EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYパルテノンは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
要点
中国におけるマクロ経済は、先行き不透明な外需や地政学面における緊張の高まりなど、多くの課題に直面しており、高い成長率を誇っていたGDPは、過去と比べると低い水準となっています。成長率の鈍化は中国でのビジネスにとって逆風となり得ますが、既に中国中央政府は、高いGDPを目指す方針から、低い成長率ながらも持続可能な質的成長を目指す方針に転換しています。
中国の自動車産業においては、過去数年の急速な内燃機関(ICE)車から電気自動車(EV)の拡大と、質的成長への中央政府の方針転換を踏まえ、事業戦略を再構築する必要があると考えられます。
関連イベント
中国における自動車業界の展望-EVへの移行に関するグローバル調査と現地企業に聞く日系企業への提言
脱炭素化への要請を起点にEVの伸長が見込まれる一方、その進度や不確実性は地域によってさまざまです。EVの伸長が著しい中国では、日系OEMのシェアが足元で低下する一方、中国系OEM間の競争も激化しています。本Webinarでは、EVへの移行に関する各国状況の調査結果や中国における日系企業を取り巻く環境をご説明した上で、日系企業が留意すべき事項や今後取り得る方向性を日系OEMや中国系OEMの関係者も交えディスカッションします。
ご承知の通り、中国においては他国に先駆けてEVへの転換が急ピッチで進んでおり、今後もこの方向性は継続すると考えられています。既にEV市場において民族系自動車OEMが数多く立ち上がっており、中国の自動車販売において民族系ブランドが過半の販売シェアを確保しています。中国の地場企業と合弁を組んでいる日系OEMも含め、既存OEMにとっては大きな脅威となっています。
ICEからEVへの転換は、激しい競争に晒(さら)されつつ進んでおり、地場企業含めて多くの企業が厳しい状況に直面しています。外資系OEMの撤退のみならず、地場企業の倒産といった事案も数多く発生しています。民族系OEMやそのサプライヤーも、生き残りをかけた激しい競争の下でその技術やブランドの強化に注力している状況と言えます。
中国の自動車産業の転換において、前半戦は中国政府の後押しによるEVへのシフトでしたが、今後は自動運転等の先進技術に対する継続した投資・開発がキーとなってくるでしょう。この方向性は、既に中国国外の投資行動でも確認できます。中東・欧州などの企業が中国のEVと関連先進技術に投下される事例が増加しています。
中国自動車事業の今後を考えるに際し、非常に重要な点は、中国経済が質的成長に転換していること、さらにより高度な先進技術の開発・適用に軸足を移していることと言えるでしょう。
このような状況下、中国での事業運営に当たり、現地企業はどのような戦略を取っているのでしょうか。R&Dに対する莫大(ばくだい)な投資を行い、自動車や蓄電池などのハードの機能にとどまらず、セールスやアフターサービス関連の技術を開発し、加えてサプライチェーンの統合・連携の深化により、消費者に対する価値向上につなげています。また、先進技術の開発にとどまらず、サプライチェーンの効率化、コスト削減にも投資が行われており、持続可能な成長に向けた取り組みも行われています。
前項までの中国経済の質的成長への転換と、現地企業の先進技術に対する投資方針を踏まえ、日系をはじめとした外資企業は中国市場での生き残りのために、何をすべきなのでしょうか。
既に外資OEMの一部は、民族系OEMとのEVプラットフォームや自動運転分野での提携や、研究開発(R&D)拠点設立を通じて、中国市場におけるバリューチェーンを広げる試みを進めています。日系企業においても、中国における開発強化など、より中国市場にコミットする「in China, for China」戦略を実現することが一つの方向性と考えられます。
一方、中国市場の現況と見通しを踏まえると、経営資源の最適配置の観点から戦略的な意思決定が必要となるケースが生じることが想定されます。弊社でも将来の中国事業の在り方に関するご相談を数多く頂戴しています。弊社では、自社の事業内容や市場でのポジション、財務面の将来見通しなどを把握した上で、Fix(再建)、Sell(売却)、Close(清算)の3つの選択肢から戦略オプションを総合的に検討するご支援を提供しています。
Fix(再建)では、業績回復のために取り得る施策を特定し実現可能性と必要なリソース等を検証します。Sell(売却)は第三者への売却を通した撤退シナリオ、Close(清算)は事業を終了し法人の清算を進めるシナリオとなります。
以下では、Sell(売却)と、Close(撤退)の実務的なポイントをご紹介いたします。
持分譲渡は現地法人の全持分について、第三者(合弁会社の場合は、合弁パートナーであることも多い)に譲渡する方法です。譲渡の場合、他の撤退手法に比べ手続きが容易で迅速であることから、撤退時に最初に検討されるオプションと言えます。ただし、持分譲渡の買い手候補に係る情報の不足により、外資企業が短期間で適切な買い手を見つけることは容易ではありません。その他、労働者との雇用契約に変更がなく、従業員対応の面からも清算や破産と比較して、実行が容易と考えられます。一方、実務においては、労働条件の悪化を懸念する従業員がストライキや集団で経済補償金を求めるようなリスクは存在します。
持分譲渡が難しい場合は、清算か破産による撤退も選択肢となります。期限が到来した債務を弁済することができず、その保有する資産が債務を弁済するために十分ではない時、または債務を完済する能力がないことが明らかな場合は破産手続き開始の申立をすることができるとされていますが、実務的には、中国子会社に対し親会社から資金支援を実施した上で清算手続きを進めるケースが多い印象です。
また、清算手続きを進める中では税務面の論点にも留意すべきです。抹消登記に先立ち、税務当局より、増値税(Value-added Tax)、企業所得税(Corporate Income Tax)、付加税(Additional Tax)の納税漏れ等を論点とする調査が行われることがあります。税務調査が長期化した場合、当初想定していた清算手続きのスケジュールや資金繰りに支障が生じることになります。撤退戦略の中で清算を検討する場合には、現地法人の税務面に関する事前調査も考慮しておくべきでしょう。
再編や撤退の検討において、特に自動車業界では、長期的な契約の存在や多数の利害関係者への影響等、考慮すべき論点が多岐にわたります。また、各プロセスのロードマップを設計した上で、必要運転資金や手続き費用を考慮に入れた資金計画を作成する必要もあるでしょう。EYでは中国事業の構造改革に関する戦略オプションの検討から実行支援まで包括的に支援しています。
中国のマクロ経済は多くの課題に直面していますが、中国政府は質的な成長を目指す方針に転換しています。自動車産業においては急速なEV化が進展し、質的成長の方針と競争環境の激化もあり、地場企業も含め生き残りをかけた技術開発が進んでいます。日系企業も戦略の再構築に迫られており、外資OEMなどは新技術分野における現地企業との提携やR&D拠点の設立など、中国へのコミットを増す形で生き残りを図っています。一方、生産拠点の再編や撤退の選択肢も、経営資源の最適配置の観点から検討の俎上(そじょう)に置かざるを得ない企業が増加することが考えられます。その際は、再建・売却・清算の各選択肢を同時に検討し、それぞれの経済合理性やリスク要因を見極め、コンティンジェンシープランを含めた進め方を判断することが重要です。