令和6年度税制改正大綱~金融・不動産関連税制

Japan tax newsletter 2024年1月22日号

2023年12月14日に自由民主党・公明党より令和6年度税制改正大綱が公表されました。

本ニュースレターでは、令和6年度税制改正大綱のうち、金融・不動産関連税制に特有の主な改正点について紹介します。

なお、令和6年度税制改正大綱の全体的な概要については、2024年1月16日付EY Japan tax newsletter「令和6年度税制改正大綱(詳細版)」をご参照ください。

本ニュースレターの内容については、今後の国会における法案審議の過程において、変更される可能性がある点にご留意ください。

目次

  1. 金融・証券税制関連
  2. 不動産関連税制
  3. 法人課税
  4. 国際課税
  5. その他

1. 金融・証券税制関連

(1)ストックオプション税制1の見直し

① 株式保管委託要件

適用対象となる新株予約権に係る契約の要件について、「新株予約権を与えられた者と当該新株予約権の行使に係る株式会社との間で締結される一定の要件を満たす当該行使により交付をされる株式(譲渡制限株式に限る。)の管理等に関する契約に従って、当該株式会社により当該株式の管理等がされること」との要件を満たす場合には、「新株予約権の行使により取得をする株式につき金融商品取引業者等の営業所等に保管の委託等がされること」との要件を満たすことを不要とすることとされます。

② 新株予約権の行使に係る年間権利行使価額の限度額

・設立の日以後の期間が5年未満の株式会社が付与する新株予約権については、当該限度額を2,400万円(現行:1,200万円)に引き上げます。

・一定の株式会社が付与する新株予約権については、当該限度額を3,600万円(現行:1,200万円)に引き上げます。

(注)上記の「一定の株式会社」とは、設立の日以後の期間が5年以上20年未満である株式会社で、金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社以外の会社又は金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社のうち上場等の日以後の期間が5年未満であるものとされます。

③ 特定従事者に係る要件

中小企業等経営強化法施行規則の改正を前提に、適用対象となる特定従事者に係る要件について次の見直しが行われます。

・認定新規中小企業者等に係る要件のうち「新事業活動に係る投資及び指導を行うことを業とする者が新規中小企業者等の株式を最初に取得する時において、資本金の額が5億円未満かつ常時使用する従業員の数が900人以下の会社であること」との要件が廃止されます。

・社外高度人材に係る要件について、「3年以上の実務経験があること」との要件を、上場企業の役員については「1年以上の実務経験があること」とし、国家資格保有者等については廃止することとされます。

・社外高度人材の範囲に、非上場企業の役員経験者等が追加されます。

④ 権利者が新株予約権に係る付与決議の日において当該新株予約権の行使に係る株式会社の大口株主等に該当しなかったことを誓約する書面等の提出に代えて、電磁的方法により当該書面等に記載すべき事項を記録した電磁的記録を提供できることとする等、所要の措置を講ずる。

⑤ その他所要の措置を講ずる。

(2)エンジェル税制に関する措置

特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除等及び特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除等2について、次の措置を講ずることとされます。

① 適用対象となる特定新規中小企業者に該当する株式会社等により発行される特定株式の取得に要した金額の範囲に、当該特定株式が当該株式会社等により発行された一定の新株予約権の行使により取得をしたものである場合における当該新株予約権の取得に要した金額を加える。

② 中小企業等経営強化法施行規則の改正を前提に、適用対象に、特定新規中小企業者に該当する株式会社等により発行される特定株式を一定の信託を通じて取得をした場合を加える。

③ 本特例の適用を受けた控除対象特定株式に係る同一銘柄株式の取得価額の計算方法について、特定新規中小会社が発行した株式を取得した場合の課税の特例の適用を受けた控除対象特定新規株式に係る同一銘柄株式の取得価額の計算方法と同様とする見直しを行う。

(3)トークン化社債等に係る税制措置

公共法人等及び公益信託等に係る非課税及び金融機関等の受ける利子所得等に対する源泉徴収の不適用の適用対象3に、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する社債等であって、金融商品取引業者等によって一定の要件を満たす方法により管理されるものの利子等を加えることとされます。

特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等(租税特別措置法第29条の2)
租税特別措置法第37条の13及び租税特別措置法第37条の13の3
3 所得税法第11条及び租税特別措置法第8条

金融機関等の受ける利子所得等に対する源泉徴収の不適用制度において、社債に関しては社債、株式等の振替に関する法律に規定する振替口座簿で記録される公社債が対象とされているところ、今回の改正において電子記録移転有価証券表示権利等(セキュリティトークン)に係る当該不適用制度の対象となる管理方法の要件について今後制定される法令・通達の内容を確認する必要があると考えられます。

(4)NISA4の利便性向上

① 廃止通知書に関する措置

・金融商品取引業者等は廃止通知書を電磁的方法により提供できることとされます。

・非課税口座を開設し、又は開設していた居住者等は、廃止通知書又は非課税口座開設届出書を電磁的方法により提出等ができることとされます。

② 非課税口座内上場株式等について与えられた一定の新株予約権の行使等に際して金銭の払込みをして取得した上場株式等に関する措置

・当該上場株式等は、次の要件を満たす場合に限り特定非課税管理勘定に受け入れることができることとされます。

・非課税口座が開設されている金融商品取引業者等を経由して払込みをすること。

・金融商品取引業者等への買付けの委託等により取得した場合と同様の受入期間及び取得対価の額の合計額に係る要件その他の要件を満たすこと。

・ 当該上場株式等が、非課税管理勘定又は特定非課税管理勘定に受け入れることができる非課税管理勘定又は特定非課税管理勘定に係る上場株式等の分割等により取得する上場株式等の範囲から除外されます。

・当該上場株式等が、特定口座に受け入れることができる上場株式等の範囲に加えられます。

③非課税口座内上場株式等の配当等に係る金融商品取引業者等の要件

国外において発行された株式の配当等に係る支払の取扱者でその者に開設されている非課税口座において当該株式のみを管理していることその他の要件を満たす場合には、口座管理機関に該当することとの要件が不要とされます。

④ 上場株式投資信託の受益者に対する信託報酬等

・累積投資上場株式等の要件のうち上場株式投資信託の受益者に対する信託報酬等の金額の通知に係る要件が廃止されます。

・特定非課税管理勘定で管理する公募株式投資信託については、当該特定非課税管理勘定に係る非課税口座が開設されている金融商品取引業者等は、その受益者に対して、当該公募株式投資信託に係る信託報酬等の金額を通知することとされます。

⑤ その他所要の措置が講じられます。

(5)特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例等5

特定口座に受け入れることができる上場株式等の範囲に、居住者等が金融商品取引業者等に開設する非課税口座及び特定口座に係る同一銘柄の上場株式等について生じた株式の分割等により取得する上場株式等(当該非課税口座又は特定口座に受け入れることができるものを除く。)を加えることとされます。

(6)支払通知書の交付

次に掲げる書類又は書面の交付又は通知をする者が、その交付等を受ける者に対し、その交付等に代えてこれらの書類等に記載すべき事項を電磁的方法により提供するための要件であるその交付等を受ける者の承諾手続に、その交付等を受ける者に対し期限を定めてその承諾を求め、その交付等を受ける者がその期限までにこれを拒否する旨の回答をしない場合には、その交付等をする者はその承諾を得たものとみなす方法を加えることとされます。

① オープン型証券投資信託の収益の分配の支払通知書

② 配当等とみなす金額に関する支払通知書

③ 通知外国所得税の額等が記載された書面

④ 上場株式配当等の支払通知書

⑤ 特定口座年間取引報告書

⑥ 特定割引債の償還金の支払通知書

⑦ 控除外国所得税相当額等が記載された書面

4 非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置(租税特別措置法第9条の8及び第37条の14)
5 租税特別措置法第37条の11の3

2. 不動産関連税制

(1)土地に係る固定資産税等の負担調整措置

固定資産税及び都市計画税は3年毎に行われる土地の評価替えにより翌年以降3年間の課税標準額が決定されますが、地価の急激な上昇による税負担の急増を緩和するため、商業地等に負担調整措置が設けられています。この負担調整措置につき適用期限が3年延長されます(2027年3月31日まで)。

(2)住宅用家屋の所有権保存登記等に対する登録免許税の軽減措置の延長

住宅用家屋の所有権の保存登記若しくは移転登記又は住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限が3年延長されます(2027年3月31日まで)。

(3)不動産取得税の特例措置の期限の延長

宅地評価土地の取得に係る不動産取得税の課税標準を価格の2分の1とする特例措置の適用期限が3年延長されます(2027年3月31日まで)。

住宅及び土地の取得に係る不動産取得税の標準税率(本則4%)を3%とする特例措置の適用期限が3年延長されます(2027年3月31日まで)。 

(4)不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例措置

不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例措置の適用期限が3年延長されます(2027月年3月31日まで)。

3. 法人課税

(1)第三者保有の市場暗号資産の期末評価額

第三者が保有する市場暗号資産で譲渡制限その他の条件が付されている暗号資産の期末における評価額は、原価法又は時価法による評価方法のうちその法人が選定した評価方法により計算した金額とするほか、所要の措置を講ずることとされます。

(注1)上記の「譲渡制限その他の条件が付されている暗号資産」とは、次の要件に該当する暗号資産とされます。

① 他の者に移転できないようにする技術的措置がとられていること等その暗号資産の譲渡についての一定の制限が付されていること。

② 上記①の制限が付されていることを認定資金決済事業者協会において公表させるため、その暗号資産を有する者等が上記①の制限が付されている旨の暗号資産交換業者に対する通知等をしていること。

(注2)上記の評価方法は、譲渡についての制限その他の条件が付されている暗号資産の種類ごとに選定し、その暗号資産を取得した日の属する事業年度に係る確定申告書の提出期限までに納税地の所轄税務署長に届け出る必要があります。なお、評価方法を選定しなかった場合には、原価法により計算した金額をその暗号資産の期末における評価額とすることとされます。

出典:金融庁「令和6(2024)年度税制改正について-税制改正大綱における金融庁関係の主要項目」、www.fsa.go.jp/news/r5/sonota/20231222-7/01.pdf(2024年1月15日アクセス)

今回の税制改正により、短期売買とは異なる事業目的で保有する場合についての取扱いが措置されることで、ブロックチェーン技術を用いたサービスや事業開発等が一層促進されるものと期待されます。なお、譲渡についての一定の制限の内容については今後制定される法令等の内容を確認する必要があると考えられます。

(2)預金保険法に規定する協定銀行及び承継銀行に係る法人事業税の資本割

預金保険法に規定する協定銀行及び承継銀行に係る法人事業税の資本割の課税標準の特例措置6が2024年3月末で期限が到来することから、その適用期限が5年延長されます。

(3)株式会社地域経済活性化支援機構に係る法人事業税の資本割

株式会社地域経済活性化支援機構に係る法人事業税の資本割の課税標準の特例措置7が2024年3月末で期限が到来することから、その適用期限が5年延長されます。

(4)買戻条件の付された一定の種類株式

買戻条件の付された一定の種類株式について買戻しが行われた場合における譲渡法人の課税上の取扱いを明確化することとされます。

地方税法制定附則第9条第2項
7 地方税法制定附則第9条第11項

4. 国際課税

(1)非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の整備等

暗号資産等を利用した脱税等のリスクが顕在化したことを受け、OECD及びG20での議論を踏まえ、暗号資産交換業者等による非居住者の暗号資産等取引情報の報告制度が整備されます。合わせて非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための制度(いわゆるCRS)についても所要の整備が行われます。
なお、全体的な概要については、別途ご案内するニュースレター をご参照ください。

(2) 過大支払利子税制における超過利子額の繰越期間の延長

過大支払利子税制の適用により損金不算入とされた金額(超過利子額)の損金算入制度について、2022年4月1日から2025年3月31日までの間に開始した事業年度に係る超過利子額の繰越期間が10年(原則:7年)に延長されます。
また、法人住民税及び法人事業税についても、上記の国税の取扱いに準じて所要の措置を講ずることとされます。

(3) 店頭デリバティブ取引の証拠金に係る利子非課税制度の延長

外国金融機関等の店頭デリバティブ取引の証拠金に係る利子の課税の特例の適用期限を3年延長する。

(4) 日本版スクークに係る非課税措置の廃止

非居住者又は外国法人が振替特定目的信託受益権のうち社債的受益権に該当するものにつき支払を受ける剰余金の配当等の非課税措置は、適用期限(2024年3月31日)の到来をもって廃止されます。

5. その他

(1) 支払調書のe-Tax提出義務判定(所得税法・租税特別措置法)

支払調書等の電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法等による提出義務制度8について、提出義務の対象となるかどうかの判定基準となるその年の前々年に提出すべきであった支払調書等の枚数が30枚以上(現行:100枚以上)に引き下げられます。
この改正は2027年1月1日以後に提出すべき支払調書等について適用されます。

e-Tax提出義務の基準となる支払調書枚数が30枚へ引き下げられることに伴い、これまで支払調書等を書類で提出していた金融機関についても今後e-Taxでの提出対応が必要となる可能性がある点に留意が必要です。

(2)所得税法及び租税特別措置法等の規定による本人確認の方法に係る措置

① マイナンバー法9の改正に伴い、国内に住所を有しない個人で個人番号を有するものに係る個人番号を証する書類の範囲に個人番号カードを加えるとともに、その個人番号を証する書類の範囲から還付された個人番号カードを除外することとされます。

② 健康保険法等の改正に伴い、本人確認書類の範囲に、健康保険法に規定する被保険者の資格の確認に必要な書面等を加えることとされます。

③ 特別児童扶養手当等の支給に関する法律施行規則の改正を前提に、本人確認書類の範囲に、特別児童扶養手当受給証明書(仮称)を加えることとされます。

(3) 税務署長へ提出する各種書類様式の整備

税務署長に提出する書類様式について、次の措置を講ずることとされます。なお、この改正は、2026年9月1日以後に提出する書類について適用されます。

① 次に掲げる書類の全ての書式について、国税庁長官が必要がある場合に、所要の事項を付記すること又は一部の事項を削ることができるようにするための所要の整備を行うこととされます。
所得税関係では次の様式及び資産税関係においては次の書類が対象とされます。

・ 障害者等に対する少額貯蓄非課税制度に係る申告書
・ 源泉所得税の徴収高計算書
・ 調書、源泉徴収票、計算書及び報告書
・勤労者財産形成住宅(年金)貯蓄非課税制度に係る申告書
・特定障害者に対する贈与税の非課税制度に係る申告書
・相続税法に規定する調書

② 国税庁長官は、上記①に掲げる書類の書式について所要の事項を付記し、又は一部の事項を削る場合において、当該書類について必要があるときは、日本産業規格に定める用紙の大きさに変更することができることとされます。

(4) 日本版スクークの登録免許税の免税措置

特定の社債的受益権に係る特定目的信託の終了に伴い信託財産を買い戻した場合の所有権の移転登記等に対する登録免許税の免税措置について、適用期限(2024年3月31日)の到来をもって廃止されます。

(5) 新型コロナウイルス感染症に関する特別貸付けに係る消費貸借契約書の印紙税

新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止のための措置によりその経営に影響を受けた事業者に対して行う特別貸付けに係る消費貸借契約書で2024年3月31日までに作成されるものについては印紙税が非課税となっていますが、この非課税措置10の適用期限が1年延長されます。

(6) デリバティブ取引に係る金融所得課税の一体化(検討事項)

デリバティブ取引に係る金融所得課税の更なる一体化については、意図的な租税回避行為を防止するための方策等に関するこれまでの検討の成果を踏まえ、総合的に検討するとされています。

8 所得税法第228条の4。法定調書の種類ごとに、前々年の提出すべきであったその法定調書の提出枚数が100枚以上である法定調書については、e-Tax、光ディスク等またはクラウド等により提出しなければならないとされている。例えば、2022年1月に提出した利子等の支払調書の枚数が100枚以上であった場合には、2024年1月に提出する利子等の支払調書は、e-Tax等により提出する必要がある。
9 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律
10 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律第11条第1項及び同施行令第8条第3項


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