再生可能エネルギー関係のGK-TKを使った投資スキームにおけるIFRS会計の解説

再生可能エネルギー関係のGK-TKを使った投資スキームにおけるIFRS会計の解説


情報センサー2021年6月号 業種別シリーズ


EY新日本有限責任監査法人 石油セクター 公認会計士 山田大介

監査部門にて会計監査業務に従事したのち、アドバイザリーサービスを行うFAAS事業部へ異動。総合商社の事業部経理に4年半常駐し、現在は主にIFRS導入、M&A検討支援、連結決算支援を現場責任者としてリード。再生可能エネルギー分野の投資サポートをインフラ・トランザクション・TAXチームとともに数多く提供している。

 

Ⅰ はじめに

脱炭素化と持続可能な開発目標(SDGs)の実現のため、世界のエネルギーインフラに対する巨額投資のベクトルは化石燃料から再生可能エネルギーに向かっています。投資情報の的確な把握のため会計インフラの整備も急務です。今回は、再生可能エネルギー分野で頻出のGK-TK投資スキームにおけるIFRSでの留意事項を解説します。

なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
 

Ⅱ IFRSにおける会計処理の検討

1. GK-TK投資スキームの概要

再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度(FIT)が平成24年7月に開始されたことに伴い、発電事業の主体として、合同会社(GK)が多く利用されています。

実務上、匿名組合契約(TK契約)を組み合わせること(GK-TK投資スキーム)で、①出資者(匿名組合員)にとってパススルー課税と同様の効果が得られる、②出資者が外国投資家の場合には、TK出資持分の譲渡益に課税がなされないなど、税務面のメリットがあります。

また、税務面以外にも合同会社の社員を一般社団法人とすることで、倒産隔離が図れる点は資金提供者に大きなメリットがあります。

2. IFRSにおける支配の検討

株主が事業を支配している株式会社形態と異なり、GK-TK投資スキームでは、誰が事業を支配しているかの判別が難しいため、IFRS上の支配の検討に留意が必要です。

GK-TK投資スキームでは、合同会社の社員(GK出資者)、プロジェクトファイナンス(PF)を提供する金融機関、匿名組合出資者(TK出資者)ならびに発電事業を運営するアセットマネジメント事業者(AM事業者)などステークホルダーが多岐にわたるため、まず誰が当該事業を支配しているかを正確に検討する必要があります。

IFRSでは、IFRS第10号「連結財務諸表」(以下、IFRS第10号)7項において支配の要素が以下のとおり三つ示されており、その全てを有している投資者が、投資先を支配していると規定されています。

(1)投資先に対するパワー

(2)投資先への関与により生じる変動リターンに対するエクスポージャーまたは権利

(3)投資者のリターンの額に影響を及ぼすように投資先に対するパワーを用いる能力

GK-TK投資スキームでは、GK出資者は一般社団法人であることが多く、形式的な運営者といえます。通常、事業計画、契約の締結および資産の取得・売却など事業に重要な影響を与える業務の意思決定は、AM事業者に委任されています。そのため、TK出資者に事業計画などの承認権限を与える場合などを除き、投資先のリターンに重要な影響を及ぼす発電事業の運営を左右する能力は、GK出資者から委託を受けているAM事業者が保持している可能性が高いと考えられます。

しかし、GK出資者およびAM事業者は、出資金額が少なく(またはゼロ)、また、発電事業の業績に関わらず、少額の営業者報酬(GK出資者)または固定のAM報酬(AM事業者)を受け取るケースが多いため、この場合には投資から生じる変動リターンに対して限定的なエクスポージャー(リスク)のみを保持していると考えられます。一方で、多額の資金を出資するTK出資者やPFを提供する金融機関は、エクスポージャーが大きいといえます。ただし、金融機関が受け取るリターンは、金利やエージェントフィーに限定されており、発電事業設備を含む資産を貸付金の担保として要求することが通常です。そのため、最もエクスポージャーが大きいのは、発電事業から発生する純利益のほとんどを分配金として受け取る、または多額の出資について、担保なしで全額損失を被る可能性があるTK出資者といえます。

以上から、投資先に対するパワー(前述の(1))を有しているのは、AM事業者となり、変動リターンに対するエクスポージャー(前述の(2))が大きいのは、TK出資者となることから、当該発電事業に対して支配を有しているステークホルダーはいないようにみえます。

ただし、最終的な判断を行う前に、本人・代理人の論点を慎重に検討する必要があります。すなわち、投資先に対するパワーを保持しているAM事業者が自らのために事業運営の意思決定を行わず、契約やその他の条件、状況から他のステークホルダーの代理人として、意思決定しているか否かを検討することが求められます。主な検討項目には、①TK契約によりTK出資者がAM事業者を無条件に解任する権利があるか、②AM事業者が本人として(専ら自らの利益のために)意思決定を行っていると判断される程度に十分な変動リターンに対するエクスポージャーを有していないか等が含まれます。仮に、AM事業がTK出資者の代理人と判断された場合は、TK出資者は、AM事業者を通じて投資先に対するパワーを保持することになるため、IFRS第10号7項の全てを満たし、支配を有することになりますので、慎重な検討が必要です(<表1>参照)。

表1 IFRS第10号7項 支配の要素への当てはめ例

「TK出資者=事業を支配」と整理が終わっても、株式会社で考えると、支配しているのは株主であるということが整理できた段階にすぎませんので、TK出資者が複数存在する場合には、各TK出資者にとって子会社なのか、共同支配企業なのか、関連会社なのかは決まっていません。つまりTK出資の出資比率やTK出資者間での権利の違いなどを考慮し、各TK出資者にとって、当該出資が子会社投資(連結)、共同支配企業投資・関連会社投資(共に持分法)または単なる金融資産に対する投資になるか等を決定する必要があります。例えば、TK出資者が2社で50%ずつ出資しており、各出資者の権利に差異がなく、共同支配も存在しないものの、ともに当該事業に重要な影響を与えることができる場合は、両社にとって当該出資は関連会社投資となる可能性が高いといえます。

3. 子会社、共同支配企業、関連会社以外の場合の会計処理

TK出資が子会社投資、共同支配企業および関連会社投資に該当しない場合は、IFRS第9号「金融商品」(以下、IFRS第9号)に従い、金融資産の分類と評価を検討する必要があります※。

一般的に、TK契約において、発行者に対して出資の買戻しを請求できる権利をTK出資者が有するか、TK契約において契約期限の定めがあり、かつ契約の終了(清算)時において残存純資産の比例持分をTK出資者に引き渡す義務のどちらか、またはその両方が規定されています。その場合、当該TK出資は負債性金融商品に分類され(IAS第32号「金融商品:表示」19項等)、TK出資者は、償却原価法の適用可否を検討するためにいわゆるSPPI要件(IFRS第9号4.1.1, 4.1.2,4.1.2A)を満たしているか検討する必要があります。この点、通常TK出資は、SPPI要件である元本と利息のみのキャッシュ・フローを生じさせる契約という要件を満たさないため、毎期公正価値評価し評価差額を純損益で認識(FVTPL)する処理が求められると考えます(IFRS第9号4.1.4)。
 

Ⅲ おわりに

以上のとおりGK-TK投資スキームに関して、会計処理面でもさまざまな検討が必要になります。そのため、投資意思決定前に、契約内容の事実確認やステークホルダーの関係・役割の実態把握をしておくことが重要です。

また、最終の事実確定の確認もきちんと行った上で、会計処理を行うことが必要になります。
 

※ TK出資者がその持分比率相当の発電事業からの産出物(電力)を購入する権利と義務の双方を有する場合等には、TK出資者が投資先の資産に対する権利と負債に対する義務を有すると判断され、持分比率相当の資産および負債を取り込む会計処理が求められる場合も考えられる。

 

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2021年6月号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

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