2023年3月1日
EYで働くアスリートらが考える、「スポーツが持つ価値」とは

EYで働くアスリートらが考える、「スポーツが持つ価値」とは

執筆者 EY Japan

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

2023年3月1日

毎年のように行われるスポーツのビッグイベント。オリンピック、パラリンピック、そしてワールドカップは多くの人々を魅了してきましたが、21世紀を迎え、スポーツの持つ価値は多様化しています。EYで働くアスリートらが、その体験からスポーツの価値を捉え直します。
 

要点

  • それぞれのユニークなキャリアから浮かび上がるスポーツとの関わり方
  • スポーツの力とは何か? 社会への影響力を最大化するためのヒントとは
  • インクルーシブな社会を実現するためのスポーツの役割

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Sports Power the Community対談【前編】

プロフェッショナルとして本気で取り組むビジネス、そしてスポーツ

――今日はEYの中でスポーツにゆかりのあるメンバーに集まっていただき、「スポーツの持つ力」について考えていきたいと思います。まずは、自己紹介も兼ねて、仕事内容とスポーツとの関わりについて話してもらえますか。では、多田さんから。

多田 EY新日本有限責任監査法人のパートナーとして、上場企業などの会計監査を担当しています多田雅之です。私には幼い頃からプレーしてきたサッカーをはじめ「スポーツが自分を育ててくれた」という思いが強く、公認会計⼠の立場から貢献できることはないかと考え、スポーツに関する書籍の出版などを行ってきました。一昨年にはスポーツサブセクターを立ち上げ、多くの仲間と共に活動をしています。今日はEYのメンバーであり、正真正銘のアスリートである皆さんといろいろなお話をできるのを楽しみにしています。

――ありがとうございます。では、次に蟹江さん、お願いします。

蟹江 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社のPAS(ピープル・アドバイザリー・サービス)でマネージャーをしております蟹江蓉子です。私は5年ほど前に健康目的でキックボクシングを始め、3年前にボクシングに転向しました。その時に「最大限努力したら、たどりつけるゴールはなんだろう?」と考えて、プロライセンスを取得することにあるなと思ったんです。そして実際に2年前にライセンスを取得したんですが、それだけでは満足できずに、プロデビューすることに決めました。

――かなり前向きなメンタリティですね。

蟹江 ありがとうございます(笑)。そして2022年9⽉、ようやく後楽園ホールでデビュー戦のリングに立ちました。

蟹江 蓉子(かにえ ようこ)  EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・アドバイザリー・サービス マネージャー
――ボクシングの聖地、後楽園ホール。リングに上がって緊張しませんでしたか?

蟹江 なかなか普段の生活の中でスポットライトを浴びる経験がなかったので、何か、夢の国に行ったような気分になりました(笑)。

――そして岡田優介さんは、プロのバスケット選手であり、公認会計⼠試験に合格しています。EYとの関わりを教えてもらえますか。

岡田 大学を卒業してから実業団でバスケットをプレーしていましたが、26歳の時に公認会計士試験に合格しまして、プレーを続けながら、2011年からEY新日本有限責任監査法人に非常勤という形で勤務しています。プロとしてのキャリアは15年くらいになりますが、今はB2のアルティーリ千葉に所属しています。僕としては「ビジネスとスポーツ」を軸として活動している感じですね。

岡田 優介(おかだ ゆうすけ)

©︎ALTIRI CHIBA

――岡田さんはデュアルキャリアを実践していますが、⽮部さんもユニークなキャリアを持っていますね。

矢部 私は高校を卒業してから20代の前半まで、フランスの自転車ロードレースのプロチームに所属していました。その後、自転車競技を引退してから米国の公認会計⼠の資格を取りました。今は息を止めて一息で潜る距離・深度を競う「フリーダイビング」という競技で活動をしていて、日本代表として世界選手権などにも出場しています。現在はフリーダイビングと、EYパルテノンという経営戦略のコンサルティングチームでマネージャーを務めているので、デュアルキャリアを追求しているところです。

矢部 紀行(やべ のりゆき)  EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 エンゲージメントマネージャー
――そして日本代表といえば、東京2020パラリンピック競技大会のパラ競泳でメダルを獲得した富田宇宙さんにも来ていただきました。

富田 私は高校生までは健常者として競泳をやっていて、⼤学で競技ダンスに転向しました。⼤学卒業後もシステムエンジニアとして働きながら競技を続けていたのですが、視覚障害の進⾏に伴いパラ競泳にて、パラリンピックを⽬指すことにしました。働きながら⽇本代表として活動していましたが、2015年にパラアスリートとしてEYにジョインし、東京パラリンピックまでは競技に専念する形で競技⽣活を送ってきました。昨年から少しずつ業務への参画もし始めました。

富田 宇宙(とみた うちゅう)  EY Japan パラアスリート

エンタメだけではない、社会を変えるドライバーとしてのスポーツ

――皆さん、スポーツとの関わり方がバラエティーに富んでいますね。まず、多田さんに伺いたいのは、「スポーツの力」が社会にどんなインパクトを持っているのかということです。

多田 これまでスポーツは楽しい、面白いという文脈で語られることが多かったと思います。つまり、娯楽であり、エンターテインメントとして多くの人を引きつけてきました。そして近年ではその力をビジネス、医療、地⽅創生などジャンルを超えたさまざまな場面で生かされるようになりました。SDGsなど社会課題の解決が大きな社会的なテーマとなっている今、スポーツの可能性はますます広がっていくと思います。

――その流れの鍵を握るのは誰でしょうか?

多田 まずは企業や自治体が挙げられます。実際に、そうした関係者の方と話す機会がありますが、スポーツの力をもっと生かそうと模索している方が増えているように思います。また、アスリートの方をはじめ、スポーツに直接携わる方たちの意識の高まりを感じます。そうしたパワーを持った皆さんがつながっていくことで、スポーツの価値はより高まっていくと考えています。

――そうした考え方は、地域と密着し成長をしてきたサッカーのJリーグであり、バスケットボールのBリーグが推進しているという印象があります。プロである岡田さんを取り巻く環境は大きく変わりましたね。

岡田 バスケットボールの場合、2015年にBリーグが発足してから環境が大きく変わったのは間違いありません。僕自身が実業団でプレーしていた時代を知っていることもありますが、当時は会社の従業員としてプレーすることの優先順位が高かったんです。それがプロ組織になるとどうなるか。多⽥さんが言ったように、エンターテインメントとしてファンや地域の⽅を楽しませることがまずひとつ。そしてバスケットボールの持つ価値を社会に還元していかなければならないという姿勢が出てきましたよね。

――今、Bリーグはアリーナ改革を通じて地方創生に大きな変革を起こそうとしていますね。

岡田 それぞれのチームは、活動していくためにアリーナの要件を満たさなければいけません。かつての「ハコモノ」を呼ばれていたようなものではなく、収益化を図れるアリーナを作っていく必要が出てきています。そのあたりはEYの公共・社会インフラセクターとしても力を入れているところですよね。

多田 アリーナ改革の成功のためには、チームやブースターという関係だけでなく、バスケットボールというコンテンツを中⼼に、周辺地域の活性化など、価値のスパイラルを広げていくことが重要となります。そのためにも、企業や⾏政と共通理解をもって連携していくことが⾮常に重要になりますので、そこをつなげていくところは、まさにEYの⼒の発揮のしどころです。

――「つなげる」というキーワードが出てきましたが、富田さんは、東京2020パラリンピックを契機に、スポーツを通じて人や地域、企業がつながっていく姿を目の当たりにしたのではありませんか。

富田 一口に障がい者といってもいろいろあります。私のように活発にアスリートとして活動しているケースもあれば、⼤病を患って入院し、退院後も社会⽣活そのものに困難を抱えている場合もあります。私が競技をやってきて感じたことは、パラスポーツの最大の目的はパフォーマンスの追求ではなく、障害を持つ人たちがスポーツを通じて社会とつながり、生きていく場所を見つけたり、自分や家族の気持ちを立て直すことだということなんです。東京2020パラリンピックについては、アスリートのために自治体がスポーツ施設を誰もが使えるよう整備したり、企業がアスリートや団体のスポンサーとなり、結果的に本来のパラスポーツの役割を大きく推進することにもつながったことをうれしく思います。

矢部 私がフランスのチームで活動していた時に、コミュニティにおけるスポーツの力をかなり実感しました。フランスの自転車チームには、トップチームの下に二軍、三軍、そしてジュニアチームがあります。ジュニアは将来、全員がプロを目指すわけではありませんが、小学生が活動をすれば地元企業が支援をし、家族らがサポートしてくれる。私が感じたのは、フランスでは競技スポーツと市民スポーツが分断されているのではなく、つながっているという実感でした。そこにはより豊かな社会の姿があったように思います。

――「つながる」こととは反対に、最近では分断という言葉も頻繁に耳にするようになりました。スポーツにおける地域差、そしてジェンダー間の格差の是正は21世紀の課題ですが、例えばマラソンの大会への参加者は女性よりも男性の方が多いのが現状です。

蟹江 女性の場合は、健康目的でスポーツを始めるケースが多いと思います。そこから踏み出して競技力を高めるステージになると、妊娠・出産といったライフイベントがある場合、まとまった時間を取るのが難しいのかなと想像したりします。

――より寛容な社会になってほしいですね。

矢部 これは男女に限らないと思うんですが、仕事をしながらスポーツに取り組むことに対して、日本ではまだなかなか理解されないことがあるような気がします。例えば、仕事をする一方で僕の場合、「今週末は、息を止めて80メートル潜りに行きます」と言っても、すんなり理解を得られることが難しい(笑)。

多田 矢部さん、EYでは大丈夫です(笑)。EYは、組織に人を一方的に当てはめようとするのではなく、個人のパーパスを中心に据えて、それが周囲のメンバーとの関わり合いに広がり、さらには所属する組織のパーパスの実現につながっていくことを追求しています。それによって個人の能力が最大限発揮され、組織も強くなると考えています。

――そうした考えが、インクルーシブな社会を作っていく礎になる。富田さんはそうした動きに敏感ですよね?

富田 障害などの多様性を受け入れるというのもその思考の延⻑線上にありますからね。今、スポーツ界におけるインクルージョンも世界中で加速しています。健常者の競技会の中で障害がある選手の種目も1つのカテゴリーと捉えられ、一緒に実施する機会が増えています。これは私の主観ですが、特に英国、米国、オーストラリアといった国々が先行している気がしますね。

岡田 日本でもそうした流れをつくっていきたいですよね。今、東京では気軽にバスケットボールをプレーする環境が減っているんです。子どもの頃、僕なんかは朝早くから公園で練習していましたが、今は公園でドリブルしていると、それをうるさいと感じる人たちもいる。どうしたらスポーツにアクセスしやすくなるのか、そしてどうやったら寛容な社会ができるのか。僕も考えなければいけないと思っています。

多田 多様性な個性が受け入れられて公平な社会となることは、その社会に属する誰にとってもポジティブな影響がもたらされると思います。スポーツを通じてさまざまなコミュニティが広がって、今直面している社会課題も解決される、そんな面白い展開になっていくといいですよね。

左から:富田 宇宙、矢部 紀行、岡田 優介、蟹江 蓉子、多田 雅之


プロフィール

岡田 優介(おかだ ゆうすけ) 現役プロバスケットボール選手

岡田 優介(おかだ ゆうすけ)

1984年生まれ。現役プロバスケットボール選手。アルティーリ千葉所属。

学生の頃から文武両道で、2010年には公認会計士試験に合格。現役選手として活躍する傍ら、日本バスケットボール選手会を設立し、初代会長に就任。
現在、3人制バスケットボールチーム「TOKYO DIME(東京ダイム)」のオーナーも務める。

蟹江 蓉子(かにえ ようこ) EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・アドバイザリー・サービス マネージャー

蟹江 蓉子(かにえ ようこ)

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープル・アドバイザリー・サービス マネージャー

新卒でIT企業に入社し、人事給与システムの導入コンサルタントとして経験を積んだ後、コンサルティング業界へ転職。人事給与システムやタレントマネジメントシステムの導入、グローバルプラットフォームの構築など、人事とテクノロジーの領域で10年以上のキャリアを持つ。グローバル案件にも複数従事。
プライベートでは、健康目的で始めたボクシングにてプロライセンスを取得。2022年9月に後楽園ホールにてデビュー戦に出場。
EYには2022年4月に入社。

多田 雅之(ただ まさゆき) EY新日本有限責任監査法人 第2事業部 パートナー

多田 雅之(ただ まさゆき)

EY新日本有限責任監査法人 第2事業部 パートナー

業務執行社員として、上場企業をはじめさまざまなクライアントに会計監査サービスを提供する。その傍ら、監査品質の向上、DE&Iの推進、ビジネス界とスポーツ界との融合に積極的に取り組んでいる。
2004年の入社以来、国内外のグローバル企業に向けた保証業務や、SOX対応、IFRS導入、IPOなどの支援業務に従事。これまで担当したクライアントはIT企業、総合商社、メーカー、小売、医療法人など、多岐にわたる。また、ニューヨークでの勤務経験や、米国証券取引委員会(SEC)関連業務の経験を複数有するとともに、各国のEYのメンバーファームと連携して海外企業の日本法人の会計監査を行うなど、国際関連業務に強みを持つ。

一橋大学商学部卒業
公認会計士(日本)

 富田 宇宙(とみた うちゅう) EY Japan パラアスリート

富田 宇宙(とみた うちゅう)

EY Japan パラアスリート

主な成績:東京2020パラリンピック競技大会400m自由形(S11)、100mバタフライ(S11)銀メダル、200m個人メドレー(SM11)銅メダル

3歳から競泳を始めたが、高校2年時に進行性の難病「網膜⾊素変性症」が発症。大学で競技ダンスに取り組み一時は競泳を離れたが、SEとしてソフトウェア会社で働いていた2012年にパラ競泳に転向。2015年にEYにジョインし、パラアスリートとなる。競技と並行して大学院でパラスポーツの研究にも取り組み、現在はスペインバルセロナにも練習拠点を持ち、講演、執筆、各種メディアを通じた社会へのアプローチによるダイバーシティーの理解を促進する活動をライフワークとしている。

矢部 紀行(やべ のりゆき) EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 エンゲージメントマネージャー

矢部 紀行(やべ のりゆき)

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 エンゲージメント マネージャー

消費財・小売セクターを中心に、外資および日系企業のさまざまな経営課題の解決を支援。クロスボーダーに強みを持ち、国内外における成長戦略・M&A戦略策定支援およびビジネスデューデリジェンスなどのトランザクション支援において多くの実績を持つ。
戦略コンサルタントの傍ら、一息で潜る距離・深度を競うフリーダイビングの競技選手としても活動。日本代表として世界選手権に出場するほか、2022年男子総合ランキングでは国内1位、世界11位の成績を残す。3種目における日本記録保持者(CMAS)。

オーストラリア国立大学卒業、英国ケンブリッジ大学MBA
公認会計士(米国)

インタビュー・構成

生島 淳(いくしま じゅん)

スポーツジャーナリスト。宮城県生まれ。広告代理店勤務を経て、1999年にスポーツジャーナリズムの世界へ。オリンピック取材は8回、ラグビーワールドカップは6回を数える。著書に『エディー・ジョーンズとの対話』(文藝春秋)、『箱根駅伝ナインストーリーズ』、『奇跡のチーム』(共に文春文庫)など多数。早稲田大学、鹿屋体育大学非常勤講師。

関連書籍

EY Japan
パラ・デフアスリート

EY Japanには、パラ・デフアスリート*1 *2 が所属しています。
世界の強豪と戦うパラ・デフアスリートを採用し、自己への挑戦を続ける選手をサポートしています。

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EY x Sports
- Sports Power the Community

EY Japanは、スポーツによるコミュニティの再蘇生を目的とし、人づくり、場づくり、コトづくり、ルールづくりに取り組んでいます。

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サマリー

これまで、スポーツは、娯楽、エンターテインメントとしての価値を社会に提供してきましたが、スポーツには社会、企業、行政と人とを結び付ける力があり、今、その力が注目されています。さまざまなバックグラウンドを持つEYのメンバー5人は、その新たな価値を発見するために集まり、話し合いました。メンバーが出したユニークなアイデアについては、対談後編に続きます。

この記事について

執筆者 EY Japan

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム