5 分 2021年10月8日
女性アスリートが世界に向けて長期的価値を生み出せるようにするには?

女性アスリートが世界に向けて長期的価値を生み出せるようにするには?

執筆者 佐々木 ジャネル

EY Global Women Athletes Business Network Leader, Women. Fast forward

女性アスリートと女性起業家を積極的に支援。Women20(W20)Japanが提言するデジタルインクルージョンに関して大きな影響力を持つ。トランスフォーメーション推進リーダー。経営幹部や企業に対して人材に関する助言をグローバルに行っている。

5 分 2021年10月8日

メンタリングにより、女性アスリートがスポーツで培ったスキルや専門知識の活用を通じて、ビジネスと社会に長期的価値をもたらすことが可能になります。

要点
  • 方向性と戦略を定めるサポートを行うことで、新しいアイデンティティーと目標を設定する手助けをします。
  • 新しい思考方法と視点を身につけ、イノベーションや枠にとらわれない考え方を促進します。
  • 集団としての共有の経験やつながりにより、女性アスリートが頼れるサポートコミュニティーはさらに強化されます。

女性アスリートとリーダーシップに関する前回の記事「日本の女性アスリートが起業家精神を発揮するには?」では、女性アスリートがスポーツから引退した後のキャリアにおいて、またはスポーツと両立しながらビジネスで成功を収めるためにはどのように起業家精神を発揮できるかについて取り上げました。今回はEY Women Athletes Business Network (WABN)で提供しているメンタリング(育成・指導)に焦点を当てています。メンタリングは、目標を達成するための手助けとなるだけではなく、ビジネスと社会に長期的価値を還元するためのツールキット(思考プロセスや分析など手法をまとめたもの)を女性アスリートに授けてくれるという点をお話しします。

どのような分野のプロフェッショナルでも、相談できるメンターを持つことで短期的・長期的な視野で価値あるキャリアアップの実現に近づきます。経験豊富で影響力のあるサポート役は信頼できるアドバイスを授けてくれるだけでなく、個人としての成長まで促してくれるものです。

スポーツ界からビジネス界へとキャリアチェンジをする女性アスリートにとって、メンターは人生を一変させる存在です。メンタリングがWABNの根幹にあるのはまさにこのことが理由です。EYは次世代のビジネスリーダーの育成に取り組んでおり、メンターと参加アスリートの関係こそ、女性アスリートに特有の自信、ひたむきさ、情熱と熱意、リーダーシップ、そして立ち直る力(レジリエンス)を発揮する鍵なのです。

WABNでは、潜在的なリーダーシップを育成するために1年間のプログラムを女性アスリートへ提供しています。プログラムの参加者はメンターから細かく指導を受け、競技におけるキャリアで収めた成功に匹敵するような成功を、第2のキャリアで、また現役アスリートの場合は競技との両立が可能になるサポートを得られます。では、女性アスリートがビジネスで輝くために、メンター指導するのはどのようなことでしょうか。

方向性と戦略

女性アスリートのアイデンティティーはスポーツと強い結びつきをもっていることが多いため、引退後に自分には何ができるのか、どのような方向に進めばいいのかなど、スポーツからビジネスへの転向に苦労することがあります。

EY Global Entrepreneurship LeaderでWABNのメンタリングプログラムにおいてメンターを務めるStasia Mitchellは、この転向が女性アスリートにとって「大きなチャレンジであるとともに大きなチャンス」であると言います。女性アスリートにはいくつもの機会が与えられることが多く、そうした機会において女性アスリートは持ち前の「勇気と好奇心」のおかげで成功できるものの、それは適切なサポートがある場合に限るとMitchellは語ります。

Mitchellがメンタリングを提供するアスリート(メンティー)は、パラリンピック競泳選手の、Annabelle Williamsさんです。MitchellはWilliamsさんを「自発的にやる気があり、目標指向的で成功に向かって動き出すことができる状態にあり、かつ強い決意とレジリエンスを持ち、失敗しても対処できる」人であると評しています。このような性質はどの組織でもトップの業績を収める人の本質です。キャリア戦略について指導し、最善の方向を見いだすために時間とエネルギーをかけるよう勧めれば、WilliamsさんがビジネスでもトップになれるとMitchellは信じています。

Annabelle Williamsさん 画像

Annabelle Williamsさん

ロンドン2012パラリンピック競技大会でオーストラリア代表として金メダルに輝いたWilliamsさんは、Mitchellから深い自信を持つことを学び、トップアスリートとしてのアイデンティティーを積極的に受け入れるよう促されたと話します。法人顧問弁護士、講演者、スポーツ解説者、事業主であり、そして各種スポーツ関連の組織で9つものトップの役職に就いているWilliamsさんは、将来の方向性を検討し、リーダーとしていかにあるべきかということをより厳しい目で考えられるようになりました。

「WABNのおかげで、他者の考えに関係なく、私自身が事業判断をしなくてはならないと分かるようになりました」とWilliamsさんは言います。「相手の性格によってどのようなコミュニケーション方法が最適なのかが分かるようになり、また枠にとらわれない考え方ができるようになりました。これにより、事業においても個人としても確実に成長しました」

新しい思考方法と視点

同じくWABNのメンタリングプログラムに参加した山田明季さんは、東京2020オリンピック競技大会日本代表のホッケー選手。山田さんは、メンターの助けにより自分自身のポテンシャルを理解できるようになったと話します。山田さんがWABNに参加するようになったのは、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックのためトレーニングが中止された時です。何カ月もホッケーができない状態が続き、競技から引退した後にビジネスや社会に意義ある貢献をしたいという夢を持つようになりました。しかし、その夢を実現するための方法に悩んでいたのです。

 

山田明季さん 画像

山田明季さん

「ホッケー以外の経験がないので、キャリアをゼロから始める必要があると思っていたのです。でも、メンターからスポーツ界でのキャリアをビジネス界に流用する方法を教えてもらいました」と山田さんは言います。「私には私だからこそ積んだ独特の経験があり、それを有効活用できることを学びました」

山田さんにとって、セカンドキャリアで成功を収めることは自分より若い世代のロールモデルになることでもあります。これは、より多くの女性アスリートがビジネス界や起業家に転向するために重要なことだと山田さんは考えます。

メンタリングなどを通じてロールモデルを作ることは、日本のジェンダーギャップを縮め、ジェンダー平等を促進するという、EYの長期的な目標の重要な要素でもあります。

社会にこのような影響を及ぼす可能性を秘めているWABNは、EYの考える長期的価値の構想と「深く通じるところがある」と、EY Japanリージョナル・アカウンツ・リーダー/LTV推進室リーダーでAsia-Pacificサステナビリティ・リーダーの瀧澤徳也は話します。

瀧澤はメンターとしてWABNのこのプログラムに参加するようになって以来、プログラムを通じて女性アスリートの思考方法がビジネスで成功するべく変化していくのを目の当たりにしてきました。

「女性アスリートが共通して持っているスキルに、メンタル面・フィジカル面でのタフさがあります。彼女たちがスポーツで培った独自の経験と専門知識を新しいチャレンジに向けられれば、目標を達成するためのとてつもない原動力を持つことになります」と瀧澤は語ります。

団結力と共有することから得られる力

ウエイトリフティング競技のオリンピアンである齋藤里香さんの場合、競技から引退後の仕事について自由に想像し、ビジネス界のノウハウを習得できたきっかけはWABNでした。グローバルのプログラムに日本代表として選出され、メンターや世界各国から参加しているアスリートと交流しました。

齋藤さんは、同じような状況にあるほかの参加アスリートと体験談や洞察を共有することにより、自分が直面している難題はほかの人も直面していることがわかりました。そして視野が広がる一方で女性同士の連帯感を抱くようになりました。

齋藤里香さん 画像

齋藤里香さん

「人生には万人共通のことがあるのだと実感し、ほかの参加者のおかげで成功への意欲がかき立てられました。私をサポートしてくれる力強い仲間が世界中にいるような気がするのです」と齋藤さんは話します。

ノウハウやスキル、仕事への取り組み方について意見を交換することで、アスリートもメンターも同じように学ぶところがあります。WABNは、三人寄れば文殊の知恵ということわざの実証と言えます。

EY新日本有限責任監査法人のパートナーで、WABNエグゼクティブスポンサーの工藤陽子によると、このプログラムはメンターを務めるEYのプロフェッショナルとアスリート自身が、今日そして将来、社会の「チェンジメーカーになれる」ことを意図していると言います。

「私たちメンターは、起業家精神、リーダーシップ、ネットワーキング、目標設定などについて女性アスリートにサポートを提供します。しかし同時に、私たちは女性アスリートから素晴らしいエネルギーをもらっています。双方にメリットがありますね。メンターとアスリートは互いから学ぶことが多いのです」と工藤は語ります。

Mitchellもこれにうなずきます。メンターを務めることにより、独自の観点を持つWilliamsさんと「想定シナリオを展開することの効果」を通して自分自身も成長できたと語ります。Williamsさんはキャリアと人生の両面で方向性を見定めるのに役立ったと話し、2人ともメンタリングに意義を感じています。

WABNは、ジェンダー平等とより良い社会の構築を推進するEYのエコシステムにおけるほんの一部に過ぎませんが、WABNの影響は何倍にも増していくことでしょう。EYはこのメンタリングプログラムを長期的に展開することに尽力していきますが、工藤はWABNを持続させるためにもこれは重要なことだと語ります。

このような長期的価値を内包するメンタリングプログラムのおかげで、WABNの卒業生はビジネスで成功を収めるための準備を整えており、メンターとアスリートの関係から今後も長きにわたって価値を得ていくことでしょう。

サマリー

WABNのメンタリングプログラムは、女性アスリートが事業で成功し、世界のチェンジメーカー(改革を起こす人)になるための育成の場です。戦略、思考方法、団結力についてメンターからアドバイスを受けることにより、メンタリングを受けるアスリートはスポーツ界から引退した後も、社会に長期的価値を還元できるような能力を身につけ、意欲を高めることが可能になります。

この記事について

執筆者 佐々木 ジャネル

EY Global Women Athletes Business Network Leader, Women. Fast forward

女性アスリートと女性起業家を積極的に支援。Women20(W20)Japanが提言するデジタルインクルージョンに関して大きな影響力を持つ。トランスフォーメーション推進リーダー。経営幹部や企業に対して人材に関する助言をグローバルに行っている。