EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿では、SBT for Natureの概要や策定状況、追加ガイダンスの概要について説明します。
要点
自然関連の財務情報開示フレームワークである自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、以下「TNFD」)については、2023年9月の発行に向け、策定が進められているところですが、この度、2022年11月4日にそのベータv0.3版が公表されました。
ベータv0.3版では、TNFDのフレームワークを構成する4つのピラー(柱)の1つである、「指標と目標(Metrics and Targets)」について、SBTN(Science Based Targets Network)による基本原則に従った、科学的根拠に基づく自然関連目標を設定することを推奨するとし、SBTNとの共同開発により、新たに「科学的根拠に基づく自然に関する目標の企業向け追加ガイダンス(Additional draft guidance for corporates on science-based targets for nature)」(以下、「TNFD SBT for Nature追加ガイダンス」)のドラフトを公表しました。
本稿では、SBT for Natureの概要や策定状況、TNFD SBT for Nature追加ガイダンスの概要について説明します。
気候変動に関しては、従前より科学的根拠に基づく目標(Science-Based Target、以下「気候変動SBT」)についての定義、設定手法、認証のルールが開発、運用されています。現在、世界中の企業がそのルール、手法に基づいたGHG排出量目標の設定や、設定した目標への認証取得を進めています。
科学的根拠に基づく自然に関する目標(Science Based Targets for Nature、以下「SBT for Nature」)は、その対象範囲を生物多様性など、自然資本のより広い範囲に広げるものです。現在、Science Based Targets Network(以下「SBTN」、約70の組織のパートナーによるネットワーク組織)により、開発が進められているところですが、その特徴を気候変動SBTとの比較で整理すると表1の通りとなります。
気候変動SBT |
SBT for Nature |
|
---|---|---|
開始時期 |
2015年 |
2023年(予定) |
運営母体 |
SBTi |
SBTN |
目標設定対象 |
気候変動(温室効果ガス排出量など) |
自然資本。対象分野に以下の5分野が定義されています
|
目標水準 |
2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃)または1.5℃目標
(パリ協定に基づく) |
ネイチャーポジティブ(Nature Positive)
(SBTNにより定義) |
基準・ガイドライン |
SBTiにより以下が発行されている
など |
SBTNにより以下が発行されている(その他については今後開発、発行予定)
|
認証 |
SBTiによる認証スキーム |
現時点では議論なし |
SBT for Natureについては、2020年に初期ガイダンスがSBTNより公表されています。その中で目標設定のためのステップとして、図1の5つのステップが示されています。
出典:SBT for Nature初期ガイダンス(2020年9月公表:SBTN)よりEY作成
これらのステップのうち、ステップ1:分析・評価(Assess)とステップ2:理解・優先順位づけ(Interpret and Prioritize)についてはそれぞれの技術ガイダンスドラフト版が、またステップ3:計測・設定・開示(Measure, Set and Disclose)のうち、水(Freshwater)については2022年9月に技術ガイダンスのドラフト版がSBTNより公表されています。今後、2023年第1四半期(1月~3月)には正式版が公表される予定です(ステップ3のうち、土地〈Land〉についても同時期に技術ガイダンスの正式版が公表予定)。
また、ステップ3に関連して、生物多様性(Biodiversity)、海洋(Ocean)についての技術ガイダンスが、また、ステップ4:行動(Act)とステップ5:追跡(Track)についても技術ガイダンスが今後公表される予定となっています(気候変動については、既に運用されているガイダンス、ルールが引き続き運用される予定)。
気候変動SBTでは、目標設定は、1.5℃目標、ネットゼロというグローバルな目標から落とし込む形で、企業は自社のGHG排出量削減目標を設定しています。
一方でSBT for Natureにおいて、「科学的根拠」とはどういうことか、またそれに基づく「目標」はどのようにして設定されるのか、ということについて、初期ガイダンスでは、「社会目標と整合しており、かつ『地球の限界』内にあること(aligned to societal goals and to staying within Earth’s limits)」と説明しています。そしてそこから翻訳(Translated)することで自社の目標を設定することとしています(詳細は初期ガイダンスの技術付属文書4(TA4)において説明)。
上述の通り、TNFDのベータv0.3版では、SBTNとの共同開発により、新たに「TNFD SBT for Nature追加ガイダンス」のベータv0.3版がTNFDより公表されました。
本ガイダンス(ドラフト)では、TNFDに沿った開示を行う企業は、SBTNによるガイダンスに従って、目標を設定することを推奨しています。
その理由として、図2の通り、TNFDのLEAPアプローチと「SBT for Nature設定のための5つのステップ」については、共通するアウトプットがあり、連携することによるメリットがあることによります。
出典:TNFD「科学的根拠に基づく自然に関する目標の企業向け追加ガイダンス Beta v0.3」(2022年11月)を基にEY作成
「TNFD SBT for Nature追加ガイダンス」のベータv0.3版では、SBTNの目標設定手法に基づくデータや分析結果は、TNFDのLEAPアプローチに基づいて、企業が自然関連のリスク・機会の評価することに寄与するものであり、また一方で、LEAPアプローチは、企業がSBT for Natureを設定するために必要なデータを取得することに寄与するとしています。
TNFDフレームワークとSBTNの手法は、いずれも現段階では開発中であり、今後、双方の使い勝手向上のため、さらなる連携を取りながら開発していくとしています。
なお、TNFDのスコープには、SBTNの現段階の手法でカバーしていない領域として以下があるとしており、今後のベータv0.4版の公表(2023年3月予定)に向けては、これらの領域をカバーしていくことに焦点を当てるとしています。
図2に示す通り、TNFDのLEAPアプローチと「SBT for Nature設定の5つのステップ」には共通しているところもあることから、LEAPアプローチを進める際には、SBTNのガイダンスも参照/活用することが有用であると考えられます。
また、上記の通り、TNFDのスコープではSBTNの現手法でカバーしていない領域について補っていくとしている一方で、「TNFD SBT for Nature追加ガイダンス」では、同ガイダンスで提供するのは概要のみであり、詳細はSBTNのガイダンスを参照することを推奨するともしており、両者は車輪の両輪の関係にあると言えます。
両者とも現段階では開発中ではありますが、ベータ版、ドラフト版などの現状入手できる情報を参照し(なお、SBT for Natureについては、2023年3月までにステップ1、2、3〈水、土地〉のガイダンスの正式版がSBTNにより公表予定ですので、それを参照することも有用)、企業は、本格運用に先駆けて取り組みを進めることができます。
特にSBT for Natureについては、ステップ3の技術ガイダンスにより目標設定が可能になるとしており(SBTN技術ガイドラインより)、今後、取り組みを進めることが期待されます。
TNFDのタスクフォースメンバーにはEYのメンバーが含まれています。またEYでは、グローバルや日本のチームにおいても生物多様性/自然資本をバックグラウンドに持つメンバーを擁しており、関連する最新情報を共有しています。
一方でTNFDのベースとなっているTCFD(気候変動関連情報開示フレームワーク)についても、企業への支援実績を多く有しています。
これらのネットワークや知見を生かし、EYでは企業の皆さまのTNFDへの取り組みを支援することが可能です。
【共同執筆者】
多田 久仁雄
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 マネージャー
20年以上にわたり、環境に関する業務に従事。
温室効果ガスをはじめとしたESG/サステナビリティ情報に関する第三者保証や関連アドバイザリー、また生態系・自然環境分野、廃棄物リサイクル分野など、環境全般について広く経験を有する。
現在は気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)のコンサルタントとして、主に環境/EHS分野での業務に従事し、顧客のサステナビリティパフォーマンスの向上に貢献している。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
TNFDのベータv0.3版では、4つの柱の1つである「指標と目標」について、科学的根拠に基づく自然関連目標(SBT for Nature)を設定することを推奨するとしています。LEAPアプローチを進める際には、SBTNのガイダンスも参照することが有用であり、両者とも現在開発中ですが、本格運用に先駆けて取り組みを進めることができます。
EYの最新の見解
TNFDベータv0.3版発行による開示提言とLEAPアプローチの一部変更に伴い、企業はリスクと機会だけでなく、影響と依存についても情報開示が必要
自然関連の財務情報開示フレームワークである自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、以下「TNFD」)のベータv0.3版が2022年11月4日に公開されました。本記事ではベータv0.3版本文のうち押さえたい 点を中心に、前版からの改訂点についてお伝えします。