EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 メディア・エンターテインメントセクター
公認会計士 泉家 章男/槙田 篤史/竹下 大介/吉野 緑/峰 麻衣子
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針」という。) に照らし、映画ビジネスにおける収益認識のポイントをご説明します。
なお、文中意見に係る部分は筆者らの私見である旨、あらかじめお断りします。
映画配給には、映画興行会社、配給会社それぞれの役割があり、収益認識の考え方について整理すると次のようになります。
映画興行会社は劇場運営を行っており、劇場の入場料である興行収入が収益として計上されます。興行収入は、当日券、前売券、優待券などのチケットが劇場に着券した時点で認識される仕組みになっており、それぞれのチケット単価に入場人数を乗じた金額で計算されます。
また、そのほかにも劇場でのフード・ドリンク等の販売によるコンセッション収入や映画の関連グッズやパンフレット等の販売による売店収入が収益として計上され、特にコンセッション収入については、映画興行会社における重要な利益の源泉の一つとなっています。
このうち、映画の関連グッズやパンフレット等の販売については、買取販売を行う場合と委託販売を行う場合があり、会計基準における本人・代理人取引のいずれに該当するか(収益を総額で表示するか純額で表示するか)を判断する必要があります。
この点、本人と代理人のどちらに該当するかについては、企業が提供する財又はサービスが顧客に提供される前に企業が支配(※)している場合は本人に該当し、支配していない場合は代理人に該当すると判断することになります(適用指針第42項、第43項)。ただし、当該支配の定義を満たしているかどうかの判断が必ずしも容易でないことから、適用指針第47項では、当該支配の有無を判断するために考慮する三つの指標の例が次のとおり示されています。
(※)企業が財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していること
(収益認識適用指針第47項より抜粋)
(1)企業が当該財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有していること
これには、通常、財又はサービスの受入可能性に対する責任(例えば、財又はサービスが顧客の仕様を満たしていることについての主たる責任)が含まれる。
企業が財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有している場合には、当該財又はサービスの提供に関与する他の当事者が代理人として行動していることを示す可能性がある。
(2)当該財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは当該財又はサービスに対する支配が顧客に移転した後(例えば、顧客が返品権を有している場合)において、企業が在庫リスクを有していること
顧客との契約を獲得する前に、企業が財又はサービスを獲得する場合あるいは獲得することを約束する場合には、当該財又はサービスが顧客に提供される前に、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。
(3)当該財又はサービスの価格の設定において企業が裁量権を有していること
財又はサービスに対して顧客が支払う価格を企業が設定している場合には、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。
ただし、代理人が価格の設定における裁量権を有している場合もある。例えば、代理人は、財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配するサービスから追加的な収益を生み出すために、価格の設定について一定の裁量権を有している場合がある。
通常、買取販売については、自己のリスクと責任に基づき商品の仕入及び販売を行うことから、本人取引として判断されることが考えられ、商品の提供と交換に企業が権利を得ると見込む対価の総額を収益として認識することとなります。一方、委託販売については、在庫リスクを負わないことや価格の裁量権を有していない等の理由から、通常、代理人取引として判断されることが考えられ、手数料部分を純額で収益計上することとなります(適用指針第39項、第40項)。
配給会社は、映画制作会社等から映画作品を上映する権利を買い取り、当該映画作品の宣伝活動等を行うとともに、映画興行会社に対して、映画作品の劇場での上映を許諾します。当該許諾料として映画興行会社において計上される興行収入に一定割合を乗じた金額を配給収入(映画興行会社にとっての映画料)として受け取ることとなります。この一定割合のことを映画料率といい、実務慣行として、週次で料率が変更されます。一般的には、映画公開日(近年では金曜日からスタートする作品が多い)から始まる第1週に最も高い料率が設定され、週を経過するごとに低下していく仕組みになっています。映画料率の決定時期については、週次で段階的に確定するケースもありますが、興行締めといわれる1作品の映画上映が終了して精算処理する際に映画興行会社と配給会社が交渉し、確定するケースが多くなっています。また、映画料率の決定単位については、配給会社と映画興行会社が劇場ごとに取り決めているケースが多く、そのため上映作品及び週によって料率の幅が大きく変更されることが一般的です。
このような流れで決定された配給収入は、映画作品に関する知的財産のライセンス(劇場で映画を上映する権利)に関連して顧客(映画興行会社)が使用又は売上高を計上するときに収益を計上することが求められるところ(適用指針第67項)、実務的には、映画興行会社から日次、週次及び月次で興行成績の報告を受けた時点で、当該報告に基づき配給収入として収益を認識することになると考えられます。しかし、前述したように映画料率が興行締めまで確定しないケースでは、過去の実績料率など企業が合理的に入手できる情報を踏まえ、認識した収益の著しい減額が生じない金額を、各決算日において見積る必要があると考えられます(会計基準第51項、第54項)。
なお、前述のような歩合制ではなく、定額で劇場上映を許諾するような実務慣行もまれにあります。通常、映画作品の上映許諾はライセンスの使用権に該当するケースが多いと考えられるため、映画公開日である許諾開始日に売上計上されることとなります(ライセンスの使用権については、「2. 二次利用権(マルチユース)に係る収益認識」にて詳述します)。
また、配給会社は、配給収入からトップオフ経費といわれるP&A(Printing & Advertising)費等の必要経費の金額を控除したのち、一定割合を乗じた金額を配給手数料として自社の収入とし、残額を権利者に支払います。図に表すと次のようになります。
この点、配給会社が行う配給業務について、企業が本人か代理人のいずれに該当するかを判断する必要がありますが、配給会社は配給権を有していること、配給宣伝業務や配給営業(映画館のブッキング)等の配給業務における重要な活動を行うなど主たる責任を有していること、映画料率に関する一定の価格裁量権を有していること、トップオフ経費が配給収入で回収できない場合は当該損失を配給会社が負担するなど一定のリスクを負っていること等の理由から、本人に該当すると判断するケースが多いと考えられます。
二次利用権は、オリジナルの映像作品をインターネット配信やテレビ放映する権利、BD/DVDなどのパッケージ商品にする権利、航空機内で上映する権利等のことをいいます。
これらは、権利元の制作者が所有する映像作品に関する知的財産権(著作権)に対する各種の権利の利用を顧客に許諾するものであることから、適用指針第143項に該当し、会計上は「ライセンスの供与」として取り扱われることになります。
このとき、一般的には、制作者は「ライセンスの許諾時点で存在する映像作品を使用する権利」を顧客に許諾することになり、かつ映画等の映像作品は一般に独立した機能性を有し企業の活動による影響を受けないことから(適用指針第150項参照)、このような形態のライセンス許諾は適用指針第62項(2)に規定するライセンスの使用権に該当する場合が多いと考えられます。
ここで、ライセンスの使用権に該当する顧客との契約は、顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できるようになった時点で収益を認識することになります(適用指針第147項)。映画作品のライセンスはその契約条件やライセンス料の算定方法が多岐にわたるため、代表的なパターンにおける二次利用権に係る収益認識について検討します。
権利元の制作者等が、ライセンシー(許諾を受けた者)に対して映像マスターを引き渡した後にライセンシーに対して重要な履行義務を負っていない、すなわち、ライセンスの供与のみが約束されているケースでは、契約におけるライセンス開始日までに映像マスターを引き渡すことにより契約上の履行義務が完了することになります。前述したように映画等の映像作品に関するライセンスは使用権に該当することが一般的であるため、このような場合には、ライセンシーに映像マスターが引き渡され(あるいはライセンシーが映像マスターをいつでも使用可能な状態になっており)、かつ契約におけるライセンス開始日が到来し、顧客がライセンスからの便益を享受できるようになった時点で収益を認識することが適切と考えられます。
権利元の制作者等が、ライセンシーに対して映像マスターを引き渡した後においても、インターネット配信等又はBD/DVDソフトへの制作協力や協同プロモーション等を行う等、ライセンスの供与に加えて他の財又はサービスの提供が約束されている場合は、映像マスターを引き渡したのみでは、契約上の義務債務の履行が部分的にしか完了していないことになります。このように、ライセンス許諾と別個の財又はサービスが存在する場合は、取引価格をそれぞれの履行義務に配分し、それぞれの履行義務を充足したとき又は充足するにつれて収益を認識することが適切と考えられます(会計基準第32項、第35項、第65~66項)。
一方で、前述のような制作協力等が、単独又は容易に入手できる他の資源との組み合わせで便益を得られるものでない場合や、映像マスターの引き渡しと高い相互依存性があるような場合には、それらを一体として会計処理することになります。この場合は、履行義務の充足時点、つまり制作協力等の終了の時点又はライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できるようになった時点のいずれか遅い時点で収益を認識することになると考えられます(会計基準第39項)。
一時金のように固定額ではなく、ライセンシーにおける売上に連動した一定の歩合に基づいてライセンス料が決定される場合があります。
これまでのわが国における実務において、歩合制によるライセンス料については、ライセンシーからの報告書到着日に売上を計上する実務が一般的に行われていました。この点、当該ライセンス料はライセンシーにおける売上高等に応じて契約で規定された方法で計算された使用料として権利元の制作者に支払われるものであることから、適用指針第67項にいう「売上高又は使用量に基づくロイヤルティ」に該当することになり、同項の規定により次の(ア)又は(イ)のいずれか遅い方で収益を認識することになります。
(ア)知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上する時又は顧客が知的財産のライセンスを使用する時
(イ)売上高又は使用量に基づくロイヤルティの一部又は全部が配分されている履行義務が充足(あるいは部分的に充足)される時
通常、権利元の制作者等がライセンシーに対して映像マスターを引き渡した後に、ライセンシーは当該映像マスターを使用して売上高を計上することとなります。そのため、上記(ア)のタイミング、つまりライセンシーが売上高を計上するとき(通常、知的財産のライセンスを使用するときも同じ時点と考えられます)が収益認識のタイミングと考えられます。
このように収益認識に関する会計基準等では、通常、知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上するときに収益を認識することが求められますが、決算が確定するまでの間にライセンシーがどの程度売上高を計上しているかを把握できず、原則的な会計処理が適用できないケースもあります。このような場合には、一般的な変動対価の制限も考慮した上で収益を見積ることになると考えられます。
具体的には、権利元の制作者等においてライセンシーからの報告書到達日が決算日後となるような場合においては、ライセンシーから速報値等を入手するなど、企業が合理的に入手できる情報を踏まえ、認識した収益の著しい減額が生じない金額を、各決算日において見積もる必要があると考えられます(会計基準第51項、第54項)。
しかし、実務的には、合理的な見積りを行うことが困難なケースもあると考えられ、その場合には、ライセンシーからの報告書の入手時など、変動対価の不確実性が解消されたときに確定額の収益が認識されることになると考えられます。合理的な見積りを行うことが困難なケースとしては、ライセンシーのITシステムが対応できない場合、ライセンシー側での売上計上が可能となるタイミングが遅く速報値等を入手できない場合、関連市場における公表データと過去の歩合部分の売上高との相関性がなく自社での見積りが著しく困難な場合、またそれらの理由も含めて会計上の見積りの仮定が多数あり計算方法が複雑な場合などが想定されます。
ライセンス料について、返還不要の最低保証金額(ミニマムギャランティー)が設定され、ライセンシーがミニマムギャランティーを超過する収入を獲得した場合に、当該超過部分について一定の歩合に基づき、収益の分配を受けるというケースがあります。
この場合のミニマムギャランティー部分についての考え方は、前述の(1)と同様です。すなわち、権利元の制作者等が、ライセンシーに対して映像マスターを引き渡した後は、ライセンシーに対して重要な履行義務を負っていないような場合には、ライセンシーに映像マスターが引き渡され(あるいはライセンシーが映像マスターをいつでも使用可能な状態になっており)、かつ契約におけるライセンス開始日が到来した時点で収益を認識することが適切と考えられます。一方、ライセンシーに対するライセンス許諾とは別の重要な履行義務が存在する場合には、取引価格を当該履行義務に配分の上、履行義務を充足したとき又は充足するにつれて収益を認識することが適切と考えられます。
また、歩合部分についての考え方は前述の(2)と同様です。すなわち、ライセンシーが売上高を計上するタイミングで権利元も収益を認識しますが、適時に情報を入手できない場合には一般的な変動対価の制限も考慮して見積り計上を行う必要があります。さらに、実務的に見積り計上が著しく困難な場合には、変動対価の不確実性が解消されたときに確定額の収益が認識されることになると考えられます。
映画制作会社は、一般的にあらかじめ契約書により定められた制作仕様や予算に基づいて映画の制作活動を行い、完成した作品を製作委員会等に納品します。
なお、テレビや配信向け作品については、30~60分程度を1話とし、シリーズ作品については、1話ずつ放送事業者(テレビ局、配信プラットフォーマー等)などに納品することが多いようです。
収益認識については、契約形態などに応じて、以下の二つの方法があります。
(1) 完成した作品について顧客による検収が完了した時点など、一時点で履行義務が充足されたと判断し、収益を当該一時点で認識する方法(会計基準第39項)
(2) 映像作品を制作するにつれて履行義務が一定の期間にわたり充足されると判断し、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、当該進捗度に基づき一定期間にわたって収益を認識する方法(会計基準第38項)
一定期間にわたり収益を認識するのは、会計基準第38項に基づき、以下のいずれかの要件を満たす場合です。
(ア) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
(イ) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
(ウ) 次の要件のいずれも満たすこと
① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること
このうちの、(ウ)の要件については、映画・映像作品の制作において満たす場合があると考えられます。
例えば、請負契約により制作された映画・映像作品は顧客からのリクエストに応える形でカスタマイズされており、別の顧客に販売することは容易ではありません。このため、「完成した資産を別の用途に容易に使用することが実務上制約されている場合(適用指針第10項)」に該当し、企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること(会計基準第38項(3)①)という要件を満たすケースが多いと考えられますが、個々の経済実態に応じて慎重に検討する必要があります。
一定期間にわたり収益を認識する場合には、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積る必要があります(会計基準第41項、第44項)。当該進捗度を見積る方法としては、①アウトプット法と②インプット法があり、顧客に移転する財又はサービスの性質を考慮し、どちらの方法を採用するかを決定します(適用指針第15項)。
①アウトプット法とは、現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積るものであり、現在までに移転した財又はサービスと契約において約束した残りの財又はサービスとの比率に基づき、収益を認識するものです(適用指針第17項)。使用される指標としては、履行を完了した部分の調査、達成した成果の評価、達成したマイルストーン、経過期間等があります。
②インプット法とは、履行義務の充足に使用されたインプットが契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める割合に基づき、収益を認識するものです(適用指針第20項)。使用される指標としては、消費した資源、発生した労働時間、発生したコスト、経過期間等があります。
ただし、映像作品の制作においては、制作途中での脚本の内容変更、原作者等のチェックによる修正などが不定期に発生する可能性があり、制作の初期段階などにおいてはその進捗度を合理的に見積ることが困難な場合もあると考えられます。そのような例外的な場合には、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる時まで、一定の期間にわたり充足される履行義務について原価回収基準により処理する方法を採用することとなります(会計基準第45項)。この原価回収基準とは、履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法をいいます(会計基準第15項)。
映画ビジネス
会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。