2023年3月1日
EYで働くアスリートらが考える、「スポーツが社会を変える力」とは

EYで働くアスリートらが考える、「スポーツが社会を変える力」とは

執筆者 EY Japan

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

2023年3月1日

社会を変える力を持つためには、個人の充実がまず必要です。

ボクサーにフリーダイバー、仕事以外の時間の充実を図ることで得られる仕事へのポジティブな影響を考察します。
EYで働くスポーツパーソンたちが集まり、スポーツと社会を結びつけるために必要だと考えていることについて話し合いました。
 

要点

  • デュアルキャリアの実現が、個人の充実を生む「人づくり」「場づくり」「コトづくり」「ルールづくり」の重要性
  • 新しい時代、スポーツが持つ社会への影響力とは
     
左から:富田 宇宙(とみた うちゅう)、岡田 優介(おかだ ゆうすけ)、多田 雅之(ただ まさゆき)、蟹江 蓉子(かにえ ようこ)、矢部 紀行(やべ のりゆき)
Sports Power the Community対談【後編】

ビジネスとスポーツの両立

――前編では「スポーツの持つ力」について考えてきましたが、皆さんの持つアイデアが社会を変えていく力になることが見えてきました。アイデアを充実させていくためには、個人の充実が必要です。蟹江さんはプロボクサーとして、どのようにボクシングと仕事を両⽴しているのですか。

蟹江 週6回練習をしています。フィットネスではなく、プロとして活動するからにはそれくらいの練習時間が必要だと思っています。

矢部 興味深い話です。蟹江さんはどうやって時間を捻出していますか?

蟹江 この時間になったらジムに行く、ということを決めていて、それまでにいったん仕事を終えることにしています。

蟹江 蓉子(かにえ ようこ)
――食事や家事をする時間も取らなければいけない。そうしたトータルマネジメントが必要になりますよね。

蟹江 買い出し、料理は週末に集中させて、平日は仕事とボクシングですね。ボクシングはとにかく汗をかくので、乾燥機付きの洗濯機を買い、それで1日30分は時間の短縮につながっています(笑)。

多田 ボクシングも試合にもなると怖くないですか?

蟹江 試合の時は怖くなかったですね。それよりも練習のスパーリングの方がよっぽど怖くて。でも、ボクシングを始めてから、仕事で怖いと思うことがほとんどなくなりました。お客さまの前で、英語でプレゼンテーションする機会も多いですが、スパーリング⽐べたら大丈夫だなって(笑)。ボクシングのおかげで精神的にたくましくなったと思えますし、たとえ仕事でうまく行かないことがあっても、ボクシングの時間になれば自動的にメンタルのスイッチが切り替わるので、その意味でもいいかなと思っています。

矢部 それ、すごく分かります。仕事とフリーダイビング、両方を追求していると、どうしても時間が足りないと自分に文句を言いたくなる時はあります。でも、海に潜っている時というのは内面に集中しなければなりません。デュアルキャリアを追求していく中では、自分の内面にフォーカスして、気持ちを切り替えていくのが有効な気がしますね。実は、私はこの座談会に出ることで、初めて自分が日本代表であることを職場で公表したのです。

岡田 それ、もったいないですよ。

矢部 日本のビジネス界では、スポーツのキャリアとコンサルタントとしてのデュアルキャリアを遂行できるという考えはまだなじみがなく、フリーダイビングの日本代表や日本記録保持者という肩書がコンサルタントとして働く上でマイナスに影響するのではという不安がありました。でも、皆さんと話していて、こうしたキャリア形成があってもよいのではないか、自分自身がモデルケースとして成功してみせることで、EYから社会へ向けて発信していけたらと思うようになりました。

多田 文武両道という言葉もありますけど、スポーツと仕事、スポーツとビジネス、この組み合わせは相乗効果がありますよね。
 

左から:矢部 紀行(やべ のりゆき)、岡田 優介(おかだ ゆうすけ)

4つのフォーカスエリア

――EYは「Sports Power the Community」ということを掲げていますが、その中で「人づくり」、「場づくり」、「コトづくり」、「ルールづくり」の4つをフォーカスエリアとしています。皆さんが力を入れていきたいエリアを教えてください。
Sports Power the Community 4つのフォーカスエリア - 1.人づくり
Sports Power the Community 4つのフォーカスエリア - 2.場づくり
Sports Power the Community 4つのフォーカスエリア - 4.ルールづくり

富田 私は「人づくり」ですね。私自身はスポーツに打ち込んだことで自分を立て直すことができて、前を向いて生きていけるようになりました。私は自分のことを「社会活動家」として捉えている面もあるので、自分なりにメッセージを発信し、人が変わっていけば、結果として人づくりにつながるだろうと考えています。

――矢部さんはいかがでしょう。

矢部 「ルールづくり」にも興味がありますが、自分のキャリアを考えると、人づくりの面で貢献できるのかなと思っています。先ほどもお話しましたが、EYのプロフェッショナルとして働きながら、仕事以外のことでも自己実現をしてもいいよね、ということを体現できたらと思っています。私自身がモデルケースとなって、それがEY、ひいては社会に広がっていけば、若い人たちの発想も変わってくるのではないかと期待しています。

岡田 僕は「場づくり」にこだわっていきたいですね。僕はオリンピックの正式種目にもなった3人制バスケットボール「3x3」の会社も経営しています。前編の方でも話しましたが、今、公園で子どもたちがバスケで遊びづらくなってきている。そしてコロナ禍でミニバスケットボールやスクールも、活動する場所が限られてしまっています。3x3はハーフコートのサイズでプレーできるので、1時間もあれば設営が可能なのです。

――簡単にできてしまうのですね。

岡田 そうなのです。商業施設にも設置可能ですから、そうしたパッケージを広めていき、気軽にスポーツにアクセスできる環境を日本でつくっていきたいです。

多田 岡田さんの場合は、長期的な軸足もバスケットボールなのですね。

岡田 僕はさまざまな場所で活動しているので、発想が交差していくのが面白いと考えています。バスケットボールには「ピボットフット」という言葉がありますが、片足を軸にして、いろいろな方向に回転していく。ビジネスでも、バスケットボールをピボットフットにして、そこから発展、展開していきたい。その意味では、EYに籍を置くことで、いろいろな知見を得られるので、それをバスケット界に展開していきたいという思いが強いです。
 

左から:矢部 紀行(やべ のりゆき)、岡田 優介(おかだ ゆうすけ)、蟹江 蓉子(かにえ ようこ)
――蟹江さんはいかがでしょう。

蟹江 私は「人づくり」と「場づくり」かなと思っています。自分がプロになって思うことは、見る側の人たちが、もっとスポーツにアクセスがしやすい環境をつくることがすごく大切だということです。アクセスしやすければ、自然とそのスポーツの裾野が広がっていくはずです。

――最近は日本でもボクシングもテレビではなく、動画配信での中継が増え女性が視聴する機会が増えていると聞きました。

蟹江 それはすごく感じます。配信での中継が一般化してから、女性でも見る人たちが増えたなということを実感しています。自分でスポーツをするということは生活の充実につながると思いますが、その前に競技を知ってもらったり、体験してもらって、その楽しさを広めるということは大切ですね。私としては、見る人のための場づくり、人づくりができたらいいなと思っています。例えば、女性が理解しやすい解説を付けるだけでもアクセスは変わってくると思います。

――それは面白い発想ですね。門戸が広がるかもしれない。多田さんはどうですか?

多田 公認会計⼠という観点から考えると「ルールづくり」なのかなと思います。スポーツの力をより広く生かしていくためには、スポーツを取り巻く環境自体がフェアでオープンなものである必要があると思います。一方でもっとスポーツ界とビジネス界がつながってほしいという思いもありますので、アスリートの方がビジネスの世界に飛び込むための応援というところにも力を入れていきたいとも思っています。

――そもそも、EYという企業が、なぜスポーツに熱心に取り組んでいるのでしょうか?

多田 EYは今クライアントの皆さまと一緒に長期的価値(Long-term value、LTV)を追求しています。これまで、多くの企業はいかに利益を獲得し株主に還元できるかという経済価値を追求してきましたが、社会が多くの課題に直面する今、企業もまたその解決に貢献することが求められます。そうした企業に投資家や消費者はより魅力を感じますし、その結果、企業の経済価値も高まるという好循環が生まれます。

――つまり、利益の獲得と社会課題の解決の「両輪」でなければならないと。

多田 はい。これからの企業は両者を1つのストーリーの中で描いてステークホルダーに伝えることが求められますし、実際に多くの上場企業がその取り組みを始めています。その中でスポーツ界への期待も高まっていると思います。一方で、スポーツ界もまた自らの存在価値を再定義して、社会への貢献を果たそうという機運が強まっています。スポーツ界とビジネス界がもっと効果的に⼿を組むことができれば、社会にもっと良い影響をもたらすことができると思います。そのためにも、両者の間で共通の認識となる⼀定のルールが重要になるのではないかと思います。

富田 パラスポーツに関わっているとルールづくりの重要性を実感します。パラスポーツというのは、多様な障害を抱える⼈々が競技に参加できるようにルール制定することでうまくカテゴライズし、それによって新たな公平性を⽣み出すシステムになっているのです。そしてそのバリエーションが魅⼒となってエンターテインメント性が⽣まれ、さらには社会の障壁を取り除くインパクトにつながっていくわけです。
 

富田 宇宙(とみた うちゅう)

多田 富田さんが話すとスッと心に入ってきますよね。アスリートの⽅とお話をすると、表現する⼒、伝える⼒がすごいと感心させられることが多いです。きっと、競技生活を通じて目的を設定し、そこに至る道を描いて努力し続ける。そんな物語を日々体現しているからこそ、ストーリーで語ることが上⼿なのでしょうね。先ほどの企業のストーリーづくりに、アスリートの⽅が参画して⼀緒につくっていくことができたら⾯⽩いと思います。

岡田 今日、皆さんのお話を聞いて、スポーツは社会をより良い社会の構築を目指すための⼒になると感じました。僕も皆さんと⼀緒にスポーツの価値を伝えていけたらと思います。


プロフィール

岡田 優介(おかだ ゆうすけ) 現役プロバスケットボール選手

岡田 優介(おかだ ゆうすけ)

1984年生まれ。 現役プロバスケットボール選手。アルティーリ千葉所属。

学生の頃から文武両道で、2010年には公認会計士試験に合格。現役選手として活躍する傍ら、日本バスケットボール選手会を設立し、初代会長に就任。
現在、3人制バスケットボールチーム「TOKYO DIME(東京ダイム)」のオーナーも務める。

蟹江 蓉子(かにえ ようこ) EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・アドバイザリー・サービス マネージャー

蟹江 蓉子(かにえ ようこ)

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープル・アドバイザリー・サービス マネージャー

新卒でIT企業に入社し、人事給与システムの導入コンサルタントとして経験を積んだ後、コンサルティング業界へ転職。人事給与システムやタレントマネジメントシステムの導入、グローバルプラットフォームの構築など、人事とテクノロジーの領域で10年以上のキャリアを持つ。グローバル案件にも複数従事。
プライベートでは、健康目的で始めたボクシングにてプロライセンスを取得。2022年9月に後楽園ホールにてデビュー戦に出場。
EYには2022年4月に入社。

 多田 雅之(ただ まさゆき) EY新日本有限責任監査法人 第2事業部 パートナー

多田 雅之(ただ まさゆき)

EY新日本有限責任監査法人 第2事業部 パートナー

業務執行社員として、上場企業をはじめさまざまなクライアントに会計監査サービスを提供する。その傍ら、監査品質の向上、DE&Iの推進、ビジネス界とスポーツ界との融合に積極的に取り組んでいる。
2004年の入社以来、国内外のグローバル企業に向けた保証業務や、SOX対応、IFRS導入、IPOなどの支援業務に従事。これまで担当したクライアントはIT企業、総合商社、メーカー、小売、医療法人など、多岐にわたる。また、ニューヨークでの勤務経験や、米国証券取引委員会(SEC)関連業務の経験を複数有するとともに、各国のEYのメンバーファームと連携して海外企業の日本法人の会計監査を行うなど、国際関連業務に強みを持つ。

一橋大学商学部卒業
公認会計士(日本)

富田 宇宙(とみた うちゅう) EY Japan パラアスリート

富田 宇宙(とみた うちゅう)

EY Japan パラアスリート

主な成績:東京2020パラリンピック競技大会400m自由形(S11)、100mバタフライ(S11)銀メダル、200m個人メドレー(SM11)銅メダル

3歳から競泳を始めたが、高校2年時に進行性の難病「網膜⾊素変性症」が発症。大学で競技ダンスに取り組み一時は競泳を離れたが、SEとしてソフトウェア会社で働いていた2012年にパラ競泳に転向。2015年にEYにジョインし、パラアスリートとなる。競技と並行して大学院でパラスポーツの研究にも取り組み、現在はスペインバルセロナにも練習拠点を持ち、講演、執筆、各種メディアを通じた社会へのアプローチによるダイバーシティーの理解を促進する活動をライフワークとしている。

矢部 紀行(やべ のりゆき) EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 エンゲージメントマネージャー

矢部 紀行(やべ のりゆき)

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 エンゲージメント マネージャー

消費財・小売セクターを中心に、外資および日系企業のさまざまな経営課題の解決を支援。クロスボーダーに強みを持ち、国内外における成長戦略・M&A戦略策定支援およびビジネスデューデリジェンスなどのトランザクション支援において多くの実績を持つ。
戦略コンサルタントの傍ら、一息で潜る距離・深度を競うフリーダイビングの競技選手としても活動。日本代表として世界選手権に出場するほか、2022年男子総合ランキングでは国内1位、世界11位の成績を残す。3種目における日本記録保持者(CMAS)。

オーストラリア国立大学卒業、英国ケンブリッジ大学MBA
公認会計士(米国)

インタビュー・構成

生島 淳(いくしま じゅん)

スポーツジャーナリスト。宮城県生まれ。広告代理店勤務を経て、1999年にスポーツジャーナリズムの世界へ。オリンピック取材は8回、ラグビーワールドカップは6回を数える。著書に『エディー・ジョーンズとの対話』(文藝春秋)、『箱根駅伝ナインストーリーズ』、『奇跡のチーム』(共に文春文庫)など多数。早稲田大学、鹿屋体育大学非常勤講師。

関連書籍

EY Japan
パラ・デフアスリート

EY Japanには、パラ・デフアスリート*1 *2 が所属しています。
世界の強豪と戦うパラ・デフアスリートを採用し、自己への挑戦を続ける選手をサポートしています。

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*1 パラアスリート:主に身体障がい者を対象とした競技種目の選手
*2 デフアスリート:主に聴覚障がい者を対象とした競技種目の選手

EY x Sports
- Sports Power the Community

EY Japanは、スポーツによるコミュニティの再蘇生を目的とし、人づくり、場づくり、コトづくり、ルールづくりに取り組んでいます。

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サマリー

EYのメンバー5人は、スポーツの持つ力を考えるために集まり、スポーツのある日常が仕事にどんな影響を与えるかについて話し合いました。

スポーツがより社会的な影響力を高めるためには、人、場、コト、ルールを充実させることが必要となりますが、スポーツパーソンたちは、それぞれどのエリアにフォーカスすべきか、またそれが社会に対してどのようにインパクトを与え、貢献できるかについて模索し続けています。そこに、新しい時代、より良い社会の構築へのヒントがあります。

この記事について

執筆者 EY Japan

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム