EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
今回は、基本コンセプト部分を補完する具体的な開示指標を記載した付属文書がそろい、より鮮明にTNFD開示のイメージを持つことができるようになりました。
要点
2023年3月28日にTNFDベータv0.4版が発行されました。2022年3月より順次発表されていたベータ版の最後のものであり、今後のマイルストーンとして、60日間のフォーマルコンサルテーション(3/30~6/1)を経て2023年9月に最終化されたものがTNFDフレームワークv1.0版として発行されます。
今回はベータv0.4版の本文・サマリーとともに11の付属文書(2023年3月30日現在)が発表され、フレームワークの骨格を成す基本コンセプト部分と、それを補完する具体的開示指標などを記載した付属文書がそろい、初めて完成形として披露されたものとなります。
今回のTNFDベータv0.4版発行における改訂点やv0.4版のLEAPアプローチと開示提言については後ほど図示しますが、今回の発表のポイントを簡単にまとめると下記5点になります。
開示提言は15だったものが今回14になった一方、4つの柱について開示する前段階の一般的要求事項(General requirements)が更新され、下記6項目についても開示・検討することが前提となる。
TNFDフレームワークはTCFDの4つの柱を踏襲しており、TCFDの11の開示提言を内包している。このため今後気候と自然とを統合的に開示できるようにしていることが改めて表明された。
開示指標について初めて発表され、3つのTier(段階)の考え方が示された。具体的には①コア・グローバル開示指標(Core Global Disclosure Metrics)、②コア・セクター開示指標(Core Sector Disclosure Metrics)、③追加開示指標(Additional Disclosure Metrics)の3つであり、それぞれいくつか例示すると下表のようになる。
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土地/淡水/海域変化 |
C 2.0 |
土地/淡水/海域変化の全範囲 |
生態系タイプ、ビジネス活動ごとの土地/淡水/海域変化の全範囲(km2) |
Target1、2、5、11 |
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汚染/汚染除去 |
C 3.0 |
タイプごとの全土壌汚染物質 |
タイプごとの全土壌汚染物質(トン) |
Target7、11 |
* GBF:昆明・モントリオール生物多様性枠組(Global Biodiversity Framework)
カテゴリー |
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追加指標 |
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自然変化のドライバー:土地/淡水/海域変化 |
A 1.0 |
期間中、土地/淡水/海域を変化させ、生態系タイプやビジネス活動によってサステナブルに管理された範囲(範囲の割合、前年からの変化) |
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自然変化のドライバー:汚染/汚染除去 |
A 2.0 |
土地、大気、海域や淡水域から除去された汚染物質の量 |
指標カテゴリ |
サブカテゴリ |
クロスセクターインディケーター |
指標No. |
コア/追加 |
指標 |
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インパクトドライバー |
土地/淡水/海域変化 |
生態系タイプ、ビジネス活動ごとの優先生態系に対する土地/淡水/海域変化の全範囲 |
SC 2.0 |
コア |
2020年以降の農業由来の陸域における 天然生態系の開発範囲(km2) |
インパクトドライバー |
汚染/汚染除去 |
タイプごとの全土壌汚染物質 |
SC 3.0.0 |
コア |
ベースラインに対しての毒性ハザードレベルごとの農薬強度 |
インパクトドライバー |
土地/淡水/海域変化 |
期間中、土地/淡水/海域を変化させ、生態系タイプやビジネス活動によってサステナブルに管理された範囲(範囲の割合、前年からの変化) |
SA 2.0 |
追加 |
環境再生型農業を実施する農地の割合や環境再生型農業を実践している農家からの商品割合 |
スコープについての考え方(気候関連開示でいうスコープ1・2・3)として「直接」オペレーション、「上流」「下流」と「投資先」が導入された。
ステークホルダーエンゲージメントのガイダンスを始め、4つのセクターガイダンス(農業・食品、採掘・金属、エネルギー、金融機関)と4つのバイオーム(熱帯雨林を含む)が発表された。(他にも今回付属文書として発表された書類の一覧を後述する)
“Updates to the TNFD beta framework in v0.4,” The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Final Draft – Beta v0.4, 2023, TNFD, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Integrated_Framework_v6-1.pdf(2023年3月31日アクセス)を基にEY作成
”The TNFD’s revised risk and opportunity assessment approach (LEAP) in v0.4 of the beta framework,” The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Final Draft – Beta v0.4, 2023, TNFD, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Integrated_Framework_v6-1.pdf(2023年3月31日アクセス)を基にEY作成
“Updates to the TNFD beta framework in v0.4,” The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Final Draft – Beta v0.4, 2023, TNFD, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Integrated_Framework_v6-1.pdf(2023年3月31日アクセス)を基にEY作成
今回のTNFDベータv0.4版発行は、これまでじっくりと検討が進んでいた基本骨格部分(開示提言やLEAPアプローチ)がさらに磨かれ、指標などのガイダンス類も発表されて本格的に肉付けされたイメージです。(発表された付属文書については、今後、EYにてそれぞれを解説する記事を順次発表していく予定です。)
今回が最終ドラフトであるため、今後のマイナーチェンジはあり得るものの、全容はほぼ固まってきたと言えます。
今回の発行にて初めて指標が具体的に示され、定量・定性的なリスク分析のアプローチも発表されたため、より具体的に自然関連のリスク分析や開示のイメージがつけやすくもなりました。これをもって、TNFD開示を検討される組織においては、収集が必要な情報が鮮明になり、今後これらの情報収集に本腰を入れられることになります。一方で、必要とされる情報は多岐にわたり、必要量もかなり多くなることが想定されることから、情報収集にかなりの労力が必要となり、さらにはその作業にフォーカスするあまり、情報収集と開示が目的になってしまう可能性があります。しかしながら、TCFD対応でもそうであるように、開示が本来の目的ではなく、本当に目指したい姿は自然関連のリスクに対して強靭なビジネス体質をつくり、ネイチャーポジティブを目指しながらビジネスを変えていくことにあります。また同時に、リスクだけを顕在化させて暗い将来を見るのではなく、生物多様性が盛り上がる中でどこにビジネスチャンスを見いだしていくかという、明るくワクワクする機会を見極めていくことでもあります。
TNFDの全容が固まりつつある今、開示に向けて動き出す組織においては、本来実施したいビジネス変革やビジネスチャンス抽出を実現させるためにも、内容をよく理解しているEYのプロフェッショナルに皆さまのTNFD関連のサポートをお任せいただければと思います。EYのプロフェッショナルがTNFD関連のプロセスを解説しながら開示に向けた準備をサポートさせていただき、ビジネス変革に向けた伴走をいたします。また、今後ますます増える自然関連の情報収集においても、デジタル面でサポートすることができるため、私たちにお気軽にご相談いただければと存じます。
Title |
Sub Title |
概要 |
---|---|---|
Final Draft |
Beta v0.4 |
上述 |
Beta v0.4 - Summary |
- |
上述 |
Beta v0.4 Annex 4.1 |
※2023年3月31日時点ではAnnex4.1が出ておらず、4.5が重複してリスト されている |
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Beta v0.4 Annex 4.2 |
Disclosure Implementation Guidance |
開示に際しての一般的要求事項(6項目)と開示提言14項目について記載した全セクター向け開示ガイダンス |
Beta v0.4 Annex 4.3 |
Disclosure Metrics Annexes |
依存・影響の開示指標、リスク・機会の開示指標、対応(Response)の開示指標、農業・食品セクターの開示指標、熱帯雨林バイオームの開示指標記載 |
Beta v0.4 Annex 4.4 |
Additional draft disclosure guidance for financial institutions |
銀行、保険会社、アセットマネージャー・アセットオーナー、開発金融機関向け開示ガイダンス |
Beta v0.4 Annex 4.5 |
Financial institutions metrics supplement |
金融機関の指標について例示 |
Beta v0.4 Annex 4.6 |
Guidance on LEAP: Methods for assessing nature-related risks |
定量、定性的リスク分析のアプローチについてガイダンス |
Beta v0.4 Annex 4.7 |
Guidance on Response Metrics in the Prepare Phase of LEAP |
LEAPのPrepareフェーズにおける対応指標としての考え方、例示 |
Beta v0.4 Annex 4.8 |
Guidance on Target Setting |
目標設定の考え方と目標例を記載 |
Beta v0.4 Annex 4.9 |
Draft Guidance on Engagement with Affected Stakeholders |
LEAPアプローチを通した関係構築とエンゲージメント全般についてのガイダンス |
Beta v0.4 Annex 4.10 |
Additional draft guidance on scenario analysis |
ワークショップ型アプローチであるTNFDシナリオツールボックスとその手順 |
Beta v0.4 Annex 4.11 |
Additional draft guidance on location prioritisation |
優先地域選定の考え方 |
参考文献
The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.3, TNFD, Nov 2022, framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2022/11/TNFD_Management_and_Disclosure_Framework_v0-3_B.pdf(2023年3月31日アクセス)
関連資料
The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 – Summary,
tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Short_Summary_v5.pdf
The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Final Draft – Beta v0.4,
framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Integrated_Framework_v6-1.pdf
今回のTNFDのベータv0.4版発行によって、従来のフレームワークの骨格を成す基本コンセプト部分に加え、それらを補完する具体的な開示指標を記載した付属文書がそろい、初めてTNFDの全体像をイメージできる完成形として発表されました。これにより、企業はTNFD開示をより具体的なイメージを持って準備することができるようになります。
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自然関連の財務情報開示フレームワークである自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、以下「TNFD」)のベータv0.3版が2022年11月4日に公開されました。本記事ではベータv0.3版本文のうち押さえたい 点を中心に、前版からの改訂点についてお伝えします。