情報センサー2024年3月

会計で使われる「割引現在価値」とは


情報センサー2024年3月 Topics


EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士  浦田 千賀子

品質管理本部 会計監理部と第2事業部を兼務。不動産業、小売業の監査などの会計監査に携わる傍ら、雑誌への寄稿やセミナー講師も行っている。また、法人ウェブサイト(企業会計ナビ)の編集委員として、会計情報の外部発信業務にも従事。共著に、『3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方(最新版)』、『図解でざっくりシリーズ1 税効果会計のしくみ 第3版』、『図解でスッキリ ストック・オプションの会計・税務入門』(いずれも中央経済社)などがある。


Ⅰ 割引現在価値とは


割引現在価値とは、将来の価値を現在の価値に割り引いて算定されたものです。会計においてはさまざまな場面で登場するものの、各会計基準において求められる趣旨や算定方法に相違があることからその理解は難しいと感じる方も多いかと思います。

このような疑問にお答えするために、『図解でスッキリ 会計で使う「割引現在価値」入門』(中央経済社)は、割引現在価値がどのようなものかという定義から、各会計基準で求められる割引現在価値についてその趣旨と利用される場面を視覚的、感覚的に、可能な限り平易な言葉で、読者が理解できるように説明した書籍となっています。本稿では、各会計基準で用いられる割引現在価値について、書籍の概要を簡単に紹介します。

なお書籍では、不動産評価やM&A、投資やプロジェクトの意思決定で使用される割引率など、会計基準以外で求められる個別論点についても、図解を用いて横断的に説明をしています。
 

Ⅱ 会計で割引現在価値が用いられる場面


日本においては、2013年以降の日本銀行による大規模金融緩和等により、長期間にわたり超低金利の状況が続いていました。また直近の23年秋に長期金利が1%付近まで上昇するなど、金利変動が生じている状況です。このような状況のもと、金利変動が会計に及ぼす影響については慎重に検討が必要となる状況が続いています。また、金利変動は割引現在価値の算定基礎となる割引率にも影響を及ぼすことから、関連する会計論点については網羅的に把握する必要があります。

書籍内では、割引現在価値が用いられる会計基準として<表1>を挙げ、各章に分け詳細説明しています。
 

表1

会計論点

第3章

固定資産減損会計

第4章

資産除去債務

第5章

退職給付会計

第6章

リース会計

第7章

時価の算定に関する会計基準(金融商品会計)

1. 固定資産減損会計(第3章)

固定資産の減損を検討する際、大きく減損の兆候、減損の認識、減損の測定という3つの段階を経由することとなりますが、割引現在価値が用いられるのは、最終段階である減損の測定となります。減損の測定の際、回収可能価額を算定することになりますが、将来の金額であるため、現在価値の精緻な算出には「貨幣の時間価値」と「将来の実績が見積りから乖離(かいり)するリスク」を織り込む必要があります。


2. 資産除去債務(第4章)

資産の除去に関して法令や契約で要求される法律上の義務がある場合、資産除去債務の対象となります。資産除去債務の算定には、まず、有形固定資産の除去に必要となる将来の資産除去債務費用を見積もる必要があります。その後、将来発生すると見積もった額を現在の価値に戻すべく割引計算を行います。

また、計上後の各年度では、時間経過に応じた価値の調整(時の経過による資産除去債務の調整額)が必要となります。


3. 退職給付会計(第5章)

退職給付会計において割引計算が用いられるのは、退職給付債務の算定です。退職給付債務の算定は次の2つのステップで算定されることになります。

① 退職以後の現金給付の総額である退職給付見込額のうち現在まで発生している額を算定
② 上記①の算定額を割引計算により現在価値にする

①では退職給付見込額のうち、現在までに発生している額を算定します。ここで算定された支給額は退職金給付時という将来の時点の額面であるため、②において現在の価値にするために割引計算を実施することになります。


4. リース会計(第6章)

リース取引はノンキャンセラブル・フルペイアウトの要件から、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類されます。このうち、ファイナンス・リース取引に該当した場合、リース資産の計上額として、リース料総額の現在価値を用いることがあります。ファイナンス・リース取引の種類と、計上するリース資産の関係は<表2>の通りとなっています。なお今後のリース会計の改正によりオペレーティング・リースについても資産計上が必要となることから、割引現在価値の影響により一層注目がされます。

表2

所有権移転
ファイナンス・リース

所有権移転外
ファイナンス・リース

貸手の購入価額がわかる場合

貸手の購入価額

いずれか低い額

① 貸手の購入価額
② リース料総額の現在価値

貸手の購入価額がわからない場合

いずれか低い額

① 見積現金購入価額
② リース料総額の現在価値

引用:『図解でスッキリ 会計で使う「割引現在価値」入門』p.106


5. 時価の算定に関する会計基準(金融商品会計)(第7章)

「時価の算定に関する会計基準」において例示されている評価技法には、市場価格を基礎とするマーケット・アプローチのほか、利益やキャッシュ・フロー等、将来の金額に関する現在の市場の期待を割引現在価値で示す評価技法であるインカム・アプローチ、資産の用役能力を再調達するために現在必要な金額に基づく評価技法であるコスト・アプローチがあります。

このうち、インカム・アプローチにおいて割引現在価値が用いられますが、基準では算定の際に使用される割引率、将来キャッシュフローが<表3>の通り例示されています。
 

表3

技法

割引率

将来キャッシュ・フロー

割引率調整法

リスク調整後の割引率

契約等により確実性が高いと見込まれる単一のキャッシュ・フロー

期待現在価値法
(リスク調整法)

市場参加者が要求するリスクプレミアムを調整した割引率

リスク調整前の期待キャッシュ・フロー

期待現在価値法
(確実性等価法)

リスク・フリー・レート

リスク調整後の期待キャッシュ・フロー

引用:『図解でスッキリ 会計で使う「割引現在価値」入門』p.124

 

Ⅲ 会計基準以外で求められる割引現在価値(第8章)


割引現在価値は不動産評価やM&A、投資やプロジェクトの意思決定においても使用されます。

例えば不動産評価については、実際の売買取引や納税等さまざまな場面で必要となり、その目的によって評価手法は異なります。その主な評価方法に取引事例比較法、収益還元法、原価法等があります。

このうち収益還元法は、不動産から将来的に生み出される収益を現在の価値に割り引いて不動産価格を計算する方法ですが、さらに直接還元法とDCF法という2つの手法に分けることができ、さまざまな用途に応じて使用されます。

Ⅳ おわりに


会計基準の適用に当たっては、会計基準以外で求められるものも含めて、さまざまな場面で出てくる割引現在価値を正しく理解する必要があります。ぜひ一度、体系的に理解、確認し、知識を整理する機会を設けられることをお勧めします。



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