映画ビジネス 第1回:映画ビジネスの概要

EY新日本有限責任監査法人 メディア・エンターテインメントセクター
公認会計士 泉家章男/槙田篤史/竹下大介/吉野 緑

本シリーズでは、業種別に事業の特徴に注目し、事業の概要、業種における特徴的な会計処理や開示、関連する内部統制などについてわかりやすく解説します。今回は 「映画ビジネス」 を取り上げます。なお、文中の意見は執筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことをお断りしておきます。




1. 映画ビジネスの市場規模

映画館における入場者数は、1958年の11億2千万人をピークに、映画離れの進行とともに減少を続け、1996年に1億1千万人にまで落ち込みました。しかし、その後、日本におけるシネマコンプレックスの発展とともに増加に転じ、2001年以降は、1億6千万人~1億7千万人の間で安定して推移しており、市場規模も邦画、洋画併せて、興行収入はおおよそ2,000億円前後で推移してきています。

また、近年は3D・IMAX・4DX・MX4Dなど、映画の上映システムが進化を続けており、顧客当たりの平均単価の押し上げに貢献していると考えられます。

このように、近年順調に推移してきた映画ビジネスですが、2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大による、映画館の休館、座席数の制限、製作・配給の中断・延期による公開延期等の影響を受けて興行収入が1,432億円となり、大きく減少しました。
 

2. 映画・映像作品のマルチユース

流通メディアの発達に伴い、映画・映像作品については、映画館で上映されるだけでなく、BD/DVDやテレビ、インターネット配信等のさまざまなメディアを通して二次利用されるのが通例になっています。このように一つの映画・映像作品をさまざまなメディアで流通させることを、一般的に、「マルチユース」、「マルチウインドウ展開」等と呼んでいます。マルチユースは、通常は①映画館での上映→②DVD・ビデオでの展開(セルとレンタル)、インターネット配信(EST、TVOD)→③有料テレビ放送(BS、CS、CATV等)→④地上波テレビ放送→⑤インターネット配信(SVOD)の順で展開されることが多いと思われます。

近年では、スマートフォン等の普及によりインターネットを利用した動画配信ストリーミングサービスが急速に拡大しており、国内外問わずさまざまな配信プラットフォームが登場しており、2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大の影響も相まって、インターネット配信を開始するタイミングが従来よりも早期化している傾向にあります。それ以外にも、映画館での上映と同時に特定事業者のみに先行独占配信(SVOD)を行うような事例や、劇場公開なしでインターネット配信を行うような事例もあるなど、今後においてはマルチユースの中でも特にインターネット配信に関して方法・時期が多様化していくことが予想されます。

二次利用市場の規模ですが、現在では、二次利用による収入が、映画館等での興行による一次利用の収入を、大きく上回る状況となっています。

EST…Electronic Sell Through(ダウンロード動画販売サービス)
TVOD…Transactional Video On Demand(都度課金型動画配信サービス)
SVOD…Subscription Video On Demand(定額制動画配信サービス)
 

3. 共同制作による映画・映像作品の制作

昨今では、映画・映像作品の制作費の規模も大きくなってきており、それに伴い、映画・映像作品に関するリスクも単独の企業だけでは負担しきれないほど大きくなってきているといえます。そのため、複数社が集まり、共同制作の形で映画・映像作品が制作されることも多くなっています。

共同制作の形式としては、匿名組合方式、信託方式、SPC方式、商品ファンド方式等が考えられますが、わが国において最もポピュラーなのは、製作委員会の形式による共同制作です。製作委員会の法的性格は、民法上の任意組合(民法第667条)と解されており、通常、映画会社、ビデオソフト制作会社、放送局、出版社、広告会社等の出資により組成されます。

欧米等で見られるような金融機関等を利用した資金調達と比較して、製作委員会の特徴としては、純粋な資金調達やリスク分散の目的だけでなく、映画の制作・興行・二次利用に関する豊富なノウハウを有する各出資者の英知を結集することも重視されているということが挙げられると思われます。
 

4. 映画ビジネスにおける主なプレーヤー

(1) 製作委員会方式の場合

製作委員会においては、各共同事業者は、出資者であるとともに、映画・映像作品ビジネスの事業者でもあります。共同事業者は、次の表のように、それぞれの得意とする領域において、中心的な役割を担当するのが通例となっています。近年においてはアニメ映画の人気が高まっており、アニメ作品のIP(知的財産)を利用したビジネス展開の一環から玩具会社やゲーム会社なども共同事業者となるケースも見られます。

領域

共同事業者

映画配給・興行業務
映画会社

DVD・ビデオ業務(セル・レンタル)

ビデオソフト制作会社

テレビ放送業務

放送局

広告業務

広告会社

キャラクター商品・ゲーム等の販売

玩具会社・ゲーム会社等

(2) 買付等の場合

洋画等に見られるような買付契約の場合は、通常、配給会社が、海外の権利元からオールライツのライセンスを受け、それを関係する企業にサブライセンス又は委託するという形をとります。権利元からの権利の買付に当たっては、オールライツではなく、テレビ放送権やビデオ化権だけが契約の対象となる場合もあります。

(2)買付等の場合 図

ライセンスの契約においては、主に以下のような収益パターンが挙げられます。

ライセンス契約の収益パターン

なお、権利元におけるライセンス提供に関する収益認識は「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号)に基づいて会計処理を決定することとなりますが、この点についての詳細は、「第2回:映画ビジネスの収益認識」において詳述することとします。
 

(3) 単独制作の場合

単独制作の場合には、制作会社が、配給会社や興行会社等の関係する企業にライセンス又は委託するという形になります。ライセンス料の形式のパターンは、先述の買付の場合と同様です。





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