鉄道業におけるサステナビリティ情報の保証のポイント(サイト往査編)

情報センサー2025年3月 業種別シリーズ

鉄道業におけるサステナビリティ情報の保証のポイント(サイト往査編)


サステナビリティ情報の保証業務の手続きの1つであるサイト往査について一連の流れを把握するとともに、鉄道業の特徴を踏まえた実務的な留意点について考察します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 公認会計士 羽石 康人

サステナビリティ情報の保証、TCFD開示アドバイザリーを中心に従事。SBT、ESG評価向上、統合報告書作成、有価証券報告書サステナビリティ開示作成等のアドバイザリーにも携わる。10年以上にわたり財務諸表監査に従事。



要点

  • 温室効果ガス(GHG)排出量に対する限定的保証を前提としたサイト往査の一連の流れを把握。
  • 鉄道業の特徴を踏まえた実務的な観点から説明する。


Ⅰ はじめに

2024年1月に公開した『情報センサー』業種別シリーズの記事「鉄道業におけるサステナビリティ関連情報の保証のポイント」において、新規にサステナビリティ情報の保証業務を受嘱するに当たっての鉄道業におけるサステナビリティ情報の保証の留意事項について考察しました。その続編として今回はサステナビリティ情報の保証業務の1つであるサイト(拠点)往査の一連の流れについて、保証実施者の観点から説明します。本稿は、温室効果ガス(GHG)排出量に対する限定的保証を前提とし、当該保証に対応する手続き・サイト往査に関するものです。また、会社の状況や保証の内容によって実施する内容が変わり得る点についてご留意ください。

なお、意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめご承知おきください。


Ⅱ 事前準備

1. サイト往査の目的を理解する

サステナビリティ情報の保証業務において実施する実証手続については大きく3つに分かれます。すなわち、サイト往査、本社での算定(エネルギー資料量等のデータ集計・GHG排出量への換算)に関する手続き、開示検討です。サイト往査は工場、事業所、子会社といった拠点の現地に実際に赴いて、保証対象情報(エネルギー使用量や水使用量等)に関連するデータ収集・算定・報告等のルールが当該サイトにおいて適切に整備・運用されているかどうかについて、拠点担当者・責任者等への質問や、関連するメーターや設備の現場視察、必要に応じデータ収集の根拠となる原始証憑や関連文書の閲覧等による確認を行い、企業の内部統制システムの理解や誤謬(ごびゅう)等のリスクがないかどうか検討します。
 

2. 実施時期の決定・往査拠点の選定

(1) 実施時期の決定

契約書締結から報告書日までの全体スケジュールや決算日、データ集計状況、往査拠点の受け入れ態勢を確認して会社と協議の上、往査予定日を決定します。

決算日後に年間のデータ集計がまとまったタイミングで往査する場合、12カ月分のデータを確認できるというメリットがある一方、報告書日までの期間が短い場合には、検出された問題点の修正対応が報告書日までに完了せず報告書日の延期を余儀なくされる可能性があるため、基本的には期中で実施することを検討した方がよいでしょう。

会社側においては対応部署や関与メンバーの確認、サイト往査の実施内容の把握、質問・資料の対応等、往査当日までの準備に時間を要することが想定されるため、リードタイムを長めにとっておくことがスムーズな実施につながります。

(2) 往査拠点の選定

保証対象情報、例えばエネルギー使用量、水使用量、廃棄物排出量の前年度データを参考に使用量等が多い拠点をピックアップし、定性的な情報や過年度の誤謬の発生状況等リスクの高さを総合的に勘案して往査拠点を決定します。

また、往査拠点数は会社の規模、展開している事業規模、質的な重要性の高さや、過去に誤謬が発見されたか等の経験も考慮しながら決定します。状況によっては複数拠点での実施となることも想定されます。

鉄道業の会社であれば車両基地(車両工場を含む)が想定されますが、不動産事業も展開している場合には駅ビルや商業ビルのような拠点も候補になり得ると考えられます。
 

3. 事前データ・資料依頼等

(1) データの依頼

対象となる往査拠点のデータを依頼します。具体的には前年対比をするため保証対象年度と前年度の2年分のデータを確認します。その際、月次推移や前年同月比較をする観点から月次データを確認します。

期中でサイト往査を実施する場合には直近までに入力したデータを確認します。保証対象年度末までの残余期間については、後日、本社往査のタイミングで月次データの確認を行います。残余期間に大きな変動があった場合には、追加質問や追加資料依頼を行うことがあります。

(2) 根拠資料の依頼

入手したデータから抽出した特定のサンプルについて、原始証憑を確認します。具体的には電力使用量であれば電力会社からの請求書、自家発電をしている場合には自社計測の発電量計測結果を確認することがあります。

このほか、拠点概要が把握できる資料やロケーションマップ、駅ビルや商業ビルの場合であればフロアマップも確認します。事前に拠点の基本情報(面積、生産品目、生産規模、従業員数等)、メーターの位置や設備のレイアウトといった情報を確認しておくことで往査当日の作業を効率的に進めることができるため、可能な限り事前に準備いただくことが望ましいでしょう。

(3) マニュアル、業務フローの確認

往査拠点で個別に集計マニュアル等を作成されている場合には事前に確認します。グループ共通のマニュアルのみ用いている場合にはあらかじめ本社または親会社経由で入手します。

業務フローの確認については往査当日の質問時間を軽減し、かつ深度ある手続きを実施する観点から事前に回答を依頼する場合があります。エネルギーの使用用途、システムへの入力は誰がどのタイミングで行い、チェックしているか。異常値があった場合にどのように識別し対処しているのか、といった内容を確認します。


Ⅲ 往査当日

1. 流れの確認

当日のタイムテーブルを確認します。後述する業務フローとデータの確認で1時間半程度、現場視察で1時間程度、その他まとめ等に時間を要する場合を考慮して、全体として半日から1日程度を要します。
 

2. 業務フロー・集計値等の確認

(1) 基本情報の確認

サイト往査の趣旨説明、サイトの概要確認、ロケーションマップを使ったモニタリングポイントの確認や現地視察のルート確認を行います。事前に資料が共有されている場合には時間を短縮することもできます。

(2) 業務フロー・集計値の確認

事前に回答済みの場合には業務フローの追加確認、原始証憑の追加確認を行います。事前に業務フローの回答を入手できない場合や原始証憑の入手ができない場合はここで確認します。この場合は資料の見方や追加確認等に時間を要する場合があるので注意が必要です。原始証憑や自社計測結果を加工・取りまとめた上で、本社または親会社にデータを提出またはシステムに入力している場合、拠点担当者や本社または親会社担当者に対して、どのようにデータを取りまとめているのか、データはどのようにつながっているのか、確認する場合があります。

このほか、拠点で保管されている原始証憑の管理状況を把握(例:産業廃棄物の契約書や許可証)します。

システムにデータを入力している場合は、実際のシステムへの入力画面等を見ながら入力状況を確認します。また、入力した値が異常な値になっていないか、入力の正確性を確かめる観点から、異常値検出機能がシステムに実装されている場合は、異常値への対応状況を確認する場合があります。
 

3. 現場視察

(1) 各種モニタリングポイントの確認

ロケーションマップと照らし合わせながら、モニタリングポイント(GHG排出量の例では、排出量を算定するための基礎データである活動量を測定するポイント)を確認します。すなわち、都市ガスであればガスの引き込み口とガスメーターの確認、電力の場合であれば受電点と親メーターの確認等を行います。

車両基地(車両工場を含む)において鉄道電源から送電を受けている場合は一括して電力会社から電力を購入していることが想定され、その場合は往査拠点の集計対象外になっているケースも考えられます。この場合、鉄道電源とは別系統で購入している電力についてモニタリングポイントやメーターを確認します。

またコントロールルームにおいて単線結線図、空調系統図といった各種系統図からモニタリング状況も確認します。水使用量等をセンサーでコントロールルームに送っている場合にはメーターの確認も行います。

(2) 設備・廃棄物の確認

事前に把握しているエネルギーの用途と、ボイラー、車両洗浄装置、空調設備といった設備に相違がないかを確認します。また、廃棄物については廃棄物保管場所において表示義務違反がないか等「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に則した保管がなされているかを確認します。

(3) その他

コントロールルーム内の備え付けPCからエネルギー使用量のシステム入力を行っている場合には、コントロールルームにて入力状況や異常値チェックの確認をします。
 

4. 取りまとめ

上記2.及び3.を通じた追加確認事項や発見事項を取りまとめの上、会社に伝達します。

データの月次推移や前年同月比較に基づく質問については、複数の要因があることが想定され、質問の回答に当たりその要因特定に時間を要する場合もありますので、後日回答を入手するケースもあります。


Ⅳ 事後フォロー

追加確認事項や発見事項のうち往査中に会社側の対応が難しい項目については、後日回答いただくことがあります。また集計値の修正を要する可能性がある項目については、本社または親会社と確認・協議の上、データを修正いただく場合があります。


Ⅴ おわりに

事前準備から事後フォローに至るまで、拠点側では慣れていないことも多く、また関与メンバーが多岐にわたることから、保証人、拠点側の責任者、本社または親会社と十分にコミュニケーションをとりながら時間的な余裕をもって進めることが重要です。


サマリー

サステナビリティ情報の保証業務の手続きの1つであるサイト往査について一連の流れを把握するとともに、鉄道業の特徴を踏まえた実務的な留意点について考察します。


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