7 分 2021年7月13日
⽇本の⼥性アスリートが起業家精神を発揮するには︖

日本の女性アスリートが起業家精神を発揮するには?

執筆者 佐々木 ジャネル

EY Japan コーポレート・レスポンシビリティリーダー

次世代・起業家支援、Women20 Japan、デジタルインクルージョンに熱意を注ぐ。グローバルな取り組みを地域に合わせ推進。

7 分 2021年7月13日

女性アスリートには起業家としてリーダーシップを発揮する「素質」があり、社会に長期的価値を提供します。

要点
  • スポーツ界で成果を収めた女性アスリートは成功しているビジネスオーナーが持つ資質において多くの共通点を持ち合わせおり、起業家として有望です。
  • Women Athletes Business Network(WABN)ではビジネス界に転向する女性アスリートを応援するために、自身のスキルと価値に対する認識を高める取り組みを展開しています。
  • メンタリングは女性アスリートがビジネスで成功するための自信、方向性、知識を獲得する上で重要な役割を果たします。

日本の女性アスリートが起業家精神を発揮するには?

「アスリートは優秀な起業家になる」――この説には正当な根拠があります。アスリートの性格的な特質や勝利へのこだわりは、成功しているビジネスオーナーの特徴でもあるのです。

2017年のEYのグローバル調査「女性アスリートが起業家として成功する理由」で、起業家は自分の事業を立ち上げ拡大する上で有利に働いたトップアスリート特有の性質として以下の5つを挙げています。 

  • 自信
  • ひたむきさ
  • 情熱と熱意
  • リーダーシップ
  • 立ち直る力(レジリエンス)

YEC(Young Entrepreneur Council)が協力した2020年のForbes誌 1 の記事によると、ビジネスオーナーにも類似の特質があり、揺るがない仕事倫理、深い情熱、創造力、目標達成を原動力とする自主性、おうような態度、学ぶことに貪欲といった特質に触れています。

起業家として成功している女性アスリートはこの仮定が正しいことを教えてくれます。例えば、サッカー日本代表としてオリンピックに出場した東明有美さんは、ビジネスコンサルティング会社「Pass & Go」を設立しています。また、探検家グランドスラム(北極点・南極点到達、7大陸最高峰登頂)を史上最年少で達成した女性登山家の南谷真鈴さんは、経営コンサルティングエージェンシー「エムプランニング」の創業者です。

ところが、EYによる2020年のグローバル調査「フィールドを離れて」に答えた日本の女性アスリートのうち、スポーツから第2のキャリアへのシフトを「簡単」と回答した割合は4%にすぎません。これに対し、全世界を対象とする調査では3人に1人が「簡単」と回答しています。

では、日本の女性アスリートが競技生活から引退して、起業家になるにはどうしたらよいのでしょうか。さらに発展させて、現役中からスポーツとビジネスの両立意識をアスリートに植え付けるために何ができるでしょうか。

わずか

4%

スポーツ界から第2のキャリアへの転向が「簡単」と回答した日本の女性アスリートの割合

アスリートをたたえ、やる気にさせる

女性アスリートが起業家になるには主に2つのハードルがあります。1つ目はビジネス界で彼女たちの潜在能力が過小評価される傾向にあること、2つ目はスポーツ以外で自分の価値に気付いていないことです。

前述のEYが行った2020年の調査では、アスリートが所属する組織に対しての貢献度が分からないと答えた一般従業員の割合は45%に上りました。このようにアスリートへの理解が不十分である結果から判断すると、女性アスリートは起業のための十分なサポートを得られていない可能性があると言えます。例えば、事業開発の組織づくりや資金調達手段、または仕事上のネットワークを活用できなかったり、育成者や投資家から助言を得られなかったりする場合があります。

一方で女性アスリート自身もスポーツで達成した業績をビジネスに生かすのは難しいと感じています。スポーツをしていたときと同様にリーダーシップを発揮することができず、個人的な成長を継続的資産として捉えることもありません。要するに、企業に提供できる自分の価値に気付かないことが多く、自分のスキルがいかに転用可能であるかも分かっていません。ましてや、それがセールスポイントになるとは考えもつきません。

日本においてはこの傾向が際立っており、前述のEYによる2020年の調査によると、スポーツ選手としての経験が他のキャリアでも生かせるスキルになると回答した日本人女性アスリートは53%で、全世界の回答率の85%と大きなギャップがあります。このギャップの理由は明確ではありませんが、経済的、社会的、文化的な要因があると考えられます。

日本女性の経済的貢献度は学歴の高さにかかわらず低水準です。世界経済フォーラムが世界の男女格差についてまとめた「Global Gender Gap Report 2021(世界男女格差報告書2021年版)」2で日本は156カ国中120位にとどまっています。日本の教育制度では創造力よりも記憶力が優先され、メディア界で活躍しているロールモデルもあまり見当たりません。仕事上のネットワークが他の国と比較して限定的であることもビジネスでの潜在能力や起業機会に対する認識不足の一因となっています。

スポーツ選手としての経験が他のキャリアでも生かせるスキルになると回答した日本と海外のアスリートの差

⽇本のアスリートの結果

53%

にとどまる

海外のアスリートの結果

85%

と高い回答率

メンターの力

EYのWABNプログラムでは、スポーツ界から引退後またはスポーツとビジネスの両立に取り組む中で、ビジネス界や起業活動に転向する女性アスリートを支援しています。

メンタリング(育成・指導)はWABNの活動で重要な位置を占めています。体系的かつ包括的なセッションを通じて、メンターであるビジネスリーダーから幅広いトピックに関して貴重な助言が受けられます。例えば、長所の理解、目的の発見、リーダーシップスキルの強化、人脈の拡大、キャリア目標の設定、独創的な考え方などのトピックがあります。また、具体的なフィードバックが受けられ、知識共有と問題解決の機会も得られます。

このアプローチは成果を生み出しています。2021年度のWABNグローバルメンタリングプログラムに参加している優秀な15名のアスリートのうち自分の事業を経営しているか、起業に興味を持つ割合は60%に上りました(2018年の24%から大幅に上昇)。

WABNグローバルメンタリングプログラムに参加しているアスリートに聞いた起業への関⼼度

2018年は

24%

にとどまる

2021年は

60%

にまで上昇

このグローバルプログラムに参加した日本人アスリートは国際的な思考方法と異文化理解を高める一方、自信、目的意識、理想の目標を獲得しており、成功に必要な要素と利用可能なビジネス機会に対する意識も向上しています。

プログラムへの参加は「貴重な資産」であり、メンターから「ビジネス界で輝くための決断力と知識」を与えられたと東明有美(上述)さんは語ります。

アイスホッケー元日本代表選手の高嶌遥さんもこの意見に同意。メンターと過ごした時間を自分の「宝物」と表現し、プログラムに参加したことで自分の目標を達成するためにやるべき事柄に対して「より前向きな見通し」を持ち、「明確なビジョンが描ける」ようになったと付け加えます。

2020年末の評価では、日本のWABNメンバーの85%はメンターにより自身の仕事と私生活が向上し、73%はキャリア目標が明確になったとの回答があります。

明るい未来

ジェンダーの平等を含む持続可能な開発目標 3 の達成が目指される中、日本では女性の起業を奨励する取り組みに追い風が吹いています。この目標は女性の起業促進を盛り込んだ女性関連方針の提言を提案した公的関与グループ「W20(Women 20)」がG20(金融世界経済に関する首脳会合)に対して表明した2019年の共同宣言4が基盤となっています。

 

EYができること

EY Women Athletes Business Network (WABN)

EYでは、女性アスリートがスポーツ分野で達成した成果をビジネス分野にも生かすことができると考えています。女性アスリートは目標達成力が高く、影響力の大きいリーダーであり、チームプレイヤーでもあるため、スタートアップ・エコシステムに大きな価値をもたらします。WABNでは、女性アスリートが新しいアイデアを得て、未知の領域に挑戦し、目的発見に集中できるよう支援する取り組みを通じて、彼女たちの起業家精神を目覚めさせることができるよう願っています。

EYの2020年のグローバル調査に関するお問い合わせ先:
 EY Women Athletes Business Network (WABN)
 email

 

サマリー

起業とアスリートの両立は困難と感じがちですが、EYのWABNではスムーズな転向を支援します。実用的サポートと助言を提供するメンターと女性アスリートを引き合わせることで、潜在能力を引き出し、スポーツ分野での成果をビジネスの成果に転換できるよう取り組んでいます。

この記事について

執筆者 佐々木 ジャネル

EY Japan コーポレート・レスポンシビリティリーダー

次世代・起業家支援、Women20 Japan、デジタルインクルージョンに熱意を注ぐ。グローバルな取り組みを地域に合わせ推進。

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