EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY 新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 佐野 敏行
当法人入所後、主としてテクノロジーセクターでの監査業務に従事。2021年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。当法人 マネージャー。
日本において、2010年にIFRSの任意適用が開始されて以降、IFRS適用企業は年々増加しており、執筆時点(22年9月)では適用会社は200社を超え、東証上場会社の時価総額の4割を超えています。このような状況でIFRSに触れる機会が格段に増えた中、IFRSとはどういう基準なのか、また日本基準とはどう違うのかといった声も多く聞かれます。そこで本稿では、IFRSの世界への入口として、IFRSの基本コンセプトを中心に、日本基準との代表的な差異についても具体例を含めて解説します。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
IFRSは「International Financial Reporting Standards(国際財務報告基準)」と名が付いている通り、グローバル市場のためのグローバルな基準となり、多くの国や地域で採用されています。すでに各国の会計基準が存在する中で、世界各国の統一した会計に関する物差しとなることを念頭に会計基準が策定されており、各国の基準からIFRSへの移行を想定したIFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」という初度適用のための基準があるというのは、大きな特色と言えます。統一した会計基準が適用されることで、財務情報の国際的な比較可能性と質を高め、透明性をもたらすこととなります。IFRSは、どの国や地域でも適用できるように、各国の特色等を織り込まず、「原則主義」という考え方で基準が作られています。原則主義とは、基本的な概念に沿った原則的な会計処理の方法のみが示され、数値基準等の詳細な取り扱いは設けない方法です。細かい数値基準が定められていないため、会社が自ら重要性等を鑑みて判断し、決定できるといった意味では自由度が高いと言える一方、基準をどのように企業として解釈したのかといった根拠を外部に明確に示す必要性があることから、多くの注記が各基準で要求されています。
次に、IFRSでは会計上の利益をどう考えるかという点において「資産負債アプローチ」が採用されています。資産負債アプローチとは、ストックである資産及び負債を先に定義し、その資産や負債の変動により収益及び費用を定義するアプローチとなります。一方で、日本基準はフローである期間損益を重視する損益計算書重視の考え方である収益費用アプローチが採用されています。IFRSでは、まず資産及び負債の定義を定め、その資産・負債の評価とその差額としての純資産、つまり、財政状態計算書に計上されている財産価値を重視するため、その財産価値の会計期間の期首から期末までの増減(増減資などの資本取引は除く)を会計上の利益と考えます。一方、日本の会計基準は、伝統的に収益費用アプローチを採用していますが、近年ではIFRSとのコンバージェンス(収斂(しゅうれん))が進む中、退職給付会計、減損会計など資産負債アプローチに沿った会計基準もあります。さらに21年から適用されている収益認識基準に関しては、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」をベースに策定されており、約束した財又はサービスといった資産を顧客に移転することによって企業が履行義務を充足した時に収益を認識するという考え方は、まさに資産負債アプローチであると言えます(<図1>参照)。
前述の通り、日本基準のIFRSへのコンバージェンスが進んではいるものの、両者の差異はまだ多く存在します。その中で代表的な差異の具体例として、本稿では、のれんの償却と金融資産の会計処理の一部について解説します。
のれんの償却について、IFRSではのれんは償却しないこととなっている一方で、日本基準では20年以内の一定年数で償却をすることとなります。このため、例えば、企業買収でのれんを認識した場合、日本基準では償却する、すなわち償却費が費用として毎期計上されることとなる一方で、IFRSではその費用が計上されないことから、買収後の費用負担が少なくなるといったイメージを持たれることがあります。ただし、IFRSでは償却はしないものの、減損の兆候の有無にかかわらず、毎期減損テストを実施しなければならないと規定されています。このため、買収した会社が当初の想定通りの超過収益力を有していないということになれば、減損テストの実施で減損損失が認識されることになります。IFRSでは償却をしない分、日本基準に比べ多額の減損損失が一時に計上される可能性が高いという点に留意する必要があります。
なお、のれんの償却については20年3月に国際会計基準審議会(IASB)によって「企業結合-開示、のれん及び減損」のディスカッションペーパーが公表されました。この中では、のれんの償却再導入の是非についても取り上げられており、現在も議論が続けられています。このディスカッションペーパーについては、のれんの償却の再導入が注目されがちですが、企業結合後の業績等の開示や、減損テストの現状の方法が適切なのか等も合わせて議論されています。
金融資産を含む金融商品会計においては、IFRSと日本基準には多くの違いが存在します。このため今回は、金融資産の中でも株式の評価及びリサイクリングの有無に焦点を絞って解説します。
まず株式の評価につき、日本基準では上場企業の株式は時価評価しますが、市場価格のない非上場企業の株式は取得原価で評価します。一方、IFRSでは全ての株式を公正価値で評価する必要があります。このため、市場価格のない株式でも投資先の内部・外部からの情報を利用して公正価値を算定する必要があります。
次に、公正価値の変動をどのように認識するかですが、日本基準では売買目的有価証券の場合は純損益(PL)として認識する一方、その他有価証券として区分された場合はその他の包括利益(OCI)として認識し、売却時にそれまでOCIで認識していた額をPLへ振り替える処理(リサイクリング)を行います。
一方、IFRSでは会社の選択により2種類の処理があります。原則は日本基準の売買目的有価証券と同様PLで認識しますが、例外として一定の要件の下、OCIで認識することを株式ごとに指定することができます。OCIで認識する株式について、一見日本基準のその他有価証券の処理と同じように見えるかもしれませんが、IFRSでは売却時のリサイクリングが禁止されており、PLにて計上されることはありません。なお、OCIで認識すると指定した株式についても、その投資先から受け取る配当金についてはPLで認識することとなります。
IFRSと日本基準の差異は他にも多く存在します。また、両基準とも基準の発行・改訂が随時行われています。本稿が皆さまの会計実務の一助となり、またIFRSに興味を持つきっかけとなりましたら幸いです。
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