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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 岡本 裕二
企業会計基準第33号等の検討にあたり、上場会社及び財務諸表利用者から中間決算と四半期決算は同じ会計基準等に基づいて行うべきであるとの意見が聞かれていたことから、企業会計基準公開草案第80号等の公表時に、今後の基準開発の方向性として企業会計基準第33号等と企業会計基準第12号等を統合した会計基準等の開発を行うかについて意見が募集されました。
寄せられた意見は、会計基準等の開発の方法についての意見の相違はあるものの、中間決算と四半期決算で同じ会計基準等に基づき決算ができるようにするという方向性については反対していないと考えられたため、2024年10月に開催された第535回企業会計基準委員会において、改正後の金融商品取引法に基づく第一種中間財務諸表と金融商品取引所の定める規則に基づく第1四半期及び第3四半期の四半期財務諸表の両方に適用可能となるように、企業会計基準第33号等と企業会計基準第12号等を統合した期中財務諸表に係る会計処理及び開示に関する取扱いを提案することとされました。
本会計基準案等は、年度より短い期間の企業集団又は企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況について報告するために期中財務諸表を作成する場合に適用することが提案されています。本会計基準案等の適用対象となる期中財務諸表には、金融商品取引法に基づく半期報告書において開示される「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という。)第1条第1項第2号に規定する第一種中間連結財務諸表及び「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下、連結財務諸表規則と合わせて「財務諸表等規則等」という。)第1条第1項第2号に規定する第一種中間財務諸表が含まれることが提案されています。
一方、金融商品取引法に基づく半期報告書において開示される第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表については、従前より「中間連結財務諸表作成基準」、「中間連結財務諸表作成基準注解」、「中間財務諸表作成基準」及び「中間財務諸表作成基準注解」(以下、合わせて「中間作成基準等」という。)が適用されており、引き続き中間作成基準等が適用されるため、本会計基準案等の適用対象となる期中財務諸表には含まれないことを明確化することが提案されています。
本会計基準案等は、改正後の金融商品取引法に基づく第一種中間財務諸表と、金融商品取引所の定める規則に基づく第1四半期及び第3四半期の四半期財務諸表の両方に適用可能となるように、企業会計基準第12号等と企業会計基準第33号等を統合することを目的としているため、次のことを前提とすることが提案されています。
本会計基準案等は、企業の報告の頻度(年次、半期、又は四半期)によって、年次の経営成績の測定が左右されてはならないとする原則を採用することが提案されています。また、第一種中間財務諸表及び四半期財務諸表に共通の取扱いと、四半期財務諸表のみに適用される取扱いを区分することが提案されています。
期中会計期間末に計上した有価証券の減損処理に基づく評価損の戻入れ及び期中会計期間末における棚卸資産の簿価切下げについては、(1)に記載している原則と整合していると考えられる洗替え法によることが提案されています。ただし、本適用指針案の適用前に企業会計基準適用指針第32号又は企業会計基準適用指針第14号に基づき切放し法を適用していた場合には、継続して切放し法を適用することができることが提案されています。この場合に、当期中会計期間を含む事業年度において、当期中会計期間末より前の期間に本適用指針案に基づき切放し法を適用しているときは、当該減損処理後の帳簿価額又は当該簿価切下げ後の帳簿価額を取得原価として当期中会計期間末に切放し法を適用することが提案されています。また、切放し法を適用する場合には、その旨を注記することが提案されています。
① 一般債権の貸倒見積高の算定における簡便的な会計処理
期中会計期間末における一般債権に対する貸倒見積高について、次のように算定することができるとすることが提案されています。
ⅰ. 一般債権の貸倒実績率等が前年度の財務諸表の作成において使用した貸倒実績率等と著しく変動していないと考えられる場合には、期中会計期間末において、前年度末の決算において算定した貸倒実績率等の合理的な基準を使用することができる。
ⅱ. 期中において前年度の貸倒実績率等から著しい変動があり見直しを行った場合に、当該見直しを行った後の期中会計期間末において見直し後の貸倒実績率等と著しく変動していないと考えられるときは、当該見直し後の貸倒実績率等の合理的な基準を使用することができる。
② 未実現損益の消去における簡便的な会計処理
連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産に含まれる期中会計期間末における未実現損益の消去にあたっては、期中会計期間末在庫高に占める当該棚卸資産の金額及び当該取引に係る損益率を合理的に見積って計算することができるとすることが提案されています。また、損益率については次のように算定することができるとすることが提案されています。
ⅰ. 前年度から取引状況に大きな変化がないと認められる場合には、前年度の損益率や合理的な予算制度に基づいて算定された損益率を使用して計算することができる。
ⅱ. 期中において前年度から取引状況に大きな変化があり見直しを行った場合に、当該見直しを行った後の期中会計期間末において見直し後の損益率や見直し後の合理的な予算から取引状況に大きな変化がないと認められるときは、当該見直し後の損益率や見直し後の合理的な予算制度に基づいて算定された損益率を使用して計算することができる。
① 他の会計基準等についての修正の方針
本公開草案に関する他の会計基準等についての修正は、次の方針により対応することが提案されています。
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従来、企業会計基準第12号等及び企業会計基準第33号等以外の他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針(以下「他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針」という。)の一部において、四半期財務諸表又は第二種中間財務諸表の取扱いが定められていました。会計基準の改正等に伴う他の会計基準等の改正又は修正については、用語の置き換え等により対応することが一般的ですが、本会計基準案等の開発にあたり個別のテーマに関する企業会計基準及び企業会計基準適用指針については年度の会計処理及び開示を取り扱うものと整理し、他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針において定めている四半期財務諸表の取扱いを本会計基準案等に取り込むことが提案されています。
一方、実務対応報告は「企業会計基準がない分野についての当面の取扱い、緊急性のある分野についての実務上の取扱いなど」とされており、移管指針は「日本公認会計士協会が公表した企業会計に関する実務指針及びQ&Aを形式以外の変更を行わずに委員会に移管したもの(移管後、改正又は修正を行ったものを含む)」とされているため、実務対応報告及び移管指針において期中財務諸表に関する取扱いが定められている場合は、本会計基準案等又は中間作成基準等には取り込まず、実務対応報告及び移管指針についての修正等を行うことが提案されています。
② 他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針が定める四半期の取扱いの本会計基準案等への取り込み
上述の方針に従い、他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針において定めている四半期財務諸表の取扱いを本会計基準案等に取り込むにあたっては、次のとおりとすることが提案されています。
ⅰ. 会計処理については、期中特有の会計処理及び簡便的な会計処理を除き、年度と同様の会計処理を行うこととなるため、四半期固有の取扱いを定めたもののみを本会計基準案等に引き継ぎ、年度と同様の取扱いを定めたものは引き継がない。
ⅱ. 注記事項については、本会計基準案等において開示が求められていない注記事項は原則として期中財務諸表において開示を要しないと考えられる旨を注記事項に関する基本的な考え方として示し、当該考え方に従って開示を求めるもののみを引き継ぎ、四半期財務諸表での注記を省略できるとの定めは引き継がない。
③ 他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針が定める中間の取扱いの本会計基準案等への取り込み
他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針において第二種中間財務諸表の取扱いを定めていたもののうち四半期財務諸表及び第一種中間財務諸表の取扱いを定めていない取扱いについては、次のとおり期中財務諸表における取扱いを明らかにし、本会計基準案等に取り込むことが提案されています。
ⅰ. 自己株式の処分及び消却
6か月ごとより高い頻度で本会計基準案に従い期中財務諸表を作成する場合において、自己株式の処分及び消却(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(以下「自己株式等会計基準」という。)第10項、第11項)の会計処理の結果、期中決算において、その他資本剰余金の残高が負の値になった場合の取扱い(自己株式等会計基準第12項)について、自己株式等会計基準第42項では、中間決算において負の値となったその他資本剰余金をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんするとき、年度決算においては洗替処理するとされていました。同一会計期間内にその他資本剰余金の額の増加と減少の順番が異なる場合に結果が異ならないように、年度決算において確定計上することとした趣旨を踏まえると、同一会計期間内である期中会計期間の取扱いについても、洗替処理することになると考えられます。このため、6か月ごとより高い頻度で本会計基準案に従い期中財務諸表を作成する場合には、その後の期中決算において、洗替処理を行うことが提案されています。
ⅱ. 役員賞与の会計処理
企業会計基準第4号「役員賞与に関する会計基準」第14項では、「役員賞与の金額が事業年度の業績等に基づき算定されることとなっているため中間会計期間において合理的に見積ることが困難な場合や、重要性が乏しいと想定される場合には、中間会計期間においては、費用処理しないことができる。」とされていました。期中財務諸表においても、役員賞与の金額が事業年度の業績等に基づき算定されることとなっているため事業年度の業績等が確定していないという点は、同様と考えられることから、期首からの累計期間において合理的に見積ることが困難な場合や、重要性が乏しいと想定される場合には、期首からの累計期間においては、費用処理しないことができるとすることが提案されています。
中間作成基準等の適用対象となる中間連結財務諸表及び中間財務諸表が第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表であることを明確化することが提案されています。
また、他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針における中間財務諸表の取扱いについては、第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表の取扱いとして、内容を維持したまま中間作成基準等に取り込むことが提案されています。
本会計基準案等は、適用時期について 20XX年4月1日[公表後最初に到来する年の4月1日を想定している。]以後開始する連結会計年度及び事業年度の最初の期中会計期間から適用することが提案されています。
また、本会計基準案等は、経過措置として、本会計基準案等の定めに従い会計方針を変更する場合、新たな会計方針を適用初年度の最初の期中会計期間から将来にわたって適用することが提案されています。
本公開草案に対するコメント募集に際し、以下の個別の質問が示されています。
質問1
本会計基準案等の開発にあたって企業の報告の頻度(年次、半期、又は四半期)によって、年次の経営成績の測定が左右されてはならないとする原則を採用するという提案に同意するか否か。同意しない場合には、その理由
質問2
有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法について、本適用指針案の適用前から期中会計期間末において切放し法を適用していた場合には継続適用を認め、期中会計期間末において切放し法を適用している場合には、その旨を注記する提案に同意するか否か。同意しない場合には、その理由
質問3
一般債権の貸倒見積高の算定及び未実現損益の消去について、企業会計基準適用指針第32号で経過措置として定めていた取扱いに類似する上述のⅡ.4.(3)①ⅱ.及び②ⅱ.の方法を簡便的な会計処理として定めるという提案に同意するか否か。同意しない場合には、その理由
質問4
他の会計基準等についての修正に関する次の提案に同意するか否か。同意しない場合には、その理由
(1) 他の会計基準等についての修正の方針
(2) 他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針が定める四半期財務諸表の取扱いの本会計基準案等への取り込み
(3) 他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針が定める第二種中間財務諸表の取扱いの本会計基準案等への取り込み
質問5
中間作成基準等の一部改正案に関する提案に同意するか否か。同意しない場合には、その理由
質問6
本会計基準案等の適用時期及び経過措置に関する提案に同意するか否か。同意しない場合には、その理由
質問7
その他
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