2024/25年度オーストラリア連邦政府予算案概要:踏み込んだ政策を欠き、財政健全化の道筋を描けない予算案

2024/25年度オーストラリア連邦政府予算案概要:踏み込んだ政策を欠き、財政健全化の道筋を描けない予算案


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構造的財政赤字の再建と政策改革がなければ、本予算案が生産性向上を押し進める効果はほとんどないでしょう。

チーフエコノミストより

2024/25年度連邦予算案は次の3点を行う必要があると考えます。その他の歳入増加・歳出削減で相殺できなければ歳出をこれ以上増やさないこと、既存の政策を変更し、構造的バランスを解消するために長期にわたって持続する新たな歳入を見つけること、そして、民間セクターが生産性を最大限に向上させることを支援する政策を導入することです。

 

残念ながら、今回の予算案ではこの3つの面全てにおいて失望せざるを得ませんでした。

 

7月1日以降、数十億豪ドルが経済に投入されますが、新たな支出を他の部分の削減で相殺することなく、予算案は構造的赤字縮小の目標を妨げる結果となりました。

 

また、インフレ予測はオーストラリア準備銀行(RBA)の見通しよりも引き下げられ、今年末までに2〜3%の目標範囲に収まると想定されていますが、その前提も危うくなっています。

 

EYは、予算案が家計補助による追加的支出への影響を十分に考慮していないことを懸念しています。個人所得税減税や各州政府が現在実施している生活費対策と合わせると、コア・インフレ率に対する脅威が再燃します。

 

大幅な政策緩和により、支出増加が新たな収入増加に見合わなくなるため、2024/25年には、93億豪ドルの黒字が283億豪ドルの赤字に転じます。2025/26年には状況はさらに悪化し、現金赤字は428億豪ドルに拡大するとみられます。

 

これに伴い純債務予測も悪化し、GDP比18.6%から2027/28年には21.9%に上昇します。

 

利払いはGDPの0.5%から0.8%に増加すると予想され、本来であれば他の施策に充当することができた資金を失い、急速に増加しているカテゴリーの1つです。

 

構造的な財政赤字の状況は、年央経済・財政中間見通し(MYEFO)の前回予測に比べ、低下しています。これは多くの不確定要素に左右されるものではありますが、財政状況の持続可能性を示す最良の指標です。今回の予算案における政策の変更が、今後の経済ショックに対する脆弱性を実際に増大させていることを示唆しています。
重要な政策改革は期待されていませんでしたが、オーストラリアの生産性が伸び悩んでいることを踏まえると、本予算案に改革措置がなかったのは残念です。

 

家計部門への支出に比べれば、企業向けの改革はささいなもので、生産性向上のための継続的な改革を実質的に後押しするものはほとんどありませんでした。

 

良い点は、人手不足に投資する政策が打ち出され、建設労働者育成のためにTAFE(公立の技術・教育機関)とVET(高等専門教育)の学費無料枠が2万人追加されるなど、期待が持てます。大学協定を進展させる措置も評価できます。これには、教育、看護、ソーシャルワークの分野で実習を行う学生に対する小額の給付金や、大学進学への対応措置などが含まれます。

 

税制面では、主に資源の豊富な西オーストラリア州とクイーンズランド州を対象に、水素エネルギーとクリティカルミネラル(重要鉱物)に対する税額控除や、より広範には、中小企業に対する資産の一括損金算入制度の延長などの優遇措置が打ち出されました。オーストラリア税務局(ATO)は、税務コンプライアンス活動を推進するための資金提供を受け、本予算案における数少ない歳入増加策の1つとなりました。

 

しかし、これらの措置は、特に30%という世界的に高い法人税率を考慮すると、経済全体の生産性を向上させる投資を促進し、オーストラリアの国際競争力を高めるために必要なインセンティブには程遠いものです。

 

選挙まで1年を切った今、政府は予算案をもとに、2期目により野心的な改革アジェンダが必要である理由を有権者にアピールすることができませんでした。

2024/25年度オーストラリア連邦予算(チャート10枚)を見る(英語版のみ)



2024/25年から現金収支は悪化

2023/24年の基礎的な現金収支は93億豪ドルの黒字と予想され、MYEFOで予想された11億豪ドルの赤字から大幅に好転しました。

2022/23年度の黒字220億豪ドルと合わせると、世界金融危機前以来の2期連続の黒字となります。黒字転換の主な要因は、労働市場が予想を上回ったことです。コモディティ価格の保守的な予想も、法人税の引き上げにつながりました。しかし、ポジティブなニュースはここまでです。


2024/25年の283億豪ドルの赤字を皮切りに、経済要因がプラス要因ではなくなると想定されるので予算は再び赤字に転落します。一方、支出は将来見積もりを超えて拡大します。

さらに懸念されるのは、MYEFOと比較して予測期間を通じて赤字幅が拡大し、2024/25年から2026/27年にかけて合計244億豪ドルも増加すると予測されていることです。



債務残高は増加を続け、予測期間中にピークに達することはない

総負債は2024/25年に9,340億豪ドル、GDP比33.9%に達すると予測され、MYEFOから比較的変化がありません。総債務は、将来見積もりではピークに届かず、2027/28年には1.1兆豪ドル以上、GDPの34.9%に達します。

2024/25年以降の基礎的な現金収支の悪化は、将来見積もりにわたり844億豪ドルの純債務の大幅な上方修正を伴っています。


純利払いは2024/25年の0.5%から上昇し、2026/27年にはGDPの0.7%に達すると予想されます。

政府はまた、MYEFO以降、平均して若干低い金利で新規債務を発行することができるようになり、10年国債の想定利回りはMYEFOの4.7%から将来見積もりでは4.2%に修正されました。これは、今年に入ってからの数カ月間にインフレと現金金利の予想が緩和されたことによります。

成長率は依然低迷、労働市場は軟化

財務省の本年度の成長率予想は据え置かれ、2023/24年度の成長率は1.75%と予想されています。その実現性の可能性はあるものの、利上げが引き続き経済全体に影響を及ぼし、家計消費が以前の予想以上に落ち込んでいることを考えると、これは少し楽観的な数字かもしれません。

財務省は2024/25年と2025/26年の成長率見通しをそれぞれ0.25%ポイント下方修正し、2%と2.25%としました。つまり、オーストラリアの長期的な成長基調への回復は、RBAよりも遅くなると予想しています。
2023/24年の失業率も4.25%から4%に下方修正されましたが、これは労働市場が引き続き堅調なことを反映しています。しかし財務省は、労働市場が低迷し、失業率は2024/25年に4.5%でピークに達すると予想しています。これは財務省が予想するインフレ非加速的失業率(NAIRU)の4.25%を若干上回ります。

政府は、2025年12月のRBAの予想に比べ、年末までにインフレ率が2〜3%の目標範囲まで下がると予想しています。

消費者物価指数(CPI)は3月期の上方サプライズが6月期の予想を下回るデータによって相殺されると財務省が予想したため、2023/24年の3.75%から3.5%に下方修正されました。しかし、財務省は2025年6月期までの1年間の予測を2.75%に据え置くこととしました。

政府は、電力料金の軽減とコモンウェルス・レント・アシスタンスにより、2024/25年のインフレ率は0.5%ポイント低下し、インフレ圧力は拡大しないと説明しています。

賃金見通しは本年度も変更はありません。賃金物価指数(WPI)の年間成長率は2023/24年度が4%、2024/25年度が3.25%に据え置かれました。しかし、財務省は2024/25年の実質可処分所得の伸びを3.5%と予想しており、過去10年間で最も速い伸びとなります。これは、政府の減税によるインフレ率の緩やかな減少と、労働所得の長期平均を上回る伸びとが相まってもたらされるものと予想されます。

本予算案では、本年度の人口増加率が大幅に上方修正され、2023/24年度予算案では1.7%と予想されていた人口増加率は2%に達すると予想されています。この上方修正は、国境が開かれて以降、海外からの純移民が予想以上に増加したことによります。今後2年間の人口増加率予測は、2024/25年は1.5%、2025/26年は1.5%と前回予算案と変わりません。

財務省は生産性の前提を1.2%に据え置きましたが、これは長期平均成長率1.5%を下回ります。


サマリー 

本予算案は、財政規律、構造的財政赤字の再建、政策改革を無視しており、生産性向上を押し進める効果はほとんどありません。
他の支出削減を伴わない数十億の新規支出は、インフレへの新たな脅威を生み、構造的赤字縮小にはなりません。


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