令和7年3月期法人税申告の留意事項

情報センサー2025年3月 Tax update

令和7年3月期法人税申告の留意事項


令和7年3月期決算法人が法人税の確定申告を行う際に留意すべき事項を解説します。税制改正により取り扱いが変更となった項目のうち主要なものとして、賃上げ促進税制、交際費等の損金不算入制度、特定税額控除規定の不適用措置、外国子会社合算税制、グローバル・ミニマム課税の5項目に絞って取り上げます。


本稿の執筆者

EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング部 税理士・公認会計士 矢嶋 学

法人向けコンプライアンス業務の他、組織再編及び事業承継コンサルティング、大規模法人を対象とした税務リスク・アドバイザリー業務に従事。EY税理士法人内の研究開発税制チームリーダー。従前は国税職員として相続税、法人税の調査経験を有する。



要点

  • 令和7年3月期の法人税申告では、令和6年度税制改正の内容を中心に確認するが、他の年度の改正にも注意する。
  • 賃上げ促進税制の新しい区分である「中堅企業」に該当するかの確認が必要。
  • 外国子会社合算税制については令和7年度税制改正の動向にも注目。
  • グローバル・ミニマム課税がスタートしているが、初年度の申告期限は1年6カ月後となる。


Ⅰ はじめに

令和7年3月期の法人税申告においては、税制改正によって昨年度と異なる事項の有無を確認することが重要です。変更点の多くは令和6年度税制改正によるものとなりますが、令和5年度以前に改正された事項についても確認する必要があります。また、本年度(令和7年3月期)は令和7年度税制改正大綱に早期適用の可能性が記載されている項目があるため、その改正法の成立・施行についても確認が必要です。

なお、令和7年度税制改正法案は、令和7年2月4日に閣議決定され、国会に提出されました。

本稿では、令和7年3月期の決算法人を前提として、主要な5項目に焦点を当てて解説します。実際の申告においては、本稿で取り上げる項目以外の改正事項もご確認ください。

※ 2025年2月4日時点の情報を基に執筆しています。


Ⅱ 改正事項

1. 賃上げ促進税制の見直し

令和6年度税制改正で、今までの2区分から、大企業向け(全法人向け)、中堅企業向け、中小企業者等向けの3区分となりました。特に今まで大企業向けを利用していた法人にあっては、新しい区分である中堅企業に該当するかを確認する必要があります。

(1) 法人の区分

前述の3区分のうち、大企業向けといわれているものは青色申告書を提出する法人であればよく、企業規模などの制限はないことから全法人向けとも呼ばれます。その他の2区分は適用対象法人に制限があり、これらに該当するときはそれぞれの制度を適用した方が有利であるため、結果として全法人向けは中堅企業と中小企業者等に該当しない大企業に適用されるケースが多くなると考えられます。以下、中堅企業と中小企業者等について説明します。

① 中堅企業

中堅企業とは、青色申告書を提出する法人のうち、事業年度終了のときにおいて常時使用する従業員の数が2,000人以下の法人をいいます。

この場合、その法人と、その法人による支配関係がある他の法人の常時使用する従業員の数の合計数が10,000人を超えるときは、中堅企業に該当しないこととされます。なお、この従業員数に含める法人は、「その法人による支配関係がある他の法人」と規定されているため、判定対象法人の子会社が典型例で、判定対象法人の親会社や兄弟会社は含まれません。また、海外子会社があるときはこれを含める必要があります。

② 中小企業者等

中小企業者等とは、例えば資本金の額が1億円以下など、租税特別措置法に規定する一定の中小企業者と農業協同組合等をいいます。なお、大規模法人の子会社等、一定数の株式を所有されているものは除かれます。

(2) 税額控除割合

税額控除割合が<表1>のとおり改正されました。大企業向け(全法人向け)においては、継続雇用者給与等支給増加割合の区分が4つに増えるとともに、今までと同じ控除割合を適用するためには、賃上げ率を上昇させる必要がある内容になっています。

また、税額控除割合の上乗せ措置の1つに、子育てとの両立支援、女性活躍支援に関する要件が加わり、いずれかを満たす場合には税額控除割合が5%上乗せされます。

表1 税額控除割合の改正

表1 税額控除割合の改正

出所:国税庁「令和6年度法人税関係法令の改正の概要」www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2024/pdf/A.pdf(2024年12月27日アクセス)を一部加工して作成


(3) その他の留意事項

上記以外の主な改正点は次のとおりです。

① 主に大企業に適用されるマルチステークホルダー方針の公表対象法人について、常時使用する従業員の数が2,000人を超える法人が追加されました。また、公表内容として「取引先に消費税の免税事業者を含む」ことが明確化されたことから、記載の見直しを検討する必要があり、その見直し後の公表期限は事業年度終了の日までとなっています。なお、事業年度終了の日から45日以内に経済産業大臣に一定の申請が必要となる点に変更はありません。
② 子育てとの両立支援、女性活躍支援に関する要件については、大企業向け(全法人向け)、中堅企業向け、中小企業者等向けでそれぞれ対象範囲が異なります。
③ 中小企業者等の区分に該当する場合は、控除限度超過額の繰越制度(5年間)が設けられました。なお、繰越控除を行う年度は全雇用者給与総額が対前年度比で増加していることが要件です。
 

2. 交際費等の損金不算入制度の見直し

今まで、交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準は1人当たり5,000円以下でしたが、法人の事業年度にかかわらず、令和6年4月1日以後に支出する飲食費から1人当たり10,000円以下に引き上げられました。一定の飲食費とは、従業員等が得意先等を接待して飲食するための飲食代等をいい、社内飲食費やゴルフ、観劇等の催事に際しての飲食等に要する費用はここでいう飲食費には該当しません。
 

3. 特定税額控除規定の不適用措置の見直し

一定の大企業が、租税特別措置法の税額控除のうち特定税額控除に該当するものの適用を受けるときは、賃上げや国内設備投資などについての定められた要件を充足する必要があります。

このうち、資本金の額等が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合及び前事業年度の所得金額がゼロを超える一定の場合のいずれにも該当するときの要件の上乗せ措置について、次の見直しが行われています。

① 要件の上乗せ措置の対象に、常時使用する従業員の数が2,000人を超える場合及び前事業年度の所得金額がゼロを超える一定の場合のいずれにも該当する場合が加えられました。
② 当期の国内設備投資額が当期償却費総額の30%を超えることの要件について、当期償却費総額の40%を超えることとされました。

この結果、次の(1)から(3)のすべてを満たす資本金1億円超の企業が不適用措置の対象となります。

(1) 所得金額が対前年度比で増加
(2) 継続雇用者の給与等支給額が対前年度以下(前年度が黒字の大企業〈資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上、または従業員数2,000人超〉の場合は対前年度増加率1%未満)
(3) 国内設備投資額が当期の減価償却費の30%以下(前年度が黒字の大企業〈資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上、または従業員数2,000人超〉の場合は当期の減価償却費の40%以下)

また、継続雇用者給与等支給額に係る要件を判定する場合に給与等の支給額から控除する「その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」から、役務の提供の対価として支払を受ける金額を除くこととされています。

不適用措置の対象となる特定税額控除規定

  • 研究開発税制
  • 地域未来投資促進税制
  • 5G導入促進税制
  • デジタルトランスフォーメーション投資促進税制
  • カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
     

4. 外国子会社合算税制の見直し

外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)については、令和5年度税制改正で手当てされたトリガー税率の引き下げ、及び添付対象外国関係会社の範囲の見直しと、令和6年度税制改正で手当てされたペーパーカンパニー特例の収入割合要件の見直しがあります。

また令和7年度税制改正大綱に記載された外国関係会社の課税対象金額の益金算入時期に関する改正の早期適用(経過措置)が法制化された場合には、令和7年3月期の確定申告に影響する可能性があります。

(1) 特定外国関係会社のトリガー税率の引き下げ

今まで特定外国関係会社(ペーパーカンパニー、キャッシュボックスまたはブラックリスト国カンパニー)の各事業年度の租税負担割合が30%以上である場合に会社単位の合算課税が免除されていましたが、内国法人の令和6年4月1日以後に開始する事業年度から、この30%のトリガー税率が27%に引き下げられます。

(2) 外国関係会社に係る書類の添付義務の緩和

部分適用対象金額がない部分対象外国関係会社と、部分適用対象金額が2,000万円以下であること等の要件を満たすことにより合算所得が生じない部分対象外国関係会社について、添付対象外国関係会社の範囲から除外されました。これにより、これらの合算所得が生じない部分対象外国関係会社に関する別表への記載が不要となりました。

なお、これらの外国関係会社に係る財務諸表等については、確定申告書への添付を不要とし、保存しておくこととされました。

(3) 特定外国関係会社の判定におけるペーパーカンパニー特例に係る収入割合要件の見直し

特定外国関係会社の判定におけるペーパーカンパニー特例に係る収入割合要件について、外国関係会社の事業年度に係る収入等がない場合は、その事業年度における収入割合要件の判定が不要とされました。

(4) 外国関係会社の課税対象金額の益金算入時期

令和7年度税制改正大綱によると、外国関係会社の課税対象金額の益金算入時期について、現行の外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日を含む内国法人の各事業年度という規定が改正され、外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から4月を経過する日を含む内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入することが予定されています。

当該改正の経過措置として早期適用が設けられる旨の記載もあり、その内容で法制化がなされた場合には、令和7年3月期の確定申告において、令和6年12月決算の外国関係会社の課税対象金額を益金の額に算入せず、これを令和8年3月期の確定申告で益金算入する選択が可能となります。実務上の影響があるため、改正法の制定状況が注目されます。
 

5. グローバル・ミニマム課税

令和5年度の税制改正で法人税法の中にグローバル・ミニマム課税が創設され、適用対象となる一定の大企業は令和7年3月期を対象会計年度として確定申告書及び情報申告書の提出が必要となります。

適用初年度は対象会計年度終了の日の翌日から1年6カ月後が申告期限となるため、法人税の確定申告書とは異なるタイミングで必要な情報を収集し、計算を行った上で申告及び納税を行うことになります。


Ⅲ おわりに

本稿では、本年度から適用が開始される税制改正のうち、その一部を紹介しています。この他にも取り上げていない改正事項が存在するため、確定申告の際には改めてその全体を確認していただきたいと思います。

また、本年度は、外国子会社合算税制の適用がある法人にとって、令和7年度税制改正の動向も見ておかなければならない点が特徴的です。

  • YouTubeで動画配信中
    2025年3月期の法人税計算における留意事項-税務編-
    www.youtube.com/watch?v=fPMAS9oFcc4


サマリー 

令和7年3月期決算法人が法人税の確定申告を行う際に留意すべき事項を解説します。税制改正により取り扱いが変更となった項目のうち主要なものとして、賃上げ促進税制、交際費等の損金不算入制度、特定税額控除規定の不適用措置、外国子会社合算税制、グローバル・ミニマム課税の5項目に絞って取り上げます。


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