EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本対談では前編に続き、グローバル人材採用特化のリクルーティングサービス「Global HR DB」及び企業の海外進出支援AIエージェント「Globalize AI」を展開するPDOLE株式会社 代表取締役の伊賀航氏とEY新日本有限責任監査法人の中務、入山、森川が、地方自治体が果たすべき役割や優良事例から見る実践的な戦略について議論します。
要点
森川:前編では、自治体の課題として戦略の重要性が指摘されました。こうした状況を踏まえ、自治体が企業や外国人材を活用するに当たり、現在直面している課題や今後の懸念点についてどのようにお考えでしょうか。
中務:伊賀様のご指摘のとおり、企業が自治体と連携するメリットをどう見いだすか、また、自治体が地域において発展を目指す産業について企業とどのように協力し、地域内の人材戦略を検討・構築していくかが重要なポイントになると思われます。
特に、待ったなしの対応が求められているエッセンシャルサービスの分野では、どのように協力体制を築くかが今後の焦点となるでしょう。さらに、財政面の課題も避けては通れません。自治体が継続的に予算を確保するのは難しく、国の補助金をいかに活用するかもポイントです。そのため、自治体と企業の連携をサポートする専門家を早い段階で巻き込み、戦略的に取り組むことが成功の鍵になると言えるのではないでしょうか。
森川:地方自治体の外国人材受け入れに関して、参考となる事例には、どのようなものがありますか。
入山:静岡県、大分県、福井県の3つの事例をご紹介します。
まず、静岡県では高度人材の採用を促進するため、県内企業と海外の高度人材を結び付ける合同就職面接会を実施しています。この事業の特徴は、対象を明確に絞り込んでいる点です。県内企業が日本人エンジニアの採用に苦戦し、競争力の低下が懸念される中、国籍を問わず優秀な人材を採用する動きが強まりました。しかし、採用ノウハウが不足している企業も多かったため、その課題を解決する目的で本事業が開始されました。
対象国は、県と友好関係にあるモンゴル、インドネシア、さらに県内企業のニーズが高いベトナムの3カ国。韓国の駐在事務所や東南アジアの事務所など既存のリソースを効果的に活用し、効率的な採用活動を展開しています。さらにインドとネパールを対象とした就職面接会も実施しています。
大分県では、立命館アジア太平洋大学(APU)の留学生が多数在籍していることを踏まえ、県内定着を促す施策を展開しています。大分留学生ビジネスセンターを通じて、就職だけでなく起業も含めた支援を提供。これにより、留学生の起業が増加し、県外からの流入が活発化しました。結果として、日本人を含めた雇用の創出にもつながり、地域経済の好循環が生まれ始めています。
福井県では、建設業の有効求人倍率が約10倍と高く、人材不足が深刻化していました。そこで、技能実習生や特定技能の外国人材を対象に「建設産業外国人労働相談センター」を開設。この地域ではもともと製造業が盛んで、外国人の受け入れが進んでいたため、既存の外国人コミュニティのネットワークを活用し、情報提供を強化。結果として、円滑な人材活用が進みつつあります。
伊賀氏:当社でも、静岡県浜松市で製造業を営む企業を支援した実績があります。グローバル展開を進める中、多数の外国人材を採用した事例です。
この取り組みで特筆すべきは、中途採用の対象を、MBA取得者を中心としたアジア人で絞った点です。成功の要因として、3つのポイントが挙げられます。
これら3つが複合的に作用し、採用のみならず経営全体にもプラスの影響をもたらしました。
森川:PDOLE社が企業支援を行う中で、従業員側と企業側の認識のズレや課題を感じた部分はありますか。
伊賀氏:最も大きな課題は、日本の制度がグローバルスタンダードに追いついていない点です。海外では給与が毎年上がるのが一般的な考え方であり、また、年功序列の日本の制度に強い違和感を覚える外国人が少なくありません。一方で、こうした制度からいち早く脱却した企業には、優秀な人材が集まる傾向にあります。
森川:自治体によっては高度人材の海外採用に苦戦するケースもあります。現状の課題と、それを解決するためにはどのようなポイントがありますか。
中務:まず、最も意識しなければならないことは、自治体が地域経済ならびに企業のニーズを正しく把握し、それに基づいた人材戦略を設計することです。先ほど話にも出ましたが、「人手不足だから外国人材が必要」という発想だけでは成功しません。各企業のビジネスモデルや成長戦略を理解し、それに即した人材活用が求められます。企業と自治体がどのように寄り添い、協力関係を築くかがポイントです。
伊賀氏:採用プロセスはマーケティングと同様で、どのチャネルを活用するかが鍵になります。国ごとに効果的な広告の手法は異なるため、まずは最適なチャネルを早期に見極めることが重要です。また、特定の事業者や現地人材サービスを活用し、先に種をまいた上で現地にて採用活動を展開する。加えて、日本の文化的な魅力と働く環境をうまく組み合わせ、外国人材に訴求するコンテンツを作ることも考えていく必要があるでしょう。
中務:まさに私たちも現在、ある業界団体を支援する中で、インドネシアの方々に対して遡及するコンテンツは何か、効果的なチャネルはどういったものかを検討している段階です。国や対象とする方々によって適したコンテンツと発信手法を考えるのはとても大事な視点だと思います。
中務:外国人材も人的資本の重要な要素であり、EYでは企業の人的資本経営を総合的に支援しています。具体的には、企業における人的資本をどう考えるかといった点から、情報開示の方法、人材戦略の策定・実行まで、一貫したサポートを提供しています。また、地方自治体に対しては、少子化や地域産業の状況、人材に関わる定量指標を基に、教育、医療、商業施設といった生活基盤の現状分析や課題整理を行い、適切な施策の提案・実施を支援しています。
さらに現在、特定技能制度を活用する業界団体に対し、人材不足の解消や海外展開を見据えた外国人材の活用支援を行っています。
伊賀氏:当社はグローバル分野に強みを持ち、大きく2つの事業を展開しています。
森川:外国人材の活用や支援をさらに進めていくために、われわれはどのような協力ができるでしょうか。
入山:EYは官公庁や業界団体、地方自治体など、マクロな視点での支援を強みとしています。一方、PDOLE社は個別企業や人材に特化したミクロなアプローチに強みを持たれています。それぞれの特性を生かすことで、新たな価値を生み出せるのではないかと考えています。
伊賀氏:EYは広範なネットワークと豊富なコンサルティング実績をもとに、高い信頼性を築いています。双方が協力することで、より大規模な組織との連携や国境を超えたスキームの構築が可能になり、社会変革のきっかけになればと考えています。
中務:EYは「Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)」というパーパス(存在意義)を掲げ、社会変革に向けた支援を推進しています。自治体や企業が連携し、課題を正確に把握しながら戦略を立て、実行する――その過程において、EYのみでは対応が行き届かない部分もあります。異なる視点や専門性を持つ組織の連携により、社会変革へ向けて新たな一歩を踏み出せることを期待しています。
外国人材の活用を成功させるには、自治体側が企業側のニーズを把握した上で密接な連携を築くことが不可欠です。また、企業側も採用して終わるのではなく、その後の定着までを見据え、グローバルスタンダード化に向けた改革を行う必要があります。
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