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国際会計基準審議会(以下、IASB)は2018年10月に、「重要性がある」の定義を明確にし、IFRSのいずれの基準でもその定義が同じように適用されるように、IAS第1号「財務諸表の表示」及びIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の改訂(以下、本改訂)を公表した。
IASBは、財務報告におけるコミュニケーションを向上させるために、「財務報告におけるコミュニケーションの改善」を2017年から2021年のアジェンダの中心テーマとして位置付けている。「開示イニシアティブ」は「財務報告に関するコミュニケーションの改善」の一環として、IFRS財務諸表における開示の有効性の改善を目的としている。
「重要性」の不適切な適用が、開示の非有効性を生じさせている要因の1つであると考えられる。実際に多くの企業が重要ではない情報を開示する一方で、重要な情報を省略しており、その結果、意思決定における財務諸表の有用性が薄れていると指摘されていた。
こうしたフィードバックに鑑み、IASBは、「開示イニシアティブ」の一環で重要性を取り扱うプロジェクトを実施した。その内容は以下のとおりである。
IASBは2017年に実務記述書を公表した。実務記述書は、強制力はないものの、一般目的財務諸表を作成する際の企業による重要性の判断に役立つガイダンスを提供している。実務記述書は、4つのステップからなる重要性を適用する際のプロセスを提案しており、特定の状況で重要性の判断をどのように行うべきかに関するガイダンスを設けている。
新しい定義は、「情報は、それを省略、誤表示又は覆い隠したときに、特定の報告企業の財務情報を提供する一般目的財務諸表の主要な利用者が当該財務諸表に基づいて行う意思決定に影響を与えると合理的に予想し得る場合には重要性がある」と述べている。
本改訂により、重要性は情報の性質又は大きさにより決まるということが明確になる。企業は、情報が単独でもしくは他の情報と組み合わせたときに財務諸表に関して重要性があるかどうかを評価することが必要になる。情報の誤表示は、主要な利用者が行う意思決定に影響を与えると合理的に予想し得る場合には重要性がある。
IASBは、新しい定義に「情報を覆い隠す」という概念を組み込むことで、この定義は省略することのできない情報(重要性がある情報)にのみ焦点を当てており、重要性のない情報を含めることで何故財務諸表の利用者の判断を誤らせることになるのかについては焦点を当てていないと利害関係者が受け取る可能性があるという懸念に対処しようとしている。本改訂は、情報が省略又は誤表示と同じような影響を及ぼす方法で提供される場合には、情報は覆い隠されていると説明している。
本改訂には、重要性がある情報が覆い隠されることになる状況の例が盛り込まれている。重要性がある項目、取引又はその他の事象に関する情報が財務諸表全体に分散している、又は曖昧もしくは不明瞭な表現を用いて開示されている場合には、重要性がある情報が覆い隠されていることになる。類似性に欠ける項目、取引又はその他の事象が不適切に集約されている、反対に類似性がある項目が不適切に分解されている場合にも重要性がある情報が覆い隠されている。さらに、重要性がある情報が重要性のない情報に覆い隠されてしまう場合には、財務諸表の理解可能性が低下する。
IASBは、新しい「重要性がある」の定義において、「影響を与える可能性がある」という閾値を廃止し、「影響を与えると合理的に予想し得る」という閾値に置き換えており、改訂後の定義では、重要性の評価は、主要な利用者が経済的意思決定を行う際にどのように影響されるかを合理的に予想し得るかどうかを考慮に入れる必要がある。「影響を与えると合理的に予想し得る」という表現は、「影響を与える可能性がある」という閾値があまりにも低すぎ、その適用が広範に及びすぎる可能性があり、その結果、主要な利用者の意思決定に影響を及ぼし得ない情報までもが財務諸表に含められなければならなくなるという懸念に対処することを意図したものである。
本改訂により、情報が主要な利用者の意思決定に影響を与えると合理的に予想し得る可能性があるかどうかを評価する際に、企業は、利用者の特性だけでなく自己の状況も検討しなければならないことが明確化された。
現行の定義は、「利用者」に言及しているものの、その特徴を特定しておらず、企業がどの情報を開示すべきかを決定する際に可能な限りすべての財務諸表利用者を考慮する必要があることを示唆していると解釈される可能性がある。
したがって、IASBは、「利用者」という用語はあまりにも幅広く解釈される可能性があるという懸念を受け、新しい定義では主要な利用者とすることにした。
本改訂は、現在の及び潜在的な投資者、融資者及び他の債権者の多くは、企業に直接情報提供を要求することができず、必要とする財務情報の多くを一般目的財務諸表に依拠しなければならないと説明している。したがって、そうした集団が一般目的財務諸表の主要な利用者になる。
IASBは、改訂後のIAS第1号及びIAS第8号の「重要性がある」の定義と一致させるために、概念フレームワークの「重要性がある」の定義も改訂した。IASBはまた、新しい「重要性がある」の定義と一致するように実務記述書も改訂した。
IASBは、これらの改訂により概念フレームワーク及び実務記述書のガイダンスに影響が生じるとは想定していない。
IAS第1号及びIAS第8号の改訂は、2020年1月1日以後開始する事業年度から適用しなければならない。当該改訂は将来に向けて適用され、早期適用も容認される。
「重要性がある」の定義の改訂により企業の財務諸表に著しい影響が及ぶことはないが、この定義に「情報を覆い隠す」という用語が盛り込まれたことで、財務諸表において情報をどのように構成すべきかがさらに重要となり、実務上、重要性の判断をどのように行うべきかに関し影響が生じる可能性がある。
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