択されますが、VCファンドに関しては、1998年に「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」(現在、「投資事業有限責任組合契約に関する法律」)が施行されてからは、投資家の責任が出資額の範囲に限定された同法に基づく投資事業有限責任組合(以下、有責組合)が多く用いられています。

VCファンドの構成員は、有責組合における無限責任組合員などのゼネラル・パートナー(以下、GP)と有責組合における有限責任組合員などのリミテッド・パートナー(以下、LP)から成ります。

GPとLPの権限、責任は根拠法、両者の契約内容により決まりますが、VCファンドにおいては、一般的に、VCがGPとして、ファンドの組成から、投資実行、回収・分配、清算までファンドの管理運営に関わる業務を執り行い、その対価として管理報酬・成功報酬をファンドから受領します。

一方、LPは、スタートアップへの投資の成果としてキャピタルゲインを得ることを目的としてGPに資金の運用を委託する投資家ですが、GPとともに投資先スタートアップの育成・支援に関与するケースもあります。

【図表1:スキーム図】

【図表1:スキーム図】

わが国のVCファンドにおいては、銀行や一部事業会社等の国内投資家の資金が中心となっており、海外投資家や年金基金からの出資は米国におけるVCファンドと比べ少額といわれていますが、近年の低金利環境が継続している状況から、今後、年金基金によるVCファンドを含むPE投資に対しての投資拡大が見込まれると考えられています。日本の代表的な年金基金の一つである年金積立金管理運用独立行政法人が運用するPE投資の時価総額は以下のように増加しており、PE投資拡大の傾向が見受けられます。

【図表2:年金積立金管理運用独立行政法人におけるPE投資時価総額推移】

【図表2:年金積立金管理運用独立行政法人におけるPE投資時価総額推移】

(出典:年金積立金管理運用独立行政法人 業務概況書(2018年度~2020年度)よりEYが加工)

3. VC事業の特徴と主な会計論点

(1) スタートアップへの投資

一般的に、VC及びVCファンドは、事業基盤が確立しておらず、経営環境の変化の影響を受けやすいなどの理由により、相対的に事業リスクが高いスタートアップが発行する株式を投資対象としており、複数のスタートアップにリスク分散を図りながら投資し、そのうちの数社がIPOすることによってリターンを得ています。

ここで、投資対象の株式は、スタートアップの成長性、上場可能性を見込み、超過収益力を加味した純資産価格以上の株価で取得することが多いため、倒産には至らないものの資金的に何とか事業継続している投資先すなわちリビングデッドはもちろん、そこまでは至らないものの投資価値が棄損したその他の投資先についても保有期間中は評価について検討しなければなりません。

未公開株式の評価については、「第7回~第9回:ベンチャーキャピタルにおける投資の評価」において詳しく説明します。

(2) エクイティ投資

起業段階や成長段階にあるスタートアップの多くは、担保としての十分な資産を有していないこと、元利金支払いの原資となる売上が立ち上がってきていないこと等から、間接金融による資金調達には限界があります。このため、直接金融によるリスクマネーの調達を必要としており、VCは株式、転換社債、ワラント債など、エクイティあるいはそれに準ずる形態でリスクマネーを供給します。

同時に、VCは、投資実行後、株主として株主総会において議決権を行使するだけでなく、投資先をモニタリングするため投資先に対し役員を派遣し、また、バリューアップを目的としてハンズオンを行うなど、投資先の経営に何らか関与することとなります。

このように、投資先の議決権を保有し、経営に関与している状況においては、連結又は持分法の適用が問題となりますが、VCは主に未公開株式に投資を行い、投資先の価値向上を通して売却によりキャピタルゲインを得ることを一つの目的としています。従って投資先の議決権の過半数を保有する場合であっても、当該株式の保有が営業投資目的であり、支配獲得を目的とするものではないケースが想定されます。

このような実態に配慮し、企業会計基準適用指針第22号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」第16項(4)(以下、22号)において以下のようなVC条項の規定が設けられています。これはVCなどの投資企業が投資先企業の株式の過半数以上を保有していても、一定の要件を満たしている場合には、連結対象から除外することができるというものです。

具体的には、「ベンチャーキャピタルなどの投資企業(投資先の事業そのものによる成果ではなく、売却による成果を期待して投資価値の向上を目的とする業務を専ら行う企業)が投資育成や事業再生を図りキャピタルゲイン獲得を目的とする営業取引として」行う投資であることを前提に、以下の4要件をすべて満たした場合に限り(ただし、当該他の企業の株主総会その他これに準ずる機関を支配する意図が明確であると認められる場合を除く。)、子会社に該当しないものとすることができます。

① 売却等により当該他の会社等の議決権の大部分を所有しないこととなる合理的な計画があること。
② 当該他の会社等との間で、当該営業取引として行っている投資又は融資以外の取引がほとんどないこと。
③ 当該他の会社等は、自己の事業の単に移転したり自己に代わって行うものとはみなせないこと。
④ 当該他の会社等との間に、シナジー効果も連携関係も見込まれないこと。

当該規定及び付随する規定の要約及び判断の流れを図示すると、以下の通りとなります。

(例:A社がB社の発行済株式数の過半数を保有しているケース)

(例:A社がB社の発行済株式数の過半数を保有しているケース)

(3) ファンド投資

スタートアップへの投資は、前述のとおり二重課税回避、投資家の責任限定等を図るためファンド・スキームにより行われ、投資家はLPとしてファンドへ出資します。

一方、VCはGPとして業務執行を行いますが、民法上「組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる」(民法667条1項)とされていることに加え、LPと未公開株式投資に係るリスクをシェアすること、自己投資により生じるLPとのコンフリクトを回避すること等を目的として、自らファンドに出資します。

この結果、GPもLPもファンド出資者として、自己の決算において、出資持分を取り込むことになります(金融商品会計に関する実務指針132項)。

また、出資者は、出資先のVCファンドに関して、有責組合、任意組合等、法形式にかかわらず、「会社に準ずる事業体」として子会社又は関連会社の範囲に該当するか否か判定しなければなりません(企業会計基準適用指針第22号「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」28項)。

うち、VCファンドを含む投資事業組合については、ファンドを利用した不適切な会計処理が行われた事件を契機として、2006年9月、企業会計基準委員会から実務対応報告第20号「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い」が公表され、「業務執行の権限」により支配力又は影響力を判断する等、連結上の取扱いが明確になりました。

ファンド出資者の出資持分に係る会計処理及び投資事業組合の連結については、「第4回:有責組合に関連する会計処理の概要(前編)」において詳しく説明します。

【図表3:会計主体と論点】

【図表3:会計主体と論点】
GP・LP→スタートアップ FUND→スタートアップ GP・LP→FUND
有価証券関連勘定の表示(営業投資有価証券、営業投資有価証券売上高等) 有責組合・任意組合間での時価概念、会計処理の相違 出資持分の取込
未公開株式の評価
投資損失引当金
未公開株式の評価
投資損失引当金
自己の決算日とファンド決算日の差異に係る調整(有価証券の評価替等)
VC条項に基づく投資先の連結 有責組合と任意組合及び任意組合間の決算書不統一 実務対応報告20号に基づくファンド連結

4. VCファンドに関する法規制

ファンドを用いた投資スキームにおいては、悪質な業者により一般投資家が被害を受ける事例が少なくなく、金融商品取引法では、「集団投資スキーム」上の持分(金融商品取引法2条2項5号)を包括的に「みなし有価証券」として業規制及び開示規制を課しています。

ファンドの中でも、いわゆるプロ向けファンドに関しては、適格機関投資家等特例業務として例外的に業者登録を不要とし、届出制を採用してきましたが、プロ向けファンドの販売等を行う業者の中には、適格機関投資家以外の投資家が49名以下であれば一般投資家に対しても販売が可能なことに着眼し不適切な勧誘を行うものがあり、知識・経験が乏しく投資判断能力を有すると見込まれない一般投資家が被害を受ける事例が発生していることを一つの契機として2015年に金融商品取引法改正が行われました。

当該改正により、①欠格事由の導入、②届出書の記載事項の拡充・公表、③適格機関投資家の範囲・要件の設定、④一般投資家の範囲の限定、⑤ベンチャー・ファンドの特例、⑥帳簿書類の作成・保存、事業報告書の作成・当局への提出等を含む行為規制の拡充など規制が強化されています。

特に改正の一つの契機となった一般投資家による被害を回避するため、プロ向けファンドに投資をできる一般投資家を国、地方公共団体、純資産又は資本金5000万円超の法人、投資性金融資産1億円以上かつ証券口座開設1年経過した個人、投資性金融資産1億円以上有すると見込まれる法人などに限定しています。

【図表4:プロ向けファンドにおける一般投資家の範囲】

【図表4:プロ向けファンドにおける一般投資家の範囲】

(出典:財務省関東財務局ウェブサイト「平成27年11月20日 重要なお知らせ(制度改正)適格機関投資家等特例業務、特例投資運用業務に関する法改正が行われ追加届出が必要になります」よりEYが加工)

※「ベンチャーファンド特例」

上場会社等の役員・元役員、ファンドの業務執行組合員・元業務執行組合員、有価証券届出書又は有価証券報告書提出上場会社等の上位10人程度の株主として記載された個人法人、会社の役員・従業員・コンサル等として、企業財務、投資業務等に1年程度直接携わった経験があり、当該実務に専門的知識や能力を有する者なども特例として出資者の範囲に含まれるとされています。

以上のように、ファンドの設立、募集における一般投資家の範囲の限定、運用中における帳簿書類等の提出を含む行為規制の拡充など規制が強化されていますので、ファンド運営上留意が必要です。

参考文献等
  • 『日本のベンチャーキャピタル ー未来への戦略投資』 浜田康行 (日本経済新聞社)
  • 『ベンチャーファイナンスの多様化 ー日本型資金供給システムの再構築』 秦信行・上條正夫 (日本経済新聞社)
  • 「ベンチャー企業の創出・成長に関する研究会 最終報告書」 ベンチャー企業の創出・成長に関する研究会 経済産業省
  • 「経済成長に向けたファンドの役割と発展に関する研究会 報告書」 経済成長に向けたファンドの役割と発展に関する研究会 経済産業省
  • 「わが国におけるプライベート・エクイティ・ファンドの可能性 ーアイデアとコミットメントのあるファイナンスへの期待ー」 日本銀行金融市場局 鷲見和昭