関与経緯
クライアントがグループ内の再編におけるストラクチャーを検討する際に、EYがいくつかのスキーム案を検討し、それぞれのスキーム案にあわせて会計処理を示す形で関与したものです。
事例の概要
100%親子関係の会社間で、グループ内の事業を再編するために親会社(P社)のP1事業を子会社(S1社)に無償で受け渡す(会社分割を利用)スキームです。(100%親子会社間においては、対価を支払わない場合であっても、事業の移転が行われる前後において連結上グループとしての経済的実態が全く変わらないため、このような無対価取引が行われることがあります。)
なお、実際の事例は親会社から子会社への事業の受け渡しですが、子会社から親会社への事業の受け渡しのケースについても会計処理の留意点を説明します。
会計処理のポイント
100%グループ間での組織再編であるため、共通支配下の取引として会計処理することになります。
まず、P社はP1事業をS1社に移転していますが、その対価を受領していないことから、P社において移転事業にかかる株主資本相当額をどのように会計処理するかが問題となります。
また、S1社がS1事業を無対価でP社に移転した場合、S1社の会計処理は上記と同様の問題があるといえます。さらに、当初からP社はS1社の株式を保有しS1社を支配していることから、P社のS1事業に対する投資が回収されたものと考えられ、これが会計処理に影響を与えることとなります。
その結果、それぞれの会社分割において、実態に応じた会計処理が必要になります。
設例による解説
基礎レベル
1. 吸収分割について
会社の一部(事業等)を既存の他の会社に移転させる会社分割をいいます。
2. 共通支配下の取引について
結合当事企業(または事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的ではない場合の企業結合をいいます(企業結合基準16)。
共通支配下の取引は、企業集団内での取引であり、親会社の立場からは内部取引と考えられます。そのため、個別財務諸表上は、事業の移転元の適正な帳簿価額を基礎として会計処理が行われ、連結財務諸表上はすべて消去されることになります。
応用レベル
1. 親会社から100%子会社への無対価会社分割の会計処理について
- 分離元企業(親会社)であるP社の会計処理(個別)
完全親子会社関係にある場合には、対価の有無によって連結グループの経済的実態に影響がありません。そのため、親子会社間で通常の対価を支払うケースと同様に、移転した事業にかかる資産および負債を簿価で移転し、移転した事業の株主資本相当額を変動させる会計処理を行うことになります。(結合分離指針203-2(2)①、233)
- 分離先企業(100%子会社)であるS1社の会計処理(個別)
親会社から受け入れる資産および負債を簿価で計上し、移転事業にかかる株主資本相当額は、親会社が変動させた金額を増加させる資本とします(結合分離指針203-2(2)①、234)。
- 分離元企業(親会社)であるP社の会計処理(連結)
事業の移転取引及び子会社の増資に関する取引は、内部取引として消去します(企業結合基準44)。
(参考) 移転事業が債務超過の際の会計処理について
- 分離元企業(親会社)であるP社の会計処理(個別)
移転する事業にかかる株主資本がマイナス(債務超過)の場合には、まず、事業分離前から保有している子会社株式(S1社株式)の適正な帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上することになります(結合分離指針226参照)。
当該特別勘定は、連結上は相殺消去されますが、個別上では子会社株式(S1社株式)を売却するまで残ることになるため、実務上は開示に与える影響を慎重に検討しながら会社分割のスキームを決定することが必要となると考えられます。 - 分離先企業(100%子会社)であるS1社の会計処理(個別)
移転する事業にかかる株主資本がマイナス(債務超過)の場合には、当該マイナス金額をその他利益剰余金のマイナスとして処理することになります(結合分離指針227参照)。
2. 100%子会社から親会社への無対価会社分割の会計処理について
- 分離元企業(100%子会社)であるS1社の会計処理(個別)
基本的には、親会社から100%子会社への無対価会社分割における分離元企業と同様の処理を行います(結合分離指針203-2(2)③、221、226)。
- 分離先企業(親会社)であるP社の会計処理(個別)
子会社から受け入れる資産および負債を(P社連結上の)簿価で計上し、子会社のS1事業に対する投資については回収されたとみなすことから、移転事業と引き換えられたものとみなされる額を算定したうえで、分割にかかる抱合せ株式消滅差損益を計上します(結合分離指針203-2(2)③、218~220)。
(参考)移転事業と引き換えられたものとみなされる額の算定例
【条件1】
S1社はa事業、b事業、c事業の3事業を営んでおり、a事業をP社に受け渡したものとする。
【条件2】
P社が保有するS1社株式の貸借対照表価額は300とする。
- 分離先企業(親会社)であるP社の会計処理(連結)
事業の移転取引及び親会社において個別上で認識された損益は、内部取引として消去します(企業結合基準44)。
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