不動産業 第4回:保有目的の変更・不動産の時価

2019年11月14日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 不動産セクター
公認会計士 阿部徳仁/村上和典

1. 不動産の保有目的の変更

(1) 保有目的の変更

不動産業においては、不動産取得時の会社の意思である、不動産の保有(取得)目的により、不動産の財務諸表の表示科目が異なることになります。不動産を販売目的で購入した場合には流動資産の棚卸資産として計上し、不動産を賃貸目的で購入した場合には固定資産として計上されることになります。

また、不動産業においては、経済的合理性から不動産の保有目的を変更する場合があります。例えば、販売用として物件を取得したものの、賃料を得る収益物件とした方が安定収入を見込めるため、販売用不動産を賃貸用不動産に転用することや、賃貸目的で取得した物件について、経営環境の変化や、会社の戦略の転換により、賃貸を継続するより売却してしまった方が有利と考え、販売用不動産に振り替えるといったことが考えられます。

しかし、保有目的により会計処理が異なるため(1(3)表【振替に係る会計処理のまとめ】参照)、会計処理を恣意的に操作することがないように、保有目的の変更については慎重な対応が必要になります。

保有目的の変更に際しては、「販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い(監査・保障実務委員会報告69号)」に沿って保有目的の変更の合理性を検討する必要があります。すなわち、変更時点において取締役会等によって承認された具体的かつ確実な事業計画が存在していることや、その変更理由に経済的合理性があることを確認する必要があります。

【不動産の保有目的の変更に係る検討の視点】

【不動産の保有目的の変更に係る検討の視点】

(2) 保有目的変更時の会計処理

(棚卸資産から固定資産へ)

販売目的で保有していた不動産を、賃貸事業目的あるいは自社使用の不動産とする場合には「棚卸資産の評価に関する会計基準」を適用し、当該不動産の簿価切下げ後の帳簿価額を有形固定資産または投資不動産に振り替えることになります。また、販売用不動産が土地と建物を一括で表示されている場合には、土地と建物に簿価を按分して、固定資産に振り替えることが必要です。

(固定資産から棚卸資産へ)

賃貸事業目的あるいは自社使用のために保有している不動産を、販売目的による保有に変更する場合には、保有目的の変更自体が当該固定資産の減損の兆候に該当する可能性があるため、「固定資産の減損に係る会計基準」に従い、減損の認識および測定の判定をした後の帳簿価額により固定資産から販売用不動産に振り替えることになります。

(開示)

販売用不動産等および固定資産の保有目的の変更が、会社の財務諸表に重要な影響を与える場合には、追加情報として、その旨および、その金額を貸借対照表に注記することが必要となります。

(3) 固定資産から振り替えた棚卸資産を販売した場合の収益の計上区分

固定資産である不動産を棚卸資産に振り替えた場合、販売するために保有目的の変更をするわけですが、固定資産からの振り替え後すぐに棚卸資産である不動産を売却した場合、その売却金額を営業収益としてよいかという論点があります。

例えば、既存の棚卸資産としての販売用不動産の販売だけでは営業利益目標に届かないので、含み益のある固定資産として保有しているオフィスビルを期末日近くにおいて販売目的(棚卸資産)に振り替えて当期中に売却すると、そのまま固定資産として売却していれば特別利益として計上されていた金額が、営業収益や営業利益として計上されてしまうことになります。

このように保有目的の違いにより段階利益に影響を与えるため、直近の貸借対照表で振り替えたことが認識できることを営業収益計上の条件とする(変更期内での売却は営業収益としない)など、恣意的な振り替え・売却がなされないように慎重な対応が必要です。また、保有目的の変更の合理性について、単に売却の見込みがあるという理由だけでは足りず、具体的な売却計画の存在、売却する理由の合理性、売却計画の実現可能性などを総合的に判断することが必要となります。

【振替に係る会計処理のまとめ】

【振替に係る会計処理のまとめ】

2. 販売目的で保有する不動産の賃貸収入と賃貸原価(減価償却等)

保有目的の変更ではありませんが、販売目的で保有する不動産を賃貸することが考えられます。例えば、稼働中でテナントが入っている賃貸オフィスビルを転売目的で取得するようなケースがあります。このように販売用不動産を一時的に賃貸する場合には、賃貸により発生する収益の計上区分と、当該物件に関する減価償却の要否が問題となります。

収益の計上区分については、自社の主たる事業目的に従って、営業収益もしくは営業外収益に計上することが考えられます。例えば、不動産販売業のみを事業目的としている企業であれば、本来の事業目的による収益ではないと考えられるため、営業外収益とすることが考えられます。しかし、不動産業においては、一般的に販売業や賃貸業を含めて事業目的としている場合が多いと考えられ、営業収益として計上する場合が多いと考えられます。

一方、減価償却については、当該不動産が棚卸資産であることから減価償却の必要性はないとの考え方もありますが、以下の理由などから原則として減価償却を行うべきと考えられます。

  • 棚卸資産であっても固定資産であっても、不動産が時の経過により減価するという実態に違いがないこと
  • 費用収益対応の原則を考慮し、賃貸収益に対応する賃貸原価を、減価償却を適用することにより計上できること

ただし、賃貸期間が短期的なものにすぎず、また減価償却金額に重要性が乏しい場合などには、減価償却を適用しないことも容認されると考えられます。

また、減価償却費の計上区分は、賃貸収益の計上区分に合わせて営業原価または営業外費用として計上することになると考えられます。

3. 不動産の時価

(1) 棚卸資産の評価における時価

棚卸資産の評価に関する会計基準においては、期末における正味売却価額が取得価額よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とすることとなっています(棚卸資産の評価に関する会計基準7項)。この場合の正味売却価額は、売価(売却市場の時価)から見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除したものをいうとされています(同5項)。販売用不動産等の正味売却価額は、次のように計算されます。

販売用不動産の正味売却価額 = 販売見込額 - 販売経費等見込額
開発事業等支出金の正味売却価額 =
完成後販売見込額 -(造成・建築工事原価今後発生見込額+販売経費等見込額)

また、販売見込額については期末において見込まれる将来販売時点の売価となると考えられますが、売却市場において市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を販売見込額とします。これには、期末前後での販売実績に基づく価額を用いる場合や、契約により取り決められた一定の売価を用いる場合を含むことになります。また、販売公表価格または販売予定価格を販売見込額とすることも考えられますが、販売公表価格または販売予定価格で販売できる見込みが乏しい場合も多いと考えられるため、その場合には次の評価額を基礎として販売可能見込額を見積もることになります。

販売見込額の基礎となる土地の評価額としては、例えば次のようなものが考えられます。

  • 「不動産鑑定評価基準」に基づいて算定した価額
  • 公示価格
  • 都道府県基準値価格
  • 路線価による相続税評価額
  • 固定資産税評価額を基にした倍率方式による相続税評価額
  • 近隣の取引事例から比準した価格
  • 収益還元価額

(2) 減損会計における時価

固定資産の減損に係る会計基準においては、減損の測定時に正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額により評価することとされており、正味売却価額は時価から処分費用見込額を控除して算定されます(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針28項)。正味売却価額と使用価値では通常、使用価値の方が高いと考えられるので、正味売却価額が使用されるケースは比較的少ないと考えられます。正味売却価額の算定においては、時価とは観察可能な市場価格をいうとしていますが、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額が時価となるとされており、不動産については「不動産鑑定評価基準」に基づいて算定するとされています。

(3) 賃貸等不動産の時価

賃貸等不動産の時価については「賃貸等不動産の当期末における時価とは、通常、観察可能な市場価格に基づく価額をいい、市場価額が観察できない場合には合理的に算定された価額をいう」とされています。賃貸等不動産に関する合理的に算定された価額は「不動産鑑定評価基準(国土交通省)による方法又は類似の方法に基づいて算定する。なお、契約により取り決められた一定の売却予定価額がある場合は、合理的に算定された価額として当該売却予定価額を用いることとする(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針11項)」とされています。

(4) 不動産鑑定評価基準と一般に公表されている地価

「不動産鑑定評価基準」は、不動産鑑定士等が不動産の鑑定評価を行うに当たって準拠すべき基準であり、国土交通省が定めるものです。「不動産鑑定評価基準」において算定される価格には、正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格の4種類がありますが、減損処理および時価の開示を行うに当たっての時価に対応するのは正常価格であるとされています。正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる市場での適正な価格とされています(不動産鑑定評価基準5章3節 I 1)。

不動産の鑑定評価の方式には、原価方式、比較方式および収益方式の三方式があります。原価方式は不動産の再調達(建築、造成等による新規の調達をいう)に要する原価に着目して、比較方式は不動産の取引事例または賃貸借等の事例に着目して、収益方式は不動産から生み出される収益に着目して、それぞれの不動産の価格または賃料を求めようとするものです(不動産鑑定評価基準7章)。

「不動産鑑定評価基準」では、鑑定評価方式の適用に当たっては、鑑定評価方式を当該案件に即して適切に適用すべきであるとしています。また、原則として三方式を併用すべきとされています。

なお、不動産の価格については、公表されている地価として次のものがあります。

【一般に公表されている地価の概要】

【一般に公表されている地価の概要】
【一般に公表されている地価の概要】図
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