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EY新日本有限責任監査法人 VC&ファンドセクター
公認会計士 渡部紘士
有責組合には、その設立当初より事業の存続期限が定められている(以下、有期限性)という特徴があるため、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況」について、「貸借対照表日の翌日から存続期限までの期間が一年未満となった場合に、存続期間内での資産回収、負債返済が完了されないおそれがある状況」とされています。また、存続期間内での資産の回収及び負債の返済が確実に完了すると見込まれない限り、一般に「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況」に該当するとされていることに留意が必要です(業種別委員会実務指針第38号「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」(以下、業種別実務指針38号)15項)。
有期限性のもとで貸借対照表日の翌日から存続期限までの期間が1年未満となった場合、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況」を『保有する未公開株式の処分方針の実行に重要な不確実性がある場合』及び『存続期限の延長手続に重要な不確実性がある場合』の二つに分類しています。なお、この二つの継続企業の前提に関する注記の文例が業種別実務指針38号「付録2」に掲載されています。
以上のような考え方を整理すると下図のとおりとなります。
会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準(企業会計基準第24号)が2020年3月31日に改正され、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を、重要な会計方針として開示することが求められました(重要性が乏しい場合は省略可)。
当該会計基準は投資事業有限責任組合においても適用されることから、業種別実務指針38号の「付録1」に例示として記載されている重要な会計方針の他に、以下の二つのポイントに留意して、開示すべきものがあるかどうか検討する必要があると考えられます。
① 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続の有無
② 関連する会計基準等の定めが明らかであり、当該会計基準等において代替的な会計処理の原則及び手続が認められているものの、重要な会計方針として開示していないものの有無
この点、投資事業有限責任組合の場合は以下が想定されるものと考えられます。
なお、上記は重要な会計方針の開示の観点で記載しておりますが、中小企業等投資事業有限責任組合会計規則においては、「その他一般に公正妥当であると認められる会計の原則に従うこと」(第2条第5号)、「この規則で定めるもののほか、貸借対照表又は損益計算書により組合の財産及び損益の状態を正確に判断するために必要な事項は、貸借対照表又は損益計算書に注記しなければならない。」(第4条第2項)とされているため、必要に応じて、一般事業会社に適用される財務諸表等規則や会社計算規則などで定められている注記を記載する必要があると考えられます。
2021年9月1日に施行の公認会計士法の改正等に対応して、監査基準委員会報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」及び監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」が改正されたことを受けての見直しに合わせて、主に設立当初より事業の存続期限が定められている投資事業有限責任組合における、有期限性に関する注記と継続企業の前提に関する注記の取扱いに関する検討を行い、投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱いの見直しを行いました。
一般事業会社に適用される会社計算規則・財務諸表等規則においては、重要な会計方針の注記の前に継続企業の前提に関する注記を記載していることから、投資事業有限責任組合の開示も一般事業会社の開示と整合する形に改正を行いました。
また、2018年3月に経済産業省から公表されている「投資事業有限責任組合契約(例)及びその解説」において、投資事業有限責任組合の収益のうち無限責任組合員が受領すべき分配額について、キャリード・インタレストとして無限責任組合員の持分に基づく分配とすることが明記されたことを受け、この場合の会計処理は、成功報酬としての投資事業有限責任組合の費用ではなく、分配としての会計処理となると考えられるため、その旨の記載を行いました。
以上をまとめると、具体的な変更点は下表のとおりとなります。
なお、改正後の財務諸表等のひな型が業種別委員会実務指針第38号「付録1」から「付録3」に掲載されています。
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