木製の表面で繁茂する盆栽を手入れする男性

プライベートエクイティにおいて、ポートフォリオ企業の財務部門はいかにしてより大きな価値を生み出せるか

ポートフォリオ企業では、価値創出に寄与する実効性の高い財務部門を構築することが、これまでになく重要になっています。


要点

  • PE投資先企業の間では、投資家の期待に応え、価値を創出するためには、特に初期段階に財務部門に投資することが不可欠だという認識が高まっている。
  • 価値創出に寄与する実効性の高い財務部門を構築するには、組織、人材、文化、プロセスの簡素化、データ管理、テクノロジーといった領域に重点的に取り組む必要がある。
  • PE投資先企業の財務部門を変革するには、短期間で段階的に改善を重ねることが、迅速に大きな成果を上げる上で最も効果的である。

プライベートエクイティ(PE)のポートフォリオ企業では、財務部門を率いるリーダーに対して、これまで以上に高度な対応力と判断力が求められています。その中心的役割を担うCFOは、投資家の期待に応え、価値創出計画(VCP)を遂行し、ガバナンス上の責任を果たすという3つの任務を常にバランスを取りながら進めていく必要があります。絶え間なく変化する市場環境の中で、安定的にリターンを確保し、企業価値を最大化しなければならないというプレッシャーがCFOに重くのしかかる中、その役割はこれまで以上にストレスと複雑さを伴うものとなっています。 

CFOからは、「なぜこれほどまでに難しいのか?」、「データやツールが進化しても、実行のハードルは依然として高く、優先順位の判断が難しい」といった声がよく聞かれます。

こうした状況を踏まえると、CFOにとっては、成長機会の創出やコスト効率の向上を促進し、信頼性の高いデータとインサイトを適時に提供できる強固な財務運営体制を確立することが極めて重要となります。これにより、財務部門は、VCPによる財務的成果や継続的な業務パフォーマンスの実現に向けた意思決定とその遂行に、自信を持って取り組むことができます。

PEのディールチームは、財務部門を価値創出の重要な推進力として捉え、その有効性と効率性を高めるための改善機会をこれまで以上に積極的に模索しています。それゆえ、新規買収の際には、財務部門において変革が急がれる領域を特定し、それらをVCPに組み込むことで、財務部門が財務的価値を確実に創出できるようにしたいと考えています。

価値創出に寄与する実効性の高い財務部門を構築する際に、すべての面で完璧を追求する必要はありません。CFOに求められるのは、自社のビジネスモデルと価値創出要因に基づき、投資すべき領域を厳密に見極め、優先度を的確に判断することです。また、成長と収益性を高める上で欠かせない重要な能力を財務チーム内で醸成・維持することも不可欠です。卓越性が求められるプロセスと一定水準で十分なプロセスとを的確に見極めることで、リソースをより効率的に配分することが可能になります。

EYのプロフェッショナルチームでは、これまでのクライアント支援の経験を踏まえ、PE企業に対して「アジャイル型の財務変革」を推奨しています。これは、高い効果が見込めるスプリント(短期集中型の取り組み)を軸とするアプローチであるため、市場の変化や事業上のニーズに迅速に対応しながら変革を進めることができます。また、このアプローチを採用することで、ROI(投資対効果)と投資サイクルにおける段階に基づいて、変革の優先順位を適切に判断することが可能になります。

EYでは、こうした変革を支援する中で、価値創出に寄与する実効性の高い財務部門を構築する上で重要となる「4つの成果」と、それを実現するための「4つのイネーブラー」を導き出しました。

価値創出に寄与する実効性の高い財務部門

各成果とイネーブラーをクリックすると、詳しい説明が表示されます。

価値創出を促進する主要な成果

先進的な財務部門は、事業目標の達成を支え、業績向上を促進する4つの主要な成果に焦点を当てています。
1. 全社的な価値創出の達成

財務部門は、PE企業の価値創出戦略の策定・実行・管理において重要な役割を担っています。そのため、財務部門は初期段階からPE企業のディールチームや自社の経営陣と連携する必要があります。これにより、財務部門は、目標、KPI、説明責任が定義された明確なフレームワークを構築し、VCPを加速させることができます。さらに、組織全体にとっての「信頼できる唯一の情報源」としての役割も果たすことができます。

財務部門の役割と責任を明確にすることは、全社的なインサイトを導き出し、真の価値を創出する上で極めて重要です。財務部門への投資は、より情報に基づいた戦略的意思決定を可能にし、投資先企業の長期的な成功を後押しするだけでなく、PE企業にとってはエグジット時の企業価値最大化にもつながります。
2. 成長と業績の可視化

ポートフォリオ企業が事業成長を加速させるには、業績KPIの的確なモニタリング、ならびに財務予測と予算編成のプロセスの一元的な管理が不可欠です。EYの分析によると、実行可能なビジネスインサイトを積極的に提供し、意思決定を後押しすることで、フリー・キャッシュ・フローが収益の3%から8%の範囲で増加し、報告の正確性が10%超改善する可能性があります。

関連性と信頼性の高い、容易に利用できるKPIレポートを作成できれば、より情報に基づいた意思決定をより迅速に行うために必要なインサイトを得られます。しかし、こうした仕組みを効果的に導入している企業はごくわずかです。
3. 部門コストの最適化

EYの分析によると、PE投資先企業では、財務部門の一般的なコスト(中央値)は企業収益の約2.6%に達しており、一般的な企業セクターで見られる1%と比べてかなり高くなっています。コストの最小化が常に目標になるとは限らないとしても、PEの期待に沿うパフォーマンスを実現することは極めて重要です。高コストは、多くの場合、オペレーティングモデルに非効率的な部分があることを示唆しており、それは標準化または自動化されていない複雑なプロセス、シェアードサービスの欠如や不備、役割と責任の不明瞭さなどに起因しています。

4. 効果的な流動性管理

価値創出戦略を成功裏に実行するためには、効果的な流動性管理が不可欠です。これには、運転資金の最適化、キャッシュフローの把握と予測の向上、財務・キャッシュ管理手続きの効率化などが含まれます。キャッシュフローの厳格な管理を維持することで、企業は成長イニシアチブを支えるために必要な資金を確保できます。

PE投資先企業では、これまでもキャッシュのパフォーマンスは常に重要視されてきましたが、現在の経済環境においては、その重要性は価値創出のみならずレジリエンス構築の点でもさらに高まっています。

変革を推進するための4つの優先事項

優先事項は、価値創出の目標時期、投資ライフサイクル、財務部門の成熟度などを考慮して選定する必要があります。

 

例えば、人材と業務プロセスの領域に優先的に取り組むことで、PE投資先企業では、業務の標準化が促進され、運営面での迅速な改善が見込まれます。このような基盤は、業務フローの効率化にとどまらず、テクノロジーによる自動化を推進する上でも重要です。こうした環境が整うことで、テクノロジーソリューションを業務に組み込み、効果的に活用することが可能になり、パフォーマンスとスケーラビリティ(拡張性)の向上が期待されます。

 

1. 組織、人材、文化

各役割に応じて適切なリソースを配置し、スキルギャップを特定した上で、従来型および新興の分野の両方における研修を通じて社内の能力を強化することは、極めて重要です。共通の価値観と原則に基づき、人材育成への投資を重視する文化を築くことで、高いパフォーマンスとレジリエンスを兼ね備えたチームの構築が可能になります。

 

2. プロセスの標準化と自動化

現在、多くの企業が人工知能(AI)や自動化技術を導入することでより高い価値の創出を目指しています。しかし、まずは業務プロセスを見直し、不必要なものは排除し、簡素化・標準化を図ることで、改善の余地がある業務を明らかにすることが、比較的早い段階で大きな成果につながることも少なくありません。例えば、過度に複雑なプロセスの合理化や排除、システム上のギャップ解消、業務の標準化といった取り組みは生産性の向上に直結します。さらに、ERP機能、デジタルツールやデジタルプラットフォーム、生成AIを活用して反復的な業務を自動化することで、より一層の効率化が期待できます。

 

3. 強固なデータガバナンス

信頼性の高いデータガバナンスは、有意義な基準値と現実的な目標の設定や、経営陣が信頼して利用できる報告の作成において不可欠です。これは、多くのポートフォリオ企業、特にスケールアップ企業では見過ごされがちな側面です。データを中心に据えた財務部門は、データ品質の向上に率先して取り組み、信頼できる唯一の情報源を確立し、最初から正確で一貫性のあるデータとインサイトを提供します。

 

4. テクノロジーとデジタルツール

財務部門のテクノロジー環境を戦略的に見直すことで、業務効率の大幅な改善が期待できます。重要なのは、理想的なベストプラクティスを追い求めるのではなく、実用的なソリューションに焦点を当てることです。ツールの選定と投資判断を行う前には、財務部門とIT部門が密接に連携し、業務要件や期待値を明確にすり合わせることも重要です。財務テクノロジーの急速な進化と生成AIの利用拡大を踏まえ、財務部門は時間とリソースを戦略的に配分し、自社にとって最適なデジタルツールと優先事項を見極めることが求められます。

 

財務部門を原動力として、価値創出を効果的・効率的に実現する

今こそ、財務部門が価値創出の主要な推進役としての役割を果たす時です。PE企業は、100日計画において価値創出に寄与する実効性の高い財務部門の構築を優先し、投資サイクルの初期段階から財務変革への戦略的な投資が必要であることを認識することで、VCPの早期実現を加速させるだけでなく、コスト削減も実現し、ひいてはエグジット時の企業価値の向上につなげることができます。

 

新規の投資においては、このような変革を初期段階で開始することが極めて重要です。これにより、CFOは力強いスタートを切ることができます。特に経営幹部の平均在任期間が短くなっている現状を踏まえると、その重要性はさらに高まります。一方、既存のポートフォリオ企業においては、将来のエクイティストーリー(株式価値の訴求)を支えるために必要な変革について、エグジット時の厳格な精査に耐えうる説得力のあるストーリーを構築することが求められます。


企業全般の財務部門のコストとの比較には、米国生産性品質センター(APQC)のデータを使用しました。5,769社の企業の収益に対する比率でみた財務部門の平均コストは1.1%、中央値は1%です。APQCのデータ中の収益が10億米ドル以上の企業2,322社については、平均が0.87%、中央値が1.0%です。


サマリー

今日の厳しい競争環境下において、PE投資先企業のCFOは、全社的な価値創出計画(VCP)の推進、成長と業績の支援向上、部門コストの最適化、そして効果的な流動性管理に注力することで、より迅速に成果を上げることができます。


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