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2025年に金融機関はどのような規制に留意する必要がありますか

金融機関にとって、グローバルの分断化・細分化、混乱をもたらす事態を適切に管理することが重要な課題になっています。


要点

  • 地政学的な変化により規制環境は分断化・細分化され、グローバルに活動する金融機関にとって対応コストと複雑さが増している。
  • 規制当局は、金融機関のレジリエンス、サードパーティのIT企業への依存、ノンバンク金融仲介へのエクスポージャーを懸念している。
  • 金融機関は、顧客の良好なアウトカムの確保、脆弱性への迅速な対応、強力なガバナンスとリスク管理の説明責任に直面している。

銀行や金融サービス企業が直面する状況は常に変化しています。しかし、昨年は多くのリスク要因が観察され、2025年の見通しは特に不確実性が高いものになっています。

世界的に見て、11月5日の米国大統領選挙をはじめとする選挙が変化の重要な推進力となって、金融業界の役割に直接的な影響を及ぼす新しい方向性で政策を動かしています。2025年には、米国と中国の間の貿易や地政学的な摩擦が深刻化し、関税の使用も大幅に増加すると考えられます。中東とウクライナにおけるリスクは依然として高く、多くの経済圏で成長の鈍化とインフレの長期化に対する懸念が続いていることから、金融機関は政府の成長政策や外交政策のアジェンダに深く影響を受けることが予想されます。

このような幅広いプレッシャーに直面している金融機関、特にグローバルに活動する金融機関にとって、レジリエンスとリスク管理がかつてないほど重要になっています。

グローバル金融サービス規制の展望

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2025年における主要な課題

このような背景から、規制当局のアジェンダの最前線では、いくつかの重要な課題があります。EYでは2025年の4つの主要な規制に関するテーマを特定しています。

1. 規制が国益を優先することで、さらなる分断化・細分化が進む

国際的な協調ではなく、国内の政治的な課題が、これまで以上に規制に影響を与える可能性が高いと考えられます。国際的な協調の取り組みは継続されますが、政策立案者は、金融の安定性、デジタル資産、人工知能(AI)およびデータガバナンスなどの問題に対して、各国独自のアプローチを優先すると考えられます。バーゼル3.1銀行改革のような重要な分野では、すでにその影響が顕在化しており、世界中でさまざまな形態やスピードで規制が実施されています。一部の国・地域では、規制緩和への圧力が強まり、国際競争力に影響を与える懸念が高まると考えられます。これにより、地域的な優位性や裁定シナリオが促進される可能性がありますが、グローバルに活動する金融機関にとっては、規制の分断化・細分化によりコストが増加する恐れもあります。

また、AI規制に関連して、あるいは米国が暗号トークンに対してより寛容な姿勢を取る場合など、イノベーションやテクノロジーに関して異なる基準を採用する国・地域が出てくるかもしれません。

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金融機関固有の規制等

金融機関固有のガイダンス等

凡例: あり  なし  協議中

金融機関に推奨されるアクション

  • 変化の予兆を把握し、ビジネスを守るための戦略を策定するために、政治や規制動向の調査への投資を増やす。
  • シナリオプランニングを活用して、さまざまな結果の影響を分析する。
  • 地域ごとの規制の差異を特定し、その結果として生じるリスクに対応するとともに、グローバルレベルでの洞察を組み合わせて俯瞰的な状況を把握する。

2. レジリエンスは引き続き優先事項であり、特にサードパーティおよびノンバンク金融仲介に対するリスクエクスポージャーを詳細に管理することが期待される

金融機関が直面する外部からの脅威のうち、規制当局は2025年に2つの分野に焦点を当てるでしょう。サードパーティリスクと非財務リスクです。2024年に発生したクラウドストライクのシステム障害は、エンドポイント・セキュリティ・ソリューションを提供する大手プロバイダーが関与する大規模なサイバーセキュリティ事件であり、本件を通じて、テクノロジーへの依存により金融機関が直面するオペレーショナルリスクが顕在化しました。これは、特に、多くの企業が同じ少数のプロバイダーグループに依存している場合に当てはまります。バーゼル委員会は、「重要なサードパーティ」に対する、より厳格なアプローチを求めており、一部の管轄区域の規制当局では、テクノロジーサプライヤーに対する監督を拡大する準備をしています。

また現在、世界の金融システム資産のほぼ半分を占めるノンバンク金融仲介への注目も高まると考えられます。規制当局は、これらの企業(その一部は「銀行のような」商品やサービスを提供しています)にリスクが集中していることが規制対象セクターに波及し、システム上重要な金融機関を不安定化させる恐れがあることを懸念しています。プライベートクレジット市場におけるデータの透明性の欠如は、特に懸念事項となっています。

これらの問題に加えて、規制当局は、気候リスクに関するレジリエンスとマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の強化に注力すると考えられます。

金融機関に推奨されるアクション

  • サードパーティのテクノロジープロバイダーへのエクスポージャーをマッピングし、リスク軽減策を見直す。
  • 規制当局がカウンターパーティリスク、集中リスクおよび流動性リスクを懸念しているプライベートクレジットなどの透明性が低い市場に関連するリスク管理やエクスポージャーへの監督の強化に備える。
  • 明確に定義された役割と責任に基づき、金融犯罪対策を適切な水準で監視する。

3.  顧客にとっての良好なアウトカムを確保することは、引き続き重要な役割を果たす

顧客は最近の生活費の急激な上昇にまだ適応していないため、規制当局は金融のレジリエンスと顧客の良好なアウトカムを確保することにますます注目するでしょう。英国が2023年に顧客義務を採用したことは、実質的にリテール顧客に対する配慮の義務遂行であることから世界中で注目を集めており、いくつかの国・地域の規制当局が顧客保護を強化する準備をしています。

 

また多くの法域の金融機関は、金融包摂の拡大と不正防止の強化を求める圧力が高まることを想定する必要があります。規制当局は金融機関に対して、自社の商品やサービスが低所得世帯のニーズを満たした商品やサービスを提供することを求め、信用履歴が限られている顧客がローンやその他の商品にアクセスできるよう支援する措置を優先するよう要求する可能性が高いです。詐欺がますます巧妙化する中、顧客にリスクを知らせ、追加の予防策を導入するよう求める圧力も高まる可能性があります。

金融機関に推奨されるアクション

  • 規制当局が公正性の原則をどのように捉えているかを理解し、顧客の利益に合うよう商品・サービスを提供していることの説明責任を果たす準備をする。
  • 自社の商品やサービスが、脆弱な顧客を含む特定の顧客グループのニーズにどのように対応しているかを説明する。
  • 一般的な詐欺に関する顧客の理解を高め、取引モニタリングやセキュリティ強化、KYCのためにテクノロジーを活用する。

4. 規制当局の主要なリスク管理アジェンダに対する説明責任および脆弱性の適時の改善

2023年初頭にいくつかの大手銀行や金融機関が破綻した大きな金融危機が発生しましたが、これは破綻の一因となった2つの問題、すなわち、長年対処されていなかったリスク管理上の脆弱性や金融機関の戦略と目標の変化に伴うリスク管理やガバナンスの強化の遅れを浮き彫りにしました。これらの問題は決して新しいものではありませんが、このエピソードは規制のアジェンダに影響を与え続けています。

2025年、監督当局は、既存の脆弱性を適時に改善することに重点を置き、取締役会が金融機関のリスク管理フレームワークを効果的に監督するよう、より強い圧力をかける可能性があります。規制当局は重要性が高い問題に注力しつつあり、金融機関に対し、急速に変化する事業環境を把握し、それらの変化に対応するよう求めています。

金融機関に推奨されるアクション

  • 定期的なテストの実施を通じて、新たな問題を想定する。
  • データ分析やAIなどの高度なテクノロジーを活用した予兆の把握の可能性を検証する。
  • 取締役会が金融機関のリスク管理態勢を十分に監督できるガバナンスを構築する。

各国政府は、経済的・社会的目標を達成するために、金融セクターが重要な役割を担っていると考えています。そのため、金融機関は、政策立案者や規制当局に影響を与えている課題を理解し、洞察するために、そのアジェンダに取り組む必要があります。また、金融機関は、リスク管理態勢が環境変化に柔軟に対応し、規制当局の優先課題に対応するためのデータやツールを備えていることを示す準備が必要となります。2025年には重要なサードパーティへの依存、波及リスクおよび顧客のアウトカムが重要になると考えられます。



EY Japanの窓口
緒方 兼太郎
EY Japan 金融 コンサルティング EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー


サマリー

2025年における規制当局の期待は、金融機関が市場の混乱やボラティリティに備えるとともに、顧客に良好なアウトカムをもたらすことと考えられます。金融機関には、リスク管理態勢やガバナンス態勢がこうした懸念に対応するのに十分な機敏性と堅牢性を備えていることを証明する責任が生じると考えられます。

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