EY新日本有限責任監査法人 公認会計士
加藤 圭介、平川 浩光、久保 慎悟、前川 健太郎、山澤 伸吾、松川 由紀子、浦田 千賀子
この2024年3月期決算においては、実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」及び実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」が原則適用になり、また、改正法人税等会計基準の早期適用が可能となっています。そして、改正実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」は2023年3月期決算に引き続き適用となります。
本稿では、これらの論点のうち、適用対象となる企業が多いと思われるものについて、基本的な取扱いを中心に、2024年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。
また、「2023年3月期 決算上の留意事項」において掲載していたインボイス制度編については、2023年10月1日より適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が導入されることを踏まえ、再掲しています。この他、「2023年3月期 決算上の留意事項」又は「2023年6月第1四半期決算上の留意事項及び第1四半期決算でよくあるポイント」において掲載した事項のうち、本稿においても有用と考えられる等により再掲している項目については、【再掲】又は【再掲・一部更新】を付しています。
なお、実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」については、2024年3月期決算では適用されませんが、適用初年度の税額の見積方法の検討等に時間を要すると考えられることから、本稿にて紹介することも有用と考えられるため追加しています。
なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
正式名称 |
本文中の略称 |
---|---|
「税効果会計に係る会計基準」 |
税効果会計基準 |
企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」 |
金融商品会計基準 |
企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」 |
四半期会計基準 |
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」 |
企業会計基準第24号 |
企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」 |
法人税等会計基準 |
企業会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準」の一部改正 |
企業会計基準第28号 |
企業会計基準第33号「中間財務諸表に関する会計基準」 |
中間会計基準 |
企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」 |
自己株式等会計適用指針 |
企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」 |
減損適用指針 |
企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」 |
四半期適用指針 |
企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」 |
退職給付適用指針 |
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 |
回収可能性適用指針 |
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」 |
税効果適用指針 |
企業会計基準適用指針第32号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」 |
中間適用指針 |
実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」 |
実務対応報告第43号 |
実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」 |
実務対応報告第44号 |
実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」 |
実務対応報告第45号 |
実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」 |
実務対応報告第46号 |
会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」 |
外貨建取引等実務指針 |
会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」 |
金融商品実務指針 |
会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」 |
資本連結実務指針 |
日本公認会計士協会の消費税の会計処理に関するプロジェクトチーム「消費税の会計処理について(中間報告)」 |
消費税中間報告 |
監査基準報告書560実務指針第1号「後発事象に関する監査上の取扱い」 |
後発事象取扱い |
昨今の環境において、海外を中心とした金利の上昇、為替相場の急激な変動、原材料の価格、燃料・資源価格、輸送運賃価格等の上昇といったビジネス環境の変化が生じており、企業によっては業績に影響が出ていることも考えられます。
業種によって影響度合いは様々ですが、一般的に影響する会計処理や開示の具体例を(図表1)にまとめています。
勘定科目 |
会計処理・開示への影響 |
---|---|
棚卸資産 |
棚卸資産の評価損 |
金融商品 |
外貨建有価証券の評価(Q3)、債券の減損処理、関係会社投融資(Q4) |
退職給付会計 |
割引率の見直し(Q7)、長期期待運用収益率(翌期首における見直し)、早期割増退職金(Q7) |
減損会計 |
減損の兆候(Q2)、将来C/Fの予測(仮定や基礎データ等への影響(Q2)、割引率 |
税効果会計 |
企業の分類(Q5)、回収可能性の判断(Q6) |
連結 |
為替相場に重要な変動があった場合の期ズレ決算在外子会社の換算手続 |
開示 |
会計上の見積りの開示における言及、継続企業の前提の開示 |
資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているか、継続してマイナスとなる見込みである場合や、経営環境が著しく悪化したか、又は悪化する見込みである場合には、減損の兆候となるとされています(減損適用指針12項、14項)。また、経営環境が著しく悪化したか、又は悪化する見込みである場合として、材料価格の高騰や、製・商品店頭価格やサービス料金、賃料水準の大幅な下落、製・商品販売量の著しい減少などが続いているような市場環境の著しい悪化が例示されています。このため、例えば、為替、金利、相場変動の影響に伴い、仕入価格が高騰し、営業損益のマイナスが続くことが見込まれるような場合や、材料価格の高騰が続いているような場合には、減損の兆候に該当する可能性があるため、為替、金利、相場変動が将来の企業の経営環境にどのような影響を与えるかについて、慎重に検討する必要があります。
将来キャッシュ・フローの見積りにあたり、売価や原材料仕入価格の見積りは、翌期以降の変動見込みを反映させる必要があります。また、将来キャッシュ・フローが外貨建てで見積られる場合、減損適用指針18項及び19項に基づいて算定された外貨建ての将来キャッシュ・フローを、減損損失の認識の判定時の為替相場により円換算し、減損損失を認識するかどうかを判定するために見積られる割引前将来キャッシュ・フローに含めるとされています(減損適用指針20項、35項)。このため、将来キャッシュ・フローが外貨建てで見積られる場合には、将来の為替相場を予想して円換算するのではなく、減損損失の認識の判定時の為替相場により円換算することとされている点、ご留意ください。
時価の著しい下落又は実質価額の著しい低下の事実が生じている場合に、評価額の引下げが必要ですが、著しい下落又は低下の判断は、外貨建てで行うとされています。また、外貨建有価証券について時価の著しい下落又は実質価額の著しい低下により評価額の引下げが求められる場合には、当該外貨建有価証券の時価又は実質価額は、外国通貨による時価又は実質価額を決算時の為替相場により円換算した額によるとされています(外貨建取引等実務指針18項、19項)。
このため、円安の状況下で円貨建てでは50%程度以上の下落又は低下がない場合であっても、著しい下落又は低下の判断は外貨建てで行うこととされていますので、外貨建てで50%程度以上の下落又は低下がある場合には、評価の切下げを行うことになります。
その場合には、外国通貨による時価又は実質価額を決算時の為替相場により円換算した額が評価額となりますので、決算日の異なる子会社株式について、決算日の実質価額を基に評価額の切下げを行う場合であっても、親会社の決算時の為替相場により円換算する必要がありますので、ご留意ください。なお、決算日の異なる子会社株式の実質価額の算定については、Q4関係会社投融資A(3)をご参照ください。
株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として処理(減損処理)しなければなりませんが(金融商品会計基準21項、金融商品実務指針92項)、子会社や関連会社等(特定のプロジェクトのために設立された会社を含む。)の株式については、実質価額が著しく低下したとしても、事業計画等を入手して回復可能性を判定できることもあるため、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしないことも認められます(金融商品実務指針285項)。回復可能性の判定はおおむね5年以内に実質価額が取得原価の100%まで回復することが十分な証拠によって裏付けられることが必要であり、判定の結果、回復可能性が見込まれない場合には、現時点の実質価額まで減損処理することになります。
回復可能性の判断における5年とは、最初に実質価額が取得原価の50%を下回った年から5年間であるという点には留意が必要です。また、実質価額が取得原価の50%を超えても当初から5年間は100%まで回復するかを継続して確認する必要があります。実質価額が取得原価の50%を下回った最初の年に回復可能性があると判断した場合、翌年度においても回復可能性を検討する必要がありますが、翌年度における検討では残り4年で回復するかどうかを検討することになります。そして、検討の結果、実績が計画を下回り、当初の計画通りの回復可能性がないと判断される場合には、その時点の実質価額まで減損処理することになりますので、留意が必要です。
なお、会社の超過収益力や経営権等を反映して、実質価額が1株当たりの純資産額を基礎とした金額に比べて相当高い価額となっていることもありますが、超過収益力が見込めなくなった場合には、超過収益力の減少により低下した実質価額が取得原価の50%程度を下回っている限り、減損処理が必要な点にも留意が必要です。
子会社の業績が悪化している場合、子会社向け債権の貸倒引当金の計上や、債務保証がある場合には債務保証損失引当金の計上を検討することが必要となります。さらに子会社が債務超過に陥っている場合には、現在保有している投資が回収できないだけでなく、欠損部分を将来的に親会社が負担することがあるため、投資金額を超えて将来負担することとなる金額を見積り、関係会社事業損失引当金を計上することを検討する必要がでてきます。関係会社事業損失引当金の見積りには、損失に対する負担割合や、子会社の資産及び負債の含み損益等を考慮し、当該子会社に対する貸倒引当金や債務保証損失引当金の金額を控除したうえで計上します。
株式の減損処理における実質価額は、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額をいいますが、算定の基礎とする財務諸表は、決算日までに入手し得る直近のものを使用し、その後の状況で財政状態に重要な影響を及ぼす事項が判明していればその事項も加味しなければなりません(金融商品実務指針92項)。例えば、親会社が3月決算で子会社が12月決算の場合、12月の財務諸表を入手することになりますが、3月までに財政状態に重要な影響を及ぼす事項が判明していれば、その事項も加味する必要がありますので、留意が必要です。
また、関係会社事業損失引当金は、親会社において発生する引当金の見積りであるため、親会社の決算日時点において将来負担する費用(損失)を合理的に見積る必要があります。よって、親会社の期末時点における子会社の決算状況を何らかの方法で見積り、その時点の債務超過額を基礎として、親会社が将来負担する金額を合理的に見積る必要があります。
一方、連結財務諸表上では、上で述べた株式の評価損も関係会社事業損失引当金等も、戻入処理をすることになりますので、債務超過子会社の場合は、子会社の正規の決算(例えば12月決算の期ズレ子会社の場合は12月決算)を基礎とした債務超過額が計上されることになります。個別財務諸表上で、親会社の決算時点の見積りをしたにもかかわらず、戻し入れすることになりますが、子会社の決算日後、親会社の計算書類に係る監査報告書日までに発生し、連結計算書類に重要な影響を及ぼすと認められる事象が生じている場合、当該事象に関する修正を行う必要がありますので(後発事象取扱い 4.(2)②a.ⅱ2、4.(2)②b(a)1)、連結財務諸表においても、修正後発事象との観点から子会社の決算日後の事象を加味する必要がある点にも留意が必要です。
回収可能性適用指針29項では、(分類4)から(分類3)として取り扱ういわゆる反証規定の定めがあります。
回収可能性適用指針29項
(分類4)の要件を満たしても、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類3)に該当するものとして取り扱う
上記(1)のとおり、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類3)に該当するものとして取り扱います。
この時、(図表2)の(ケース1)のとおり、将来1年目及び2年目は将来の一時差異等加減算前課税所得がプラスですが、3年目はマイナスのケース、また、(ケース2)のとおり、2年目だけマイナスですが、それ以外は5年目までプラスのケースにおいて、それぞれいわゆる反証規定を適用して(分類3)として扱うことができるかが論点となります。なお、マイナスとなる年度は臨時的な要因によるものであることが明らかであるという前提になります。
将来の一時差異等加減算前課税所得 |
将来の一時差異等加減算前課税所得 |
将来の一時差異等加減算前課税所得 |
将来の一時差異等加減算前課税所得 |
将来の一時差異等加減算前課税所得 |
将来の一時差異等加減算前課税所得 |
---|---|---|---|---|---|
1年目 |
2年目 |
3年目 |
4年目 |
5年目 |
|
ケース1 |
プラス |
プラス |
マイナス |
- |
- |
ケース2 |
プラス |
マイナス |
プラス |
プラス |
プラス |
以下の理由から、上記いずれのケースでもいわゆる反証規定を適用することはできないと考えられます。
① 「将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じる」といういわゆる反証規定の要件は、原則とは異なる取扱いを容認するものであることから厳格に捉える必要があると考えられます(※)
② 回収可能性適用指針29項の要件において、臨時的な原因である場合に容認されるような定めとはなっていないことから、(分類2)や(分類3)の要件(臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得)とは異なり、仮に臨時的な原因であったとしても、将来の一時差異等加減算前課税所得がマイナスとなる場合にはいわゆる反証規定の要件を満たしていないと考えられます
※「企業会計基準適用指針公開草案第54号『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)』に対するコメント」コメントNo.70参照。
前期においていわゆる反証規定を適用し、(分類3)としていたものの、当期の一時差異等加減算前課税所得がマイナスとなってしまったとき、合理的な説明が可能であるとして、当期においてもいわゆる反証規定を適用することは可能かどうかが論点となります。
この点、当期における適用は極めて限定的であると考えられ、非常に慎重な検討が必要であると考えられます。
これは、(2)のとおり、いわゆる反証規定は原則とは異なる取扱いを容認するものであることから、その要件は厳格に捉える必要があると考えられるためです。
将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は、以下の①から③に基づいて、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかを判断することになります(回収可能性適用指針6項)。
① 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得
② タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得
③ 将来加算一時差異
そして、当該回収可能性を判断するにあたっての具体的な手順は(図表3)のとおりです(回収可能性適用指針11項)。
① 期末における将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う |
② 期末における将来加算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う |
③ 将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額とを、解消見込年度ごとに相殺する |
④ ③で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異(③で相殺後)の解消見込額と相殺する |
⑤ ①から④により相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む。)と解消見込年度ごとに相殺する |
⑥ ⑤で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額(⑤で相殺後)と相殺する |
⑦ ①から⑥により相殺し切れなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものとし、繰延税金資産から控除する |
上記のとおり、繰延税金資産の回収可能性の判断手順では、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づく将来減算一時差異の解消見込額との相殺((図表3)⑤)の前段階として、将来加算一時差異のスケジューリングに基づいた解消見込額と、将来減算一時差異の解消見込額とを解消見込年度ごとに相殺((図表3)③)することになります。これは、企業の分類のいかんによらず、将来加算一時差異と相殺可能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとするということです。
したがって、例えば、以下の設例のように(分類4)の会社であり、一時差異等加減算前課税所得の見積期間が1年であったとしても、1年を超える期間についても将来加算一時差異と将来減算一時差異が年度ごとに相殺可能である限り、回収可能性があるものと判断され繰延税金資産が計上されることとなります。設例においては、X2年度及びX3年度の将来加算一時差異の解消見込額に基づく相殺額である50ずつに対する繰延税金資産30((50+50)×30%)について回収可能性ありと判断することになる点、ご留意ください。
【設例:前提条件】
X0年度末の関連情報は以下のとおりです
X1年度 |
X2年度 |
X3年度 |
---|---|---|
300 |
120 |
120 |
② 将来加算一時差異のスケジューリング
X1年度 |
X2年度 |
X3年度 |
---|---|---|
△50 |
△50 |
△50 |
③ 将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額との解消見込年度ごとの相殺
X1年度 |
X2年度 |
X3年度 |
|
---|---|---|---|
将来減算一時差異 |
300 |
120 |
120 |
将来加算一時差異 |
△50 |
△50 |
△50 |
相殺可能 |
50 |
50 |
50 |
相殺可能 |
250 |
70 |
70 |
④ ③で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額について、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異(③で相殺後)の解消見込額との相殺
該当なし(③で相殺後の将来加算一時差異はゼロであるため)
X1年度 |
X2年度 |
X3年度 |
|
---|---|---|---|
④までの相殺不能額 |
250 |
70 |
70 |
一時差異等加減算前課税所得 |
250 |
- |
- |
相殺可能 |
250 |
- |
- |
相殺不能 |
0 |
70 |
70 |
⑥ 以降省略
(繰延税金資産計上額)
400(③での相殺可能額150+⑤での相殺可能額250)×30%=120
資産除去債務が新たに認識される際は、資産除去債務(負債)と資産除去債務に対応する除去費用(資産)は同額両建てで計上されることになりますが、それらに係る将来減算一時差異及び将来加算一時差異のスケジューリングは異なるものになることに留意が必要です。
資産除去債務については実際に関連する有形固定資産が除去されるタイミングで負債が取り崩され税務上認容されるため、資産除去債務に係る将来減算一時差異は、除去予定時期にスケジューリングされることになります。
一方で、資産除去債務に対応する除去費用は減価償却を通じて税務上加算調整されるため、その将来加算一時差異については、減価償却期間にわたって減価償却方法に合わせてスケジューリングされることになります((図表4)参照)。
このように両者のスケジューリング期間、方法は異なることになり、資産除去債務に係る将来減算一時差異が、対応する除去費用に係る将来加算一時差異をもって全額回収可能性があると判断されるわけではないと考えられ、両者の慎重なスケジューリングの検討が求められる点にご留意ください。
退職給付債務の計算における割引率は、期末における安全性の高い債券(国債、政府機関債及び優良社債)の利回りを基礎として決定するため、各年度において割引率を見直す必要があります。割引率の変更については、少なくとも、前期末に用いた割引率により算定した場合の退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定されるときに、割引率の変動が退職給付債務に重要な影響を及ぼすものとして期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算するという重要性基準を採用することも可能ですが(退職給付適用指針30項)、金利が変動している局面においては、重要性基準を採用している場合、割引率の変更による退職給付債務の再計算の結果、数理計算上の差異が多額に生じる可能性があります。
ここで、数理計算上の差異の費用処理年数は、発生した年度における平均残存勤務期間以内の一定の年数を継続的に適用する必要があり、一度採用した費用処理年数を変更する場合には合理的な変更理由が必要となりますので(退職給付適用指針39項)、退職給付債務の再計算により多額の数理計算上の差異が発生するような状況にあっても、単に金利の変動によって割引率を変更したことのみをもって、数理計算上の差異の費用処理年数を変更する理由とすることはできないと考えられますので留意が必要です(JICPAリサーチ・センター審理情報No.18「退職給付会計における未認識項目の費用処理年数の変更について」参照)。
また、割引率の変更に重要性基準を採用する場合は、毎期継続して同様の基準により判断する必要があります。ただし、重要性基準はあくまでも容認規定であることから、容認されている方法である重要性基準から原則的な方法である毎期割引率を見直す方法への変更は、より正確な財務報告を行う変更であるため、合理的なものとして認められると考えられます。当該変更は、会計処理の対象となる会計事象等の重要性が増したことに伴う本来の会計処理の原則及び手続への変更が、会計方針の変更にあたらないとされている考え方に準じて(企業会計基準適用指針第24号第8項(1))、会計方針の変更には該当しないと考えられます。
一方で、毎期割引率を見直す方法から重要性基準を用いる方法に変更することは、原則的な方法から容認される方法への変更であり、より正確な財務報告を行うことに逆行する変更となるため、認められないと考えられます。重要性基準を用いている場合、金利が変動している局面では、退職給付債務の再計算によって将来的に多額の数理計算上の差異が発生することを見越して、変動率が10%以上となっていなくとも早めに割引率を見直すことの可否を検討することがあるかもしれませんが、前述のとおり、10%以上の変動が推定されていないにもかかわらず割引率を変更して退職給付債務を再計算した場合、翌期以降は重要性基準を用いることはできず、毎期割引率を見直す必要があると考えられますので留意が必要です。
組織再編やリストラクチャリングの際に、早期退職の募集が行われて早期割増退職金が支払われることがあります。早期割増退職金は、退職給付見込額の見積りには含めず、従業員が早期退職金制度に応募し、かつ、当該金額が合理的に見積られる時点で費用処理する必要があります(退職給付適用指針10項)。ただし、実務上は後発事象との関係もあり、計上時期が論点となります。決算日をまたいで募集期間が設けられているというようなこともありますので、後発事象との関係を整理したうえで、計上時期を慎重に検討する必要があります。
2022年8月26日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から、実務対応報告第43号が公表されており、2024年3月期の期首から原則適用となっています。
2019年5月に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により、金融商品取引法が改正され、いわゆる投資性ICO(Initial Coin Offering(注1))は金融商品取引法の規制対象とされ、各種規定の整備が行われました。
具体的には、これまで流通する蓋然性が低いものとされ、第二項有価証券として分類されてきた金融商品取引法2条2項各号に規定される信託受益権、民法上の任意組合契約に基づく権利、投資事業有限責任組合契約に基づく権利等(以下「集団投資スキーム持分等」という。)について、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合、株式等と同様に事実上流通し得ることを踏まえ、「電子記録移転権利」と定義し、規制が課されています。
また、2020年5月に改正施行された金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という。)において「電子記録移転権利」よりも広い概念である「電子記録移転有価証券表示権利等」が定められました。これは、集団投資スキーム持分等を含む、金融商品取引法2条2項に規定されるみなし有価証券のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものであり、株式や社債などの有価証券表示権利も、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるものとして含まれることになりました。
したがって、金融商品取引法上の電子記録移転有価証券表示権利等の分類としては、電子記録移転権利と、トークン化された有価証券表示権利が存在することになります(図表5参照)。
注1 明確な定義はないが、一般に、企業等がトークン(電子的な記録・記号)と呼ばれるものを電子的に発行して、公衆から法定通貨や仮想通貨の調達を行う行為の総称するもの(「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書(金融庁2018年12月))
みなし有価証券の内容 |
権利の主な具体例(※1) |
||
---|---|---|---|
トークン化された有価証券表示権利 |
金融商品取引法2条1項に掲げる有価証券に表示されるべき権利(有価証券表示権利)のうち、当該権利を表示する当該有価証券が発行されていないもの(金融商品取引法2条2項柱書) |
|
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電子記録移転有価証券表示権利等 |
電子記録移転権利 |
金融商品取引法2条2項各号に掲げる権利 |
|
(※1)一部の権利のみ記載している
(※2)金融商品取引法2条2項1号及び2号に該当するものに限る
(※3)金融商品取引法2条2項5号の要件を満たすもの
こうした状況を踏まえ、ASBJにおいて、金商業等府令における「電子記録移転有価証券表示権利等」の発行・保有等に係る会計上の取扱いの検討が行われ、実務対応報告第43号が公表されました。
実務対応報告第43号は、「株式会社」が、金商業等府令1条4項17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としています(実務対応報告第43号2項)。
電子記録移転有価証券表示権利等
金商業等府令1条4項17号に規定される権利をいい、金融商品取引法2条2項の規定により有価証券とみなされる権利(以下「みなし有価証券」という。)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するもの
電子記録移転有価証券表示権利等は、その発行及び保有がいわゆるブロックチェーン技術等を用いて行われる点を除けば、従来のみなし有価証券(電子記録移転有価証券表示権利等に該当しないみなし有価証券を指す。以下同じ。)と権利の内容は同一と考えられるため、実務対応報告第43号では、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券を発行及び保有する場合の会計処理((図表6)参照)と同様に取り扱うこととされています。
(※1)一部の権利のみ記載している
(※2)金融商品取引法2条2項5号の要件を満たすもの
(※3)金融商品取引法2条2項1号及び2号に該当するものに限る
具体的には、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識については、別途の定めが置かれており、金融商品会計基準が定める原則(金融商品会計基準7項から9項及び金融商品実務指針)に従って行うこととされますが、その売買契約について、契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合に限り、契約を締結した時点において認識することとされています(実務対応報告第43号8項)。
その他、実務対応報告第43号における会計処理及び開示の概要は、(図表7)のとおりです。
金融商品会計基準等上の有価証券に該当する |
金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない(信託の受益権) |
||
---|---|---|---|
発行の会計処理 |
発行の会計処理 |
従来のみなし有価証券を発行する場合と同様 |
実務対応報告第43号の対象外 |
保有の会計処理 |
発生及び消滅の認識 |
原則として、金融商品会計基準が定める原則に従う 売買契約について、契約を締結した時点から移転した時点までの期間が短期間である場合、契約を締結した時点に認識する |
原則として、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号の定めに従う 金融商品実務指針及び実務対応報告第23号の定めに基づき、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱うこととされているものは、左記の金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識の定めに従う |
保有の会計処理 |
B/S価額の算定及び評価差額の会計処理 |
従来のみなし有価証券を保有する場合と同様 |
金融商品実務指針及び実務対応報告第23号の定めに従う |
電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示方法及び注記事項は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合に求められる表示方法及び注記事項と同様とすることとされています(実務対応報告第43号11項、12項)。このため、電子記録移転有価証券表示権利等は、従来のみなし有価証券に含めて貸借対照表に表示し、金融商品に関する注記事項を開示する場合には、当該注記においても従来のみなし有価証券に含めて注記することになります。
また、電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有しており、この24年3月期から実務対応報告第43号を原則適用する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として注記することになります(企業会計基準第24号10項)。なお、実務対応報告第43号においては、特定の経過的な取扱いが定められていないため、従来から電子記録移転有価証券表示権利等を保有する場合には、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することになります(実務対応報告第43号13項、企業会計基準第24号6項(1))。
適用時期については、(図表8)のとおり、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から原則適用となります。
図表8 適用時期 |
原則適用 |
2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から |
早期適用 |
実務対応報告第43号の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から |
電子記録移転有価証券表示権利等は、今後どのように取引が発展していくかは現時点では予測することが困難であるため、一部の論点については実務対応報告第43号では取り扱わないこととしています(「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」のポイント)。
実務対応報告第43号で取り扱わないこととした論点
① 株式会社以外の信託、持分会社、民法上の任意組合、商法上の匿名組合、投資事業有限責任組合及び有限責任事業組合における発行及び保有の会計処理
② 株式又は社債を電子記録移転有価証券表示権利等として発行する場合に財又はサービスの提供を受ける権利が付与されるときの会計処理
③ 暗号資産建の電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理
④ 組合等への出資のうち電子記録移転権利に該当する場合の保有の会計処理
2023年11月17日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から、実務対応報告第45号が公表されており、公表日から適用されています。
2022年6月に平成21年法律第59号「資金決済に関する法律」(以下「資金決済法」という。)が改正されました。改正された資金決済法においては、いわゆるステーブルコインのうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義され、また、これを取り扱う電子決済手段等取引業者について登録制が導入され、必要な規定の整備が行われました。
こうした状況を踏まえて、ASBJにおいて、資金決済法上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いの検討が行われ、実務対応報告第45号が公表されました。
また、実務対応報告第45号の公表にあわせて、企業会計基準第32号「「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」の一部改正」及び会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」(以下「キャッシュ・フロー実務指針」という。)の改正が行われました。
資金決済法2条5項に規定される電子決済手段のうち、1号電子決済手段、2号電子決済手段及び3号電子決済手段を対象とすることとされています。ただし、1号電子決済手段、2号電子決済手段又は3号電子決済手段のうち外国電子決済手段については、電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限られるとされています(実務対応報告第45号2項)。
また、実務対応報告第45号2項にかかわらず、3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示に関しては、実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」を適用するとされています(実務対応報告第45号3項)。
以下では「電子決済手段」とは、実務対応報告第45号の対象となる特定の電子決済手段をいいます。
(i) 電子決済手段の取得時、移転時又は払戻時の会計処理
実務対応報告第45号の対象となる電子決済手段に係るその取得時、移転時又は払戻時の会計処理は図表9のとおりとされています。
電子決済手段の取得時 |
電子決済手段の移転時又は払戻時 |
|
---|---|---|
計上日 |
受渡日 |
受渡日 |
計上額 |
当該電子決済手段の券面額に基づく価額をもって電子決済手段を資産として計上し、当該電子決済手段の取得価額と電子決済手段の券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理 |
電子決済手段を第三者に移転するときに金銭を受け取り、当該電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理 |
(ii) 電子決済手段の期末時の会計処理
実務対応報告第45号の対象となる電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とすることとされています。なお、実務対応報告第45号では電子決済手段の換金リスクに関する会計上の取扱いを定めないとされています。
(i) 電子決済手段の発行時、払戻時の会計処理
実務対応報告第45号の対象となる電子決済手段の発行時、払戻時の会計処理は図表10のとおりとされています。
電子決済手段の発行時 |
電子決済手段の払戻時 |
|
---|---|---|
計上日 |
受渡日 |
受渡日 |
計上額 |
当該電子決済手段に係る払戻義務について債務額(すなわち券面額に基づく価額)をもって負債として計上し、当該電子決済手段の発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理 |
払戻しに対応する債務額を取り崩す |
(ii) 電子決済手段の期末時の会計処理
実務対応報告第45号の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とすることとされています。
実務対応報告第45号の対象となる外貨建電子決済手段の期末時の円換算は図表11のとおりとされています。
期末時の円換算 |
|
---|---|
実務対応報告第45号の対象となる外貨建電子決済手段 |
企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」(以下「外貨建取引等会計処理基準」という。)一2 (1) ①の定めに準じて処理を行う。すなわち、決算時の為替相場による円換算額を付する。 |
実務対応報告第45号の対象となる外貨建電子決済手段に係る払戻義務 |
外貨建取引等会計処理基準一2 (1) ②の定めに従って処理を行う。すなわち、決算時の為替相場による円換算額を付する。 |
電子決済手段等取引業者又はその発行する電子決済手段について電子決済手段等取引業を行う電子決済手段の発行者は、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった実務対応報告第45号の対象となる電子決済手段を資産として計上せず、また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しないこととされています。
実務対応報告第45号の対象となる電子決済手段及び実務対応報告第45号の対象となる電子決済手段に係る払戻義務に関して、金融商品会計基準40-2項に定める金融商品の状況に関する及び金融商品の時価等に関する事項について注記を行うこととすることとされています。
なお、金融商品の時価等に関する事項を注記するにあたり、実務対応報告第45号の対象となる電子決済手段については、預金に関する取扱いに準ずることが考えられるとされています。また、実務対応報告第45号の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、金銭債務に関する取扱いに従うことになると考えられるとされています。
資金の範囲について、キャッシュ・フロー作成基準一部改正においては、特定の電子決済手段、すなわち、資金決済法2条5項1号から3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る。)を現金に含めることとされています(キャッシュ・フロー作成基準一部改正2項及び3項)。また、キャッシュ・フロー実務指針においては、キャッシュ・フロー作成基準一部改正の定めと整合を図るため、現金の定義に「特定の電子決済手段」が追加され、キャッシュ・フロー作成基準一部改正の記載と整合させる形で、「特定の電子決済手段」は実務対応報告第45号の適用対象となる1号電子決済手段、2号電子決済手段及び3号電子決済手段が該当し、「外国電子決済手段」は、これらの電子決済手段のうち電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限られるとされています(キャッシュ・フロー実務指針2項(1))。
なお、電子決済手段の貸借対照表上の取り扱いについては、令和6年2月19日 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方において、電子決済手段は、「実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」BC18項において、「現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産」であるものの「現金又は預金そのものではない」とされていることから、財務諸表等規則第15条第1項に定める「現金及び預金」の範囲には含まれないこととなります。したがって、電子決済手段については、財務諸表等規則第17条第1項第12号に規定する「その他」に区分されることとなります。なお、財務諸表等規則第19条に基づき、重要性が認められる場合には、当該資産を示す名称を付した科目をもって掲記する必要があります。」との金融庁の考え方が示されています。
また、電子決済手段はキャッシュ・フロー計算書及び貸借対照表において上述のように取り扱われることとなるため、電子決済手段を保有している場合には連結キャッシュ・フロー計算書における現金及び現金同等物の範囲の注記、貸借対照表との科目の関係の注記についても留意してください。
令和5年度税制改正において、完全子会社株式に関して一部の持分を残す株式分配のうち、当該一部の持分が当該完全子会社の株式の発行済株式総数の20%未満となる株式分配((図表12)参照)について、一定の要件を満たす場合には、課税の対象外とされる特例措置が設けられました。これが、いわゆるパーシャルスピンオフ税制と呼ばれています。
(出典:経済産業省 産業組織課「『スピンオフ』の活用に関する手引(令和4年9月)」www.meti.go.jp/press/2022/09/20220916005/20220916005-1.pdf〈2024年2月20日アクセス〉)
令和5年度税制改正以前のスピンオフ(企業が特定事業を切り出して独立会社とする組織再編行為)に関する税制においては、スピンオフ実施会社に持分の一部を残す場合には、適格組織再編に該当しないこととされていました。しかしながら、内閣官房より公表された「スタートアップ育成5か年計画」では、大企業が有する経営資源(人材、技術等)の潜在能力の発揮や大企業発のスタートアップ創出の観点から、スピンオフの促進が重要であることが示され、このために、スピンオフを行う企業に持分を一部残す場合についても課税の対象外とすることが示されました。これを受けて、令和5年度税制改正により、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が設けられました。
完全子会社株式に関して一部の持分を残す株式分配について、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が適用されるためには、基本的に、(図表13)に示す要件を満たす必要があります。
要件 |
内容 |
|
---|---|---|
① |
非支配要件 |
現物分配法人が株式分配の直前に他の者による支配関係がない法人であり、かつ、株式分配に係る完全子法人が株式分配後に他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと |
② |
株式のみ 按分交付要件 |
産業競争力強化法に基づく認定を受けた事業再編計画に従って行われる、同法に基づく特定剰余金の配当であって、完全子法人株式の100分の80超が移転し、かつ、現物分配法人の株主の持株数に応じて完全子法人の株式のみが交付されること |
③ |
従業者継続要件 |
おおむね100分の90以上の従業者が完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれること |
④ |
事業継続要件 |
完全子法人の主要な事業が完全子法人において、株式分配後も引き続き行われることが見込まれること |
⑤ |
役員継続要件 |
完全子法人の特定役員の全てが株式分配に伴い退任するものでないこと |
⑥ |
事業再編計画 認定要件 (令和6年度税制改正大綱により要件の追加が提案されています) |
2023年4月1日から2024年3月31日までの間(令和6年度税制改正大綱により延長が提案されています)に、特定剰余金配当に係る関係事業者等(完全子法人)が、経済産業大臣の定める以下の要件を満たし、事業の成長発展が見込まれるものとして、事業再編計画の認定を受けていること。 (上記期間内に認定を受ければスピンオフ実施が期間後であっても課税の特例は適用される) <経済産業大臣が定める要件>
<事業再編の実施に関する指針四へ> 以下イ~ハのいずれかの要件を満たしていることが確認できること イ:インセンティブ構造
ロ:新規事業性
ハ:事業の成長可能性
|
出典:経済産業省 産業組織課「『スピンオフ』の活用に関する手引(令和4年9月)」www.meti.go.jp/press/2022/09/20220916005/20220916005-1.pdf〈2024年2月20日アクセス〉)
なお、令和5年度税制改正では、いわゆるパーシャルスピンオフ税制を適用するためには2023年4月1日から2024年3月31日までの間に認定を受ける必要がありましたが、2024年3月28日に国会で成立した令和6年度税制改正法において、当該認定を受ける期間を2028年3月31日までとすること、つまり適用期限を4年延長することとされています。また、令和6年度税制改正の大綱では、以下の見直しも提案されています。
① 認定事業再編計画の公表時期について、現行では認定の日とされているところを、認定の日から認定事業再編計画に記載された事業再編の実施時期の開始の日までとすること
② 認定株式分配に係る完全子法人が主要な事業として新たな事業活動を行っていることを要件として追加すること
いわゆるパーシャルスピンオフ税制に対応して、ASBJにより、自己株式等会計適用指針及び税効果会計適用指針が改正されました。また、日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)により、資本連結実務指針が改正されました。
これらの会計基準等の改正は、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が時限的なものであり、早期に基準開発を完了すべきとの理由から、発生する可能性の高い取引((図表14)の「対象」)に対象が限定されています。
図表14 会計基準等の改正に係る対象取引 |
分配後において子会社株式に該当するか |
分配後において子会社株式に該当するか |
||
該当しない(*1) |
該当する |
||
分配対象株式は完全子会社株式であるか |
完全子会社株式 |
対象 |
|
分配対象株式は完全子会社株式であるか |
上記以外の子会社株式 |
対象外 |
対象外 |
(*1) いわゆるパーシャルスピンオフ税制において税制適格となるかどうかには関わらない。また、支配を喪失して関連会社になった場合も含まれる
スピンオフ実施会社の個別財務諸表上、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額します(自己株式等会計適用指針10項)。
【設例:前提条件】
① 期末において、100%子会社であるS社の株式(帳簿価額1,000、時価1,400)のうち90%をその他資本剰余金から配当した結果、S社株式はその他有価証券となった。
(*1) 配当の効力発生日における配当されるS社株式の適正な帳簿価額
(*1) 配当後のS社株式の適正な帳簿価額
保有する完全子会社株式のすべて又は一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合について、連結財務諸表上も、個別財務諸表と同様に、配当財産の時価で配当したとはせず、現物配当に係る損益は計上しないように会計処理することになります。
具体的には、連結財務諸表に計上した取得後利益剰余金及びその他の包括利益累計額並びにのれん償却累計額の合計額等(以下「投資の修正額」という。)について、個別財務諸表の取得価額に含まれている付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金とこれ以外の部分とに分けて(図表15)のように処理します(資本連結実務指針第46-3項、第46-4項)。
個別財務諸表の取得価額に含まれている付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金 |
左記以外の部分 |
---|---|
配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額について、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額を修正する。 |
配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額について、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する(*1) |
(*1) この処理により減少するその他の包括利益累計額は当期純利益を構成するものではないため、組替調整の対象とはならない。
なお、配当後の残存投資は、子会社株式の一部売却の処理に準じて処理します(資本連結実務指針第46-3項また書き、第46-4項また書き)。
【設例:前提条件】
① 期末において、100%子会社であるS社の株式(帳簿価額1,000、時価1,400)のうち90%をその他資本剰余金から配当した結果、S社株式はその他有価証券となった。
② 連結財務諸表上、配当前の投資の修正額は300であり、その内訳は以下のとおりである。
ⅰ追加投資時の投資差額(連結財務諸表上は資本剰余金):210
ⅱ取得関連費用(連結財務諸表上は利益剰余金):△70
ⅲ取得後利益剰余金:160(うち、当期純利益は30)
③ 連結財務諸表上、配当後の投資の修正額は30である。
(配当前持分の評価)
(*1) 取得後利益剰余金のうち前期末までの額(【設例:前提条件】②ⅲ)
(*2) 個別財務諸表上は取得価額に含まれているが連結財務諸表上は費用処理されている取得関連費用(【設例:前提条件】②ⅱ)
(*3) 取得後利益剰余金のうち当期純利益の額(【設例:前提条件】②ⅲ)
(*4) 追加投資時の投資差額(【設例:前提条件】②ⅰ)
(*1) 取得後利益剰余金160-160×残存持分比率10%
(*2) 追加投資時の投資差額210-210×残存持分比率10%
(*3) 連結財務諸表上費用処理されている取得関連費用△70-△70×残存持分比率10%
(*1) 配当後の投資の修正額30(【設例:前提条件】③)
投資の修正額などの連結財務諸表固有の一時差異のうち、パーシャルスピンオフにより解消する部分については、パーシャルスピンオフでは個別財務諸表及び連結財務諸表のいずれにおいても現物配当に係る損益は計上されないことから、税効果適用指針における連結財務諸表固有の一時差異に直接的には該当しない((図表16)の定義に当てはまらない)と考えられると指摘されていました(税効果会計適用指針第124-2項)。
連結財務諸表固有の将来減算一時差異 |
連結財務諸表固有の将来加算一時差異 |
---|---|
連結決算手続の結果として連結貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)を・・・ |
連結決算手続の結果として連結貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)が、連結会社の個別貸借対照表上の資産の金額(又は負債の金額)を・・・ |
下回る(又は上回る)場合に、当該連結貸借対照表上の資産(又は負債)が回収(又は決済)される等により、当該一時差異が解消する時に、連結財務諸表における利益が減額されることによって当該減額後の利益の額が当該連結会社の個別財務諸表における利益の額と一致する関係を持つもの |
上回る(又は下回る)場合に、当該連結貸借対照表上の資産(又は負債)が回収(又は決済)される等により、当該一時差異が解消する時に、連結財務諸表における利益が増額されることによって当該増額後の利益の額が当該連結会社の個別財務諸表における利益の額と一致する関係を持つもの |
しかしながら、パーシャルスピンオフにより解消する一時差異についても税効果適用指針の定めを適用することが適切と考えられるため、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異に準ずるものとして取り扱うこととされました(税効果会計適用指針第4項(5)なお書き)。
具体的には、上記【設例:前提条件】②において、配当前の投資の修正額300は、パーシャルスピンオフにより解消する際に損益が計上されないため、上表の定義には直接的には該当しないことになりますが、連結財務諸表固有の将来加算一時差異に準ずるものとして取り扱われます。したがって、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に係る認識要件を満たす場合には、当該一時差異について繰延税金負債を計上します。
2022年10月28日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から(図表17)記載の会計基準等の改正が公表され、また、同日に日本公認会計士協会(JICPA)から同表記載の実務指針等の改正が公表されています。
公表主体 |
改正会計基準等の名称 |
---|---|
ASBJ |
企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」 |
ASBJ |
企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」 |
ASBJ |
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」 |
JICPA |
会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」 |
JICPA |
会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」 |
JICPA |
会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」 |
JICPA |
会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」 |
JICPA |
「金融商品会計に関するQ&A」 |
ASBJより、2018年2月に企業会計基準第28号等を公表し、JICPAにおける税効果会計に関する実務指針のASBJへの移管を完了しましたが、その審議の過程で、次の2つの論点について、企業会計基準第28号等の公表後に改めて検討を行うこととしていました。
① 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)
② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果
ASBJでは、移管の完了後、まず上記①について審議を開始しましたが、2020年度の税制改正においてグループ通算制度が創設されたことに伴い、グループ通算制度を適用する場合の取扱いについての検討を優先していました。その後、2021年8月に実務対応報告第42号を公表した後に、審議が再開され、公表に至ったものです。
主な改正点は以下の2点です。詳細な内容はそれぞれのQ&Aをご確認ください。
① 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税) (Q13参照)
② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果 (Q14参照)
適用時期については、(図表18)のとおり、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となります。なお、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用が可能ですが、早期適用する場合には、上記2つの改正点のいずれも同時に適用しなければならないと考えられます。
図表18 適用時期 |
原則適用 |
2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
早期適用 |
2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
当事業年度の所得等に対する税金費用について、現行の会計処理では以下のとおりとなっていました。