VC&ファンド業 第7回:ベンチャーキャピタルにおける投資の評価(前編)

EY新日本有限責任監査法人 VC&ファンドセクター
公認会計士 内川裕介/前川 健太郎

1. はじめに

第7回から第9回は、ベンチャーキャピタル(以下、VC)業における投資の評価の論点について解説します。

VCの概要等については第1回で解説しましたが、VCは主に未公開株式に投資を行い、投資先の価値向上を通してキャピタルゲインを得ることを目的としています。

当該VCが投資する未公開株式は客観的な時価がないことから、適切な投資の評価を行うことが重要論点となりますが、VCの投資先であるベンチャービジネス(以下、VB) は上場企業に比べ事業基盤が確立途上であり収益のぶれが大きいこと、VBを取り巻く事業環境の変化が激しいこと、情報開示の体制が整備途上であることが多いという特徴があります。そのため、このような投資先の状況に基づいて実施する投資の評価は見積もりの要素を含む難しい判断となります。

以上の点を踏まえ、VCが保有する未公開株式の評価に関し、金融商品会計基準に準拠した投資の評価(第7回)、有責組合における投資の評価(第8回)、投資の評価に関する内部統制(第9回)について紹介することとします。

なお、文中の意見に関する部分は執筆担当者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。
 

2. 金融商品会計基準に準拠した投資の評価

(1) VC業における保有株式の特異性と会計処理の概要

① 一般的な処理

金融商品会計に関する会計基準において、VCが保有する未公開株式は、市場価格のない株式に該当し、取得原価をもって貸借対照表価額とするとされています。そして、資産の時価評価に基づく評価差額等を加味した当該株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときには、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として処理(減損処理)しなければなりません(金融商品会計に関する実務指針92項)。

② VC投資の特異性と処理概要

VCにおける投資は将来の成長を期待して、またその原動力となる超過収益力に着目して、純資産価額と比較し相当程度高い価額で取得することが多いことから、投資先売却等のEXITまでの期間、取得原価が純資産価額を上回る状況が通常といえます。

また、VCにおける未公開株式の投資は前述の通り、事業基盤が確立途上のVBを対象とするものであり、創業赤字等により財務状況が良好でない場合が多いことから、発行会社の財政状態のみに着目した形式的な基準による評価では、ほとんどの銘柄について投資後すぐに財政状態の悪化により実質価額が著しく低下している状態になりかねません。

この問題に対応する規定として金融商品会計に関する実務指針(以下、実務指針)や金融商品会計に関するQ&A(以下、Q&A)においては、①会社の超過収益力や経営権等を反映して、1株当たりの純資産額を基礎とした金額に比べて相当高い価額が実質価額として評価される場合もあること、②会社の超過収益力や経営権等を反映して、財務諸表から得られる1株当たり純資産額に比べて相当高い価額で当該会社の株式を取得した場合、超過収益力等が減少したために実質価額が大幅に低下することがあり得ること、③超過収益力が見込めなくなった場合には、実質価額が取得原価の50%程度を下回っている限り、減損処理をしなければならないことが示されています。すなわち、実務指針等によれば、超過収益力を含めた実質価額が毀損(きそん)しているか否かを減損実施要否の判断基準とするとしています。

ただし、当該超過収益力の毀損の有無は実務的に難しい判断となります。以下では当該判断の一般的な考え方を超過収益力毀損の認識時点の論点と、毀損を認識した後の減損金額の測定の論点に分けて紹介することとします(実務指針92項、Q&A Q33、Q34)。

(2) 認識の方法

基本的な考え方として、評価時点において、投資時点に見込んでいた超過収益力が毀損しているか否かを判断することとなります。多くのVBでは事業基盤が確立途上であることから、計画通りに事業が進捗(しんちょく)しづらい面があります。このため、当該判断は将来予測の要素を加味することが求められる難しいものとなります。投資時点で見込んでいた超過収益力を活用した事業計画の達成度、「計画値」と「実績値」の乖離(かいり)要因の分析、次年度以降の収益計画と達成の確度などを総合的に検討し判断することとなります。

この際、バイオベンチャー等のように見込まれる超過収益力が研究開発の進捗に連動し、事業の進捗と収益貢献にズレが生じるケースなどもあるため、業種ごとの特性や個々の事情を勘案することになると思われます。
また、直近で他社が投資を行った場合、当該他社においても超過収益力を見込んだ評価額で投資していることが多いと考えられることから、当該他社がどの程度の超過収益力を見込んで評価額を決定したかも判断材料の一つとなると考えられます。

減損に関する認識の判断を行うにあたり、特に重要となるのは適時性です。超過収益力の有無の判断を誤り、すでに取得時の価値を有さない株式の価値を過大に評価していないか、一定のルールに基づいて一貫した判断を適時に行っているかという視点です。

(3) 測定の方法

超過収益力は毀損しているが、どの程度毀損しており結果としていくら減損すべきなのかという減損金額の測定の論点です。実務指針においては、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額の悪化により実質価額が著しく低下したときに、相当の減額を行うとされています。実務上は実務指針に従い、評価額の客観性、入手可能性、経済性等の観点から他の未公開株式などの場合と同様に一株当たり純資産価額での評価が一般的と言えます。また、VBの経営者に株式を買い取ってもらう場合など買取価格が契約において決まっていれば回収可能額での評価という考え方から当該価格で評価するケースも考えられます。

(4) 新株予約権、新株予約権付社債等の会計処理

① 時価の算定に関する会計基準等の適用に伴う金融商品に関する会計基準等の改正

時価の算定に関する会計基準の適用に伴う金融商品に関する会計基準等の改正により、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券の定めが削除されたため、従前時価を算定することが極めて困難と認められる有価証券であったもののうち市場価格のない株式等に含まれない有価証券は、当該改正により新たに時価評価が必要となります。そこで、非上場株式をアンダーライングとする新株予約権や新株予約権付社債について、時価を算定することが極めて困難と認められる有価証券としていた場合には、当該改正により新たに時価評価が必要となります。

② 権利行使した際の会計処理

その他有価証券で保有していた新株予約権、新株予約権付社債を権利行使し、市場価格のない株式を取得した場合、帳簿価額で株式に振り替えることとなります(払込資本を増加させる可能性がある部分を含む複合金融商品に関する会計処理 第8項第20項、金融商品会計に関する実務指針 第57項(4))。また、市場価格のない株式は、改正金融商品に関する会計基準においても、時価評価は行いません(金融商品に関する会計基準 第19項)。そこで、権利行使前までに計上していた時価評価による評価差額は、権利行使により振り戻されることになります。



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