19 分 2021年8月20日
            テラスを緑化しているマンション(ミラノ)

CEOが直面する喫緊の課題:回復を遂げ、より持続可能な成長に向かうには

執筆者
Falco Weidemeyer

EY Global Turnaround and Restructuring Leader

Seasoned, internationally trained performance professional. CRO and turnaround manager. Experienced in consulting and industry functions. Passionate for outdoors.

Barry Perkins

EY Global Strategy and Transactions Lead Analyst

Dedicated corporate finance researcher. Interested in all areas of modern life, including government, capital markets, business, social affairs, arts, sciences and sport. History buff.

EY Japanの窓口

EY Japan IPOリーダー/EY Startup Innovation共同リーダー EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター長

EY Japan でIPO監査分野をリードする。スタートアップ・エコシステムの熱狂的サポーター。ゴルフ好き。

19 分 2021年8月20日

今後の計画に「オールドノーマル」に戻るという選択肢はありません。CEOは長期的価値創造のための戦略を見直す必要があります。本稿では、その方法について考察します。

要点
  • 間もなく訪れる景気回復の波に乗るためには、パーパス主導型の戦略への移行に着手する必要がある。
  • セクターによって直面する課題は異なるが、パーパス主導型の成長戦略では、全ての意思決定において人を中心に据えながら、信頼、貿易、テクノロジー、サステナビリティといった極めて重要な課題に対処できる。
Local Perspective IconEY Japanの視点

コロナ禍の中で開催された東京オリンピックには、開催の是非も含めてさまざまな意見がありました。しかし、この舞台に立つために多くの犠牲を払い、日々研さんしてきたアスリートたちの素晴らしいパフォーマンスには、多くの視聴者が感動したのではないでしょうか。オリンピックは4年に1度の開催ということもあり、世相を大きく反映すると言われています。今回の東京オリンピックを振り返ってみると、コロナ禍での無観客が中心という異例の状況下での開催となりましたが、それ以外にも、聖火をともす燃料として、オリンピック史上初めて水素が利用され、移動にはEV/FCVといった電動車両が提供されるなど、サステナブルなインフラにより運営されるオリンピックとなりました。また、LGBTQ+であることを公表している選手の活躍や、選手のメンタルヘルスの重要性が再認識されるなど、D&Iの重要性を改めて認識させてくれる大会であったことも印象的でした。社会は確実に、そして急速に変化しています。東京オリンピック後、そしてアフターコロナを見据えた、日本企業の本気度が問われています。  

EY Japan の窓口

齊藤 直人
EY Japan IPOリーダー/EY Startup Innovation共同リーダー EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター長

CEOには、対処しなければならない大きな課題があります。すなわち、自社をいかに成長軌道に戻し、同時に幅広いステークホルダーに持続可能な長期的価値をもたらすかという課題です。

この課題に取り組むにあたっては、まずパンデミック前には好業績につながっていた前提や指針が、新たな成長戦略では通用しないことを認識しなければなりません。今後は、利益や経営指標だけで成否を測定できなくなるでしょう。経営を回復させ、持続可能な成長を遂げるには、戦略的課題の見直しが必要です。自社を以前の状態に戻すのではなく、価値を創造し、保護することができる新たなプラットフォームを構築することが求められます。

本稿を含む「CEOが直面する喫緊の課題」シリーズは、Imperative Collectionの一部として、CEOが組織の未来を構築する上で役立つ重要な課題と対応策について考察しています。本稿では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)収束後のビジネス環境で成長へと進路を取るにあたって、なぜパーパス主導型の視点で戦略の見直しに着手することが必要になるかを概説します。また、このようなパーパス主導型の戦略を支える要素として、信頼、貿易、テクノロジー、サステナビリティと、この4つをつなぐ5番目の要素として人を取り上げます。全ての中心に人を据えることで、この4つが盤石な基盤となるのです。


            低いアングルから撮った建物と空
(Chapter breaker)
1

第1章

今こそパーパス主導型の変革を率いるべき

地政学的問題、貿易、環境、テクノロジー、消費者の嗜好のディスラプション(創造的破壊)により、早急に変革を起こす必要性が高まっています。

パンデミックが発生してから1年以上過ぎた今も、多くの国でいまだに規制措置が取られ、ビジネス活動が大幅に制限されています。一方、景気が回復し始めた国や業界にも、パンデミックはビジネス環境の変化という消えることのない爪痕を残しました。新型コロナウイルス感染症により、一般社会だけでなく、顧客、従業員、投資家、規制当局が企業に向ける目に変化が起きています。

この1年間、いくつかの変⾰の波が押し寄せ、それらが相まって切迫感が⽣まれました。それを受けて、企業はどのように価値を創造し、もたらし、伝えるかについて見直しを迫られています。その内容は以下のとおりです。

  • 地政学的問題:地政学、貿易、規制を取り巻く情勢の急速な変化と、介入主義的色彩の濃い政策に移行する政府の増加。
  • 環境問題:企業が引き起こした気候非常事態や環境への影響に対する注目が高まっており、多くの機関投資家がポートフォリオに組み入れる銘柄の選定基準を変えるようになってきました。ESG(環境・社会・ガバナンス)への影響を重視して運用されている資産は、2025年までに53兆米ドルに達する見通しです。この運用資産は2016年の22兆8,000億米ドルから、既に37兆8,000億米ドルに増えています。
  • 顧客の変化:顧客からの信頼⽋如の拡⼤も表⾯化してきました。その背景には、企業の透明性やサステナビリティに対する顧客の期待の高まりがあります。
  • 人材:企業の間では、優秀な人材の争奪戦が激化しています。この問題をさらに深刻化させているのが、安全・衛生などを求める従業員の運動や、D&I(ダイバーシティ&インクルーシブネス)における課題です。
  • テクノロジー:テクノロジーによるディスラプション(創造的破壊)とコンバージェンス(融合)が、業界の枠を超えて絶え間なく発⽣しています。

このようなトレンドによる影響は拡大しており、CEOにとって、自社のパーパスを見直し、より幅広いステークホルダーの期待に応えることで長期的価値を創造することが戦略上の喫緊の課題となっています。

  • リセット・リアライン・リスタート

    EYグローバル・キャピタル・コンフィデンス調査で、現在、戦略の見直しが進められていることが裏付けられました。調査対象の経営幹部の大多数(86%)が、パンデミック下で戦略とポートフォリオの包括的な見直しを行っています。企業が戦略的ビジョンの一新から活動の活発化へと方向転換を図る中、リーダーは新たな環境で持続可能な長期的成長の波に乗るため、根本的に方針を変えることを望んでいます。すなわち「リセット(見直し)・リアライン(仕切り直し)・リスタート(再出発)」戦略です。

このような環境では、ステークホルダーが求めるものを把握し、従業員、顧客、株主、一般社会に価値をもたらすことが、最終的に自社を市場ダイナミクスの変化により適切に適応させ、より大きな財務的価値を創造することにつながると考えられます。

パーパスを重視した見直し

パーパス主導型の組織になることが、顧客を獲得し、つなぎ留めるための手助けとなり、従業員のエンゲージメントと革新性も高めることを示すエビデンスが続々と報告されています。パーパス主導型の組織とは、経済的利益よりパーパスを優先し、パーパス中⼼の意思決定を⾏う組織です。また、ESG指標のスコアが高い企業は、資本コストを低減できるほか、より長期間にわたる投資を促すことができます。

このような競争優位性を獲得するには、持続可能な成長に向けた、強固で一貫性があり、かつ明確なパーパス主導型の戦略が必要です。その戦略に合った基盤の構築も成功には不可欠となるでしょう。


            夕暮れ時の街で川を眺める男性
(Chapter breaker)
2

第2章

パーパスを重視した持続可能な成長の礎

パーパス主導型の成長戦略と変革を実現するための基盤の構築

セクターが及ぼす影響はさまざまですが、数多くの意思決定者との対話の中から、EYはパーパス主導型の成⻑戦略を構成する不可⽋な要素として、業界全体に共通するテーマを5つ明らかにしました。この5つのテーマに重点的に取り組むことが、リーダーが目の前の課題を克服し、自社を景気回復で最も先行する位置に進め、さらに持続的な長期的価値の創造へと推進させる際の手助けとなります。5つのテーマとは、信頼、貿易、テクノロジー、サステナビリティ、そして人です。事業の全ての面と自らの意思決定の中心に人を据え、揺るぎないものとします。

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信頼 ~ 万国に通用する事業の基盤

信頼は、長きにわたり、取引や結びつきの全てにおいて鍵となる役割を果たしてきました。高度につながり、バーチャル化が進む今、その重要性はかつてないほど高まっています。⼈々は購⼊、仕事、投資を⾏う企業に対して、信頼できる相⼿であってほしいと思っています。信頼は、価値の無形化が進む世界でも通用する重要な要素です。このような世界では、多くの場合、物理的資産よりもブランド資産価値、イノベーション、従業員エンゲージメントの方に価値があります。最近の調査で、S&P 500銘柄の時価総額の90%以上を無形資産が占めており、1975年の17%から5倍に増えたことが分かりました。

エデルマン・トラスト・バロメーター

80%

の人々が「社会の問題」の解決をブランドに期待しています。

エデルマンが発表した2020トラストバロメーターによると、80%が「社会の問題の解決」をブランドに期待しています。一方、米国では、国民の89%が新型コロナウイルス感染症危機を「大企業が『リセットボタン』を押し、従業員、顧客、地域社会、環境のために正しい行いをすることに重点を置くチャンス」と捉えていることがJUST Capitalの調査で判明しています。このような状況の中、先頭に立って事業の意義とパーパスを見直すことをCEOに求める声が強まっています。

EYが実施した調査から、欧州の経営幹部と取締役の66%が、新型コロナウイルス感染性の拡大により、社会的影響、環境サステナビリティ、インクルーシブな成長への企業の取り組みに対してステークホルダーの期待が高まり、これらの問題への取り組みの成果を測定し、報告する必要性も増したと考えていることが分かりました。

信頼の重要性の高まりに伴い、CEOとCFOによるコーポレートレポーティングの見直しの必要性が浮き彫りとなっています。透明性の向上は今や、ステークホルダーとの信頼関係の構築と強化において中心的役割を担うようになってきました。コーポレートレポーティングの本質は何十年間も基本的に変わっていないのに対して、社会はその間、著しく変化しています。企業は現在、何をどのように行っているかについて、より高い透明性を求めるステークホルダーの圧力にさらされています。ステークホルダーは必ずしもコーポレートレポーティングで自分たちが必要とする情報が全て得られると思っているわけではありませんが、企業は短期利益を重視する短期主義から、人、地球、繁栄への良好な長期的影響を重視する長期主義への移行を余儀なくされています。長期主義では、決算の数字だけでなく、より幅広い非財務指標も評価基準になります。

確かに、企業の長期的価値の創造力は、バランスシートからだけでは分からないと言えるでしょう。長期的価値は企業文化、知的資産、テクノロジーの利用からも生まれます。いずれも非財務資産です。その企業の戦略的優先課題に明らかに関係する非財務データをまとまりのある内容で伝えることは、現行の財務報告とステークホルダーが期待するものの間にある信頼格差への対処に役立ちます。

幅広いステークホルダーのニーズの変化に合わせて業績を測定できる、より戦略的な方法を探る必要があります。CEOは現在、ステークホルダーへの影響とESG問題に関して情報開示を増やすように求める規制当局や投資家などのステークホルダーから大きな圧力を受けています。それだけではありません。この情報開示について、どのように戦略に組み込むか、事業運営にどのような影響があるかを検討することが必要です。さらに、アジリティと変化への対応力を維持しながら、財務・非財務での成果への幅広い尺度を重視する姿勢に移行するにはどのような変革プロジェクトが必要となるかについても検討が必要です。環境・社会・公平性・サステナビリティの目標をカバーする幅広い指標に加え、ピアベンチマークを用いながら、戦略に関連した目標の達成状況の測定を強固に行うことが極めて重要です。

パーパス主導型の戦略を踏まえてこの目標を定めることで、CEOはステークホルダーのために創造している(あるいは守っている)価値を理路整然と明確に示すことができます。同時に、企業も必要最低限の規制コンプライアンスを厳守するだけでなく、それ以上の対応ができるようになります。また、社内の行動を精査し、CEO自身とリーダーシップチームの責任を問うメカニズムも生まれます。それにより戦略、変革、報告、コミュニケーションのサイクルが繰り返されるようになり、ステークホルダーの行動と嗜好の変化に対応しながら、価値を創造または保護することが可能になります。このステークホルダーの行動と嗜好の変化は、次回の戦略の実行にあたり参考にできます。全ての意思決定、価値創造の全ての評価、全ての報告を、パーパスという視点に⽴って⾒ることが、企業にとって最ももろく、⼤切なものである信頼を育む⼀助となります。

自社に対する信頼を高めるためにCEOが対処すべき喫緊の課題

  • 攻めの姿勢を取る:幅広い非財務指標に関する報告を戦略に組み込む。コンプライアンス基準を満たす報告だけでは十分ではない。
  • 耳を傾ける:ステークホルダーのニーズと期待の変化を把握することは、戦略基盤の見直しに不可欠となる。
  • 透明性を高める:パーパス主導型の短期・長期的目標をステークホルダーに明確に説明する。その際には、目標を戦略と業績に関連付け、また責任体系と説明責任体系を明確化する。

貿易 ~ 流れとパターンの変化

地政学的混乱により、戦略的なリスク管理アプローチの策定がこれまで以上に喫緊の課題となっています。しかし、そのような中にあっても、CEOはグローバルな事業展開を行わなければなりません。課題となるのは、自分が直接コントロールできない複雑な状況を乗り切ることです。

  • 現在の地政学的緊張

    現在の地政学的緊張の顕著な例としては、米中関係や、英国による合意なきEU離脱などが挙げられます。米中間の緊張の高まりは、通商、テクノロジー、国内産業への支援を巡る競争からも一目瞭然です。一方、英国とEUは北アイルランド、新たな通商協定の履行、ワクチンの配布を巡って対立しています。EUはまた、戦略的な「自律」を目指しながら、国際的なルールの形成に意欲を見せ、国際的な規制づくりを主導する姿勢を強くアピールしています。

地政学的緊張とそれが生む不確実性により、サプライチェーン、人材の決定、企業のレジリエンス構築のためのアプローチを常に見直すことが、CEOとリーダーシップチームには強く求められています。

グローバル化が後退しているとする論調が多く見受けられます。しかし、グローバル化は終わろうとしているのではありません。変容しているのです。新たな貿易の流れが常に各地域で生まれ、また多くの企業がパンデミックの経験を踏まえてサプライチェーンの再構築を進めています。

同様に、各国は特定事業の国内回帰や投資を奨励しています。その一例が半導体の製造ですが、これ以外の基礎的医薬品、ワクチン、鉄鋼・資材、再生可能エネルギー、インフラ設備の製造などの主要産業でも自給化や能力の現地化を求める声が出てきました。多くの国では、国家安全保障上の理由から、海外直接投資(FDI)規則が強化されており、政府が海外投資家候補の審査を厳格化しています。

事業運営の面からも、倫理的観点からも、サプライヤーリスクの管理に優先的に取り組む必要があります。多くの企業が、ニアショアやオンショアを増やし、サプライチェーンの短縮を図っているところです。

貿易やFDIを取り巻く障壁が、世界規模で統合されたサプライチェーンではなく、細分化と地理的分散化を促すかもしれません。サプライチェーンをスマートに適応させる必要性にも企業は注目しています。パンデミック初期に得た教訓を生かすことで、衝撃や変化に対するレジリエンスを向上させることができるはずです。

経済活動が再開し、スピードの差こそあるものの景気が上昇し始めるにつれ、パーパス主導型の成長戦略に注力する企業は、新たなチャンスをつかむため、それに合わせて有機的にも無機的にも成長戦略を修正することになるでしょう。同時に、多くのセクターで大規模な変革が進められています。資産基盤のスリム化が必要です。これが他社にとって統合の機会を生むかもしれません。パンデミックによる危機下にあっても好調で、投資機会をもたらしているセクターもあります。消費者の期待の変化も、成長に向けて興味の沸く新たな手段の芽を生んでいます。とはいえ、新たな市場への進出をにらんで既存の事業に投資した方がいいのか、それとも資産を取得して迅速に市場参⼊をした⽅がいいのか、⾼度な判断が求められます。

昨今の貿易問題に対応するためにCEOが対処すべき喫緊の課題

  • トレンドを把握する:グローバル化、テクノロジー、人口動態、環境に関わるトレンドを把握し、これらの要因が組織全体にどのような影響を及ぼすかをモニタリングする。
  • リスクをより総合的に明確化する:組織のさまざまな面(財務、業務、戦略、評判など)への影響を把握する。
  • 地政学的戦略を試行する:リスクを軽減する戦略を策定し、ダイナミックに見直す。既に更新を年に1回とする時代ではない。

テクノロジー ~ 端緒についたばかりの改革

2020年はソーシャルディスタンスの確保に伴うオンライン化により、多くの企業がレジリエンステストを職場の実際の環境で行い、既存のデジタルインフラに、事業の継続を支えるだけの堅牢性があるかを確かめることを余儀なくされました。その多くが問題なくテストをクリアする一方、うまく対応できずに苦戦した企業もあります。リモートワークへの突然の大規模な移行を経験したことで、多くの企業がテクノロジーと⼈材に関して、アジリティとレジリエンスを改めて重視するようになりました。

  • 未来の働き方

    パンデミックの間は、世界中の何百万人もの労働者が思いがけなく在宅勤務をすることになりました。テクノロジーインフラが整備され、バーチャルワークが可能になった今、大多数の人たちが以前の働き方に戻る必要性をもはや感じていません。未来の職場は、オフィス勤務と在宅勤務を組み合わせたハイブリッド型となる可能性が高いでしょう。その場合、迅速で柔軟かつ効率的な意思決定を行う上で、まず重要となるのが権限委譲です。強固な企業文化を強く打ち出し、また文化に根差した企業パーパスを明確に定めることで、在宅勤務の従業員も、オフィス勤務の従業員も、企業の長期目標に沿った意思決定を行うことができるようになります。それにより、優秀な人材の定着に必要な柔軟性を実現しながら、アジリティとレジリエンスの向上を図ることができるのです。

パンデミックの発生で、文字通り一夜にして「デジタルファースト」の時代が到来しました。数多くの調査の結果から、テクノロジーの加速を求める強い希望が変革を推進する最も重要な要因の1つであることが分かっています。グローバルで実施したEY CEO Imperative調査では、対象となったCEOの過半数(68%)が、今後1年間にデータとテクノロジーへの大規模な投資を計画していることが分かりました。また、63%がテクノロジーとデジタルイノベーションの加速が自社に最も大きな影響を与えていると回答しています。

従来型のB2B企業がB2Cモデルの導入を検討していますが、これもパンデミックの影響です。この導入では特に、カスタマイズとパーソナライゼーションが注目を集めています。多くのB2B企業にとって一番の課題は、より良い顧客エクスペリエンスの創出です。しかし、それに伴う高度なデジタル化を支えるテクノロジーインフラの整備には多額の投資が欠かせません。

テクノロジー投資の動機がなんであれ、大規模導入の前に、特に慎重に検討しなければならない問題があります。今回のパンデミックで、企業が導入するあらゆるテクノロジーが人に影響を及ぼすようになりました。テクノロジーがもたらす倫理的リスク、プライバシーリスク、セキュリティリスクに対する社会的意識の高まりを考えると、今後は人とテクノロジーを結ぶインターフェースが事業の成否を左右することになるでしょう。顧客は信頼してデータを預けていると回答したCEOはわずか34%でした。このような信頼の欠如が障害となり、ビジネスモデルの見直しからサプライチェーンの可視化、新たな顧客提案まで、優先課題の多くで対応が進んでいません。特に、ステークホルダーとの信頼関係の構築には力を入れる必要があります。そうすることで、企業はAIとデータサイエンス導入のメリットをフルに享受できるはずです。

高速テクノロジーを自在に使いこなすことを目指す場合、人材のスキルアップと再教育が必要です。また、組織全体のあらゆるレベルで革新的な考え方を浸透させなければなりません。テクノロジーの価値をフルに引き出し、バーチャル化が進む社会でヒューマンエクスペリエンスを向上させるには、リスクの管理方法を今まで以上に将来を見据えた仕組みにし、サイバーセキュリティ能力を強化する必要があります。

 

テクノロジーを活用して、パーパス主導型の成長を加速させるためにCEOが対処すべき喫緊の課題

  • デジタルエンタープライズの完成形を頭の中でイメージする:生産、バックオフィス、顧客エクスペリエンス、テクノロジーを活用した労働力
  • テクノロジーと人材の変化を理解する:新たなテクノロジーの活用に必要なリソースと研修を従業員に提供して生産性の向上、イノベーションの加速、⾃らの役割に対する満⾜度の向上を図るとともに、テクノロジーの進化に取り残されないよう継続学習を促す。
  • 効率化の先を見据える:テクノロジーの導入が社会に与える可能性のある影響を見直し、偏りのない公平なAIの導入などを確実に行う。

サステナビリティ ~ 全方位的対応

世界的な社会問題や環境問題に中心となって取り組む力が企業にあることは間違いありません。そのためには、利益を生み、業務を改善し続ける必要があります。しかし、必要なのはそれだけではありません。

環境・社会・ガバナンス(ESG)問題に関するステークホルダーの関心は高まっており、それはCEOの耳にも届いています。2021年EY CEO Imperative Studyによると、CEOの80%が今後5年間で「企業は自社の事業が社会と環境に与える影響に責任を持つため、重要な施策を新たに講じる」可能性が高いと考えています。

CEO Imperative Study

80%

のCEOが、今後5年間で企業は社会と環境に与える影響に対してより大きな責任を負う可能性が高いと考えています。

サステナビリティは、今の時代を特徴付ける課題の1つです。また、イノベーションを起こして、全てのステークホルダーに⻑期的な財務的価値、消費者価値、⼈的価値、社会的価値をもたらす絶好のチャンスでもあります。より持続可能な未来に向けた取り組みを加速させることで、価値を守り、かつ創造するビジネスケースを採⽤するCEOは増えています。ここでは、⾃社のパーパス、⾃社の経営を取り巻く状況、⻑期的な競争優位性を確⽴するための⽬標に忠実に沿った取り組みを優先させる必要があります。

パーパス主導型の企業への変⾰を図るにあたっては、難しいトレードオフを迫られるかもしれません。具体的には、短期的リターンよりも⻑期的投資を優先させるという判断や、利益重視から⻑期的価値の創造重視への移⾏などです。その⼀⽅で、パーパスは⼤きな⾒返りももたらしてくれます。

   

  • エンゲージメント:パーパス主導型の企業の従業員は、関与や貢献の度合い、内発的モチベーションが⾼い。
  • リスクの軽減:同じような価値観を持つパートナーやサプライヤーとパーパスに沿って協働することで、企業価値を下げる恐れのあるレピュテーションリスクを低く抑える。
  • 業績の向上:パーパスを意識して物事を決め、行動する企業は市場平均を年間で5%から7%上回る業績を上げる。
  • 市場での差別化:消費者が確固たるパーパスを持った企業から商品やサービスを購入する確率は4倍高い。

実際のところ、持続可能な長期的価値とは何を意味するのでしょうか。サステナビリティという言葉は、企業による環境規制の順守や、脱炭素に関する企業の方針といった文脈でよく使われます。しかし、企業はサステナビリティをより広い視野で考えなければなりません。

持続可能な企業は、⻑期的な価値と成⻑を⾮常に広い意味で捉えています。そのために、⻑期的戦略を掲げ、これに財務⽬標と⾮財務⽬標の両⽅を含めた幅広いパーパスを盛り込むのが⼀般的です。また、その⽬標達成の進捗状況を測定しています。

  • 持続可能な価値を測定する:WEF-IBCのステークホルダー資本主義指標

    持続可能な価値創造を測定する指標や枠組みは数多くあります。その1つが、世界経済フォーラムのステークホルダー資本主義指標です。

    このようなESGを中心とした指標と情報開示を長期戦略全体で考慮に入れることが、あらゆるCEOにとって必要となってきました。問題は、それをどのように組み込むかです。WEF-IBCのプロジェクトでは、CEO、最高サステナビリティ責任者、最高財務責任者、最高リスク責任者、最高戦略責任者など、組織内のさまざまな部署の専門家に、枠組みの策定への参加を呼びかけてきました。これは、ESG情報開示が周縁的なものではなく、戦略全体の中核的要素であることを示しています。重要な点は、情報開示が適切な第一歩だとしても、各部署は会社がどのように従業員、顧客、社会、株主に価値をもたらしているかを、新たな目で見直す必要があるということです。

    各執行責任者には果たすべき重要な役割があり、企業戦略にESGを組み込むことは、全てのステークホルダーに長期的価値をもたらす方法で差別化を図る機会となります。

財務面にとどまらずに価値創造に向き合うことには困難が伴います。しかし、全てのステークホルダーに向けて持続可能な長期的価値を創造することに真剣に取り組む場合、避けては通れません。重要なのは、投資家に背中を押される前に、業務面の変革を自発的に行うことです。場合によっては、パーパス主導型の戦略に沿っていない業務分野に思い切った対策を講じる必要もあるでしょう。変化を浸透させるためには、変革が必要な理由、変革を行うメリット、その対応が会社のパーパスにどのように沿ったものであるかを、顧客、従業員、投資家、パートナー、サプライヤーなどの全てのステークホルダーに理解させる必要があります。

特に重要なのが従業員の賛同です。従業員の貢献がなければ、会社のパーパスが理想の域を出ず、現実のものにできない恐れがあります。残念ながら、従業員は会社のパーパスを実感できない場合、即座に関与しなくなる可能性があります。EYが実施した調査で、従業員の3分の1以上(35%)が、組織の掲げるパーパスと自分の日常業務に「言葉と行動」の不一致を感じていることが分かりました。

業務にサステナビリティを組み込む方法は数多くあります。サステナビリティに関わる会社のパーパスと価値観を共有するパートナーやサプライヤーを積極的に探すこともその1つです。また、事業パーパスに合わせて、柔軟に対応できるサプライチェーンリスク管理手順を導入することもできます。直近の監査の終了後、直ちにモニタリングと検査を行って、今あるサードパーティーリスクを精査し、その結果に応じて企業のインテグリティの管理方法に変更を加え、コンプライアンスを徹底させるといいでしょう。

パーパス主導型の優れた企業は、パーパスだけでなく、それがサステナビリティ戦略とどのようにつながっているかを明確かつ率直に⼀貫して顧客に伝えるとともに、パーパスをカスタマーエクスペリエンス全体の中核に据えています。だからこそ、サステナビリティを重視する顧客に限らず、顧客の獲得とつなぎ留めができるのです。

  • 急増するエシカル消費者

    新型コロナウイルス感染症の拡大前からエシカルショッピングの人気は高まっていましたが、パンデミックを経験したことで、消費者の期待にさらなる変化が生じています。EYでは1万4000人強を対象にFuture Consumer Index調査を実施しました。その結果によると、消費者の33%が新型コロナ感染症のパンデミックの影響で将来的に買い物の仕方が変わっていくと考えています。回答者の4分の1以上(29%)が、地元の製品であれば割高でも購入すると答えています。また、26%が信頼できるブランドであれば割高でも購入する、20%がエシカル商品であれば割高でも購入すると回答しました。

サステナビリティに向けた取り組みが常に順調に進むとは限りません。ステークホルダーの期待と社内計画の実施状況に隔たりがある場合は特にそう言えます。この隔たりが最も生じやすいのは、サステナビリティ戦略を実行に移す初期段階です。これは、ステークホルダーの期待が高まっているものの、パーパス達成に向けた取り組みを全業務に反映させる作業が始まったばかりの時期にあたります。戦略を推し進めるとともに、手早いリターン獲得を重視し続ける物言う株主からの圧力の高まりを防ぐには、ステークホルダーの期待の変化を把握し、それに合わせて方向転換をしなければなりません。要求の中には容易かつ迅速に対応できるものもありますが、全てを把握することが必要です。

重要な点として、パーパス主導型のアプローチは、利益を重視したアプローチに取って代わることを狙いとしているわけではありません。むしろ、企業の価値測定の枠組みを補完する役割を担い、長期的には利益水準の向上に寄与する可能性があります。バランスの取れた戦略であれば、企業はステークホルダーに価値をもたらすことで、株主に長期的価値をもたらすことができます。二者択一ではなく、両立が可能なのです。

意思決定の中心にサステナビリティを据えるためにCEOが対処すべき喫緊の課題

  • ステークホルダー資本主義への取り組みに関わるガバナンスを強化する:戦略的な目標とともにステークホルダーの評価を優先しながら、事業を取り巻く状況と社会政治的状況を説明する。
  • 実現させる:役員報酬と会社全体の給与体系をより幅広い指標と連動させる。また、パーパス主導型の戦略に沿った明確な目標と行動基準を設け、全てのステークホルダーとの関わりを深め、リスクと見返りがより公平に配分される仕組みを整える。
  • 第一人者になる:社会・環境の変化に伴うリスクと機会を分析する強固なアプローチを構築し、非財務業績の管理プロセスと報告プロセスに規律を浸透させ、これを継続的な適応の基盤とする。

人 ~ 全ての中心に据える
 

パーパス主導型の持続可能な成長の礎である信頼、貿易、テクノロジー、サステナビリティは、1つのテーマで横断的につながっています。それは、人に与える影響という視点で全ての意思決定とアクションを見ることの重要性です。今回のパンデミックから、企業や市場を、その従業員、顧客、パートナー、消費者などのステークホルダーである個人と切り離して考えることはできないという教訓が得られました。バーチャルビジネスなど存在しません。デジタル空間で誕生し、物理的資産をほとんど持たない企業ですら、人の知恵と習慣を必要としています。

どれほど優れた戦略であっても、それを実行する適切な人材とマインドセットがなければ何の成果も得られないでしょう。最先端のイノベーションや先進テクノロジーも、人にとっての価値を見失っていれば機能しません。パンデミックにより引き起こされた混乱で、生産性と連携に関する長年の誤解が解け、企業がいかに迅速に適応できるかが証明されました。

持続可能な長期的価値を創造する体制を整備するには、断固としながらも、共感を呼ぶリーダーシップが必要です。価値観の共有を土台とし、エモーショナルインテリジェンス(感情知能:EQ)を発揮して指揮を執るとともに、リーダーにも一般従業員にも継続的な能力開発を奨励することが求められます。

顧客エンゲージメントの差別化を図れる製品やサービスをどうすれば製造あるいは提供できるかにフォーカスすることも不可欠です。その一環として、パーソナライズされたエクスペリエンスが主な消費促進要因となっており、イノベーションと顧客エンゲージメントに対しては、より汎用的な、それとは一線を画すアプローチが求められるということを理解する必要があります。

そのため、景気回復に対応した戦略を進める場合、意思決定、テクノロジーの導入、製品・サービスのイノベーションの全てを、人に焦点を合わせて見直す必要があります。

 

結論

企業と社会は、新型コロナウイルス感染症収束後に向け、立ち直る準備を進めています。危機は過ぎましたが、さらにまた大きな苦難に突入しています。その一方で、政府と企業がより持続可能な未来づくりを目指す中で、チャンスも多く生まれています。自社の未来づくりを目指すCEOは、今まで以上にパーパス主導型の組織をつくり、より幅広いステークホルダーに長期的価値をもたらすことを投資家、顧客、従業員、そして一般社会から託されています。

このような変革を進めるには、意思決定の中心に一貫して人を据えながら、信頼関係の構築を図り、貿易戦略の調整やテクノロジーへの投資を実施し、サステナビリティに優先的に取り組む必要があるでしょう。厳しい道のりになりますが、努力は報われます。たどり着いた先では、市場でのポジションの強化、持続可能な成長の加速、全てのステークホルダーにとってのより良い社会が実現しています。それがゴールです。

サマリー

パーパス主導型の戦略が、新型コロナウイルス感染症収束後の社会での成⻑の実現につながります。パーパス主導型の戦略とは、信頼、貿易、テクノロジー、サステナビリティへの取り組みを⼟台とし、あらゆる意思決定の中⼼に⼈を据えた戦略です。

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Falco Weidemeyer

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Seasoned, internationally trained performance professional. CRO and turnaround manager. Experienced in consulting and industry functions. Passionate for outdoors.

Barry Perkins

EY Global Strategy and Transactions Lead Analyst

Dedicated corporate finance researcher. Interested in all areas of modern life, including government, capital markets, business, social affairs, arts, sciences and sport. History buff.

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EY Japan IPOリーダー/EY Startup Innovation共同リーダー EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター長

EY Japan でIPO監査分野をリードする。スタートアップ・エコシステムの熱狂的サポーター。ゴルフ好き。