EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
Communication Standardsというのは季節変動性のある妙なキーワードです。米国における検索数は毎年4月と10月にピークがあり、8月と12月に底をつくという半年周期を10年以上も続けています。そんなワードがここ3年ほど人事の間で、妙な周期を維持したまま注目度をじわじわと集めてきていることはご存じでしょうか。今回はこの、奇妙なキーワードについて考えてみましょう。
このキーワードが季節変動性を有している明確な理由を示した研究はありませんが、企業業績の四半期報告タイミングや学術年度の区切り、そして各種業界イベントが多く開催される時期であることなどが影響していると考えられます。そもそもCommunication Standardsとは文字どおり「コミュニケーション規格」を意味し、例えば技術領域で電子機器の間の情報伝達についてのフォーマットや通信規格などを標準化しておき、デバイス間の情報交換をスムーズに行うそのプロトコルを言います。人事領域に転じるとさまざまなステークホルダーとの対話における標準ルールと言っても差し支えないでしょう。それが業績報告や学術年度の区切り(学会が増えます)、業界イベントを機に再確認されている、と推察されるのです。
さて、ではこのCommunication Standardsが近年注目を集めてきているのはなぜなのでしょうか。これもまた明確な説明が存在しないのですが、ここ数年の注目の多くはRTO(Return to Office)にあると筆者は見ています。Gallup社の調査によれば2025年現在、米国の働き方は5人に1人がフル出社、4人に1人がフルリモート、そして半数がハイブリッドだそうです。大々的に報道されるので皆さまの意識にも残っているものと思われますが、Amazon社、Dell社、Accenture社などこれまでリモートワーク(WFH: Work from Home)を認めていた大手企業が続々と施策を転換し、出社を要請するようになっています。
そうなった背景をひも解いていくとコミュニケーションにいきつきます。もちろん他の要因もありますが、出社要請を出す企業の最大の理由はやはり「コミュニケーションが減った」というものです。例えばMicrosoft社の調査ではリモートワークが他者とのコラボレーションを25%減らしたと報告されています。ただ問題は「ではリモートワークをやめたらコミュニケーションが増えるのか?」という点ではないでしょうか。ある企業の調査によると社内コミュニケーションの定量測定が増えており、その手法は社内メールの開封率とクリックスルー率(リンクが押された割合)が6割超だそうです。社内コミュニケーションの活性度を測定すること自体は否定しないものの、結局KPIがメールなのだとすればオフィスでも在宅でも構わない、とは思いませんか?
このような混乱に効くのがCommunication Standardsというわけです。コミュニケーションには同期/非同期、公的/私的、書面/口頭などさまざまな変数があります。加えて近年はコミュニケーションツールも多様化しています。つまり、コミュニケーションのタイミング、チャネル、内容、トンマナ、もっと言えばダイバーシティ観点からのインクルーシブなコミュニケーションとするための要諦、そういったグラウンドルールが無い。無いからとりあえず物理的に集めてなんとかさせよう、という発想に近いものが近年のRTOに透けて見えるように思われるのです。そうではなく先にCommunication Standardsを整備すれば実はGitLab社のようにフルリモートを維持することも可能になるかもしれませんし、ハイブリッドに落ち着くにしても、おそらく皆さまが今感じられているような「Slackとメールとオンラインミーティングと口頭対面会議と、あと飲みニケーションって何にどれを使えばいいんだっけ」問題は多少なりとも軽減するのではないかと考えられます。
そもそもISO14063(環境コミュニケーション)やISO30414(人的資本報告)など、コミュニケーションとはスタンダードが欲しくなるものです。社内コミュニケーションについても、何をどのように判断し、どういった内容をどのチャネルで誰にどう伝えるべきなのか、その基本ルールを定めることはコミュニケーションのプロではない多くの社員にとって有益ですし、また「なぜ出社しなければならないのか」の明確な理由付けともなり得るものですので、WFHを維持する企業もRTOに切り替えていく企業も、社内のCommunication Standardsについて改めて考える機会を持たれるとよいのではないでしょうか。なお、蛇足ですが個社のコンプライアンスや倫理規定の中でデジタルコミュニケーションポリシー(ツール、話題、言葉遣いなどのルール)を定めることの多い欧州では、Communication Standardsはほとんど検索される機会もない単語のようです。
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