CSRD域外適用が日本企業に与える影響とは?
~経済産業省が「令和6年度産業経済研究委託事業(ESRSの現状や第三国基準ドラフトに関する調査およびワーキング・グループの開催)」に関する調査報告書を公開~

EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部
川﨑 武史、山中 紗織、松井 俊樹
 


サステナビリティ情報開示規制への対応は、日本企業にとって重要な経営課題となっています。

CSRDに関してはオムニバス法案の審議が不透明な状況の中、EU域外企業に適用される第三国基準(NESRS)の開発が進んでいます。2025年6月時点では、日本企業を含むEU域外企業は、2028年度の情報からNESRSに準拠したサステナビリティ情報の開示が義務付けられる見込みであり、これはEUでビジネスを展開する多くの日本企業に大きな影響を及ぼすことが予想されます。

EY新日本有限責任監査法人は、経済産業省からの委託を受け、「令和6年度産業経済研究委託事業(ESRSの現状や第三国基準ドラフトに関する調査およびワーキング・グループの開催)」を支援し、2025年6月にその調査報告書が公開されました。本報告書は、日本企業に影響を与えると考えられるNESRS関連の調査・分析結果や、日本企業を対象としたCSRD対応に関するヒアリング調査から明らかになった課題を報告しています。

この記事では、調査報告書のサマリーをご紹介していますので、是非ご覧ください。

以下の経済産業省ウェブサイトから本事業に関する情報等の閲覧が可能です。


Ⅰ. 調査報告書の概要

1. 本事業の目的および実施方法

本事業は、CSRDで義務化される企業のNESRSに沿った情報開示に関する情報収集および必要な知見の蓄積を目的としています。下記3つに主軸とした調査・分析結果および有識者の意見が報告書にまとめられています。なお、2025年2月26日にオムニバス法案が公表されたため、2025年3月末時点ではNESRSの公開草案は公表されていません。したがって、NESRS草案へのコメント作成は行われていません。

  1. 業種横断的に対象企業を選定してヒアリング調査(アンケートやインタビュー)を実施し、NESRSに沿った開示を求められた場合の課題や懸念事項等、日本企業がCSRDの適用対象となることに対する問題意識について整理する
  2. NESRSの草案を中心に、CSRDに関連する特定のテーマを調査し分析する
  3. 上記の結果を踏まえ作成した資料を基に有識者等を委員とするWGを開催し、NESRSの草案へのコメントを作成する
     

2. ESRS/NESRSに関連する特定のテーマの調査の実施

ESRS/NESRSに関連する特定のテーマの調査結果として、NESRSの概要と日本企業への影響、オムニバス法案の概要が報告されています。

  • NESRSの概要

    CSRDでは、EU域外企業への適用に関する条文が明記されており、その特徴は以下の2点です。
NESRSの概要
※出所:欧州企業サステナビリティ指令2022/2464 (EU)および会計指令 2013/34(EU)40a条1項

NESRSは、CSRDのEU域外企業が準拠する報告基準であり、上記を基に、EFRAGが主体となり開発が進められています。

  • NESRSが及ぼす日本企業への影響分析の実施

    EFRAGの公開議論過程をまとめた資料(EFRAG SR TEG meeting 26 February 2025)を対象にデスクトップ調査から分析された日本企業へ及ぼす影響が大きいと見込まれる検討課題は以下の5つです。
日本企業へ及ぼす影響が大きいと見込まれる検討課題の分類表

このうち「①開示範囲(Mixed approach)」は、ワーキング・グループ内で活発に議論された検討課題であり、後段でも言及しますので、ここでその概要を解説します。Mixed approachとは、NESRSにおける気候変動以外の開示範囲をEU市場で販売される製品または提供されるサービスに関連するインパクト情報に限定するオプションを指します。このアプローチは、第三国企業にEUの法令を課すことができないという域外性の課題をクリアしつつ、EU域内におけるEU企業と第三国企業の公平な競争条件を確保するために考案されました。

※Mixed approachのイメージ図は、EFRAG「06-02.1 NESRS ED SRB 250226」の情報を基にMixed approach の理解のためにEYが作成しており、EFRAGの公式な見解ではない。

3. ESRS/NESRSに関するヒアリング調査の実施

ヒアリングを通じて見えてきた、日本企業が抱えるESRS/NESRS開示の共通課題が整理されています。

  • ヒアリング調査結果サマリー
ヒアリング調査結果サマリー

4. 欧州サステナビリティ報告に関するワーキング・グループの運営

報告書では、以上の調査を踏まえて実施された有識者のワーキング・グループでの討議内容も掲載されています。

以下に、活発に議論が行われたMixed approach/Global approach 、およびESRS/NESRSとISSB基準等の国際的な基準との整合性という2つの論点の議論の概要を紹介します。

  • Mixed approach / Global approachについて

    NESRSにおいて開示の範囲をGlobal approachに一本化することに対しては、企業に過大なコンプライアンスコストを課し、EUへの新規参入を妨げ、EU経済の成長を妨げる要因となるため、反対する意見が多く聞かれた。一方で、オプションとしてのMixed approachの採用にあたり、EUでの売上高に関連する活動を抽出するガイダンスの必要性が論じられたほか、その適用範囲や測定・報告方法の不明確さなどの問題点があることが指摘された
     
  • ISSB基準等の国際的な基準との整合について

国際的な基準の設定が進んでいる状況の中では、ESRS/NESRSが独自の基準になるよりは、ESRS/NESRSとISSB基準のInteroperability(相互運用性)の確保が必要という意見で一致した。具体的な方法として、マテリアリティガイダンスの高度化、基準間の差異表の作成、ISSB基準等の開示をESRS/NESRS準拠として受け入れ可能な柔軟性のある枠組みとすること、などの意見があった

※なお、経済産業省HPにて「欧州サステナビリティ報告に関するワーキング・グループ」の情報開示がされています。こちらも是非ご覧ください。欧州サステナビリティ報告に関するワーキング・グループ (METI/経済産業省


        Ⅱ. 「欧州サステナビリティ報告に関するWG」 馬野委員からのメッセージ

        欧州サステナビリティ報告に関するワーキング・グループに委員として参加して感じたのは、一つは、グローバルなマーケットと向き合う日本が、EU域外に適用されるCSRD報告制度について適時に、そして積極的に意見発信していくことの改めての重要性です。また、企業としては自社の活動範囲に応じ、欧州だけでなく、日本を含めたEU以外の地域サステナビリティ報告規制の方向性を全体的にさらには本質的に理解し、その時々の個別の制度変更に過度に振り回されない自社のサステナビリティ経営戦略や開示戦略、さらにはステークホルダーとのコミュニケーション戦略をしっかりと経営レベルで確立することが望まれるように思います。EYは、制度開示とサステナビリティに関する豊富な知見を基に企業の課題解決にお力添えできればと考えています。

        馬野 隆一郎
        EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 室長 パートナー

        ※所属・役職は記事公開当時のものです。


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