2025/26年度オーストラリア連邦政府予算案概要

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2025/26年度 オーストラリア連邦政府予算案概要

財政再建を犠牲に、生活費は軽減

チーフエコノミストより

2025/26年度オーストラリア連邦政府予算案は、連邦総選挙を見据え、追加減税と新たな歳出で家計を支援し、生活費の軽減を強く意識したものとなりました。しかし、これは財政再建や企業支援の犠牲を伴います。望ましい財政再建案もありましたが、規模が小さく、純債務のさらなる増加や構造赤字の悪化を防ぐには至りませんでした。

アルバニージー政権のすべての予算と同じく、大まかな戦略は、アップサイド・サプライズをボトムラインに還元することでした。このため、全体的な財政計画は、昨年12月の年央経済・財政中間見通し(MYEFO)で示されたものとほとんど変わっていませんが、「オフバランスシート」支出が追加されており、財政政策が経済に与える全体的なインパクトは若干強まっています。本年度の276億豪ドルの基礎的財政赤字は、来年度には421億豪ドルの赤字に拡大します。2026/27年度には357億豪ドルに若干改善されますが、その後の2年間も同様の赤字が続くと予想されます。

2028/29年までの5年間で、349億豪ドルの追加歳出または減税が行われる予定ですが、これは予想以上に景気が回復したことによる364億豪ドルの上方修正によってもたらされたものです。

今回の予算案では、4月~6月四半期までのインフレ予想がオーストラリア準備銀行(RBA)の目標の中央値2.5%であったことから、歳出を抑制する政治的障壁は過去3回の予算案より低くなりました。しかし経済的には、赤字が何年も続くと予想され、経済がインフレ危機から完全に脱したとは言い難く、電気料金のリベートやオーストラリアの医薬品給付システム(PBS)の処方箋費用を引き下げる政策など、バラマキ政策ともいえる生活費援助は十分に的を絞った政策とは言えませんでした。

2028/29年までの3年間で177億豪ドルの個人所得税減税とメディケア課税の低所得者基準額の拡大が今回の予算案の目玉でした。2026年7月1日から始まる当措置は、RBAを警戒させない程度に穏やかで緩やかな措置であり、労働者の平均税率を引き下げ、家計の可処分所得を圧迫していたブラケットクリープの一部を解消するという好ましい効果をもたらします。この変更により、MYEFOでは2027/28年まで23.5%と予想されていた対GDP税比率は23.4%へとわずかに低下しました。

政府によって最近策定・施行された2つの政策により、全国障害者保険制度と高齢者介護部門の支出増が抑制され、一部の支出分野は抑制する必要があるとの認識が示されました。しかし同時に、メディケアに85億豪ドル、インフラ投資に18億豪ドルの増額が行われました。2025/26年度の支出の実質増加率はわずか3%、2026/27年度は0.5%の上昇にとどまると予想されており、政府に対する多くの要求があるにもかかわらず、今後2年間の政府が極めて規律ある財政運営を行うことを示唆しています。

予算上費用のかからない新政策としては、フェアワーク法における高収入基準(現在年収17万5,000豪ドル)未満の労働者に対する競業避止条項の撤廃があります。これにより、労働者間の移動が促進され、労働生産性の向上にわずかながら寄与し、恩恵を受ける労働者にとっては賃金面でプラスになるはずです。

残念なことに、オーストラリア企業がグローバル経済において競争力を高めるための実質的な支援はありませんでした。また、革新的な事業に対する税制上の優遇措置もありませんでした。 税制面では、政府は構造改革を避け続けているため、オーストラリアの税収は消費税とは逆に所得税が占める割合が高く、その結果、所得向上に対する意欲をそぐ結果となっています。

オーストラリア連邦政府予算(チャート10枚)を見る(英語版のみ)  

EYは、財務大臣が現在の厳しい状況の中で、より良い税制の必要性を認識し、次期政権への抱負を表明することを期待していました。貿易戦争、地政学的緊張、気候変動、高齢化などの課題はすべて、ビジネスセクターに打撃を与えており、生産性向上のための改革がますます重要になっています。

現金収支は引き続き赤字、オフバランス支出は過去最高を維持

2024/25年の基礎的な現金収支は276億豪ドルの赤字(GDP比1.0%)が見込まれ、12月に発表されたMYEFOからさらに6億5,600万豪ドル悪化しました。これは2023/24年の158億豪ドルの黒字に続くものです。

基礎的な現金収支の赤字は、2025/26年度に421億豪ドル(GDP比1.5%)と最悪な見通しになると予想されます。これはMYEFOに比べ48億豪ドル改善していますが、主に経済見通しが予想を上回ったためです。

財政赤字は経済見通しを通じて減少していますが、2028/29年には経済要因がプラス要因ではなくなり、歳出が増加すると想定されるため、369億豪ドルと引き続き高水準となります。

経済見通し全体では、財政赤字はMYEFOと比較して12億豪ドルのわずかな改善が見られました。

基本的な現金収支は歳出の全容を伝えているわけではありません。「政策目的の金融資産への投資」または「オフバランスシート」による支出は、今後数年間、記録的な高水準が続き、2025/26年度には、純額で231億豪ドルが財政赤字に上乗せされる見込みです。これには学生ローン、州への融資、政府事業への資本取引が含まれます。

予測期間中、負債は増加の一途をたどる

総負債は2024/25年には9,400億豪ドル、GDPの33.7%に達すると予想され、MYEFOと比較しても変わりはありません。2028/29年には1兆2,000億豪ドル超、GDP比36.8%に達する見込みです。

財政赤字の長期化により、純債務は経済見通しよりも増加すると予想されます。純債務は2024/25年の5,560億豪ドル(GDP比19.9%)から、2028/29年には7,680億豪ドル(GDP比23.1%)に増加すると予測されます。

純利払いは2024/25年のGDP比0.5%から上昇し、2027/28年には0.9%とピークに達すると予想されます。利回りの低下と借り入れの減少により、利払いはMYEFOに比べて減少しています。

政府はMYEFOと比較して、平均して若干低い金利で新規債務を発行することができ、最近の世界的な利回りの動きを考慮し、10年国債の想定利回りは4.4%から4.3%に修正されました。

経済予測は豪経済のソフトランディングを示唆

実質GDP予測は、サイクロンAlfredの影響により成長率が1.5%と1/4ポイント低下した2024/25年を除き、経済見通しを通じて変更はありません。財務省は、2025/26年の成長率が2.25%に回復し、2027/28年には2.75%に達すると予想しています。これは、家計消費、住宅投資、企業投資の後押しによるもので、ここ最近、成長の強力な原動力となっていた公共最終需要は緩和すると予想されます。

これらの成長率予測は、2026/27年を除けば、RBAの予測に近く、財務省の2.5%に対し、RBAは2.2%の成長を見込んでいます。 

労働市場が引き続き底堅いことから、失業率の上昇幅は予想より縮小しました。財務省は、失業率のピークを2024/25年の4.25%(MYEFOでは4.5%)に設定し、2028/29年までこの水準が続くと予測しています。これは財務省のインフレ非加速的失業率(NAIRU)の推定値4.25%と一致し、過去の水準から見ても低いと言えます。

2024/25年の消費者物価指数(CPI)見通しは、10~12月四半期のヘッドラインインフレ率が2.4%と予想を下回ったことから、MYEFOと比較して1/4ポイント下方修正され、2.5%となりました。これは2025年6月までの2.4%というRBAの予想に近くなっています。政府は、連邦政府と州政府双方からの電力リベートと連邦家賃補助の追加調整により、2024年10~12月四半期までの1年間のヘッドラインインフレ率が3/4ポイント低下したと指摘しています。

しかし、2025/26年のCPI予想は、エネルギーリベートの影響がなくなるため、1/4ポイント増の3%に修正されました。これは2026年6月までの3.2%というRBAの予想より低いものです。インフレ率は2026/27年以降もRBAの目標範囲内で推移するでしょう。

賃金予測は、2025/26年の賃金価格指数(WPI)をMYEFOから1/4ポイント上方修正し、3.25%とするものの、経済予測全体において比較的変わりません。短期的なインフレ見通しを踏まえ、財務省は2024/25年の実質賃金がMYEFOより1/4ポイント高い1/2%伸びると予想しています。

人口増加率は、2024/25年度予算案では1.5%と予想されていましたが、本年度は1.6%と若干上方修正されました。この上方修正は、海外からの純移民が従来の予想よりも増加したことによります。次年度は純移民の増加が緩やかになり、増加率は若干低下し、2024/25年度予算案では1.5%であったのに対し、2025/26年度では1.3%と予測されています。

財務省は、長期的な生産性の前提を1.2%に据え置きましたが、これは長期平均成長率1.5%を下回るものです。

サマリー

2025/26年度オーストラリア連邦政府予算案は、連邦総選挙を見据え、追加減税と新たな歳出で家計を支援し、生活費の軽減を強く意識したものとなりました。しかし、これは財政再建と企業支援の犠牲を伴います。

残念なことに、オーストラリア企業がグローバル経済において競争力を高めるための実質的な支援はありませんでした。また、革新的な事業に対する税制上の優遇措置もありませんでした。



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