EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
トランプ大統領が2017年12月22日に署名したことで法律として成立した米国税制改革法「Tax Cuts and Jobs Act」(以下、「本改正税法」)は、米国法人税率の引き下げ、テリトリアル課税制度への移行、一定の要件を満たす資産の即時償却やその他の優遇措置によって、経済成長の促進及び海外から雇用と利益を取り戻すことを意図したものである。また、本改正税法には、様々な課税標準の拡大(例:既存の控除の廃止)及び税源浸食防止に関する規則も盛り込まれている。
米国証券取引委員会(SEC)は2017年12月22日に、本改正税法の制定日を含む報告期間に本改正税法が法人所得税に及ぼす影響の会計処理を終えることができない企業に向けたガイダンスを提供する職員会計公報(SAB)第118号を公表した。SAB第118号を公表するにあたり、SECスタッフは、財務報告期日までに本改正税法の影響を会計処理するのは困難であるということは認識しており、本ガイダンスが、適時かつ意思決定に有用な情報を投資家に提供する際の一助となることを意図している点を確認している。
2018年1月18日、米国財務会計基準審議会(FASB)と緊急発生問題検討タスクフォース(EITF)は、企業が本改正税法の会計処理を検討する際に生じた4つの論点に関するFASBスタッフの見解を議論した。FASBスタッフは、スタッフによるQ&A文書をFASBのウェブサイト上の適用に関するポータルに掲載するとしている。
本稿では、本改正税法がIFRS報告企業の会計処理に及ぼす影響について、弊社の見解を示すとともに、本改正税法が及ぼすその他の会計上の影響についても解説する。
当期税金は、報告期間の末日までに制定された又は実質的に制定された税率及び税法を参照して、税務当局に納付又は税務当局から還付されると予想される額で測定される(IAS第12号第46項)。繰延税金は、繰延税金の計上対象である資産及び負債が実現する又は決済される期に適用されると予想される、報告期間の末日までに制定された、又は実質的に制定された税率及び税法を参照して測定される(IAS第12号第47項)。IAS第12号にはこの規定に関する免除措置は設けられておらず、複雑な法律が年度末直前に(実質的に)制定されたような状況であっても、新たな税法が適用される。
暦年決算ではない企業は、本改正税法による修正前の既存の税法が適用される場合であっても、税率変更の発効日が課税年度に含まれる場合には(発効日が課税年度の開始日に当たる場合を除く)、当期の課税所得に改正前と改正後の税率を組み合わせた税率を用いて税金が計算される点に留意する必要がある。
IAS第12号第61A項に従って、同一の期間又は異なる期間に純損益の外で会計処理される項目に関する税金には、以下が求められる。
税効果を会計処理するにあたり、過去の関連する取引の会計処理を考慮する本規定は、一般に「バックワード・トレーシング」とよばれる。当期及び繰延税金が新たな税法により変動する場合、IAS第12号に従い、その影響を最初に税金を生じさせた項目、すなわち、純損益、その他の包括利益及び資本のそれぞれに帰属させる必要がある。また、バックワード・トレーシングに関する規定は、会計上の見積りの事後的な変更にも適用される。
本改正税法により、米国での課税が現在繰り延べられている一定の在外利益も改正時に一括課税の対象になるが、企業は無利息で8年間にわたり当該税金を分割で納付することが容認される。
IAS第12号第53項は繰延税金資産及び負債を割り引くことを禁止している。2004年6月時点では、IFRICは、未払当期税金は、その影響が大きい場合には割り引くべきであるとする見解を示したが、IAS第20号「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」の規定とIAS第12号の規定とが潜在的に矛盾していることにも言及している。そのため、実務上のばらつきが生じており、会計方針の選択が求められている。企業がすでに会計方針を選択しているのであれば、米国の税制改革それ自体が、会計方針の変更を正当化することはないものと考えられる。以前にはなかった、または重要性がなかった取引、事象又は状況に新たな会計方針を適用することは、会計方針の変更とはみなされない(IAS第8号第16項)。
IASBは2017年6月に、IFRIC第23号を公表した。同解釈指針は、2019年1月1日以後開始する年次報告期間から適用される(早期適用は認められる)。IFRIC第23号は強制適用前であり、また税法の変更を取り扱うために特に開発されたものではないが、法律の変更により生じる不確実な税務上のポジションの会計処理を検討する際に有用なガイダンスを提供している。
財務諸表の作成における誤謬を防ぐために、企業は、IAS第8号第5項に従って、財務諸表の発行が承認された時に入手可能となっており、かつ、当該財務諸表を作成し表示する際に入手でき検討できたと合理的に予想できた信頼性の高い情報を使用しなければならない。
新たな情報又は状況の進展に起因する会計上の見積りの変更は、誤謬の訂正ではなく、見積りを変更した期間(影響がある場合には将来の期間も含む)において会計処理する必要がある。新たな情報もしくはより多くの実績が蓄積することに起因する、財務諸表上の認識額の将来の変更は通常、会計上の見積りの変更として処理される。
IAS第10号第3項は、後発事象がどのような場合に修正を要する後発事象となり、どのような場合に修正を要しない後発事象になるのかのガイダンスを提供している。 報告期間の末日に存在した状況についての証拠を提供する事象は、修正を要する後発事象となる。したがって、財務諸表の発行承認日前の税金計算の見直し、追加データの収集、税務当局が公表した説明文書及び税法に対する理解の深化は、貸借対照表日に存在した状況に係るものである場合には、修正を要する後発事象として取り扱わなければならない。報告期間後に発生した状況を示唆する事象は、修正を要しない後発事象として取り扱わなければならない。年度末以降に公表された会計基準等の改訂及び規制当局が公表したガイダンスが修正を要する後発事象に該当するかどうかは判断を要する。
また、財務諸表の発行承認日時点での検討が合理的に期待される新たな情報を入手した場合又は見積りを改善した場合には、事前に公表している財務情報を更新しなければならない。
IFRSは以下の開示を求めている。
外国民間発行体は、見積りの不確実性の程度を説明するにあたり、SAB第118項の開示規定を検討し、それに相応するIFRSの開示を行わなければならない。
財務諸表作成者が会計方針を選択する上で重要となる論点の1つが、別個に会計処理すべき水準(すなわち、どのような「会計単位」とすべきか)の決定である。会計単位は、どのようなアプローチをとれば税務上のポジションに関する最善の見積りとなり、合理的な見積りができない範囲を狭めることになるかの判断に基づき決定しなければならない。実務上、税制改革の個々の側面を会計単位として捉えるべきである。さらに、税務上のポジションをより適切に見積るために、税務処理上の不確実性について検討する単位を法人レベル、取引レベルでどのように集約するか判断し評価することが求められる。IFRIC第23号第6項は、会計方針を決定する際の有用なガイダンスを提供している。
税制改革の影響を受ける企業は、制定された税法の影響をその財務報告に反映しなければならない。その際には、不確実性を生じさせる2つの要因を区別することが重要である。
企業が合理的な見積りをするために税法のすべての側面を完全に理解する必要はない。つまり、入手可能な情報に基づく合理的な見積りによって、税金計算を行う必要がある。非常に稀ではあるが、見積りができない場合がある。実務では、改正時の一括課税のみが該当しうると考えられる。しかし、合理的な見積りができない場合、貸借対照表又は損益計算書には認識されない。
見積りの不確実性の発生要因について、IAS第1号第125項から第129項に定められる開示を行わなければならない。税法が明確でない状況に関し、IFRIC第23号のガイダンスも検討の余地があろう。
SAB第118号の脚注6は、「国際財務報告基準を適用している外国民間発行体が、国際会計基準第12号「法人所得税」にしたがって、本税制改革法が法人所得税に及ぼす影響に関する会計処理を完了するための測定期間を適用することを否定しない」としている。
IFRSとSAB第118号は異なるアプローチを採用しているが、多くのケースでその結果が著しく異なることはないと予想される※1。しかし、SAB第118号の公表後も解消されていない、ASC Topic 740とIAS第12号の間の基準差(IAS第12号のバックワード・トレーシングなど)については慎重に検討する必要がある。さらに、税金の会計処理を完了するために誠実に行動するという企業に対するSECスタッフの期待は、IFRS報告企業にも当てはまる。同様に外国民間発行体は、見積りの不確実性の程度を説明するにあたり、SAB第118号の開示規定を考慮し、それに相応するIFRSの開示を行わなければならない。
※1 合理的な見積りを行うことができない稀なケースに関し、SAB第118号では、制定直前に有効であった税法の条項を基に税務上のポジションを評価することが求められているのに対し、IAS第12号では、(実質的に)制定された税法を使用することを求められている。
2018年1月18日、FASBとEITFは、税源浸食防止法(BEAT)及び海外低課税無形資産所得(GILTI)の会計処理を中心とする議論を行った。FASBスタッフは、FASBのウェブサイト上の適用に関するポータルにスタッフのQ&A文書を近く掲載すると述べている。
IFRS報告企業が、IFRSにおけるBEATとGILTIに関する会計方針を考える際に当Q&Aの検討は有用と考えられる。
IFRSは以下の開示を求めている。
外国民間発行体は、見積りの不確実性の程度を説明するにあたり、SAB第118項の開示規定を検討し、それに相応するIFRSの開示を行わなければならない。
SAB第118号の脚注6は、「国際財務報告基準を適用している外国民間発行体が、国際会計基準第12号「法人所得税」にしたがって、本税制改革法が法人所得税に及ぼす影響に関する会計処理を完了するための測定期間を適用することを否定しない」としている。
IFRSとSAB第118号は異なるアプローチを採用しているが、多くのケースでその結果が著しく異なることはないと予想される※1。しかし、SAB第118号の公表後も解消されていない、ASC Topic 740とIAS第12号の間の基準差(IAS第12号のバックワード・トレーシングなど)については慎重に検討する必要がある。さらに、税金の会計処理を完了するために誠実に行動するという企業に対するSECスタッフの期待は、IFRS報告企業にも当てはまる。同様に外国民間発行体は、見積りの不確実性の程度を説明するにあたり、SAB第118号の開示規定を考慮し、それに相応するIFRSの開示を行わなければならない。
※1 合理的な見積りを行うことができない稀なケースに関し、SAB第118号では、制定直前に有効であった税法の条項を基に税務上のポジションを評価することが求められているのに対し、IAS第12号では、(実質的に)制定された税法を使用することを求められている。
2018年1月18日、FASBとEITFは、税源浸食防止法(BEAT)及び海外低課税無形資産所得(GILTI)の会計処理を中心とする議論を行った。FASBスタッフは、FASBのウェブサイト上の適用に関するポータルにスタッフのQ&A文書を近く掲載すると述べている。
IFRS報告企業が、IFRSにおけるBEATとGILTIに関する会計方針を考える際に当Q&Aの検討は有用と考えられる。
本改正税法の影響、特に改正時の一括課税、国外無形資産所得(FDII)、GILTI及びBEATによる影響について会計処理する際に、相当な判断の行使と仮定の適用が求められる。
今後の動向や、基準設定主体、規制当局及び立法府が公表するガイダンスを注意深く見守っていく必要がある。
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