EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
クロスボーダー上場支援オフィス
甲斐 佑典
2024年上半期(2024年1月~6月)における世界のIPO市場は、上場数551件、調達額522億米ドルとなりました。対前年同期比では、件数で12%の減少、調達額で16%の減少となりました。これは主に、Asia-Pacific(アジア・パシフィック)でIPO活動が鈍化したことによるものです。一方で、Americas(北・中・南米)とEMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)は、好調な株式市場、IPOの企業価値評価の向上、投資家の熱意の高まりを背景に上半期には大きく成長しています。
製造業セクターは115件(21%)とIPOの件数で首位に立ちましたが、これは主にインドでの好調な活動に支えられています。また、テクノロジーセクターは資金調達額で突出しており、その額は108億米ドル(21%)という驚異的な数字を記録しましたが、半分以上(52%)が米国での調達でした。
大規模なプライベートエクイティ(PE)やベンチャーキャピタル(VC)が支援するIPOが急増し、このような株式公開による調達割合は、2023年上半期はわずか9%でしたが、2024年上半期には41%に上昇しました。この傾向は特にAmericasで顕著で、IPO調達額の74%がPEおよびVCが支援する企業によるものでした。
2024年上半期における南北アメリカエリアのIPO市場は、上場数86件、調達額178億米ドルとなりました。対前年同期比では、件数で12%の増加、調達額で67%の増加となりました。また、世界のIPO件数の16%、調達額の34%を占めました(2023年上半期はそれぞれ12%、17%でした。)。これは、5億米ドルを超える資金を調達した上場が2024年第2四半期には7件、2024年上半期の合計では14件となり、2023年上半期の合計7件を大きく上回ったことによるものです。
2024年上半期におけるアジア太平洋エリアのIPO市場は、上場数216件、調達額104億米ドルとなりました。対前年同期比では、件数で43%の減少、調達額で73%の減少となりました。かつて多くのIPOを実現したアジア太平洋エリアでは、地政学的な緊張、選挙情勢、景気後退、金利上昇、市場流動性の低下などの逆風が重なり、投資家の警戒感が高まって市場心理が悪化しています。
特に中国本土での落ち込みが大きく、2024年上半期に中国本土で行われたIPOは44件、調達額は46億米ドルでしたが、前年同期比でそれぞれ75%、85%減少しました。調達資金は2017年以来最低の水準に急減し、平均取引額も前年同期比41%減の1億400万米ドルに縮小しました。
2024年上半期におけるEMEIAエリアのIPO市場は、上場数249件、調達額240億米ドルとなりました。対前年同期比では、件数で46%の増加、調達額で89%の増加となりました。世界市場シェアでアジア太平洋エリアに取って代わり、全IPOの45%、調達額の46%を占めることとなりました。
インドは件数の増加を支える原動力となっており、上半期には152社が上場し、これは2023年の同時期と比較して88%の増加で、インドの力強い勢いを反映しています。これは、主にインドの堅調な国内経済環境に起因するもので、このような堅調なマクロ経済環境が続くことで、IPOの見通しが引き続き良好となり、多様な投資家を引き寄せ、新規企業の株式公開が促進されると考えられます。
欧州はEMEIAにおいて取引額で首位に立ち、2024年上半期の調達額は152億米ドルで、対前年同期比では、196%増加となりました。第2四半期の2大上場はいずれも欧州企業によるもので、スペインのPuig Brandsは29億米ドル、スイスのGalderma Groupは26億米ドルとなっています。
2024年上半期における製造業セクターのIPO市場は、上場数115件、調達額79億米ドルとなりました。対前年同期比では、件数で9%の減少、調達額で42%の減少となりました。2024年上半期の製造業セクターのIPOは、複数の主要経済圏において前年同期比で実績が増加しました。特に2024年上半期の韓国、インド、マレーシアにおけるIPO件数は、前年同期比でそれぞれ450%、193%、200%と3桁増となりました。一方で、中国本土における製造業セクターのIPO実績は、上半期において著しく減少しました。
2024年上半期におけるテクノロジーセクターのIPO市場は、上場数102件、調達額108億米ドルとなりました。対前年同期比では、件数で17%の減少、調達額で20%の減少となりました。これは、中国における半導体企業の相次ぐ上場の後、半導体企業の調達額が2023年の82億米ドルから2024年には22億米ドルに減少したこと、および、ソフトウェア/SaaS(Software as a Service)の調達額が2023年の28億米ドルから2024年には71億米ドルに急増したことによります。これに伴い、中国本土から米国へのシフトが見られ、中国本土では2023年の100億米ドルから2024年の22億米ドルに減少し、米国では2023年の8億米ドルから2024年の56億米ドルに上昇しました。
2024年上半期における消費財セクターのIPO市場は、上場数102件、調達額83億米ドルとなりました。対前年同期比では、件数は横ばい、調達額は15%の減少となりました。これは、投資家が消費財市場に対して抱く不確実性を反映したものです。2023年の世界的な景気後退にもかかわらず、消費財セクターは2024年第1四半期に前年同期比で比較的安定したIPO実績を残しました。しかし、2024年第2四半期の市場は、失業率の上昇、金利の上昇傾向、世界各国の選挙など、2024年上半期のIPO実績に影響を与えるマクロ経済や地政学上の複雑な要因により、慎重な見方がなされています。
2024年上半期におけるヘルスケア・ライフサイエンスセクターのIPO市場は、上場数58件、調達額89億米ドルとなりました。対前年同期比では、件数で6%の減少、調達額で69%の増加となりました。ヘルスケア・ライフサイエンスのIPO活動は、バイオテクノロジーセクターが牽引しました。このセクターは、テクノロジーの進歩により、ここ数年でイノベーションが加速しています。癌治療薬開発などの分野や、肥満などの新しい治療分野は、大手製薬会社が投資を拡大していることから、活況を呈しています。
2024年上半期におけるエネルギーセクターのIPO市場は、上場数28件、調達額15億米ドルとなりました。対前年同期比では、件数で15%の減少、調達額で83%の減少となりました。これは、世界各地の選挙による市場の不安定化や、ウクライナ戦争や中東での緊張を中心とした紛争の継続が背景にあります。最も大きな落ち込みとなったのはAmericasで、高金利が打撃となりました。
2024年上半期におけるPEのIPO市場は、上場数17件、調達額149億米ドルとなりました。対前年同期比では、件数で55%の増加、調達額で205%の増加となりました。PEが経営支援する企業の調達額が増加したのは、主に10億ドル以上の新規株式公開が複数あったことが要因です。こうした大型案件が活気を取り戻していることは、ゼネラルパートナー(GP)が、最も価値ある資産以外の資産の上場に消極的であることを示していますが、GaldermaやViking Holdingsなどの上場後のパフォーマンスが好調なことは、PEによる経営支援の恩恵を受けた企業に対して上場企業投資家の投資意欲が高まっていることを反映しています。
2024年下半期、世界のIPO市場は、中央銀行の利下げスケジュール、地政学的緊張の高まり、各国で相次ぐ選挙などの重要な要因の影響を受けることとなります。
また、経済状況や各地域のインフレ水準が変化する中、世界のインフレは引き続き抑えられると予測されています。各国中央銀行の金融緩和サイクルは、よりタカ派的な米連邦準備制度理事会(FRB)の姿勢を受けて、金融緩和を先導する一部の欧州諸国と新興市場国とで乖離する可能性があります。一方、FRBを含む中央銀行が方針を転換し金利引き下げに動けば、投資家はより高いリターンを求めて資金を移動することが予想されます。こういった変化により、株式市場、新興市場およびテクノロジーやヘルスケア・ライフサイエンスなどの成長志向セクターの流動性が高まると予想されます。
エリア |
IPO件数 |
調達額※ |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
南北アメリカ |
|
|
||||
アジア太平洋 |
|
|
||||
欧州・中東・インド・アフリカ(以下、EMEIA) |
|
|
||||
全世界合計 |
|
|
||||
※単位: 1億米ドル |
エリア |
IPO件数 |
調達額※ |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
南北アメリカ |
|
|
||||
アジア太平洋 |
|
|
||||
欧州・中東・インド・アフリカ(以下、EMEIA) |
|
|
||||
全世界合計 |
|
|
||||
※単位: 1億米ドル |
セクター |
IPO件数 |
割合 |
---|---|---|
製造業 |
115 |
21% |
テクノロジー |
102 |
19% |
素材 |
62 |
11% |
※上半期: 1月~6月(出典: EY analysis, Dealogic) |
セクター |
調達額※ |
割合 |
---|---|---|
テクノロジー |
108 |
21% |
ヘルスケア・ライフサイエンス |
89 |
17% |
製造業 |
79 |
15% |
※単位: 1億米ドル |
順位 |
市場 |
IPO件数 |
割合 |
---|---|---|---|
1 |
インド (National and Bombay) |
151 |
27% |
2 |
米国 (Nasdaq, NYSE and BATS) |
80 |
15% |
3 |
中国本土 (Beijing, Shanghai and Shenzhen) |
44 |
8% |
4 |
日本 (Tokyo - Prime, Growth, Standard, REIT, Pro Market) |
37 |
7% |
5 |
香港 (Main Board and GEM) |
27 |
5% |
5 |
韓国 (KRX and KOSDAQ) |
27 |
5% |
7 |
インドネシア (IDX) |
25 |
5% |
8 |
サウジアラビア (Tadawul and Nomu Parallel Market) |
20 |
4% |
8 |
マレーシア (KLSE, ACE Market and LEAP Market) |
20 |
4% |
10 |
トルコ (Main and STAR) |
19 |
3% |
11 |
タイ (SET and MAI) |
17 |
3% |
12 |
オーストラリア (ASX) |
12 |
2% |
その他 |
72 |
12% |
|
全世界合計 |
551 |
100% |
※上半期: 1月~6月(出典: Dealogic、EY)
順位 |
市場 |
調達額 |
割合 |
---|---|---|---|
1 |
米国 |
178 |
34% |
2 |
インド |
47 |
9% |
3 |
中国本土 |
46 |
9% |
4 |
スペイン |
29 |
6% |
5 |
オランダ |
26 |
5% |
5 |
スイス |
26 |
5% |
7 |
サウジアラビア |
24 |
5% |
8 |
ドイツ |
15 |
3% |
8 |
香港 |
15 |
3% |
8 |
韓国 |
15 |
3% |
11 |
トルコ |
14 |
3% |
12 |
アラブ首長国連邦 |
13 |
3% |
その他 |
74 |
12% |
|
全世界合計 |
522 |
100% |
※上半期: 1月~6月(出典: Dealogic、EY)
エリア |
IPO件数 |
調達額※ |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
Americans |
|
|
||||
Asia-Pacific |
|
|
||||
EMEIA |
|
|
||||
※上半期: 1月~6月 |
エリア |
IPO件数 |
調達額※ |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
Americans |
|
|
||||
Asia-Pacific |
|
|
||||
EMEIA |
|
|
||||
※上半期: 1月~6月 |
エリア |
IPO件数 |
調達額※ |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
Americans |
|
|
||||
Asia-Pacific |
|
|
||||
EMEIA |
|
|
||||
※上半期: 1月~6月 |
エリア |
IPO件数 |
調達額※ |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
Americans |
|
|
||||
Asia-Pacific |
|
|
||||
EMEIA |
|
|
||||
※上半期: 1月~6月 |
エリア |
IPO件数 |
調達額※ |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
Americans |
|
|
||||
Asia-Pacific |
|
|
||||
EMEIA |
|
|
||||
※上半期: 1月~6月 |
エリア |
IPO件数 |
調達額※ |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
Americans |
|
|
||||
Asia-Pacific |
|
|
||||
EMEIA |
|
|
||||
※上半期: 1月~6月 |