わかりやすい解説シリーズ「減損会計」 第2回:資産のグルーピング

2016年9月7日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 浦田 千賀子

【ポイント】
資産のグルーピングをするうえで大切なことは「キャッシュを生み出す最小の単位であるか」、「キャッシュ・イン・フローが相互補完的か」の2点です。

減損会計のステップ

ここからは、減損会計のステップについて、1つずつ見ていくことにしていきましょう。

第1回で、減損会計は、投資額が回収できない部分を明確にするものであることを説明しました。ここで、ABC株式会社は購入した機械装置単独でX事業の製品を生産しているわけではなく、通常は機械装置を含めた生産ライン全体が一体となって機能することでX事業の製品を完成させていると考える方が自然です。
このように、資産を使用することにより、キャッシュを生み出す最小の単位まで、資産をまとめて考えることを「資産のグルーピング」といいます。
資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行います。このグルーピングによりまとめられた資産又は資産グループ単位で減損が判定されることになります。

下記の図の場合、α工場全体がX事業の「キャッシュを生み出す最小の単位」として考えています。

<図2-1>キャッシュを生み出す最小の単位

(設定)

  • α工場は、ABC株式会社の管理会計上の1区分となっている。
  • α工場はX事業の製品のみを生産している。
図2-1 キャッシュを生み出す最小の単位

図2-1のα工場には機械装置、土地、建物、器具備品がありますが、これらが一体となってX製品が出来上がり、売上が計上され(キャッシュ・フローが生み出され)ます。従って個々の資産ごとに減損を判定せず、α工場を1つのグループとして、減損を判定することになります。
実際には、一体となってキャッシュ・フローを生成するという要素に加え、企業の管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位等を考慮したうえで、キャッシュを生み出す最小の単位を判断することになります。

キャッシュを生み出す最小の単位を判断した後に重要になるのが、その最小の単位間の「相互補完性があるか」という点です。つまり、キャッシュを生み出す最小の単位同士の関連性の大小という観点からも、資産グループを判断することになります。キャッシュを生み出す最小の単位同士の関連性が大きく、当該単位を切り離したときには他の単位から生ずるキャッシュ・フローに大きな影響を及ぼすと考えられる場合、相互補完的であると認められるため、同じ資産グループとして扱うことになります。

下記の図で相互補完性の概念について見てみましょう。

<図2-2>相互補完性

ケース①

  • ABC株式会社ではX事業に関連する工場が2つあります。
    α工場ではa製品(原料はb部品のみとし、β工場以外から入手することは不可能とする)を生産しており、β工場ではb部品を生産し、α工場へ供給しています。
    もし、β工場で生産する部品に市場性があり、外部販売が可能な場合...
図2-2 ケース① 相互補完性

ケース①において、もしα工場が閉鎖されても、β工場は外部のY社という販売先があるため、キャッシュ・フローの減少幅は限定的であると仮定します。その場合、α工場とβ工場のキャッシュ・フローは相互補完的ではないと考えられるため、α工場とβ工場は各々で減損の判定を行うことになります。
α工場においては、将来キャッシュ・フロー150<固定資産の帳簿価額200なので、減損の認識をする必要があります。一方β工場においては、将来キャッシュ・フロー100>固定資産の帳簿価額30なので、この図の時点においては、減損を認識する必要はないと考えられます。

ケース②

  • 一方で、β工場で生産する部品に市場性がなく、α工場のみに販売している場合...
図2-2 ケース② β工場で生産する部品に市場性がなく、α工場のみに販売している場合

ケース②の場合、α工場の閉鎖によりβ工場は販売先を失うため、キャッシュ・フローの減少幅は大きいと考えられます。このような場合、α工場とβ工場のキャッシュ・フローは相互補完的であると考えられ、α工場+β工場を一つの資産グループとして減損を検討することになります。つまり、α工場+β工場の将来キャッシュ・フロー250とα工場+β工場の固定資産の帳簿価額230を比較して減損を検討することになります。

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