不動産業 第5回:新収益認識基準が不動産業に与える影響

2020年12月1日
カテゴリー 業種別会計

EY新日本有限責任監査法人 不動産セクター
公認会計士 荒木隆志

1. はじめに

新収益認識基準が不動産業に与える影響について説明します。

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識基準)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益認識適用指針)が、2021年4月1日から強制適用となります(早期適用可)。

収益認識基準の詳細については他の記事でも触れているので割愛しますが、五つのステップに分けて検討を行うなど、従来の実現主義という抽象的な概念から、詳細な検討過程が定められることとなりました。以下では、不動産業について分野ごとに分けて主要な論点を解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

2. 不動産賃貸業

不動産を保有あるいは賃借して、テナントに賃貸する事業の場合、賃料、共益費等、発生する収益の多くが、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下、リース基準)の適用となり(<表1>参照)、その場合、収益認識基準の適用範囲に含めないとされています(収益認識基準3項(2)、104項)。

<表1>
収益認識基準 リース基準
  • 水光熱収入
  • 賃料・共益費
  • フリーレント等特殊な契約条件の賃料
  • 未経過賃借期間に対応した解約違約金
  • 礼金(*)


(*)礼金については、もともとは物件の賃借に対する、賃借人からのお礼金の意味合いであり、古い慣行によるもののため、その性質には諸説ありますが、賃料等のキャッシュ・フローの一部と考えることは合理的と考えられます。

なお、IFRS第16号「リース」がすでに発効されていますが、日本においては、当記事の記載時点において、リース基準の改正はされておらず、リース基準が適用される収益は、基本的に収益認識基準の適用を直接の理由として処理が変更されることはないと考えられます。

前述のとおり、不動産賃貸業から発生する収益はリース基準の適用となるものが多いのですが、収益認識基準を適用して検討が必要なものもあります。開示においても区分して表示又は注記が必要となるので(収益認識基準78-2項)、取引ごとに、どの基準が適用されるか検討することが重要です。不動産賃貸業において収益認識基準が適用される代表的なものとしては、水光熱収入が考えられます。

水光熱収入とは、一般に賃借人が賃借している専用部分から生じる水道、電気、ガス等(以下、水光熱)の使用料に相当する料金を、賃借人より収受する収益をいいます。当該収益については、物件のオーナー側もあまり利益を取っていないことや(完全に実費精算という契約もある)、例えば、地域一帯が停電した時など、電力会社等の不具合の事由により供給が停止した場合に、一般的にはオーナーが責任を負わないことから、収益認識基準における本人・代理人の区分の判定について議論となることが多くあります。

水光熱についてのオーナーと賃借人との契約形態はさまざまであるため一概には言えませんが、検討のポイントは、まずは顧客に提供する財又はサービスを識別して、それぞれが顧客に提供される前に、それらを支配しているかどうかという点となります(収益認識適用指針42項)。水光熱に関してはモノとしての形がないため、分かりづらい点はありますが、電力会社等の判断とは別にオーナー独自で電力等の供給を止められるのかどうか(例えば滞納した場合)などを検討し、その実態を判断することになります。

ただ、実際に供給を強制的に停止した事例などもなく、支配の概念を基礎として本人と代理人の定義(収益認識適用指針43項)を判定することが困難な場合には、収益認識適用指針47項にある3指標((1)主たる責任、(2)在庫リスク、(3)価格裁量権)の例示に従って判断することが考えられます。

(収益認識適用指針)

43. 顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合、財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配しているときには、企業は本人に該当する。他の当事者が提供する財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配していないときには、企業は代理人に該当する。

47. 第43項における企業が本人に該当することの評価に際して、企業が財又はサービスを顧客に提供する前に支配しているかどうかを判定するにあたっては、例えば、次の(1)から(3)の指標を考慮する。

(1)企業が当該財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有していること。これには、通常、財又はサービスの受入可能性に対する責任(例えば、財又はサービスが顧客の仕様を満たしていることについての主たる責任)が含まれる。
企業が財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有している場合には、当該財又はサービスの提供に関与する他の当事者が代理人として行動していることを示す可能性がある。

(2)当該財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは当該財又はサービスに対する支配が顧客に移転した後(例えば、顧客が返品権を有している場合)において、企業が在庫リスクを有していること
顧客との契約を獲得する前に、企業が財又はサービスを獲得する場合あるいは獲得することを約束する場合には、当該財又はサービスが顧客に提供される前に、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。

(3)当該財又はサービスの価格の設定において企業が裁量権を有していること
財又はサービスに対して顧客が支払う価格を企業が設定している場合には、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。
ただし、代理人が価格の設定における裁量権を有している場合もある。例えば、代理人は、財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配するサービスから追加的な収益を生み出すために、価格の設定について一定の裁量権を有している場合がある。

「(1)主たる責任」と「(3)価格裁量権」については、通常の財の提供と同様の検討内容になると思われますが、「(2)在庫リスク」については特に、モノとしての在庫がないため、どのように適用するのかが明確ではありません。

一般的には、このような顧客とサービスを提供する契約を締結し、実際の履行を外注する場合等において、顧客がその作業を受け入れるか又は支払いを行うかにかかわらず、企業が外注先の実施した作業に対して支払いを行う義務を負っている場合には、企業が「(2)在庫リスク」を有していることの判断指標に該当する可能性があります。

これを水光熱収入において具体的に考えてみます。例えば、テナントから収受する水光熱収入の料金体系は従量料金のみから構成されることも多いのですが(固定料金なし)、一方で、電力会社等の契約では従量料金と固定料金から構成されます。このようなケースでは、他のテナントが退去する都度、料金体系を見直さない場合や、ビルが低稼働となった場合には、オーナーが電力会社等への支払いのうち、固定料金部分については負担するリスクが存在します。あるいは、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大による政府・自治体の休業要請に応じて商業施設などを閉鎖した場合、固定料金部分はオーナーが負担することとなった実績などを考え合わせると、前述のようなサービスにおける在庫リスクの考え方に該当する可能性もあります。実態に合わせて、本人・代理人については検討を行ってください。

なお、(1)から(3)の指標については、支配の評価に優先して行うものではなく、また、特定の指標にのみ着眼して結論付けることがないように留意する必要があります(収益認識適用指針136項)。

3. 不動産販売業

(1) マンション・戸建

不動産販売事業のうちマンション・戸建に係る不動産分譲事業については、物件の販売は、現状は引き渡しが行われた時点で収益を計上していますが、この実務は収益認識基準の適用後も変更はありません。

その他の主要な論点としては、引き渡し後のアフターサービスや、共同企業体(ジョイントベンチャー、JV)のシェアアウトに係る論点などがあります。引き渡し後のアフターサービスについては、有償でのサービスであれば、通常、別個のサービスとして履行義務を識別することとなりますが、無償(もしくは販売価格の中に含まれる)でのサービスでも、法定のアフターサービスを超えた保証については、収益認識適用指針34項から38項に従った検討が必要となります。なお、別個の履行義務として識別されるような場合でも、約束したサービスが契約の観点で重要性が乏しい場合には、収益認識適用指針93項の「顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い」については適用可能であり、顧客との約束が履行義務であるかの評価をしなくてもよいため、その点も留意して検討する必要があります。

(収益認識適用指針)

34. 約束した財又はサービスに対する保証が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証のみである場合、当該保証について、企業会計原則注解(注18)に定める引当金として処理する。

35. 約束した財又はサービスに対する保証又はその一部が、当該財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証に加えて、顧客にサービスを提供する保証(当該追加分の保証について、以下「保証サービス」という。)を含む(第37項参照)場合には、保証サービスは履行義務であり、取引価格を財又はサービス及び当該保証サービスに配分する。

一方、JVのシェアアウトですが、例えば、不動産分譲事業において、資金やノウハウの面から単独での事業展開ではなく、他社(JV先)と共同で事業を進めるために、保有する開発物件の持分の一部を他社に譲渡するケースなどを指します。

この場合の論点は、「顧客」の範囲となります。収益認識基準の適用範囲となるには、財又はサービスの提供が「顧客」に対するものである必要があります。JV先に持分を譲渡するだけでなく、共同で事業を進めることで譲渡持分から発生するリスクと便益をJV先も獲得する場合、「顧客」に当たらず、収益認識基準の適用対象外となる可能性があります(収益認識基準111項)。

(収益認識基準)

111. 本会計基準は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される(顧客の定義は第6項参照)。例えば、企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財又はサービスを獲得するためではなく、リスクと便益を契約当事者で共有する活動又はプロセス(提携契約に基づく共同研究開発等)に参加するために企業と契約を締結する当該契約の相手方は、顧客ではなく、当該契約に本会計基準は適用されない。

(2) ビル等の一棟売り

不動産販売事業には、ビルなどの一棟売りの販売事業もあります。これについても基本的には、引き渡しにより収益認識する現行実務は変わりませんが、マンション・戸建のように一般のエンドユーザー相手の売却ではなく、法人相手であることが多いため、複雑な契約条件が付くこともあります。例えば、買い戻し条件が付くときなどは、収益認識適用指針69項、70項に従って、顧客は支配を獲得していないとされ、買戻価格が当初の販売価格より低い場合には、実質的に引き渡しから買戻時点まで不動産を使用する権利の対価を得ているとして、リース取引として処理します。また、買戻価格が当初販売価格以上の場合には、実質的に不動産を担保とした資金調達取引であり、差額は金利を支払っているとして、金融取引として処理することが考えられます。

また、特定目的会社(TMK)などの特別目的会社(SPC)を利用した取引等も多く、会計制度委員会報告第15号「特別目的会社を活用した不動産流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」の対象となる不動産の譲渡となる場合には、収益認識基準が適用されないことにも留意が必要です(収益認識基準3項(6))。

(収益認識適用指針)

69. 企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)あるいは企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には、顧客は当該商品又は製品に対する支配を獲得していない。
商品又は製品の買戻価格が当初の販売価格より低い場合には、当該契約を企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下「リース会計基準」という。)に従ってリース取引として処理する。商品又は製品の買戻価格が当初の販売価格以上の場合には、当該契約を金融取引として処理する。
買戻価格を販売価格と比較する際には、金利相当分の影響を考慮する([設例26-1])。

70. 買戻契約を金融取引として処理する場合には、商品又は製品を引き続き認識するとともに、顧客から受け取った対価について金融負債を認識する。顧客から受け取る対価の額と顧客に支払う対価の額との差額については、金利(あるいは加工コスト又は保管コスト等)として認識する。

4. その他

一言で不動産業と言った場合に、他にも幾つかの業態があります。不動産賃貸業、不動産販売業以外にも、以下のような業態について解説を行います。

(1) 不動産管理業

ビルやマンションの管理業(建物メンテナンス業、プロパティマネジメント業)については、契約における履行義務の識別が、まず主な論点となります。料金形態や契約に含まれる業務もさまざまであり、一概には言えませんが、例えば一定期間にわたって固定定額の収入を得る形態の場合には、ビルの品質を一定に保つというオーナー側の期待の下でワンストップサービスを提供していると考え、契約に含まれる一連の別個の財又はサービスが一定の要件を全て満たす場合には、履行義務をまとめて一つの履行義務として、一定期間にわたって収益認識を行うことになると考えます(収益認識基準33項、38項)。また、一方で、別個の財又はサービスが一定の要件を全て満たす場合には、別個の履行義務として複数に分けて収益認識することも考えられ、実態に合わせて会計処理を行うこととなります。

また、管理業を営む会社の場合、管理するビルやマンションについての請負工事を提供するところも多くあります。従来の企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」によると、工事進行基準の計算の基礎となる進捗度について、信頼性をもって見積もる必要性から、管理体制の整備が求められていましたが(工事契約に関する会計基準50項)、管理業を営む会社の多くが業務をほぼ外注していることから、その体制を構築できず、現状では工事完成基準を適用している会社も実務的には多いと思われます。

収益認識基準でも、いわゆる工事進行基準のような処理がありますが、前述の見積りの管理体制がなく、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができない場合には、収益を認識することはできないので(収益認識基準44項)、適用の可否について、あらためて検討が必要です。なお、収益認識適用指針95項の「ごく短い」期間の工事契約であれば、いわゆる工事完成基準のような処理ができるため、その適用について検討を行われると思いますが、従来の「工事契約に関する会計基準」と同様、その期間は限定的に解釈すべきと考えられるので、各社の損益に与えるインパクトの重要性も加味し、検討が必要となります。

(2) 不動産仲介業

仲介業については、売主と買主に対して、それぞれ、物件の調査、取引相手の探索、条件交渉、契約、引き渡し、登記などといった業務を提供しています。一般的には、登記については司法書士等への取次にすぎず、不動産業者は登記事務の対価を得ていないこともあり、売買当事者間の不動産の引き渡しをもって役務提供の完了とし、収益を計上することが多いと考えられます。

収益認識基準が適用された場合でも、当事者間の引き渡しを行うまでが一連のサービスであり、その結果、収益認識のタイミングについては変更がないと考えられます。

また、現状の処理として、契約締結時に報酬請求権が発生する旨が契約書に記載されているケースが多いことや、引き渡しまで行われないと、すでに収受した中間金以外の残金について放棄するケースも実務上多いことから、契約時と引き渡し時とで、それぞれ収益を分割して計上する方法を採用している会社もあります。収益認識基準においては、契約に含まれる複数の財又はサービスについて、それぞれ別個のものとして履行義務を識別するため、契約までの業務と、契約後引き渡しまでの業務について、それぞれ履行義務を識別することも考えられます。ただし、契約における取引価格の、複数の履行義務への配分については、それぞれの独立販売価格を直接観察できない場合には、独立販売価格を見積もる(収益認識適用指針32項)必要があることから、困難な要素が多いと考えられるので、留意が必要です。

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