EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 不動産セクター
公認会計士 畑 斗茂美
我が国においては、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識基準)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益認識適用指針)が、2021年4月以後開始する事業年度から適用されました。これにより、契約に基づく履行義務の識別や取引価格の配分など、収益認識の判断において、より詳細かつ体系的な検討が求められるようになりました。
その後、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下、新リース会計基準)及び企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下、新リース適用指針)が公表され、2027年4月以後開始する事業年度から適用されることとなります。
これらの会計基準は、それぞれ独立した基準ではあるものの、不動産業の収益認識を考える上で、相互に関連しており、適用の切り分けを判断すべき場面も多数見られます。本稿では、新リース会計基準適用後の不動産業の収益認識について、業態ごとに分けて主な論点を解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
不動産賃貸借契約は、多くの場合、新リース会計基準におけるリースに該当し、貸手である不動産賃貸業者は、借手に原資産を使用する権利を一定期間にわたり提供することとなります。このため、貸手が受け取る賃料については、当該賃貸借がオペレーティング・リースに該当する場合には、リース期間にわたり定額法で収益を認識します。
一方で、不動産賃貸借契約には、貸手が受け取る賃料に関連して、共益費、管理費、礼金、更新料などの他、フリーレント(レントホリデー)のように、一定期間賃料を免除する契約条件など、賃料以外の項目や条件が含まれることが一般的です。新リース会計基準では、契約における対価を、リースを構成する部分とリースを構成しない部分に配分することが求められており、これらの項目は、性質に応じた判断が収益認識においても重要となります。
(新リース適用指針12項)
貸手は、契約におけるリースを構成する部分について、会計基準及び本適用指針に定める方法によりファイナンス・リース又はオペレーティング・リースの会計処理を行い、契約におけるリースを構成しない部分について、該当する他の会計基準等に従って会計処理を行う。
共益費・管理費には共用設備や施設の運営・維持に要する費用などさまざまな種類が含まれており、共益費・管理費が、リースの定義を満たさない共用部分の賃料や、その他サービスの要素であると判断する場合には、リース料を構成しない部分として、当該部分は収益認識に関する会計基準等に沿った会計処理が必要となります。なお、新リース適用指針14項の要件を満たす場合には、共益費をリースを構成する部分として扱うことも考えられます。
(新リース適用指針14項、15項)
14. 本適用指針第12項及び前項にかかわらず、リースを含む契約についてリースを構成しない部分が企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)の適用対象であって、かつ、次の(1)及び(2)のいずれも満たす場合には、貸手は、契約ごとにリースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせて取り扱うことができる。
(1)リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分の収益の計上の時期及びパターンが同じである。
(2)リースを構成する部分がオペレーティング・リースに分類される。
15. 貸手が前項の取扱いを適用する場合、リースを構成する部分がリースを含む契約の主たる部分であるかどうかに応じて次の(1)又は(2)により会計処理を行う。
(1)リースを構成する部分がリースを含む契約の主たる部分であるときは、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを分けずに合わせてリースを構成する部分としてオペレーティング・リースに係る会計処理を行う(本適用指針第82項参照)。
(2)(1)に該当しないときは、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを分けずに合わせて収益認識会計基準に従って単一の履行義務として会計処理を行う。
礼金・更新料については、一般的に、借手がリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払いであり、リース料を構成する部分として取り扱われ、当該賃貸借がオペレーティング・リースに該当する場合には、賃料と同様に、貸手はリース期間にわたり定額で収益を認識することになります。
フリーレントやレントホリデーは、リース期間において一定の期間のリース料が免除されるものであり、不動産賃貸業でも、借手に対するインセンティブとして広く利用されています。新リース会計基準では、当該賃貸借がオペレーティング・リースに該当する場合の具体的な会計処理が明示されており、免除期間を含むリース期間にわたり、リース料を定額で収益認識することが求められます(新リース適用指針82項ただし書き)。
(新リース適用指針 82項)
貸手のオペレーティング・リースについては、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行う。(会計基準第48項)。貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で、計上する。
ただし、貸手が貸手のリース期間について会計基準第32項(2)の方法を選択して決定する場合に当該貸手のリース期間に無償賃貸期間が含まれるときは、貸手は、契約期間における使用料の総額(ただし、将来の業績等により変動する使用料を除く。)について契約期間にわたり計上する。
不動産賃貸業において収益認識基準が適用される代表的なものとして、水道光熱費が考えられます。これは新リース会計基準適用後も同様です。
水道光熱費とは、一般に賃借人が賃借している専用部分から生じる水道、電気、ガス等(以下、水光熱)の使用料に相当する料金を、賃借人より収受する収益をいいます。当該収益については、物件のオーナー側もあまり利益を取っていないことや(完全に実費精算という契約もある)、例えば、地域一帯が停電した時など、電力会社等の不具合の事由により供給が停止した場合に、一般的にはオーナーが責任を負わないことから、収益認識基準における本人・代理人の区分の判定について議論となることが多くあります。
水道光熱費についてのオーナーと賃借人との契約形態はさまざまであるため一概には言えませんが、検討のポイントは、まずは顧客に提供する財又はサービスを識別して、それぞれが顧客に提供される前に、それらを支配しているかどうかという点となります(収益認識適用指針42項)。水道光熱費に関してはモノとしての形がないため、分かりづらい点はありますが、電力会社等の判断とは別にオーナー独自で電力等の供給を止められるのかどうか(例えば滞納した場合)などを検討し、その実態を判断することになります。
ただ、実際に供給を強制的に停止した事例などもなく、支配の概念を基礎として、本人か代理人かを収益認識適用指針43項に従って判定することが困難な場合には、収益認識適用指針47項にある3指標((1)主たる責任、(2)在庫リスク、(3)価格裁量権)を考慮して判断することが考えられます。
(収益認識適用指針 43項、47項)
43. 顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合、財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配しているときには、企業は本人に該当する。他の当事者が提供する財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配していないときには、企業は代理人に該当する。
47. 第43項における企業が本人に該当することの評価に際して、企業が財又はサービスを顧客に提供する前に支配しているかどうかを判定するにあたっては、例えば、次の(1)から(3)の指標を考慮する。
(1)企業が当該財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有していること。これには、通常、財又はサービスの受入可能性に対する責任(例えば、財又はサービスが顧客の仕様を満たしていることについての主たる責任)が含まれる。
企業が財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有している場合には、当該財又はサービスの提供に関与する他の当事者が代理人として行動していることを示す可能性がある。
(2)当該財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは当該財又はサービスに対する支配が顧客に移転した後(例えば、顧客が返品権を有している場合)において、企業が在庫リスクを有していること
顧客との契約を獲得する前に、企業が財又はサービスを獲得する場合あるいは獲得することを約束する場合には、当該財又はサービスが顧客に提供される前に、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。
(3)当該財又はサービスの価格の設定において企業が裁量権を有していること
財又はサービスに対して顧客が支払う価格を企業が設定している場合には、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。
ただし、代理人が価格の設定における裁量権を有している場合もある。例えば、代理人は、財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配するサービスから追加的な収益を生み出すために、価格の設定について一定の裁量権を有している場合がある。
不動産販売事業のうちマンション・戸建に係る不動産分譲事業については、物件の販売は、引き渡しが行われた時点で収益を計上します。
その他、マンション・戸建の販売に係る論点として、引き渡し後のアフターサービスや、共同事業会社へのシェアアウトがあります。
(i)引き渡し後のアフターサービス
引き渡し後のアフターサービスについては、有償でのサービスであれば、通常、別個のサービスとして履行義務を識別することとなりますが、無償(もしくは販売価格の中に含まれる)でのサービスでも、法定のアフターサービスを超えた保証については、収益認識適用指針34項から38項に従った検討が必要となります。なお、別個の履行義務として識別されるような場合でも、約束したサービスが契約の観点で重要性が乏しい場合には、収益認識適用指針93項の「顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い」については適用可能であり、顧客との約束が履行義務であるかの評価をしなくてもよいため、その点も留意して検討する必要があります。
(ⅱ)共同事業会社(JV)へのシェアアウト
例えば、不動産分譲事業において、資金やノウハウの面から単独での事業展開ではなく、他社(JV先)と共同で事業を進めるために、保有する開発物件の持分の一部を他社に譲渡するケースなどがあります。これをシェアアウトといいます。
収益認識基準は「顧客」に対しての財又はサービスの提供について定める会計基準ですが、収益認識基準111項では「リスクと便益を契約当事者で共有する活動又はプロセス(提携契約に基づく共同研究開発等)に参加するために企業と契約を締結する当該契約の相手方は顧客ではなく、当該契約に本会計基準は適用されない」とされています。不動産業のJV契約には、企業と「顧客」の関係が見いだされる取引活動が存在することが想定され、そのような場合は単に企業の持分の一部をJV相手先に譲渡する取引として、一般的に収益認識基準の適用対象になると考えられます。ただし、この場合も譲渡価額を総額で売上として計上してよいかどうかを含め、慎重な検討が必要となります。
(収益認識基準111項)
111. 本会計基準は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される(顧客の定義は第6項参照)。例えば、企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財又はサービスを獲得するためではなく、リスクと便益を契約当事者で共有する活動又はプロセス(提携契約に基づく共同研究開発等)に参加するために企業と契約を締結する当該契約の相手方は、顧客ではなく、当該契約に本会計基準は適用されない。
不動産販売事業には、ビルなどの一棟売りの販売事業もあります。これについても基本的には、引き渡しにより収益認識する実務は変わりませんが、マンション・戸建のように一般のエンドユーザー相手の売却ではなく、法人相手であることが多いため、複雑な契約条件が付くこともあります。例えば、買い戻し条件が付くときなどは、収益認識適用指針69項、70項に従って、顧客は支配を獲得していないとされ、買戻価格が当初の販売価格より低い場合には、実質的に引き渡しから買戻時点まで不動産を使用する権利の対価を得ているとして、リース取引として処理します。また、買戻価格が当初販売価格以上の場合には、実質的に不動産を担保とした資金調達取引であり、差額は金利を支払っているとして、金融取引として処理することが考えられます。
また、特定目的会社(TMK)などの特別目的会社(SPC)を利用した取引等も多く、この場合は、移管指針第10号「特別目的会社を活用した不動産流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」にも照らし、売却(オフバランス)と認められるかどうかについて検討することにも留意が必要です(収益認識基準3項(6))。
一言で不動産業と言った場合に、他にも、いくつかの業態があります。不動産賃貸業、不動産販売業以外にも、以下のような業態について解説を行います。
ビルやマンションの管理業(建物メンテナンス業、プロパティマネジメント業)については、契約における履行義務の識別が、主な論点となります。料金形態や契約に含まれる業務もさまざまであり、一概には言えませんが、例えば一定期間にわたって固定定額の収入を得る形態の場合には、ビルの品質を一定に保つというオーナー側の期待の下でワンストップサービスを提供していると考え、契約に含まれる一連の別個の財又はサービスが一定の要件をすべて満たす場合には、履行義務をまとめて一つの履行義務として、一定期間にわたって収益認識を行うことになると考えます(収益認識基準33項、38項)。また、顧客に約束した財又はサービスが、収益認識基準34項の2要件を満たす場合には、別個の履行義務として複数に分けて収益認識することも考えられ、実態に合わせて会計処理を行うこととなります。
(収益認識基準32項、33項、34項)
32. 契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別する(第7項参照)。
(1)別個の財又はサービス(第34項参照)(あるいは別個の財又はサービスの束)
(2)一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)(第33項参照)
33. 前項(2)における一連の別個の財又はサービスは、次の(1)及び(2)の要件のいずれも満たす場合には、顧客への移転のパターンが同じであるものとする。
(1)一連の別個の財又はサービスのそれぞれが、第38項における一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たすこと
(2)第41項及び第42項に従って、履行義務の充足に係る進捗度の見積りに、同一の方法が使用されること
34. 顧客に約束した財又はサービスは、次の(1)及び(2)の要件のいずれも満たす場合には、別個のものとする。
(1)当該財又はサービスから単独で顧客が便益を享受することができること、あるいは、当該財又はサービスと顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて顧客が便益を享受することができること(すなわち、当該財又はサービスが別個のものとなる可能性があること)
(2)当該財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できること(すなわち、当該財又はサービスを顧客に移転する約束が契約の観点において別個のものとなること)
管理業を営む会社の場合、管理するビルやマンションについての修理工事を請け負うところも多くあります。収益認識基準において、いわゆる工事進行基準のような処理がありますが、見積りの管理体制がなく、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができない場合には、収益を認識することはできないので(収益認識基準44項)、適用の可否について、検討が必要です。また、収益認識適用指針95項の「ごく短い」期間の工事契約であれば、いわゆる工事完成基準のような処理ができるため、その適用について検討を行われると思いますが、その期間は限定的に解釈すべきと考えられます。
仲介業については、売主と買主に対して、それぞれ、物件の調査、取引相手の探索、条件交渉、契約、引き渡し、登記などといった業務を提供しています。一般的には、登記については司法書士等への取次にすぎず、不動産業者は登記事務の対価を得ていないこともあり、売買当事者間の不動産の引き渡しをもって役務提供の完了とし、収益を計上することが一般的であると考えられます。
また、現状の処理として、契約締結時に報酬請求権が発生する旨が契約書に記載されているケースが多いことや、引き渡しまで行われないと、すでに収受した中間金以外の残金について放棄するケースも実務上多いことから、契約時と引き渡し時とで、それぞれ収益を分割して計上する方法を採用している会社もあります。収益認識基準においては、契約に含まれる複数の財又はサービスについて、それぞれ別個のものとして履行義務を識別するため、契約までの業務と、契約後引き渡しまでの業務について、それぞれ履行義務を識別することも考えられます。ただし、契約における取引価格の、複数の履行義務への配分については、それぞれの独立販売価格を直接観察できない場合には、独立販売価格を見積もる(収益認識適用指針32項)必要があることから、困難な要素が多いと考えられるので、留意が必要です。
不動産業