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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 平川 浩光
企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2025年3月11日に、改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「本実務指針」という。)を公表しました。
我が国においては、企業が投資する組合等※1への出資の評価に関して、当該組合等の構成資産が金融資産に該当する場合には企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)に従って評価し、当該組合等への出資者である企業の会計処理の基礎とするとしています(本実務指針第132項)。
この点、金融商品会計基準は、市場価格のない株式については取得原価をもって貸借対照表価額とするとされていることから、企業が投資する組合等の構成資産が市場価格のない株式である場合、これらについても取得原価で評価することとなります。
当該定めに関して、近年、ファンドに非上場株式を組み入れた金融商品が増加しており、これらの非上場株式を時価評価することによって、財務諸表の透明性が向上し、投資家に対して有用な情報が開示及び提供されることになり、その結果、国内外の機関投資家からより多くの成長資金がベンチャーキャピタルファンド等に供給されることが期待されるとして、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式を時価評価するよう、会計基準を改正すべきとの要望が聞かれました。
こうした状況を受けて、ASBJにおいて、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式を中心とする範囲に限定し、企業が保有するベンチャーキャピタルファンドの出資持分に係る会計上の取扱いの見直しを目的として会計基準の開発に着手することとし、検討が重ねられ、本実務指針が公表されました。
※1 任意組合すなわち民法上の組合、匿名組合、パートナーシップ、及びリミテッド・パートナーシップ等(本実務指針第132項)。組合等への出資については、原則として、組合等の財産の持分相当額を出資金として計上し、組合等の純損益の持分相当額を当期の純損益として計上する。
本実務指針では、対象となる組合等の範囲に関して、次の要件を設けることとしています。
① 組合等の運営者※2は出資された財産の運用を業としている者であること
② 組合等の決算において、組合等の構成資産である市場価格のない株式について時価をもって評価していること
これは、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等とそれ以外の組合等を明確に区分することは困難と考えられたため、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等を直接的に定義することは行わないこととしたこと、また一方で、組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価の信頼性を担保するために、当該要件を設けることとされたものです。
なお、②の要件に関して、「時価をもって評価している」場合とは、組合等が適用している会計基準により市場価格のない株式について時価評価が求められている場合のほか、市場価格のない株式について時価評価する会計方針を採用している場合が含まれると考えられるとされています。また、時価評価の方法としては、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」に基づいた時価で評価する場合のほか、国際財務報告基準(IFRS) 第 13 号「公正価値測定」又はFASB Accounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会(FASB)による会計基準のコード化体系)の Topic 820「公正価値測定」に基づいた公正価値で測定している場合が含まれると考えられるとされています。
※2 「組合等の運営者」とは、我が国におけるベンチャーキャピタルファンドの多くで用いられている投資事業有限責任組合の形態においては、無限責任組合員が該当すると考えられる。また、他の法形態に基づく組合等については、投資事業有限責任組合における無限責任組合員と類似の業務を執行する者が該当すると考えられる。
会計処理に関して、(1)の①及び②の要件を満たす組合等への出資は、当該組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く。)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることができることとされています。そして、この場合の評価差額の持分相当額は、当期の損益ではなく、「その他有価証券評価差額金」として純資産の部に計上することとされています(移管指針公開草案第15号(移管指針第9号の改正案)「金融商品会計に関する実務指針(案)」に対するコメントNo.20参照)((図表1)参照)。
図表1 組合等への出資の取扱いのイメージ
(1)の範囲に含まれるすべての組合等を適用対象とするか、組合等の単位で選択できるようにするかについては、本実務指針では、組合等への出資者である企業が本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の選択に関する方針を定め、当該方針に基づき、組合等への出資時に本実務指針第132-2項の定めの適用対象かどうか決定する、また、本実務指針132-2項の定めを適用することとした組合等への出資の会計処理は、出資後に取りやめることはできないとすることとされています。
なお、企業が直接出資する組合等について本実務指針第 132-2項の定めを適用することを選択しており、かつ、ファンド・オブ・ファンズのように組合等が別の組合等に出資しているケースにおいては、組合等が出資する別の組合等ごとに本実務指針第132-2 項(1)及び(2)の要件を満たすか判定を行い、要件を満たした別の組合等についてのみ、その構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く。)について時価をもって評価し、その組合等への出資者の会計処理の基礎とすることになると考えられるとされています。
本実務指針第132-2項の定めを適用する場合における組合等の構成資産である市場価格のない株式の減損処理について、本実務指針では、組合等の構成資産である市場価格のない株式について時価評価していることを踏まえ、市場価格のない株式等の減損処理に関する定め(本実務指針第92項)に代わり、時価のある有価証券の減損処理に関する定め(本実務指針第91項)に従って減損処理を行い、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることとされています。
図表2 本実務指針における組合等への出資の会計処理のまとめ
(1) |
対象となる組合等の要件 |
① 組合等の運営者は出資された財産の運用を業としている者であること |
---|---|---|
(2) |
出資者である企業の会計処理(本実務指針第132-2項) |
|
(3) |
企業の選択に関する方針 |
組合等への出資者である企業は、本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の選択に関する方針を定め、当該方針に基づき、組合等への出資時に適用対象かどうか決定する(なお、出資後に取りやめることはできない) |
(4) |
減損処理 |
本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の構成資産である市場価格のない株式については、市場価格のない株式等の減損処理に関する定め(本実務指針92項)に代わり、時価のある有価証券の減損処理に関する定め(本実務指針91項)に従って減損処理を行い、組合等への出資者の会計処理の基礎とする |
企業会計基準適用指針第 31 号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下「時価算定適用指針」という。)第24-16項は、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資については時価の注記を要しないこととし、その場合、注記していない旨及び時価算定適用指針第24-16項の取扱いを適用した組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額を注記することとしています。
本実務指針では、本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等への出資については、これらの注記に併せて、次の事項を注記することとされています。
(1) 本実務指針第132-2項の定めを適用している旨
(2) 本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の選択に関する方針
(3) 本実務指針第132-2項の定めを適用している組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額※3
なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないこととされています。
※3 当該事項の注記は、時価算定適用指針第 24-16 項の取扱いを適用した組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額の内数に該当すると考えられる。
本実務指針では、以下の適用時期が定められています。
区分 |
適用時期 |
---|---|
原則適用 |
2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用 |
早期適用 |
2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用ができる |
本実務指針では、適用初年度の期首時点において、組合等への出資者である企業が定めた方針に基づいて本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等を決定することとされています。
そして、会計処理の遡及適用は求めず、適用初年度の期首から将来にわたって適用することとし、適用後の当期純利益等への影響が適切となるように、次の経過措置を設けることとされています。
(1) 適用初年度の期首時点において、本実務指針第 132-2 項の定めを適用する組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く。)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とする。この場合、適用初年度の期首時点での評価差額の持分相当額を適用初年度の期首のその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減する。
(2) 適用初年度の期首時点において、本実務指針第132-2項の定めを適用する組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く。)について時価のある有価証券の減損処理に関する定め(本実務指針第91項)に従って減損処理を行い、組合等への出資者の会計処理の基礎とする。この場合、減損処理による損失の持分相当額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する。
適用対象とされた組合等については、原則として、構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることになりますが、子会社株式及び関連会社株式については取得原価をもって貸借対照表価額とすることとされていること(金融商品会計基準第17項)を踏まえ、出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式は時価をもって評価する対象から除くこととが明確化されました。
また、企業が直接出資する組合等について本実務指針第132-2項の定めを適用することを選択しており、かつ、ファンド・オブ・ファンズのように組合等が別の組合等に出資しているケースにおいては、組合等が出資する別の組合等ごとに本実務指針第132-2 項(1)及び(2)の要件を満たすか判定を行い、要件を満たした別の組合等についてのみ、その構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く。)について時価をもって評価し、その組合等への出資者の会計処理の基礎とすることになる考え方が示されました。
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